議論された。しかし最終判断は原子力規制委員会 が担うものであり , 各メンバーの意見がすべて反 映されてはおらず , 委員会が独自に方向性を決め たものも少なくない。 例えば原子力発電所について , 加圧型 ( I)WR ) の 格納容器フィルターベントシステムの問題がある。 これは重大事故時 , 格納容器破損を防ぐためにフ イルターを通じて内部の放射性物質を外部に放出 する設備であるが , PWR は沸騰水型 ( BWR ) と違 って新規制基準の施行後 5 年までの設置でよい という猶予期間が設けられた。 PWR は格納容器 が大きく事故進展に時間的余裕があるといった一 般的な理由があるとは思われるが , PWR 特有の 再循環ポンプの危険性など , 十分な議論はされな かったと考えている。 また再処理施設について , 重大事故対策は常設 ではなく可搬型のポンプなどの対策を主とすると された。その理由は事故進展が遅く多様な事故に 対応できるからとされているが , これもまた十分 に議論はされなかった。事故の進展が予想外であ ることは , 原子力施設の過去の事例を見れば明ら かである。また事故進展が遅いというのはあくま でも原子力発電と比較しての場合に過ぎない。ま たプルトニウムを扱う施設へのテロ攻撃に対して , 人海戦術を主とした現状の対策は脆弱性が高いだ ろう 課題はまだある。例えば事故時の被害を考慮し て立地条件の是非を決める原子炉立地審査指針 ( 立地基準 ) に立ち返らなかったことや , 炉心溶融燃 料の流出を止めるコアキャッチャー ( 比較的大規模な 工事を必要とする ) などは規制要求されていないこと , などがある。 しかし根本的な安全規制の欠陥として , 安全目 標がいまだ不明瞭であるという現状が挙げられる のではないだろうか。安全目標とは , 安全規制に よって達成可能なリスク抑制の基準で , 確率論的 な手法を用いるものである。この目標の軽視は , 人命より原子力を重視しているという現在の原子 力再稼働問題につながるといえる。 原子力規制委員会は 2013 年 4 月 , 旧原子力安 0728 KAGAKU JuI. 2016 VOL86 No. 7 全委員会が議論したものの結論を出さなかった安 全目標について , 「事故時のセシウム 137 の放出 量が 100TBq を超えるような事故の発生頻度は , 100 万炉年に 1 回程度を超えないように抑制され るべき」と提示し , 実質的な安全目標の目安とし た。新規制基準においては , 重大事故対策の有効 性評価 ( 想定する対策が有効かどうかを分析する作業 ) の一 つの目安とされる ( ただし , 新基準適合性審査のなかで確 認されたわけではない ) 。しかし例えば米国は , 1986 年には既に定性的な二つの目標と定量的な二つの 目標を提示している 1 。定性的目標には , 社会的 リスクは小さくすべきこと , 定量的目標には , 事 故時の発電所近傍の個人の急性死亡リスクは , 他 の事故との合計の 0.1 % を超えないことが示され ている 2 。なお旧原子力安全委員会は , 2003 年 , 施設付近の公衆の平均急性死亡リスクは年あたり 100 万分の 1 程度を超えないことを目標とする案 を作成している。 現在の原子力規制委員会の安全目標は , 米国に おける施設に対する性能目標に相当するといえ る 3 。つまり , 原子力規制委員会の視点は事業者 を向いており , 一般公衆は考慮されていない。も し一般公衆にとって重要な視点である死亡リスク を意図的にはずしたのであれば , 福島事故以前に みられた , 原発のリスクを隠して安全面のみ強調 していた推進側の取り組みと変わらない重要な問 題だと思われる。 審査会合の問題と規制能力の欠如 現在行われている審査会合において , 比較的厳 格であった適合性の条件が軽視されているような 事態が起きている。 例えば当初 , 特定重大事故等対処施設の設置に は , 新規制基準の施行後から一律で 5 年間とい う猶予期間が設けられていた ( つまり 2018 年 7 月まで ) 。 しかし 2016 年に原子力規制委員会は , 審査期間 が長期化していることを理由に , 各本体施設の工 事計画の認可から 5 年間の猶予にすると変更し た。また九州電力川内原発は , 再稼働後の同年 12 月になって突然 , 予定していた新設の免震重
米国は 2011 年 7 月 , タスクフォースを立ち上げ 要棟を撤回し , 既存の緊急事対策所の隣に耐震支 このよう て具体的な 12 の勧告を行っているが 4 援棟を建設するという変更を申請した。さらに関 な対応をとるには成熟した経験が必要である。 西電力高浜 1 , 2 号の審査では , 火災を防ぐため それでも原子力規制委員会は早急に , 事業者の 難燃性ケープルを導入する新しい規制要求に対し , 先を行き , 事業者を超える知見が必要である。例 全長 1300 km に及ぶ 6 割を難燃性 , そして残り えば難燃性ケープルの代替案が及ばす影響の独自 は防火シートで覆うという方針が認められ審査に の分析や , また川内原発が方針を変えた理由が単 合格した。 なる方向転換なのか審査合格を急いだ結果なのか このような手続きや設計の変更は , 安全性の軽 詳細な分析が必要である。そうでなければ , 今後 , 視といった懸念を感じさせる。しかしながら特定 他の事業者が次々と追随し新規制基準は崩れてい 重大事故等対処施設は , 規制委員会によればバッ くだろう。 クアップ施設であり本来の安全性は別途確保され なお審査スケジュールについて , 規制委員会が ていること , また新規制基準は具体的に仕様を指 事業者に配慮するような不透明な動きが見られる。 定する仕様規定ではなく , 要求する性能を満たせ 例えば 2015 年 7 月 , 審査の効率化と称して東京 ばその手法は問わない性能規定で要求しているた 電力柏崎刈羽原発を BWR の中で優先的に審査す め , その点では矛盾はないともいえる。 る方針を明らかにしたが , その意思決定過程は不 しかしこれらの動きの背景には , 日本の原子力 安全規制は , 福島事故以前の低いレベルから短期 明療である。いすれにせよ審査が長期化している ことについて原子力規制委員会は懸念する必要は 間にトップレベルまで上がることが要求され , そ ない。日本原子力産業協会は早期の再稼働を訴え , の結果 , 規制能力が追いついていないという重大 日本原子力学会は研究炉の停止に伴う大学研究の な問題があることが考えられる。 影響を訴えている。しかし現状の審査の遅れは , 例えば性能規定は , 事業者に自主性を促しかっ 原子力業界が長期にわたって安全性を軽視してき 合理的な手法ではある。しかし一方で , その事業 た当然の帰結にすぎない。またもし停止の長期化 者の多様な判断を分析・評価する能力が規制側に で安全性が低下するのであれば , それは公開の場 必要となる。性能要求は相手に丸投げすればよい で議論すべき内容である。原子力規制委員会はそ ものではなく , 規制側は独自の評価基準を事前に の活動原則の中に , 独立した意思決定を掲げ , 確立しておく必要があるしかし現在 , 原子力規 「何ものにもとらわれす , 科学的・技術的な見地 制委員会は , 自分たちで設定した高い安全基準に から , 独立して意思決定を行う」ことを挙げてい ついて , 経験豊富で要領のよい事業者からの回答 る。 これを忘れるべきではない。 に十分に対峙できていない。 福島事故以前から低い規制レベルにあった日本 の原子力安全規制は , たとえ規制機関が変わった としても , すぐに十分なレベルに達することは困 難である。例えば旧原子力安全・保安院および旧 上記の問題を解決するために , 以下の二つの具 体的な対策の導入が必要である。 原子力安全委員会に対して行われた 2008 年の IRRS 報告書では , 規制機関の品質マネジメント ( 1 ) 原子力の危険性の明示化 : 安全目標の決定 システムなど 10 項目もの勧告が行われており , と費用便益分析の活用 前述の安全目標について , 死亡リスクを勘案し その後 , 日本側はその対策を取っていなかった。 た明確な値を早急に定め , 原子力政策が突きつけ つまり福島事故後の日本の原子力規制はゼロから る人間社会への影響を明示化し , その是非をより ではなくマイナスからのスタートであり , いまだ 具体的に議論し合う必要がある。特に福島事故を 向上の時間を必要としている。日本とは対照的に 福島事故 5 年後の原子力安全規制 : 現状と将来の課題科学 0729 0 一三 確実な規制に向けて
言島事故 5 年後の原子力安全規制 : 見状と将来の課題 田忠広 2011 年 3 月の東京電力福島第一原子力発電所 要な提案を行う。なお分析対象範囲は 2016 年 2 事故 ( 福島事故 ) から 5 年を迎えたいま , その反省の 月末までとしている。 ーっとして作られた新しい原子力安全規制は , 十 福島事故後の原子力安全規制の現状 分に機能しているのだろうか。筆者は新規制基準 策定の検討チームのメンバーとして策定に関わり , 現在は原子炉安全専門審査会 ( 炉安審 ) , および核 原子力発電に関する動向 燃料安全専門審査会 ( 燃安審 ) の委員も務めている。 新規制基準は , 原子力規制委員 , 原子力規制庁 こでは委員としての視点も含めて , 先例として 職員および , 原子力安全基盤機構や大学の専門家 知見の多い米国の安全規制を参考にしつつ , 原子 による外部有識者から構成される検討チームによ カ規制委員会による新規制基準の策定とその後の って公開の場で検討された。この基準は , 例えば 審査会合について検証する。 自然現象に関する従来の要求は不十分であったと 2012 年 6 月 , 原子力基本法の目的として , 「国 して , 地震や津波の想定手法の強化 ( 基準津波 , 基準 民の生命 , 健康及び財産の保護 , 環境の保全」が 地震動 , 活断層の認定など ) , およびその対策を求めた 目的に追加された。また「核原料物質 , 核燃料物 また従来は事業者の自主的取り組みでしかなかっ 質及び原子炉の規制に関する法律」 ( 炉規法 ) にも , た重大事故 ( シビアアクシデント ) の対策について , 炉 大規模な自然災害やテロリズムなどを考慮する文 心損傷の防止 , 格納容器の閉じ込め機能の維持の 言が追加された。さらに同年 9 月 , 国家行政組 強化を要求し , さらにテロや航空機事故対策とし 織法第三条および原子力規制委員会設置法にもと て , 安全機能のバックアップとなる特定重大事故 づき , 環境省の外局として原子力規制委員会が発 等対処施設の設置を要求した。 足した。この委員会の取り組みの一つに , 実用発 これらは厳しい要求であったはずだが , 施行日 電用原子炉 ( 商業用の原子力発電所 ) や核燃料施設 ( 再処 から 1 週間後には電力会社 4 社 7 発電所 ( 計 12 基 ) 理工場 , 研究炉など ) に関する新規制基準があり , そ が審査を申請した。 2016 年 2 月末現在 , すべて れぞれ , 翌年の 2013 年 7 月と 12 月に施行され の電気事業者 11 社 16 発電所 ( 計 26 基 ) が申請し , うち 3 社 3 発電所 ( 7 基 ) が審査に合格した。九州 2016 年 2 月現在 , 原子力発電については新規 電力川内発電所 1 , 2 号と関西電力高浜 3 , 4 号が 制基準の施行から 2 年半が経過し , ほとんどの 運転を開始した ( その後 , 高浜 4 号はトラブルにより停止し , 事業者は新基準の適合性の審査を受けている。し 高浜 3 号は裁判所による仮処分決定により停止した ) 。 かしその基準や審査会合 , また原子力規制委員会 審査の結果 , 例えば 2014 年 9 月に許可を得た や事業者の対応について多くの課題が見えてきて 川内原発 1 , 2 号は , 耐震設計の基準値 ( 基準地震動 ) の値を設定しなおし , 従来の値 400 cm/s2 から いる。本研究では , まず新規制基準とその後の審 620Cm / s2 に上げた。また仮に重大事故が発生し 査会合について現状を概観する。続いて , 現状の 取り組みから課題を抽出し将来の原子力規制に必 た場合の環境への放射性物質の放出量は , 原子力 0726 KAGAKU JuI. 2016 VOL86 N07 かったただひろ 明治大学
一度事故が発生すれば被害が極端に大きいことが だった水抜き工事の実施がたまたま遅れたために ある。以下では , その被害の大きさを福島第一原 原子炉に水が残っていた。もし工事が予定通りに 発事故で起きたことを振り返りながら再認識する。 実施されていたらプールに水が入るという幸運は これまでの日本政府の事故確率に関する議論の なく , 核燃料が露出して大量の放射性物質が放出 前提は「メルトダウン ( 炉心溶融 ) が起こるような過 されていた可能性が高い。それは , 国際社会 , 特 酷事故のリスクは 100 万年炉年 ( 1 基の原子炉が 1 年 に米国政府が最も恐れていた事態であった ( 米国政 間稼働する時間を 1 炉年 ) に 1 回から 1 億炉年に 1 回」 府は , 日本にいた半径 80km 圏の自国民に避難を勧告した ) 。 というものであった。このような小さな数字は , 第三に , 地震が平日の昼ではなく , 職員が少ない 確率論的リスク評価というシミュレーション計算 休日や夜間に発生していても , 制御は非常に困難 の結果に過ぎす , 国際的には国際原子力機関 なものになっていた。 (IAEA) の「安全目標」に位置づけられていた。日 すなわち , 地震の発生が数時間 , 数日 , そして 本の行政や司法は , このような数字を「安全性の 数カ月すれていたら , メルトダウンした炉心や燃 正明」として信じこんでしまった , あるいは信じ 料棒の冷却や使用済み燃料プールのコントロール させられた。 が不可能になり , 首都東京の人口を含む数千万人 福島第一原発事故後に行われた日本政府の原子 が避難していた可能性がある。多くの偶然が重な 力委員会における原発事故リスクの費用の議論に って , そのような日本の東半分が実質的に「壊れ おいては , 日本での 1500 炉年の運転実績の中で る」ようなケースを避けることができたのが福島 3 基が大事故を起こしたので , 事故確率は 500 炉 第一原発事故であった。 年に 1 回という考え方がオプションの一つとし 以上から , 原発は温暖化対策として技術的・経 て提示された。その場合 , かっての日本のように 済的に優位にあるわけではない上に , 事故が発生 一国で 50 基程度の原発ユニットが稼働している した場合は国の存亡にも影響するリスクをもっと とすると , 10 年に約 1 回の割合で大きな事故が いう認識あるいは覚悟か必要であろう。 その国の中で起きることになる。 実は , 福島第一原発事故は「不幸中の幸い」と ( 3 ) 原発の死亡者数と化石燃料発電の死亡者数とを も言いうるものであった。第一に , 福島第一原発 比較できるか ? 事故では , 対応の指揮は , 福島第一原発内にある 発電用エネルギーとしての原子力のリスクを議 通信・電源などの重要設備を集合させた免震重要 論する場合 , しばしば世界における大気汚染 , 特 棟でなされた。この免震重要棟は , 福島第一原発 に途上国での石炭などの化石燃料燃焼由来の大気 の敷地内で唯一 , 免震対策が施された。もし , 汚染による死亡者数が比較の対象となる。すなわ の建物が破壊されていたらと考えると「ぞっとす ち , 「大気汚染による死亡者数がより多く , 大気 る」と当時の清水・東電社長にいわしめた状況だ 汚染対策のためにも原発は必要」という考えであ った。この免震重要棟は , 2007 年に新潟地域で り (Revkin2013 ; 池田 2011 ) , 冒頭の分類では②になる。 起きた地震の経験から建設され , 新潟県にある原 一般に , 大気汚染による死亡者の計算に関して 発では 2010 年 1 月 , 福島第一原発および福島第 は , Popeetal.(2012) の PM25 ( 粒径 2.5 ″ m 以下の微小粒 二原発では 2010 年 7 月にそれぞれ運用が開始さ 子状物質 ) などの大気汚染物質と早期死亡者との関 れた。すなわち , 地震があとわずか 9 カ月前に 連性に関する研究が引用される。この研究は , 米 発生していたら福島第一原発には免震重要棟は存 国での統計データを用いて , PM25 などによって 在せず , 原子炉の制御が断念されていた可能性は 主に心血管機能障害と肺がんによる死亡リスクが 高い。第二に , 4 号機の使用済み燃料プールにつ 相対的に高まることを示したものである。この相 いても , 震災 4 日前の 3 月 7 日に実施する予定 対的死亡上昇率に一定の人口などをかけた「予想 1 三ロ 0722 KAGAKU JuI. 2016 VOL86 N07
規制委員会が示している安全目標の指標であるセ シウム 137 で 100 TBq ( 100 テラベクレル = 100 兆べク レル ) を十分に下回る , 事故から 1 週間後で 5.6 TBq に抑えられるとした。なお 100 TBq は福島 事故の約 100 分の 1 のレベルとされている。 新規制基準に対応するための安全対策費用は , 各設置許可申請書によれば合計約 5700 億円とな るが , 具体的な個々の対策費用の詳細は不明であ る。また経済的負担や老朽化が理由と考えられる が , 経済産業省による廃炉を円滑に進める規則の 改正も手伝い , 関西電力美浜 1 , 2 号 , 日本原子 力発電敦賀 1 号 , 九州電力玄海 1 号 , 中国電力 島根 1 号が 2015 年 4 月に廃炉を決定した ( その後 の 2016 年 3 月 , 四国電力伊方 1 号機も廃炉方針を発表した ) 。 2016 年 2 月に審査書案がまとめられた ( 4 月に設 置変更許可 ) 関西電力高浜 1 , 2 号の運転年数はそれ ぞれ 41 年と 40 年であり , 同時に運転期間 60 年 の延長も申請している。炉規法によって運転開始 日から 40 年が運転期間と定められているが , 原 子力規制委員会の認可によって , 1 回に限り最大 20 年の延長が可能とされている。 地元合意プロセス , すなわち原子力施設の運転 に際して , 受け入れる地方自治体が事業者と安全 協定を結ぶ手続きについて , 原子力規制委員会は 関与していない。また福島事故では広範囲に放射 性物質が拡散したため , このプロセスに関わる周 辺自治体の範囲が争点であったが , 例えば川内 1 , 2 号では福島事故以前と同様 , 鹿児島県と薩摩川 内市のみの安全協定が九州電力と交わされた ( その 他の市町とは安全確保に関する協定 , 原子力防災に関する協定 ) 。 高浜 3 , 4 号も同様であった。 核燃料サイクル施設に関する動向 核燃料サイクル施設 , すなわち原子力発電所以 外の施設についても新規制基準が策定された。特 徴としては , 研究炉や使用済燃料乾式貯蔵施設な どすべての施設を対象とし , 再処理工場と MOX ( ウラン混合酸化物 ) 燃料加工工場については , 重大事 故対策を要求していることが挙げられる。 施行の翌月の 1 月には日本原燃の再処理施設 や MOX 燃料加工施設を含む 3 事業者 6 施設が 申請した。 2016 年 2 月末時点で , 1 1 の事業者・ 大学・研究所 20 施設が審査中だが , 審査を終了 したものはまだない。 例えば日本原燃の六ヶ所再処理工場は , 2016 年 2 月末時点で 54 回の審査が行われているが , まだ先は見えていない。日本原燃は申請当初 , 審 査を終えて 2014 年 10 月には操業稼働を行うと 計画していた。しかし 2015 年 1 1 月 , 操業開始 を 2018 年度上期 ( 4 ~ 9 月 ) に延期している。なお日 本原燃によれば安全対策費は 260 億円とされて いる。また日本原子力研究開発機構 ( JAEA ) は 2014 年 9 月 , 東海再処理工場を 2017 年以降に廃止す ると決定した。新規制基準に適合させる対策には 1000 億円以上が必要になることが理由とされて いる。 原子力規制委員会の外部評価 原子力規制委員会の活動を確認する二つの取り 組みがあった。ーっは原子力規制委員会設置法に もとづく政府による 3 年以内の見直しである。 この法律では最新の国際基準をふまえ , 内閣府に 独立行政委員会を設置することも含めた検討を行 うとされていた。 2015 年 9 月の最終取りまとめ では , 原子力規制委員会の独立性は高まっており , 内閣府への移管の必要性はないと示された。なお 原子力規制委員会はその後 , 自ら業務を考査する 監査・業務改善推進室が 2016 年 3 月に設置され た。 もうーっは 2016 年 1 月に実施された国際原子 力機関 ( IAEA ) による総合規制評価サービス ( IRRS ) の受け入れである。原子力に関する規制の取り組 みを評価するもので , 原子力規制委員会の取り組 みは独立性や透明性がある一方 , 技術的能力のさ らなる強化の必要性が指摘されている。 再稼働を巡る課題 新規制基準の問題と安全目標の欠如 新規制基準案の策定は透明性のある公開の場で 福島事故 5 年後の原子力安全規制 : 現状と将来の課題科学 0727
早期死亡者増加数」を死者数とみなしている。 2008 年の世界保健機関 ( WHO ) の報告によると , 世界の大気汚染による国別の年間死者数ランキン グ第 1 位は中国 ( 47 万 0649 人 ) であり , 日本は第 1 1 位 ( 2 万 3253 人 ) となっている ( 国際統計格付けセンター 2016 ) 。 確かに福島第一原発事故では , 放射性物質の被 曝による直接の死亡者は , 現時点では報告されて いない。しかし , その第一の理由は原発事故や放 射線被曝が「安全」だからではない。しかも , あ る程度の放射線被曝は生じてしまっており , 甲状 腺がん発生の問題をはじめ , その長期的な影響に ついても確定したことは言いがたい状況である。 「間接的」とされる原発事故関連死も深刻であ る。困難で長期にわたる避難生活で命を落とした 人々 , 農地や家畜が汚染され生活再建に絶望し自 ら命を断った人々など , 原発事故関連死の数は東 京新聞の調査によると福島県だけで 2016 年 3 月 時点で 1300 人を超えている ( 東京新聞 2016 年 3 月 6 日 ) 。間接といえども , その人たちは , 原発事故 がなければ死ぬこともなかった人たちである。 事故の規模によっては数万から数千万の人々が 避難を強いられ , コミュニティが崩壊し , それぞ れの人生が破壊される。これらが原発事故で起き ることである。つまり , 原発事故の被害と大気汚 染の被害はまったく性質の異なるものであり , 単 純に比較できるものではない。 原発と化石燃料の両方を , 経済成長を犠牲にせ ずにフェーズ・アウトしていく可能性が見えてき ている現在 , このような理解は一層重要であろう。 すなわち , 大気汚染に苦しむ途上国の経済発展を 考慮した場合でも技術的・経済的には石炭火力な どの代替は可能であり , その代替技術は原子力で はなく省エネや再生可能エネルギーになりつつあ る * 5 。原発と化石燃料発電のうち , あなたが嫌い なほうをなくすために , もう一方を容認すべきだ * 5 ーイギリスのシンクタンクである海外開発研究所 (ODI) が 途上国における石炭 , 経済発展 , 貧困撲滅との関係に関して詳 細な質問回答集 ( FAQ ) を作成しているので参照されたい ( ODI 2016 ) 。 という考え方をする必要はないのである。 なお , 安全な新型原子炉であればよいという考 えもある。しかし , 安全性が高いとされる「受動 的安全システム」を搭載した第 3 世代原子炉は 世界において計画・建設中の原発の半数以下であ る。一方 , より安全だとされる第 4 世代原子炉 の商業化はまだまだ先である。 ( 4 ) 原発推進は温室効果ガス排出削減を実際にもた らしたか ? この問いに対する日本での答えはノーである。 現実として , 日本においては原発と石炭火力発電 は常に同時に建設・導入されてきた。すなわち , 原発と石炭火力発電は常にセットの技術であり , 原発が停止するなどした場合 , 石炭火力発電がバ ックアップとして使われた。その結果 , これまで 日本は , 1970 年以降 , 原発を推進しながら一貫 して石炭火力発電所を増設し C02 排出を増やし てきた。これは先進国の中では極めて特異的なパ ターンであり ( 安田 2015 ) , 事実上 , 日本政府は原 発推進に温暖化対策を「利用」しただけであった ことの証左でもある。 そうなった最大の理由は , 原発を推進する利益 集団も , 石炭火力発電を推進しようとする利益集 団も , 経済官庁 , 大手電力会社 , 大手重機メーカ , エネルギー多消費産業というまったく同じ組 織や企業だからである。このような「原子力・化 石燃料ムラ」の住人で互恵関係にある人々 , 特に 大手電力会社は , 総括原価方式のもとで原発や石 炭火力などの大規模集中型の発電システムを構築 して固定資産や電力販売量を最大化する経済的イ ンセンテイプをもっていた。同時に , 固定資産や 電力販売量を減少させるような省エネ・再生可能 エネルギーや炭素価格づけ ( 炭素税や排出量取引 ) など の導入に対しては強硬に反対してきた。 また , そもそもシステム全体を考慮した場合の 原発による C02 排出はゼロではない。ウラン採 掘などに付随する C02 排出などを考慮すれば天 然ガス火力発電の約 3 分の 1 になり (Mez 2016 ) , 残存量減少によってより大きなエネルギーがウラ 原発と地球温暖化問題との錯綜した関係科学 0723
目標 : 1. 原子炉事故の結果として生じ得る発電所近傍の平均的 個人の急性死亡リスクは , 合衆国民が一般にさらされている他 の事故の急性死亡リスクの合計の 0.1 % を超えるべきではない。 2. 原子力発電所の運転の結果として生じ得る発電所近くの集団 のガン死亡リスクは , その他全ての原因によるガン死亡リスク の合計の 0.1 % を超えるべきではない。」 3 ーー U. S. NRC, "An Approach for Using Probabilistic Risk Assess- ment in Risk-lnformed Decisions on PIant-Specific Changes the Licensing Basis", Regulatory Guide 1.174(July 1998 ). http:// pbadupws. nrc. g0V/d0CS/ML0037/ML003740133. pdf 4 ー U. S. NRC, Recommendations for Enhancing Reactor Safety in the 21 st Century, JuIy 12 , 2011. http://pbadupws.nrc.gov/docs/ MLI 118 / MLI 11861807. pdf 5 一例えば米国の憂慮する科学者同盟は , 長年 , 米国規制委員会 を批判的に監視し続けており , 費用便益分析の扱いについても 警鐘を鳴らしている。 : ディビッド・ロックバウム他「実録 FUKUSHIMA 』岩波書店 ( 2015 ) 。またジュメヴィエーヴは , 歴 史的にも米国では批判があるが , それは政策決定の手法に向け られてはおらず , その利用についてであるとする。例えばこの ような手法を採用した人々に対し , 分析手法 , 技術 , 政策手段 の価値バイアスを認識していないこと , 価値中立という神話を 抱えていることなどへの異議が唱えられている , と述べてい る : 「核廃棄物と熟議民主主義』新泉社 ( 2011 ) , 38 ページ。 6—Consideration Of AdditionaI Requirements For Containment Venting Systems(SECY-12-0157 ) , November 26 , 2012. 7—Staff Evaluation and Recommendation for Japan Lessons- Learned Tier 3 lssue on Expedited Transfer Of Spent Fuel (COMSECY-13-0030 ) , November 12 , 2013 http://www nrc. gov/ reading-rm/doc-coIIections/commission/comm-secy/2013 / 2013 -0030comscy. pdf 実録 FUKUSHIMA アメリカも震撼させた核災害 デイピッド・ロックバウム , 工ドウイン・ライマン , スーザン・ Q. ストラナハン , 憂慮する科学者同盟著 0 アメリカの 3 ・ 11 を生々しく描き出すドキュメンタリー 生じ得たより甚大な被害ーー私たちの社会はそれに対応できるのだろうか ? 実録 FUKUSHIMA アメリカも震撼させた核災 The Story Of a Nuclear D a 岩波書店 水田賢政・””駅 スーザン・ Q. ストラ、ン卩 工ドウイン・ライマン。を ! 。 デイピッド・ロックパウム・ 第 第 第 第 第 第 第 第 第 1 2 3 4 5 6 7 8 9 早 早 早 早 早 早 早 早 早 第 1 0 章 第 1 1 章 第 12 章 2011 年 3 月 1 1 日「これまで考えたことのなかった事態」 2011 年 3 月 1 2 日「本当にひどいことになるかもしれない」 2011 年 3 月 1 2 日から 14 日「いったいどうなってるんだ ! 」 2011 年 3 月 1 5 日から 3 月 1 8 日「一層悪くなっていくと思います」 幕間一一答を探す : 「県民の不安や怒りは極限に達している」 2011 年 3 月 1 9 日から 20 日「最悪のケースを教えてくれ」 もうーっの 3 月 , もうーっの国 , もうーっの炉心溶融 2011 年 3 月 21 日から 1 2 月「安全確保という考え方だけでは律する 2012 年「本当に大丈夫なのか。きちんと国民に説明すべきである」 この会議は非公開ですよね ? 」 不合理な保証 ことができない」 あっという問にしぼんでいく機会 付録福島の事後分析何が起こったのか ? / 用語解説 福島事故 5 年後の原子力安全規制 : 現状と将来の課題 岩波書店 四六判・上製・ 432 頁定価 ( 本体 3400 円 + 税 ) 科学 0731
1 引 .05 度より西にあると思われる。断層の長さ が 57 km よりはるかに短いことは明白である。 なお断層の長さカ = 引 km を用いると , 武村式 , 山中・島崎式により 3 式 , ( 5 ) 式から , それぞ れ。震源の大きさ ' の推定値 ( 単位 : 1 心 Nm ) 4.2 , 3.7 を得る。これらは実際の値 , 4.7 より小さいが , その誤差は 30 % より小さく , 測定誤差の範囲内 結論 と言えよう。 波や強い揺れの推定に用いれば , 「想定外」の災 とが , 既成事実化してしまうだろう。この式を津 宅式を垂直 , あるいは垂直に近い断層に用いるこ である 34 。これをこのまま放置すれば , 入倉・ の県で既にこのモデルが採用されているとのこと ス」として設定された。新聞報道によれば , 複数 日本海西部 , すなわち能登半島以西で「最大クラ 倉・三宅式が使われ , 最大クラスではない津波か 日本海「最大クラス」の津波断層モデルで入 「想定外」の事故が起こっても不思議ではない。 ( 短周期レベル ) が設定された値の 50 % 増であれば , 宅式が多く使われている。実際の強い揺れの程度 い断層であり , 原発の地震動評価では , 入倉・ 西日本の断層の多くは垂直 , あるいは垂直に近 し , 実際の強い揺れの程度は 50 % 増となる。 これに従えば , 入倉・三宅式を使用した結果に対 の 1 / 3 乗に比例するという式が提案されている。 いて , その大きさが。震源の大きさ ' ( 地震モーメント ) 震源近傍での強い揺れの程度 ( 短周期レベル ) につ には , 入倉・三宅式を用いてはならない。 する大地震の源の大きさ ' ( 地震モーメント ) の推定 日本列島の垂直 , あるいは垂直に近い断層で発生 ト ) が 1 / 3.5 程度の大きさに過小評価されている。 を用いたことにある。・震源の大きさ ' ( 地震モーメン 直 , あるいは垂直に近い断層に対し入倉・三宅式 定外」の災害をもたらすであろう。その原因は垂 ているが , これに従って津波対策を進めれば「想 は最大クラスではない。各県の統一モデルとされ 日本海「最大クラス」の津波は , 日本海西部で 害や事故が繰り返される恐れがある。二度と同じ 過ちを犯してはならない。 付記 12-- 一例えば Aki, K. , and P. Richards: Quantitative seismology, ( 1990 ) 11—Yamanaka Y. , and K. Shimazaki: J. Phys. Earth, 38 305 10 ー武村雅之 : 地震 , 第 2 輯 , 51 , 211 ( 1998 ) 9 ー入倉孝次郎・三宅弘恵 : 地学雑誌 , 110 , 849 ( 2001 ) 集 , 0-13 ( 2015 ) 8 ー島崎邦彦 : 日本活断層学会 2015 年度秋季学術大会講演予稿 houk0ku/Report. pdf http://www.mlit.go.jp/river/shinngikai blog/daikibojishinchousa/ ける大規模地震に関する調査検討会報告書 , 2014 年 9 月 , 7 一日本海における大規模地震に関する調査検討会 : 日本海にお 6 ー島崎邦彦 : 地震 , 第 2 輯 , 65 , 123 ( 2012 ) pdf chuobou/senmon/nihonkaiko_chisimajishin/pdf/houkokusiryou2. 査会報告 , 2006 年 1 月 25 日 , http://www bousai. go.jp/kaigirep/ 門調査会 , 日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調 5 ー中央防災会議日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専 警告を葬った人々 , 岩波新書 ( 2014 ) 4 ー島崎邦彦 : 科学 , 81 , 1002 ( 2011 ) ; 添田孝史 : 原発と大津波 拒否 , 東電」 算の提出拒否」 ; 神戸新聞 2015 年 9 月 17 日「津波試算の提出 3 一例えば , 神戸新聞 2016 年 4 月 7 日「電事連 , 津波脆弱性試 icanps/post-l html 中間報告 , 2011 年 12 月 26 日 , http://www cas. go.jp/jp/seisaku/ 2 ー東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会 k0ku. pdf http://www bousai. go. jp/kaigirep/chousakai/tohokukyokun/pdf/hou 地震・津波対策に関する専門調査会報告 , 2011 年 9 月 28 日 , 対策に関する専門調査会 : 東北地方太平洋沖地震を教訓とした 1 ー中央防災会議東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波 文献 なぜ入倉・三宅式を採用したのか疑問である。 は , 日本海津波断層モデルを推進した委員であり , 島崎式に基づく値と同じ ) となる。この事務局の担当者 本地震の、震源の大きさ ' は , 3.7X1019Nm ( 山中・ 断層の長さカ = 引 km を用いると , 上式から熊 Mo= 1.950X1016X た 2 この小文と同様な形で示すと , 次のようになる。 ヾ、 0 発生する地震の断層モデルの作成に , 筆者は委員 取り扱った 35 。その際 , 事務局による , 活断層で 門調査会」では , 中部圏・近畿圏の内陸地震をも 中央防災会議「東南海 , 南海地震等に関する専 最大クラスではなし旧本海「最大クラス」の津波科学 0659
同社はさらに新潟県内限定で同じ内容 ( 社員が働く姿 ( 作家 ) ・佐藤優 ( 作家 ) などを使ったシリーズ広告を を映す ) テレビ CM も放映している。 掲載し始めた。さすがに 3. 1 1 以前のような「原 発は安全です」という文言は使えないため , 当初 は原発を停止したままだと割高な原汕輸入が貿易 もはやそこには何ら科学的説明や解説もなく , 赤字を生み , 国家財政に悪影響だ , とする「財政 働く人々の姿を見せて「安全のために必死で努力 圧迫論」を展開したが , 15 年初めに起きた原油 しています」と言っているにすぎない。つまりは 価格の急激な低下で電力会社がみな黒字になって 「精神論」だけなのだ。しかし , それは製造業な しまい , このロジックも使えなくなった。そのた らテレビでも車でも同じであり , 福島原発事故の め現在は , 様々なエネルギーを併せて使用するこ 時も , 社員は命がけで働いたはすだ。それでも自 とが日本の安全保障上必要であるという「エネル 然の猛威の前ではなす術がなく , 事故は起きた。 ギーベストミックス論」にシフトしている。これ つまり , どんなに懸命に働く社員がいても , 事故 らは全て , 「原発は必要だ」という結論ありきで が起きないというお墨付きには成り得ない。だか 作られているのだが , そこには , たった一度の事 らこのような広告は安全を保証するものとはなら 故で避難を余儀なくされ , 5 年経っても故郷に帰 ないし , 何ら説得力がないのだ。 れない 10 万人余の被災者の存在は一行たりとも ではなぜ電力会社や電事連はこのような広告を 出てこない。不都合な事実には一切触れないのが 打つのかと言えば , まずーっには , 企業広告とし て , 電力関連で働く人々への「我が社は決して原 原発広告不動のスタイルなのだ 発をやめないぞ」という意思表示の意味がある。 そしてもう一方の代表的な原発広告のパターン 社員のモチベーション向上のためのツールなのだ。 (B) は , 広告業界で「同情喚起型」「同意形成型」 そして二つ目の理由は , 冒頭に挙げた 3. 11 以前 と言われる方式であり , これは原発所在県で主流 のやり口である , 「メディアに金を渡すことによ となっている。浜岡原発の再稼働を狙う中部電力 って批判的報道の自粛を促す」ことを狙っている。 は , 15 年 8 月から毎月 , 「私は , 浜岡原子力発電 つまり , 再稼働に対して批判的な記事を書かせな 所で働いています」と題する 15 段 ( 1 ページ ) のカ いための方策なのだ。情けないことに , 多くのメ ディアがまたもや電力会社の毒まんじゅうを食い , ラー広告を静岡新聞に 6 回掲載した。そのいす 1 れもが , 原発施設の様々な部署で働く社員の姿を その軍門に降りつつある。そのあたりの過去の歴 史については , 拙著『原発プロバガンダ』を御高 大写しにし , 「社員がこんなに真面目に頑張って プ いるのだから , 事故は起きません」と暗に訴える 覧頂ければ幸いだ。 内容になっている。関西電力も今年 2 月 6 日に 広告とは , 出し手と受け手のコミュニケーショ 「すべては , 安全のために」と題した 1 ページ広 ンを徹底的に訴求した「アプローチ技術の結品」 告を福井新聞に掲載し , さらに東電も 2 月 1 1 日 である。しかし , 福島原発が未だに危機的状況か に「更なる安全を胸に」と題する 1 ページ広告 ら脱することが出来す , 避難者が故郷に戻れない を新潟日報に掲載した。これらには全て , 1 回 限り , いくら「原発は安全です , 必要です」と言 500 万円以上の高額な掲載料がかかっている。 われても , 説得力のあるコミュニケーションなど 成立するはずがない。現在の原発広告にはそうし しかし , これらの広告はいずれも中部電力の 「働く社員の姿」というビジュアルとそっくりで , た致命的な欠陥があり , 今後もそれが修復される 社名を差し替えたらどの会社の広告か区別がっか ことは困難だ。だから原発広告は , メディアに対 ないようなシロモノだった。そもそも原発事故を する賄賂という役割だけで , 今後も命脈を保って 起こし , その収拾も出来ていない東電が何を根拠 いくだろう。 に「更なる安全」と言っているのか全く不明だが , 科学 科学反面を被る「原発広告」の欺瞞
ヨ 9 や 3. 1 1 以前 , 原発推進を目的とする広告 , いわ ゆる「原発広告」というジャンルが存在した。 れは広告収入に依存するメディア各社 ( 新聞・雑誌・ テレビ・ラジオ・インターネット ) には極めて重要な収入 源で , その出稿金額は過去 40 年間で約 2 兆 4000 億円 ( 朝日新聞調べ ) にものばっていた。年額に換算 すれば約 600 億円という , 途方もない金額である。 2010 年の東京電力の広告費は約 260 億円で , 日 本の広告費ベストテンに顔を出すような巨額であ った。 メディアにとって , 年間数十億円もの広告費を 出してくれるスポンサーは貴重で , その意向には 逆らいにくくなる。つまり , 特定のスポンサー企 業から広告費を多く貰いすぎると , その企業の不 祥事を報道する事に対し , 手心や自主規制が働く ようになってしまうのだ。そしてそれこそが , 原 発広告出稿の真の狙いであった。 あえて記事などで原発を賛美してもらう必要は ない。とにかく批判さえしなければいいのだ。そ うすれば , 電力会社は年に数億円の広告費を払い , ロ当たりの良い広告を山のように掲出してくれる。 しかし , 一度でも何か批判的な記事を掲載すると , 広告代理店や電事連 ( 電気事業連合会 ) からクレーム が入り , 下手をすると , 先々に予定されていた広 告が取りやめになることがあった。そのため , 「原発に批判的な記事を書くと , スポンサーを失 う危険性がある。また , 電力会社や電事連から執 拗なクレームが来る。だったら原発には触れない でおこう」とする「自主規制」的な気分が , 福島 第一原発事故直前まで , あらゆるメディアに蔓延 していた。つまり , 「巨額の広告費」がメディア 科学の仮面を被る 「原発広告」の欺瞞 本間龍 ほんまりゆう 著述家。著書に「原発プロバガンダ』 ( 岩波新書 ) ほか。 いた。ところが , 2014 年頃から , 安倍政権の原 くは , 原発ムラによるあらゆる広告が停止されて さすがにその影響は甚大で , 原発事故後しばら 事故で証明されたのだった。 の科学的根拠もなかったことが , 福島第一原発の 「原発安全神話」であった。しかしそれらには何 うに流された結果 , 日本社会に醸成されたのが そしてこのような広告が 40 年もの間に湯水のよ 上記の文言をご記憶の読者も多いのではないか。 るテレビ・ラジオ CM も盛んに流されたから , 特に 90 年代以降は , 様々なタレントが出演す 言が必ず入っていた。 4 ) 原発は日本のエネルギーの 3 分の 1 などの文 発は二酸化炭素を排出しないクリーンエネルギー があっても , 放射能は絶対に外に漏れない 3 ) 原 故を起こさない安全なシステム 2 ) もし万一事故 別された。そしてそのいずれにも , 1) 原発は事 トなどが対談し , 原発の必要性を説くものに大 電力会社の幹部や科学者たちと , 著名人やタレン 面を専門的な図解などを使って解説したもの B) ターンがあったが , 概ね A) 主に原発の技術的側 その 3. 11 以前の原発広告には幾つかの定型パ 発再稼働路線に追従するように , 再び各地の原発 所在地や雑誌などで原発広告が復活し始めた。そ の内容は , ひとつは「原発の安全性」ならぬ「必 要性」を説くもの (A) と , 「安全性を徹底的に追 求しています」という「精神論」を声高に説くも の (B) という , 大きく二つの種類に分かれている。 ( A ) の代表例として電事連は , 14 年から週刊新 潮で「これからのエネルギー , 私の視座」と題し , デーモン小暮 ( 歌手 ) ・舞の海 ( タレント ) ・手嶋龍一 の報道を完全に制圧していたのだった。 JuI. 2016 VOL86 N07 0630 KAGAKU