「忘れるな。あの巨人はお前であってお前ではない。巨 「力を合わせる : : : 」 「さて、そろそろ儂は行くよ」 人は全ての人の願いであり、希望だ。お前はそれを体現 できる。だからこそお前はあの巨人に灣はれたんだ」 そう一一一口うと、老人はべンチから腰を上げた。 「待ってください ! 」 そう一一「い残すと、今度こそ本当に老人は去って行った。 続けて男も腰を上げ、老人を引き留めようとする。 「いや、行くよ。もう大丈夫そうだしな」 「すべての人の願い、希望 : : : 」 笑みを浮かべながら老人は歩き出す。 再びべンチには男一人になった。さっきまでの鹽窄レ J 「どうしてあなたは俺があの巨人だとわかったんですした気分は吹き飛んでいた。 次の瞬間、雲一つない青空に似つかわしくないモノが か ? それにあなたは一体 ? 」 降ってきた。 老人は歩みを止め振り返る。 「儂か。儂はかってのお前だ。まあ、その時はこんな大 怪獣だー。あの真っ白な羽の生えた天使の様な。 騒ぎにはならなかったがな」 周囲が騒然してくる。皆一様に怪獣から距離をとって 「俺と同じ変身者 ? じゃあ、以前にもあんな怪獣が襲来いく。男だけは同じ位置に立っていた。 したってことですか ? 」 「キャー ! 」 そんな馬鹿な ? 今までそんな話を聞いたことがない 「まあ、誰もいない過疎地域で起こった話だしな。今み そうしている間にも怪獣は町を破壊していく。しばら たいにカメラや報道機関もない時代の因缶だよ。 くの間、戦っていたせいでわかららなかったが、 獣と そこで儂はお前と同じく、怪獣と戦った。ある時を境 いうのはただそこに存在するだけで尋常ではない威圧感 ン を放っている。 に怪獣は地球から去り、儂の変身能力も消失した」 マ = カメラも報道もない時代 ? そすると目の前にいる老人 その怪獣が好き勝手に暴れている、それは人々にして スは何十年、何百年生きているんだ ? みれば恐怖以外の何物でもない。 4
幼く、小さな声が響く。子供たちが段々と声を合わせままで宙に浮き、起き上がる。 て、大きな声へと変わっていく。 周りから歓喜の声が上がる。その姿はスマホやテレビ それが大人たちの心を震わせたのか、大人たちも声援カメラによって全国に届けられ、より多くの希望を人に を送る。その声援は巨人のいる場所だけでなく、様々なもたらした。 場所で起こった。 怪獣はというと、蘇った巨人を静かに見ている。 一方で巨人の方には光が集まっている。やがて巨人は その声を男は聞いていた。そうだ、あの巨人は俺であ光に包まれ、閃光を放った。 って俺でない。人の夢であり、希望なんだ。 閃光が収まり、人々が目にしたのは光り輝く巨人であ ふむ、ならば私も力を貸そう。こんな状況で戦うのはった。全身が黄金に輝いており、見る者を魅了した。 何百年ぶりだ。前の変身者も、人々の願いをパワーに変 それに対し、怪獣は一変して全身が真っ黒になってい えていたよ。 た。さっきまで天使の様な外見をしていたのが、亜の 今回はそれよりも、凄いパワーを感じるよ。これならような外見になっていた。 ばアイツを倒せるだろうよ 今度は怪獣の方から攻勢に掛かってきた。光の巨人は “フンツー それを難なく受け流し、攻撃に移る。立場は完全に逆転 暖かく、そして安心できる、そんな何かが体に流れ込した。 んできた。 「す、凄い。あれが巨人の力なのか : : : 」 いける、これならアイツを倒せる ! 周辺にいた人たちが口を開けて、巨人の動向を見守っ すでに日は落ち、闇が空を支配していた。電気はつい 「いや、違うな。あれは、あれこそが人の力だよ」 ておらず、大きな明かりは月の光だけだった。 帽子をかぶった老人がいつの間にか隣に佇んでいた。 巨人の目に光が戻った。そして仰向けに倒れた態勢の 「あれは誰かであり誰でもない。ほら、もう決着がっき 0
に外に出るまでは良かった。だが、外に出てしばらくす不思議な感〔見だった。頭では話しては駄目だ、とわか ると、けだるさが体を襲撃してくる。 っているが、自然と今までの出来事を老人に語ってしま 立っことさえままならない状況で、倒れるようにべン 突如、巨人となって怪獣と戦うことになったこと。今 チに座り込んだ。 べンチに座ってから、どれ位の時が経ったのか、男にまでの連勝から浮かれていてしまったこと。そしてその 可をする気力もなく、死人のよッケが先日の敗北に繋がったこと。 は判別ができなかった。イ うに座ったままである。 「ふむ。つまり君は先日の敗北を気にかけている訳だね」 「失礼していいかね」 「はい俺がもっと強ければ、あんな怪獣倒すぐに倒せ 顔を上げると、そこには帽子をかぶった老人がいた。 たのに」 「隣に座っていいかね」 「若者よ、それは驕りだ。あんな怪獣、人一人でどうに 穏やかな口調だった。その中にどこか優しさを感じさ かなる訳がないだろう」 せる声でもあった。 さっきまでの優しい声と変わって、子供を怒鳴りつけ 「え、ええ。どうぞ」 るかのような声だ。 少し移動し、人一人が座れる程のスペースを開ける。 「そもそもだ、人一人の力なんて高が知れている。それ 「ありがとう」 そう言っと、老人は男の隣に座った。 「週末の時は来たり ! 先日のあれは神の下部なり ! 神 「若者、君は悩みを抱えているな。その悩みはここにい が我らに下した裁きなり ! 」 る人達とは異なる、特別な悩みを」 ン 怪獣の出現とともに勢力を増したカルト集団だ。最近 心臓を鷲掴みにされたような驚きを感じる。 マ はさらに勢力を増している。 = 「まあ、そうカむな。何か君に危害を加える訳じゃない 「この一連の聖獣の出現は神のご意向なり。我々は罪を ス出張版お悩み相談書みたいなものだ」 4
つか持つが、至極軽度なものである。等級が付くほどでのもあれば、それ以外のものも多い気味、ぼっち、 はない。あゑ日では悲劇的と一一「えなくもないが、私はずぼら、捻くれ煮自分に甘い、話を聞かない、ミスが コミュ障、人見知り、にぶい、、嶼 障生暑にもなれず凡人にもなれなかったのだ。しかし、多い、要領が悪い、 私は多くのことに凡人として挑まなければならないのだ。マイナス思考、臆頑固、単純、神経質、脆弱、馬鹿、 このように知的障害の大多数を克服したことは私のア短気、地味、高所恐怖症、対人恐怖症、他人を覚えられ イデンティティに影響を与えた。そこから知的障生暑へない、エトセトラ。他人の短所はきっと、私の持ってい の優越感 A 」、障害のない一般人への劣等感が心のどこかる短所から知的障害の影響を受けているものを除いたも に存在するようになったのだろう。そしてどちらにも属のの数ぐらいなのだろうか。査私はそれより少ないに 一票を投じる。 せないという事実は私を苦しめた。 この「知的障害を克服した特別な存在」という事実は疎外感は私をより孤独な存在にしていった。孤独を積 自身の持っ劣等感をより強固にした。それと同時に、同極的に受け入れて他者と付去入口わないことで、疎外感を 析類はいないという疎外感も生み出した。そういった音竓正当化した。それだけが豆腐以下のメンタルを守る唯一 の方法だった。しかしそのような行為を世間は許さない。 分では彼らと私は次一兀が違う存在だった。彼らが = 一次一兀に いるのなら、私は零次元にいるのである。だからといっ私は嫌でも人と触れ合うようになった。その結果、疎外 感は更に強まり、それの正当化も出来なくなってしまっ のて割り切ることは生来持った石頭が許さなかった。 者劣等感により、私が出来ることは知的障生暑ではない 害全ての人ができることであると私は考えてしまう。そし 人と触れ合ってみて分かったことがある。他人からす て、私に長所があるとすれば、それは全ての一般人の長れば私はどうでもいい存在であることだ。向こうから誘 的 う理由はあるようでない。それなのに誘ってきて、私を 所になりうるものである。なら、それを自分の長所とし 無視して盛り上がる。それ故、私は社交辞令や用事以外 るて一一一一〔えるであろうか あ短所はいくらでもいえる。それは知的障害から来るもの人付六入口いをほとんどしなくなった。下手に参加して
も疎外感がより強くなるだけだった。そんなことなら初否定できない めから参加しないほうが余程いい。 知的障害を始めとする障害を現実逃避の道具に使うな こうしたことの帰結として、いつの日からか私は他者にと言っ人がいるかもしれない。きっと社会ではそうなの 憧れるようになった。なんら躊躇やしがらみもなく行動だろう。しかし、知的障害がなくても私は社会人として できるというのは、なりそこないの私からは神の所業と生きにくい類の人である。心療内科に行くことを何度も 言って過言ではない。接しようとしても、自分より出丕咼勧められているらしいが、そのことを知ったのはごく最 な人の邪魔をしてはいけないと躊躇してしまう。他人は近だ。どうしようもない屑である私は、知的障害や心療 そのことについて、誘いを拒否すること、災凸めて一匹狼内科を言い訳にしなければ生きることに耐えられないだ ろう。 だからと評した。 こんな私でも努力さえすれば、社会に貢献できなくは 才能の差に関する認識は「意炳者には、敵が常に大軍 ないと考える時がたまにある。しかしそこまでして他人に見える」せいだろうという人もいるかもしれない。し の人生を踏みにじりたくはないという思いが私にはある。かし私ができなくて他人が出来ることは山ほどあり、逆 私という出来損ないのなり損ないが踏みにじるには、他は少ないのは明確な事実である。それ故、私は多くの人 人の人生は価値がありすぎる。元来生きることに価値は と比べて劣った存在といえる。 無いにしても、中途半端な私が生きるより他の人が生き 私は知的障害を理由に逃けているだけなのかもしれな るほうが、価値は何倍もある。 。でも今の私に自己変革をするだけの要素はなく、ど そして体を壊してまで行った努力の失敗が、私が過度な ういう理由かは分からないが強力な欲求も出てこない 努力をすることを封じる。あの失敗した時の絶望と今でこういった状況に慣れきってしまって、変わるほうを恐 も残る身体的な後遣症が、精神的に、体的にも努力すれているのかもしれない。それに知的障害は私の根幹を ることを制限している。あれがなければをな努力はでなしている。もし私が凡人か障害者のどちらかになるこ きたと思うときがあるが、今頃過労死していた可能性もとができたのなら、悩むことはあっても、ここまで深刻 ワ 1
犯しすぎた ! それはこれに対する罰なのだ ! 信じるもの 「それで君は勝てたかね ? 」 だけが救われる、祈りなさい ! 」 「勝てませんでした」 彼らはあの怪獣が髪からの使いだと妄信している。人掻き消えるような声で言っ。 は罪深き存在で、それに神が怒り聖獣を送り込み、人類「ああ、そうだお前は負けた。お前はな」 を嵂化しようとしているらしい 「俺だから負けた、と言いたいんですか ! 」 その理論で言っと男が変身する巨人は亜であり、実今まで座って細々と喋っていた男が、この時初めて立 際彼らは巨人を敵視している。巨人の写真を張り付けたち上がり、声を荒げた。 上にスプレーでバッテン印を付けているプラカードを見「そういうことじゃない。お前以外があの巨人になって たこともある。 戦っても負けていただろうよ」 「前なら、あんな連中気にする必要もなかったんですけ 「じゃあ、一体どう」 どね。この間の一軒以来、どうも気になってしまって。 「一人で全てを背負うとするから駄目なんだよ。皆のカ それに次にアイツが来ても勝てるかどうか」 を合わせればいい、それだけの話だ」 「あの怪獣には勝てんよ」 あまりにも簡単なことに、拍子抜けした。 老人はキッパリ言い切った。 「旧約聖書に出てくるバベルの塔の話を知っているか 「もし仮にあの怪獣が神の使いだとしたら、それこそ人ね ? 」 一人では逆立ちしたって勝っことはできん。神の使いで 「はい確か、人類が一つに纏まるのを神が恐れ、塔を ないとしても、あんな化け物一人で勝てると思うか ? 」壊し、一一一一口語をバラバラにした話ですよね」 「そ、それは : : : 」 「そうだ。実際に塔は壊されてはいないがな。神様はず うまく言い返せずにロごもってしまう。 いぶんと人間様のことを評価していたみたいだよ。人間 「それでも俺には変身能力があります。変身してアイツの一致団結を妨げ、相互理解ができないようにまでする らと互角に戦うことができます」 んだからな」 4
『謎の巨人、敗北』 りも遥かに高く、肌は灰色で覆われている。顔には目や 『謎の巨人、怪獣に敗れる ! 』 鼻、ロの様なものがついており、体には胸の辺りに特徴 その日の朝はテレビを点けても、新聞を開いてもそのがあった。 ことしか報道していなかった。 胸には、マークのようなものがあった。 >< の中央に逆 三角形のような水晶があった。胸の辺りだけがカラフル 始まりは数か月前の事である。突如、空から怪獣が降に彩られている。水晶は青く、の部分は赤く彩られて りてきた。 人々は目を疑った。の特撮で見たようなシーンが、 謎の巨人だけが唯一、怪獣に対抗できた。恐れること 現実のものになったのだ。 なく怪獣と真正面からぶつかっていく。 怪獣は 5 階建てのマンションや校舎よりも遥かに高く、 怪獣と取っ組攵ロい、何度も巨人は地に叩き付けられ 人間の兵器よりも圧倒的に強かった。怪獣は街を蹂躙すた。時にはビルの方に倒れ、建物を崩壊させた。 る。ただひたすら暴れまわる。ビルは壊され、車は踏み それでも巨人は立ち上がり、怪獣に立ち向かっていく。 つぶされ街のインフラは崩壊した。 激闘の末に巨人は一体目の怪獣を倒した。倒された怪 人は精一杯の抵抗をする。それが無音であっても。獣は、チョコに熱湯をかけたように溶けた。つい先ほど ヘリは落とされ、戦車は怪獣の巨大な脚に踏みつぶされまで個体を保っていた怪獣が、液体に変容し四方八方に た。それでも人々は逃け回る。希望がある、と信じて。流れて行く。それを見届けると巨人も何処かへ消え去っ 「大丈夫。何とかなるさ」 てしまった。花火が散るように、謎の光だけを残し、巨 「もう人類は終わりだ ! アイツに貲殺されるんだ ! 」人は町から姿を消した。 人々の意見が一一分化してきた頃だ。そんな時である。 その後、人々は巨人に感謝し、街の復興に力を入れた。 謎の巨人が表れたのは。 平穏な日常が戻ってきた、そう人々が感じ始めた頃であ 謎の巨人は人型であった。謎の巨人も並大抵の建物よる。一一体目の怪獣が現れたのは。
そうだ」 「えっ ? 」 光の巨人は完全に優位に立った。だが、漫心すること それから数ヶ月、ようやく訪れた平和を人々は堪能し なく相手に止めを刺す機会を窺っている。 怪獣は目の前の強者に臆したのか、猪突猛進の勢いでている。破壊の跡はまだ町に残っているが、誰一人とし て暗い顔をしている者はいなかった。 光の巨人に突っ込んでくる。 ビルについている巨大なモニターからはニュースが流 光の巨人はそれに突進のタイミングに合わせ、強力な れている。 カウンターを怪獣に叩き込む。 。あの怪獣騒動から数ヶ月。町は復興に向かいつつあり その強大なカウンターは怪獣を空にまで押し上げた。 光の巨人は腕を前でクロスさせ、力を溜めている。光ます。そして人々はあの巨人に感謝の意を込めて、誰で もあり誰でもない、男でも女でもない存在として ' ダス り輝いている体がさらに神々しさを増す。 怪獣は宙に留まったままで、羽から黒い光線を光の巨Ⅱマン。と呼んでいま 〈了〉 人めがけて放つ。 光の巨人もそれに対抗して、胸の水晶から光線を放つ。 一一つの光線は空でぶつかり合った。 「負けるなーツ ! 」 その声を受けて、光の巨人のはさらに出力を増し マた拮抗し合っていた一一つの光線は、一つのに収束 一一し、怪獣の方へと向かっていく。 ス空中で爆発が起きた。地表に何か残骸が降ってきても おかしくはなかったが、被害は一切出なかった。 そして光の巨人はまた地上から姿を消した : ・
くて、私はいつも聞かなければよかったと思うのだっ ルに突っ伏した。さっき食べたパンケーキが、内側か ら自分をじわじわ苦しめているようだった。 「それって、極端に言っと、ある音裏切りみたいだ 「友達だと好きになったら駄目なの ? 」 「駄目だよー」くぐもった声で返事をする。 なって考えちゃうんだ」 「よっぽど嫌いな奴じゃなきや、他人に好きになられ それを聞くと今度は美紀が唸った。思い切り首をか しげている。 るのは悪い気はしないと思うけど」 美紀の言い分も分からなくはないが、私は釈然とし 「そんなに探刻に考えなくてもいいと思うけど」 なかった。うんうん唸ってうまい言葉を探す。一方彼 「深刻かなあ」。 女は切り分けられたパンケーキをひょいひょい口へ運 「そういう恋愛観 ? みたいなのがあるのも良いと思 んでいた。 うけど、それで春乃が自分の思うように動けないんだ 「別に人を好きになるのは悪いことじゃないと思うけ ったらもったいないと思うな」 どさ」 「私の、思うように ? 」 「うん、大事なのは春乃がどうしたいかだと思うよ、 なんとか言葉をまとめて、ぼつりぼつりとつぶやく ように話す。喋りながら今まで聞いてきた告白や噂の 美紀は最後の一切れを口に含んで頷いた。私が手こ ずっていたパンケーキはもう跡形もなかった。甘い匂 数々を思い返していた。他人の話はすぐ忘れるけれど、 しー消えたはずなのに、胸が詰まって苦しかった。私 友達が主体の話は、頭によく残るのだ。 「大事な友達を好きになっちゃったら、そこにあった は何も一一一一口えないまま、ただ汗ばんだレモンティーのグ ラスを見つめていた。 友情はどうなるんだろうって」 あの後も結局勉強は手つかずのまま、しばらくして 誰それが好きと語る彼女たちは皆一様に輝いていた 行けれど、自分が友情だと思っていた関係が、実は違う店を出た。家に帰った私はなぜだかどっと疲れていて、 種類のものだったと知るのは気分が良いとは言いがた べッドに突っ伏して眠り込んでしまった。 逃
ったんだ。だって、いくらずっと一緒に居たっていっ 恋愛の話は苦手だ。周りの女子のように盛り上がれ ても、私と修也は単なる幼馴染で、それ以上でもそれ ないから。一一「うことを考えているうちに、温度差がど 以下でもない他人なんだから。当たり前のことなのに、 んどん開いていくから。いつもいつも聞かなければよ かったと思うようなことを聞いてしまうから。唖然と改めてその事実を突きつけられると、何故かさっきの 不快感が蘇ってくるようだった。 する私を見た一人が、ニャニヤ笑いで聞いてくる。 「ん ? 」 「何 ? 春乃、やつばり未練が出てきた ? 」 歩いているうちにあることに気が付いて廊下の真ん 「違うよ、違うけどさ」 中で足を止める。そういえば私、修也の志望校知らな 修也と離れてしまうことよりも、自分がそれにひど 可 ? 私は、 く動揺していることのほうが衝撃だった。イ なんでこんなに驚いてるの ? 修也には修也の人生が あるのだし、家が近いのなんてただの偶然で、いっ離 自販機の前で烏龍茶にしようか緑茶にしようか悩ん でいると、後ろから声をかけられた。 れても全く不思議ではなかったのに。そう思っても、 「あれつ、春乃じゃん」 何故だか胸の奥から得体の知れない不快感のようなも 振り返ると、財布を手にした修也が立っていた。同 のが込み上げてきて、私は顔をしかめた。口に残った じく飲み物を買いに来たらしい 甘ったるい後味がなんだか気持ち悪かった。 「春乃もジュース ? 」 「ちょっと飲み物買ってくる」 「ううん、今日はお茶」 自販機へ向かう道すがら、私は考えていた。修也は 言いつつも修也は小銭を突っ込んてボタンを押して 引っ越してしまうのか。そしたらもう、滅多なことで いる。私が先に見てたんだけど。まあ悩んでいたから は会えなくなってしまうのか。でも、そりやそうだよ 、さっきの疑問を解い 別に構わないが。ちょうどいし 行ね。これまで仲良くしてきたのは、単に家が近かった てしまおう。 からで、いっ離れ離れになっても何もおかしくはなか 逃