影響を総合的に予測する確立した手法はなく , 予 ナム中部フェの海岸平野にあるタムジャンラグー 測に使える定量的なデータも限られています。そ ンなど , 東南アジアの海跡湖を対象に , 大規模な こで筆者は , ます対象とする地域の自然と社会・ 洪水災害や , 深刻な海岸侵食などについて調査を 経済の実情を , 総合的に把握するための地図を作 行ってきました。これらの湖の湖岸を歩いてみる 成することにしました。 と , 洪水や海岸侵食のみならず , 湖と海とを隔て タイのソンクラー湖では , 湖岸や海岸だけでな ている砂州の決壊 , 湖水の塩分濃度の上昇 , 地下 く , 湖の流域を含めた地形分類を行い , そこに特 水への塩水侵入などによって , 人々の暮らしや生 徴的な土地利用や植生を加えた地図を作成しまし 業に様々な影響が出ていることに気づかされます。 た 1 。これをベースに , フィールドワークで収集 そのような海跡湖における急激な環境変化は , した情報と合わせて , 海面上昇の影響を予測し , 近年加速している地球温暖化による海面上昇が影 潜在的な危険や被害を評価しようと考えたのです。 響していると考えられます。日本国内の海跡湖で 地を分類図に 00 、ては , すでにこ 0 リレー、 , セ は , 湖岸に堤防が築かれ , また人為的に海とのつ イても紹介されたように , 洪水や火山のハザード ながりが絶たれた湖も多く , 私たちは海面上昇の マップや , 地盤液状化の予測などのべースマップ 影響についてほとんど気づきません。しかし , ま として活用されています。その地形分類という手 だ自然状態に近い東南アジアの湖では , 上記のよ 法を , 将来の海面上昇の影響予測のべースとして うな様々な問題が発生しています。今後の地球温 利用しようと考えたわけです。したがって , 作成 暖化・海面上昇によって , これらの湖ではさらに した地図はある種の「海面上昇ハザードマップ」 厳しい状況になることが懸念されます。そのため , と言えるかもしれません。 このような地域では , 海面上昇による影響につい タイのソンクラー湖では , 内陸側の湖岸低地で , て科学的に予測し , その対応としての適応策を早 広範囲の浸水と洪水の激化が予測されました 2 。 急に検討し実施することが , 緊急の課題となって これは , 海面上昇の影響に加え , 湖に流入する河 います。 川上流域で , 熱帯雨林が伐採され , ゴムのプラン 以下では , 筆者が関わったタイとベトナムの 2 テーションが拡大していることも , 大きな要因に つの海跡湖での , 海面上昇の影響予測と適応策の なると推定されました。すなわち , 海面上昇の影 検討について紹介しましよう。 響予測では , 標高の低い海岸や湖岸の低地に注目 するだけでなく , 少なくとも流域を広く俯瞰し , : ム域を俯瞰した海面上昇の影響予測 そこでの自然や人為的要因も視野に入れる事が重 海面上昇の影響予測といっても , 筆者は , 低地 要です。 の水没や海岸の侵食などを , コンピューターなど 住民と自然とのかかわりを踏まえた適応策 を使用してシミュレーションするのではありませ ん。現実の海岸や湖岸で , それぞれの地域に特有 一方ベトナム中部のタムジャンラグーンでは , の砂浜 , 湿地 , マングロープ林 , サンゴ礁などの 1999 年 11 月の大水害をきっかけに , 将来の水害 地形や生態系に対して , 具体的にどのような影響 の軽減と海面上昇の影響を予測するため , 先の事 が生じるのか , 主にフィールドワークを通して検 例と同様に , 地形分類をベースにした海面上昇影 討しようという立場です。また , これらの土地に 響評価図を作成しました 3 。そして , 海面上昇へ 居住している人の住み方や土地利用 , 生業など , の具体的な適応策を検討するために , 2012 年に 地域の社会・経済への影響も考慮する必要があり 1 年間フェの農林大学に滞在し , 今後の海面上昇 ます。 で大きな影響を受けると予測される地区で , 詳細 ところが現在のところ , そのような海面上昇の ′月し 0642 KAGAKU Jul. 2016 VOL86 N07
境問題への関与 ( ァンガージュマン ) をまとめた本に 『 Active Geography たたかう地理学』 3 というタイ トルをつけたのはそのためです。しかし , そこに は , とりわけ 3. 1 1 以後の状況が大きく関わって いました。 なぜ「たたかう自然地理学」が必要なのか ? 3. 11 の原発事故は , これまでの科学と社会の ありかたに決定的な疑問をつきつけました。国会 事故調は , 原発事故の根源的な要因は , 原発の審 査に関わる組織的・制度的問題であり , 本来は原 発を規制すべき当局が , 規制されるべき電力会社 の「虜」になっていたという逆転関係を指摘しま した。原子力工学など原発を推進したい分野にと どまらす , 活断層や地震などに関わる地球科学も 「虜」になっていたのです。とくに , 原発の立地 , 安全性を左右する原発周辺の活断層については , それを少しでも短く , できればないものとしたい 電力会社側の要請があり , 審査会のメンバーに対 してそのような働きかけが行われ , それに応じた 地球科学者がいたことが明らかにされています 4 。 たとえば活断層の認定に関する問題では , 日本 列島の活断層を初めて組織的に研究し , 全国を網 羅する活断層分布図を作り上げたのは自然地理学 , とくに変動地形学の研究者たちであったにもかか わらす , 原子力安全委員会の耐震指針検討分科会 には一人の変動地形学者も入っていませんでした。 治水をめぐる河川審議会と同じように , こでも 自然地理学は討議のアリーナから排除されていた のです。 代わりに委員になっていたのは地質学者でした。 しかし地質学の分野では , 空中写真に現れた直線 状の構造 ( リニアメント ) だけが活断層であるとする 旧態依然の考え方が残っており , 委員もそれだけ で活断層の認定を行っていました。まともな研究 者であれば , 他分野の研究成果だからといって見 過ごすことはありえないでしよう。ましてその審 議中に , 変動地形学研究者によって島根原発に近 い場所でトレンチが掘られ , 変動地形学方法で認 0636 KAGAKU Jul. 2016 VOL86 N07 定された場所に活断層が見出されたにもかかわら ず , 分科会はそれらの成果を取り入れようとしな かったのです 5 。これは学会ではありえないこと でしよう。さらに重大な問題は , そこに利益相反 の疑いもあることです。原発の安全性の審査に関 わりながら , 一方では蔭で電力会社に「指導」を 行い , 謝礼を受け取るという行為は , 許されるこ とではありません。こうした利益相反の疑いがも たれる研究者は , 委員の一人であった衣笠善博氏 だけではないともいわれています % 自然地理学は , 本来 , 地球を俯瞰する独自の視 点をもっています。地質学があくまで地層そのも のにこだわるのに対し , 地形学では , 地層だけで なく , 地層の堆積・侵食によってできる地形にも 目を向け , 両者を矛盾なく説明することが求めら れます。たとえば肉眼で見ることができない海底 の地層については音波探査が用いられますが , 音 波探査で見える範囲の地層が切れていなければ , 地質学的には断層はないという結論になります。 しかし , たとえ地層が切れていなくても , その付 近の海底にゆるやかな崖のような地形が見つかれ ば , 自然地理学者は , この崖はどうしてできたの かとまず考えるのです。そうしてあらためて地層 を見ると , 確かに地層は切れていないが , そのあ たりで撓んでいるということに気づきます。この 撓みはなぜできたのだろうと考えると , 音波探査 の及ばない深い位置に活断層があって , それが上 にのる比較的軟らかい地層を撓ませてきたのでは ないか , と疑わざるを得ないのです。実際 , 島根 原発の近くでは , 陸上でそのような地形が見つか ったものの断層露頭がなく , では掘って確かめよ うと掘削した結果 , 予測したとおりの場所で地下 に活断層が見出されたのでした / 。このような検 証が陸上ですでにいくつもなされている以上 , 海 底に関しても , 同様の疑いがもたれるところでは 深部に活断層の存在を推定することが原発の安全 性の検討では当然ではないでしようか 現代の日本 , とりわけ 3. 1 1 以降の日本は , れまで以上に , 「たたかう自然地理学」を必要と しているのです。
私の「気候」の定義は「地球上で , 1 年を周期 文献 1 ー / 」、野有五 : E-Jounal GEO, 1 , 89 ー 108 , https://www.jstage.jst. として繰り返す , 大気の平均状態」というもので go. jp/article/ejge0/1/2/1 2 89/—article/-char/ja/ す ( 吉野 , 1978a 戸。目下のところ , この定義に大き 2 ー小野有五 : 科学 , 69 , 1003 ー 1012 ( 1999 ) 3 ーー小野有五 : Active Geography たたかう地理学 , 古今書院 , な反論はないようです。しかし , 少し詳しく考え 392 p. ( 2013 ) ると , 疑問がいくっかすぐにでてきます。 ( 1) 地 4 一石橋克彦 : 科学 , 83 , 439-444 ( 2013 ) 球上といっても , 地球全体なのか , アジア・ヨー 5 一石橋克彦 : 科学 , 76 , 963 ー 964 ( 2006 ) ; 小野有五 : 第四紀研究 , 55 , 71 ー 91 ( 2016 ) ロッパなどという地域なのでしようか , 関東地 6 ー明石昇ニ郎 : 原発崩壊・増補版 , 金曜日 , 232 p. ( 2011 ) 方・東京都などの地域なのでしようか。 ( 2 ) 公 7 ー中田高 : 科学 , 79 , 167 ー 174 ( 2009 ) ; 鈴木康弘 : 原発と活断層 , 岩波科学ライプラリー , 114P. ( 2013 ) ; 添田孝史 : 原発と大津波 園・家屋内なども含まれると理解してよいのでし 警告を葬った人々 , 岩波新書 , 204 p. ( 2014 ) ようか。 ( 3 ) 極端に狭い空間ですが , 就寝中のべ ッドの中の気候も , この定義でよいのでしようか ( 4 ) “ 1 年を周期として”という表現は温帯・寒帯 ではよいが , 1 年中 , 高温な熱帯でもこれでよい のでしようか。 ( 5 ) 熱帯では雨季・乾季がありま す。卓越する風向の変化もあります。「大気の平 よしのまさとし 均状態」にこのような季節現象も含まれるのでし 筑波大学名誉教授 ようか。 ( 6 ) 平均状態をどう捉え , どう表現した ら , よいのでしようか。 30 年平均値を「平年 気候とは 値」として , これで「平均状態」としてよいので しようか 「気候」とは何か。「気候」の定義ほどさまざま 気候現象の時間一空間スケール で , 曖味なものはありません。ノルウェイ気象学 派の重鎮で世界的な気候学者であったイヨットシ ュケ (). L. G0dske) は 1966 年に世界気象機関 ( WMO ) 以上のような問題を整理し , 定義を補完するの の気候委員会報告の出だしで , いみじくもこう述 が時空間スケールです。ごく大まかには大気候 べています。 ( 地球全体 , 南北の半球 , 大陸規模 ) ・中気候 ( 地方 , 地域規 「気候」の定義の数は気候学者の数より多い。 模 ) ・小気候 ( 局地規模 ) ・微気候 ( 微地域 , 微細空間規模 ) なぜならば , 気候を研究する気候学者・気象 の 4 気候スケールに分類されます。表 1 は数値 学者・地理学者ばかりでなく , 地質学・地形 でそれぞれの空間スケール ( 水平距離 , 高さ ) と , 現 学・水文学・建築学・土木学など理工学関係 象の寿命時間 ( 発生してから消滅するまでの時間 ) を示し の研究者や , 作物学・林学関係の農学研究者 , ています。また , それぞれのスケールの気候を形 さらには , 心理学・衛生学などの医学研究者 , 成する大気現象 , 影響する地形の代表例を示しま 哲学・倫理学・歴史学などの文学研究者など , す。 たくさんの分野の研究者がそれぞれ「気候」 このような時間一空間スケールで分類される大 の定義をするからである。 気現象だという背景を知っていれば , 上述の定義 この指摘はちょうど 50 年前のものですが , 現 で共通の理解は可能でしよう。 在でも通用します。いや , 昨今の環境科学の発展 さらにもう少し詳しく時間一空間スケールを風 で , 経済学・政治学などの分野も活発な研究を行 の場合で説明します。図 1 は横軸に水平距離を , ない , 気候の定義が不明療という問題はさらに深 縦軸に時間をとり , 各種スケールの風の現象をプ 刻になっているように思います。 ロットしたものです ( 吉野 , 2008 ) 2 。両対数目盛り 科学通信科学 0637 リレーエッセイ地球を俯瞰する自然地理学 温暖化する気候と生活 ーー風土は極端化するか 吉野正敏
法 ( FOIA ) の要求を介して公開された。これらのう ち , 他の人によって分析された文書もいくつかあ るカ S(Oreskes 2011 , Oreskes and Conway 2010 , GeIbspan1998) 本レポートのドシェは , これまでで最も完全で最 新の資料集である。資料の抜粋は末尾の補遺 [ 略 ] に出されている。完全なドシェ ( 合計 6 ページ ) は オンラインで入手できる。 このレポートで論評する内部文書の各ドシェは , 世界の大手化石燃料企業やその連携団体が , 気候 に関する誤った情報を広めて温暖化防止活動を阻 止するために , 資金保証 / コーディネートしたキ ャンペーンを , それぞれ違った角度から明らかに している。このキャンペーンは数十年前に始まり , 現在も続いている。 特筆すべき点は , 化石燃料産業が ( かってのタバコ 産業と同様に ) , 自分たちの政治目的を擁護して金銭 上の大利益を維持するために , 積極的かつ意図的 な情報隠蔽や欺瞞を用いてきたことである。ドシ 工のケーススタディーは , 次のような事実を示し ている。 ・化石燃料企業は気候に関する情報を何十年に もわたって意図的に隠蔽してきた。企業による情 報隠蔽や欺瞞の根は深い。 1990 年代初期まで遡 る内部文書は , 一連の念入りに計画された欺瞞キ ャンペーンが , 化石燃料企業やこれらの企業を代 表する事業者団体によって組織されてきたことを 示している。気候変動に関する科学的な証拠が明 確になるにしたがって , 世界最大の炭素排出企業 (BP, シエプロン , コノコフィリップス , 工クソンモーピル , ピーボディ・エナジー , シェルを含む ) はキャンペーンを 展開またはキャンペーンに参加して意図的に混乱 を招き , 地球温暖化の原因となる温室効果ガス削 減のための政策を妨害してきた。 ・化石燃料企業の首脳は , 自らの製品が人間や 地球に害をあたえることを知っていながら , 一般 市民を積極的に騙し , この害を否定する道を選ん た。ドシェに集められた手紙 , メモ , 報告からは , 企業の重役たちが自らの製品 ( 石炭 , 石油 , 天然ガス ) が人間と気候に害をあたえることを , 少なくとも 20 年間は知っていたことがわかる。 0692 KAGAKU Jul. 2016 VOL86 N07 これらの文書は , なせ企業が地 球温暖化への疑惑をまき散らす 活動を止めて , 地球温暖化への 責任の一端を担うべきなのかを 立証している。 ・欺瞞キャンペーンは今日も続いている 2014 年と 2015 年になってやっと公開された文 書から , 地球温暖化にまつわる欺瞞キャンペーン が現在も続けられているという証拠は明白になっ た。今日では , 大手化石燃料企業は気候科学が突 き止めた事実の主要な点は認めている。多くの企 業は , 温室効果ガス排出の削減政策を支持すると , 公言すらしている。それでもなお , これらの企業 の一部は , 気候科学や気候政策について一般市民 を欺くような誤報を流す団体を , 支援し続けてい る。 要約すれば , 以下に紹介する文書は , なぜ , れらの企業が地球温暖化への疑惑をまき散らして 防止政策の進行を妨害するのを止めるべきなのか , なぜ , 地球温暖化やすでに起こっている被害への 責任の一端を担うべきなのかを立証しているので ある。 否定しがたい地球温暖化の影響 今日でもすでに , 地球温暖化はわたしたちの社 会 , 健康 , 経済に有害な影響を及ばしている。 のような影響は地球の気温が上昇し続けるにつれ て , ますますひどくなるであろう。社会 , 人々 , 経済は現在 , 次のような影響に直面している。 ・海面の上昇。地球温暖化は海面の上昇率を加 速させ , 海岸沿いの洪水のリスクを劇的に高めて いる ・ますます長く続き , 被害が大きくなる山火事 シーズン。地球が温暖化するにつれて , 世界の多 くの地域や干ばつが起こりやすい地域では , 乾期 における山火事の危険が高まり , 山火事が続く期 間も長くなっている。 ・ますますひどくなる健康への影響。気候変動
間活動によって発生した熱が大気中に排出される ために生じます。したがって , ヒートアイランド を正しく理解するためには , 地球物理学的なもの の見方のほかに , 土地利用や人間活動まで含めた 地理学的な総合的 , 俯瞰的なものの見方が必要と なります。さらには , ヒートアイランドをどうや って緩和するのか , つまり , 「より快適な街作り をするためにどうすればよいのか ? 」といった問 いに答えるためにも , 自然地理学がもつ俯瞰的な 見方が必要となります。最近 , わたしたちが取り 組んでいるスーパーコンピュータと数値モデルを 用いた都市気候の再現と将来予測を行う上でも , 過去から将来までの土地利用変化や人間活動の情 報が必要不可欠であり , 自然地理学的な見方と手 法が重要となっています。自然地理学 , 地球物理 学 , 計算科学がそろって初めて , 信頼性のある都 市気候の将来予測と緩和策・適応策の策定が可能 となるのです。 ヒートアイランドを自然地理学と 環境防災教育の題材に ヒートアイランドは , 温度計さえあれば観測す ることができます。温度計を持って移動しながら 温度分布を調査する移動観測という方法を用いた り , 温度計を都市の内外に設置することで , 一人 でも調査することができます。しかも , ヒートア イランドは , 人間活動が気候を変えるという点に おいて地球環境問題の縮図でもあります。ヒート アイランドが熱中症患者数を増加させているとい う点では , 熱汚染とも言えますし , 暑熱災害と言 えなくもありません。大学生はもちろんのこと , 中高生にとっても , ヒートアイランドは , 自然地 理学と環境防災教育のよい題材となるでしよう。 先生方の授業に取り入れていただけたらとても嬉 しく思います。 海面上昇の影響予測と適応策 平井幸弘 ひらいゆきひろ 駒沢大学文学部 気候変動への対応としての適応策 2015 年冬にパリで開かれた国連気候変動枠組 み条約の締約国会議 ( C01)21) では , 地球温暖化へ の対策として , 温室効果ガスを削減する「緩和 策」とともに , 温暖化による影響や被害を軽減す るための「適応策」の重要性があらためて取り上 げられました。 ーこでの適応策とは , 気候システ リレーエッセイ地球を俯瞰する自然地理学 これまで国際社会の対応は , し実施していくことです。 害を少しでも和らげるために , 適切な方策を検討 よる海岸の侵食などに対して , ムの変化による豪雨や干ばっ , 海面上昇や高潮に 主に緩和策をめぐ これらの影響や被 因による環境問題に関わってきました。近年は , 呼ばれる海とつながる湖での , 様々な人為的な要 筆者はこれまで , 主に国内の海跡湖 ( ラグーン ) と ラグーンでの海面上昇の影響予測 ります。 地域の実情をしつかりと把握することが必要とな 計画・立案し実施するためには , まずそれぞれの るということです。そのため , 効果的な適応策を 対応 , すなわちきわめて地域的な対応が要求され て , それぞれの場所で個々の課題に対する適切な この場合重要なことは , 適応策は緩和策と違っ ってきたのです。 難であるという認識から , 適応策の必要性が高ま 策だけでは , 将来の温暖化の影響を防ぐことが困 思われる深刻な被害が顕在化し , また現状の緩和 でに多くの国々や地域において , 温暖化の影響と って様々な議論がなされてきました。しかし , す タイ南部マレー半島東岸のソンクラー湖や , 科学通信 科学 ベト 0641
表 1 一気候の時間一空間スケールと , それぞれの地域呼称・気候現象・関連する気象・影響する地形の例 気候のスケール ( 時間スケール ) 寿命時間 ( 空間スケール ) 水平的広がり 鉛直的広がり 地域呼称の例 気候現象の例 関連する気象の例 影響する地形の例 大気候 105 ~ 7 秒 地球温暖化・氷河期・季 国・州 地球・北半球・大陸・ 1 m ~ 120 km 200æ4 万 km 分 ャーチベット山塊 ユーラシア大陸 , べリア高気圧 シェットストリーム , シ 節風 ヒマラ 中気候 103 ~ 5 秒 1 æ200 km 1 m—6 km カン沙漠 日本アルプス , タクラマ 集中豪雨・竜巻 谷風 盆地の気候・海陸風・山 地方・地域・州・市町村 小気候 局地・集落・小河川流域 10 cm ~ 1 km 10 m ~ 10 km IO ~ 4 秒 季節風・貿易風 海岸平野 , U 字谷 突風・斜面の夜間冷気流 ヒートアイランド 微気候 O 秒 1 cm ~ 1 OO m 1 cm ~ 10 m 宅地・室内 温室内気候・衣服内気候 自然堤防 , ドリーネ 風の息・川霧 50 万 10 万 5 万 1 万 508 1 5 50 18 間 58 時 1000 1 年 6 カ月 1 カ月 10 時間 3 日 1 旬 ( 10 日 ) 1 時間 ( 斜面下降風 ) 晴夜の冷気流 温帯低気圧による風 局地低気圧による風 地形による局地強風 山越え気・流 湖風谷風 河風 陸風 海風 熱帯低気圧・台風 1 ハリケーンなどによる強風 寒冷前線による突風 ビル風 谷風竜巻 山風 宅髣舞台風 5 m 10 m m 18 m m 1 km 5 km 10 km km 18 km km 1 网 km 水平距離 図 1 一地球上の風の時間一空間スケール ( 吉野 , 2008 ) 2 のグラフ上で , 微気候スケールから大気候スケー ルまでほば直線上にのります。時空間スケールの 訒識が重要なーっの証拠です。 ロ心、 こでさらにこの先の問題点をあげておきます。 その第 1 は , 個々の現象を楕円形で囲むことです。 統計学で言う確率楕円ですが , 現在のところ , 個々の風の現象が確率楕円で表現できる構造をし ているかどうか詳しくは検討されていません。図 こうとしますと問題が明らかになります。日本な どでは , 日降水量の頻度曲線は L 字型 ( 小さい値が 圧倒的に多い ) ですし , 雲量の頻度曲線は U 字型 ( 雲 量 0 ~ 1 と 9 ~ 10 に多い ) などが知られています。つま り , 確率楕円 ( 中央値の頻度が最も多く , その値の幅も大き い ) とは限らないことがわかっています。この処 理をどうするのか , 今後の課題です。 もうーっの問題は , 最近のいわゆる地球温暖化 です。世界の気象台・観測所における気温の観測 1 と同じように 0638 KAGAKU 例えば降水現象について図を描 Jul. 2016 VOL86 N07
結果によりますと , 最近の数十年 , 特に 20 世紀 末以来 , 地球規模で温暖化がはっきりしています。 30 年の平均気温は高くなってきています。地球 平均では確かですし , 日本国内のほとんどの地点 ( 非常に狭い地域 ) でも温暖化しています。だからと 言って , 図 1 の線を右上にどこまでも外挿して 地質時代の温暖な時代まで延ばしてよいとは言え ません。最近 , 地球温暖化は , 人間活動によって 排出される二酸化炭素が原因であるとする説に反 対する " 懐疑論 " がでていますが , その多くは時 空間スケールが異なる現象を持ち出して , 議論し ている場合がよくあります。時空間スケールを考 慮し , 同じスケールの現象を取り上げて議論する 必要があります。長い時間スケールで広地域につ いて温暖化する気候でも , 短い時間スケールで局 地的には寒冷な気候が出現することがあります。 人間の生活にはこの寒冷が重大な影響をもっ場合 があります。 風土とは何か 英和辞典で climate をひくと , 「気候」「風土」 とあります。また , 和辻哲郎の名著『風土』の英 訳書の書名も「 CIimate 」です。では , 気候と風 土は同義語でしようか ( 吉野 , 1978b ) 3 さらに疑問があります。『古事記』・『古風土記』 の時代は古代日本において文化の花が開いた奈良 時代です。この場合 , 古ー風土記は「こ一ふどき」 と読み , 内容は現代の言葉では「地誌」です。 の読み方や内容は江戸時代まで続きました。一方 , 和辻哲郎を始め , 昨今使われている「風土」は 「ふうど」と読み , 意味・内容が少し異なります。 和辻は「人間存在の契機」と提えました。 一般的には「人間活動を取り巻く背景・基盤な どの自然 / 人間環境のすべて」を言います。もち ろん , 大気環境も含まれています。したがって , “綴り方風土記”・ " 人物風土記 " ・ " 経済風土記”な どと使われます。 たくさんある風土 ( ふうど ) の定義で注目される のは , フランス文学者で詩人でもあった片山敏彦 による「風土とは人間の心の受け入れ態勢であ る」という定義です。つまり , 「気候」は人間不 在でも成立しますが , 「風土」は人間が主体とな って受け入れなければ , 成立しないという定義で す。 結論を言えば , 風土は人間次第で極端化するこ とが起こりえます。 文献 1- 吉野正敏 : 気候学 , 大明堂 ( 1978a ) 2 ー吉野正敏 : 世界の風・日本の風 , 成山堂 ( 2008 ) 3 ー吉野正敏 : 風土と気候とクライメイト , 山田英世編「風土論 序説』 , 図書刊行会 ( 1978b ) pp. 9 ~ 30 都市気候研究における 自然地理学の役割 日下博幸 くさかひろゆき 筑波大学・計算科学研究センター 計算科学研究センターで自然地理学の研究 ? わたしの所属を見て , 「なぜ , 計算機センター の人が自然地理学をテーマに記事を書いているの だろうか ? 」と思った読者は少なからずいると思 います。わたしが所属する計算科学研究センター は , ( 理論 , 実験に次ぐ第三の科学の手法と呼ばれている ) 計 算科学の手法を用いて , さまざまな研究をするセ ンターであり , 計算機を管理している学術情報セ ンターではありません。わたしは , このセンター で , スーパーコンピュータと数値モデル ( シミュレ ーションモデル ) を用いて , 気象学と気候学の研究を 行っています。計算科学の手法を用いながら研究 をしていますが , その研究対象は , 都市気候 ( ヒー トアイランドなど ) や局地風 ( ある地域で吹く風 ) などであ り , 自然地理学の小気候学分野で取り扱ってきた ものがほとんどです。わたしにとって , 自然地理 学はとても大切な学問分野です。そこで , 本稿で は , わたしが専門としている都市気候研究を題材 科学通信科学 0639 リレーエッセイ地球を俯瞰する自然地理学
な現地調査を行いました。 ラグーンの湖口に位置する村では , 大水害後激 しい海岸侵食が発生しましたが , 今後海面上昇に よってますます厳しい状況になると予測されます。 そのためすでに , 行政によって別の場所に , 村の 集団移転地が造成されています。ところが住民は , 危険な状況であるにもかかわらす , ラグーンでの 漁業を継続したいために , 移転はなかなか進んで いません 4 。適応策として , 住居の移転だけでは 不十分で , 住民の生業の継続 , あるいは創出と関 連づけられなければ , うまく機能しないというこ とです。 また海岸砂丘地帯では , 海面上昇や海岸侵食に よって , 砂丘地下の淡水レンズが縮小すると予測 されます。しかし , 砂丘上では 2003 年以降大規 模な工ビの養殖が始まり , すでに地下水の大量取 水や養殖での汚染水問題など , 淡水レンズへの人 為的な影響が問題となっています 4 。 これらの事例のように , 将来の海面上昇の影響 予測や適応策の検討に際しては , 地形や生態系と いう自然環境そのものだけでなく , 住民が地域の 自然資源をどのように利用・依存しているのか , また環境の変動をいかに認識し , 行動しようとし ているのか , などを踏まえなくてはなりません。 すなわち , それぞれの地域における人と自然のか かわりについて , フィールドでの詳細な調査にも とづき十分に把握した上で , 適応策を地域の住民 と共同して検討する必要があります。 地域をダイナミックに捉える すでに発生している海岸での様々な環境問題に 対し , 例えば砂浜での侵食対策や , 河口部におけ る塩水遡上対策など , 個別の課題への緊急的な対 応が実施されています。しかし , 今後の中・長期 的な海面上昇の影響予測や , 適応策の検討におい こに述べたように , 対象とする特定の場 ては , 所や課題だけに注目するのではなく , それを含む ある程度のまとまりをもった地域全体を俯瞰し , 計画・立案する事が重要と考えます。 また , その地域における人間活動の把握と評価 も必要です。その際 , そこに住む人々と自然との 関係は , 固定的なものでなく , 時間の経過ととも に常に変化しています。地域の実情を把握すると は , 既存の統計的データを分析することではなく , その地域で , 最も特徴的ないくつかの事象に焦点 を当て , それらを相互に関連づけて , 人と自然と のかかわりをダイナミックに捉えることだと考え ます。 そのような意味から , フィールドワークをベー スとした地理学・地域研究者 , とくに自然と人と のかかわりをテーマとしてきた自然地理学研究者 の役割は , 小さくないと思います。 文献 1 ー平井幸弘・チャルチャイタナヴッド : ソンクラー湖海面上 昇影響予測地形分類図 , 地図 , 40 ( 3 ) , 13 ( 2002 ) 2 ー海津正倫・平井幸弘編 : 海面上昇とアジアの海岸 , 古今書院 ( 2001 ) 3 ー - Y. Hirai et al.: Assessment Of impacts Of sea v 引 rise on Tam Giang-Cau HaiIagoon area based on a geomorphological survey map. 地域学研究 , 21 , 1 ( 2008 ) 4 ー平井幸弘 : ベトナム・フェラグーンをめぐる環境誌ー一気 候変動・エビ養殖・ツーリズム , 古今書院 ( 2015 ) 高浜原発 ] , 2 号機の安易な運転延長は すべきでない 井野博満 東京大学名誉教授 高浜原発 1 号機・ 2 号機の 40 年超運転延長認 可 ( 経過措置によって新規制基準施行から 3 年後の今年 7 月 7 日が期限 ) が目前に迫っている。本誌 5 月号に「経 年劣化した高浜原発 1 号機は 40 年で廃炉にすべ きだーー・ - 信頼性の低い日本電気協会の破壊靭性評 価法」 1 と題して執筆したばかりだが , その後 , 明らかになった事実や事態の進展について述べ , この老朽化原発の運転延長への危機感を改めて共 有したい。 関西電力は , 3 月 15 日の規制委員会に , 「高浜 発電所 1 , 2 号炉劣化状況評価 ( 原子炉容器の中性子 科学通信科学 0643 いのひろみつ
・地球温暖化ガスの排出を削減する , 公正でコ スト効率がよい政策を支援せよ。化石燃料産業は 一般的にはこれまで , 炭素の価格付け ( カーポン・プ ライシング ) , キャップ・アンド・トレード , 再生 可能エネルギー基準 , 再生可能燃料基準 , 直接的 な排出規制などを含む , 多岐にわたる政策に反対 してきた。産業は今こそ , 地球温暖化の最悪の効 果を低めるのに必要な規模の排出削減へと導く政 策を認め , それを公に支援するべきである。 ・既存の企業活動からの炭素排出を下げるとと もに , ピジネスモデルを将来の地球規模での排出 制限に備えて更新せよ。化石燃料企業は既存の業 務からの排出を削減するために , すぐにできる行 動を起こすべきである。例えば , 油田から出る天 然ガスを燃やすという , 浪費的な習慣を止めるな どである。化石燃料企業は , 化石燃料の燃焼をな おも続けることによるリスクの理解ならびに炭素 排出を制限する , 国内および国際的な政策の重要 性と必要性を反映するために , ビジネスモデルを 更新すべきである。このために有用な要因として , 化石燃料企業は今後 20 年間にとるべき道を緻密 に計画し , わたしたちが低炭素エネルギーの未来 を確実に達成できるようにすべきである。 ・気候被害と備えにかかるコストの分担金を払 え。世界の各所で地域社会は , 海面上昇 , 極端な 暑さ , ますます頻繁になる干ばっその他 , 気候に 関連した影響の被害に直面し , コストを負担して いる。地域社会は現在そして未来において , これ らのリスクの予防や準備のために特別の投資をし なければならない。化石燃料企業は , このような コストでかれらが負うべき分担金を払うべきであ る。 ・企業活動への気候変動の財政的ならびに物理 的なリスクを完全に公開せよ。法律では , 合衆国 に拠点をもつ化石燃料企業は , 企業活動に物質的 に影響をあたえる可能性のあるリスクについて , 毎年出される証券取引委員会 ( ) の年次報告書 で議論するよう求められている。けれども , この ガイダンスの順守は一貫していない。化石燃料企 業は気候変動のリスクを完全に評価し , あらゆる 物質的なリスクを SEC と株主に公開するべきで ある (Frumhoffetal.,( 審査中 ) にもとづく ) 。 事実上はあらゆる企業が「ソーシャル・ライセ ンス」の下で業務を実行している。すなわち , 企 業が従業員や消費者を自らの企業の製品や活動に よる有害な影響から守ることを , 一般市民が信じ ることでなりたっ協定である。しかし , 企業はこ のライセンスを失うことがある。数十年にわたっ て公共社会は , タバコ , アスベスト , 鉛のような 問題で , 企業が自社の製品が人間の健康や福祉に 悪い影響をあたえることが知られているのにその ような影響を認め , それに対処しない場合には , ソーシャル・ライセンスを失うことを明確にして きた。 気候変動も同じである。このレポートで記載し た行為は , これらの企業のソーシャル・ライセン ス取り消しを正当化する。化石燃料企業は温暖化 ガス排出の責任を認め , 低炭素エネルギーシステ ムへの転換を促す政策を妨害するような欺瞞工作 を止め , 被害にかかるコストの公正な負担分を支 払うべきである。 このような変革をもたらすには , 株主の参加 , ダイベストメント運動 ( 訳注 : 環境などに被害をあたえる 企業への投資を引き上げる ) , 消費者の圧力 , 訴訟など の方法を含む , 地球規模の行動への呼びかけが必 要であろう。わたしたちは , このレポートで出さ れた情報が , このような変革の前進に役立てるこ とを信じ , 期待している。 編集部注 : 文献と補遺については原文 ( ウエプサイト http://www.ucsusa.org/sites/default/files/attach/2015 / 0 刀 The-CIimate-Deception-Dossiers. pdf からダウンロード可 能 ) にてご確認ください。 気候欺瞞のドシェ 科学 0717
バラサイトの惑星 ーー一地球生命系をあやなす寄生生物たち [ 第 9 回 ] 何が植物を枯らすのか グローバル化とパラサイト ( I) 一昨年夏 , 都心で発生したデン グ熱騒動に加え , 今年になってプ ラジルを中心とする南米で , 妊婦 が感染すると新生児に小頭症をも たらす恐れがあるジカ熱の流行か 問題になった。いすれもネッタイ 介するウイルスが病原体。グロー バル化に伴い , こうした感染症は またたく間に世界中に広がってし パラサイト まう。寄生生物も人や動植物・食 物の移動とともに国境や海をたや すく越える。 15 世紀の末 , クリストファ ・コロンプスが西インド諸島を 発見 , 長く互いに交流のなかった 旧大陸と新大陸の間で人や物が行 き来するようになった もちろ ん病原体も携えて。ヨーロッパか ら新大陸に天然痘やコレラ , 発疹 チフス , はしかなど数々の伝染性 感染症が持ち込まれ , 抵抗力をも たない多くの先住民が , 彼らにと っては未知の病に次つぎ斃れた。 彼らの抱いた恐怖と絶望は今日の エボラ出血熱やジカ熱の比ではあ るまい。 1519 年にエルナン・コルテス 新大陸と伝 小澤祥可 は , メキシコ湾に面した海岸 ( 現在 のメキシコ・ヴェラクルス ) に新大陸侵 略の拠点を築いた。翌 1520 年 4 月 , そこに合流したスペイン人部 隊が連れていたアフリカ人奴隷の 中に天然痘患者がいた。その 2 カ月後 , 彼らは内陸部に侵攻 , ア ステカ帝国の首都テノチテイトラ ンに到達した。部隊はいったん撤 ると , 天然痘の大流行によって住 民の半分近くが死亡していた。コ ルテスらはやすやすと征服に成功 , 生き残った住民も虐殺され , ある いは奴隷とされた。 新大陸から征服者たちが持ち帰 った資源や産物は , 宗主国に富と 恩恵をもたらした。ヨーロッパ人 は新大陸に建設した植民地で先住 民を地下資源の採掘やサトウキピ の栽培に従事させたが , 病気や逃 亡で労働力が不足したため , アフ リカから大勢の奴隷を連れてくる ようになった。その結果 , マラリ アやフィラリアも新大陸に運ばれ 0 新大陸からは , トマトやナス , トウガラシ , ジャガイモ , トウモ ロコシ , ラッカセイなどの作物も もたらされた。それらはヨーロッ パの食卓を豊かにしただけでない。 環境ジャーナリスト 地中に実るジャガイモん〃 房 ro 川はヨーロッパ人には慣 れない食べ物だったが , 冷涼な気 候でも収量が多くビタミンも豊富 であったことから次第に普及し , しばしばヨーロッパを襲った飢饉 を救う , 救荒作物としても大いに 貢献することになった。ところが それが一転災いをもたらす。 ジャガイモ飢饉 16 世紀以来イギリスの植民地 となっていたアイルランドでは , 19 世紀になっても条件のよい農 地の多くはイングランド人地主の 手にあり , 貧しい農民の主食はジ ャガイモにほば依存していた。 1845 年 , 突如ジャガイモエキビ ョウキン ( 疫病菌 ) 臾ム叩ん笳切ー がアイルランドに侵入した。 当時アイルランドでは , 多収量の ジャガイモほば一品種が栽培され ていたといわれる。種いもを植え て作るジャガイモは , 同一品種は すべてクローンであり , 病虫害に 対する抵抗性も変わらない。エキ ビョウキンはまたたく間に広がり , 数年にわたってほとんど収穫がな くなった。餓えと病気で 100 万 バラサイトの惑星 人以上が亡くなり , 200 万人以上 科学 0665