間活動によって発生した熱が大気中に排出される ために生じます。したがって , ヒートアイランド を正しく理解するためには , 地球物理学的なもの の見方のほかに , 土地利用や人間活動まで含めた 地理学的な総合的 , 俯瞰的なものの見方が必要と なります。さらには , ヒートアイランドをどうや って緩和するのか , つまり , 「より快適な街作り をするためにどうすればよいのか ? 」といった問 いに答えるためにも , 自然地理学がもつ俯瞰的な 見方が必要となります。最近 , わたしたちが取り 組んでいるスーパーコンピュータと数値モデルを 用いた都市気候の再現と将来予測を行う上でも , 過去から将来までの土地利用変化や人間活動の情 報が必要不可欠であり , 自然地理学的な見方と手 法が重要となっています。自然地理学 , 地球物理 学 , 計算科学がそろって初めて , 信頼性のある都 市気候の将来予測と緩和策・適応策の策定が可能 となるのです。 ヒートアイランドを自然地理学と 環境防災教育の題材に ヒートアイランドは , 温度計さえあれば観測す ることができます。温度計を持って移動しながら 温度分布を調査する移動観測という方法を用いた り , 温度計を都市の内外に設置することで , 一人 でも調査することができます。しかも , ヒートア イランドは , 人間活動が気候を変えるという点に おいて地球環境問題の縮図でもあります。ヒート アイランドが熱中症患者数を増加させているとい う点では , 熱汚染とも言えますし , 暑熱災害と言 えなくもありません。大学生はもちろんのこと , 中高生にとっても , ヒートアイランドは , 自然地 理学と環境防災教育のよい題材となるでしよう。 先生方の授業に取り入れていただけたらとても嬉 しく思います。 海面上昇の影響予測と適応策 平井幸弘 ひらいゆきひろ 駒沢大学文学部 気候変動への対応としての適応策 2015 年冬にパリで開かれた国連気候変動枠組 み条約の締約国会議 ( C01)21) では , 地球温暖化へ の対策として , 温室効果ガスを削減する「緩和 策」とともに , 温暖化による影響や被害を軽減す るための「適応策」の重要性があらためて取り上 げられました。 ーこでの適応策とは , 気候システ リレーエッセイ地球を俯瞰する自然地理学 これまで国際社会の対応は , し実施していくことです。 害を少しでも和らげるために , 適切な方策を検討 よる海岸の侵食などに対して , ムの変化による豪雨や干ばっ , 海面上昇や高潮に 主に緩和策をめぐ これらの影響や被 因による環境問題に関わってきました。近年は , 呼ばれる海とつながる湖での , 様々な人為的な要 筆者はこれまで , 主に国内の海跡湖 ( ラグーン ) と ラグーンでの海面上昇の影響予測 ります。 地域の実情をしつかりと把握することが必要とな 計画・立案し実施するためには , まずそれぞれの るということです。そのため , 効果的な適応策を 対応 , すなわちきわめて地域的な対応が要求され て , それぞれの場所で個々の課題に対する適切な この場合重要なことは , 適応策は緩和策と違っ ってきたのです。 難であるという認識から , 適応策の必要性が高ま 策だけでは , 将来の温暖化の影響を防ぐことが困 思われる深刻な被害が顕在化し , また現状の緩和 でに多くの国々や地域において , 温暖化の影響と って様々な議論がなされてきました。しかし , す タイ南部マレー半島東岸のソンクラー湖や , 科学通信 科学 ベト 0641
法 ( FOIA ) の要求を介して公開された。これらのう ち , 他の人によって分析された文書もいくつかあ るカ S(Oreskes 2011 , Oreskes and Conway 2010 , GeIbspan1998) 本レポートのドシェは , これまでで最も完全で最 新の資料集である。資料の抜粋は末尾の補遺 [ 略 ] に出されている。完全なドシェ ( 合計 6 ページ ) は オンラインで入手できる。 このレポートで論評する内部文書の各ドシェは , 世界の大手化石燃料企業やその連携団体が , 気候 に関する誤った情報を広めて温暖化防止活動を阻 止するために , 資金保証 / コーディネートしたキ ャンペーンを , それぞれ違った角度から明らかに している。このキャンペーンは数十年前に始まり , 現在も続いている。 特筆すべき点は , 化石燃料産業が ( かってのタバコ 産業と同様に ) , 自分たちの政治目的を擁護して金銭 上の大利益を維持するために , 積極的かつ意図的 な情報隠蔽や欺瞞を用いてきたことである。ドシ 工のケーススタディーは , 次のような事実を示し ている。 ・化石燃料企業は気候に関する情報を何十年に もわたって意図的に隠蔽してきた。企業による情 報隠蔽や欺瞞の根は深い。 1990 年代初期まで遡 る内部文書は , 一連の念入りに計画された欺瞞キ ャンペーンが , 化石燃料企業やこれらの企業を代 表する事業者団体によって組織されてきたことを 示している。気候変動に関する科学的な証拠が明 確になるにしたがって , 世界最大の炭素排出企業 (BP, シエプロン , コノコフィリップス , 工クソンモーピル , ピーボディ・エナジー , シェルを含む ) はキャンペーンを 展開またはキャンペーンに参加して意図的に混乱 を招き , 地球温暖化の原因となる温室効果ガス削 減のための政策を妨害してきた。 ・化石燃料企業の首脳は , 自らの製品が人間や 地球に害をあたえることを知っていながら , 一般 市民を積極的に騙し , この害を否定する道を選ん た。ドシェに集められた手紙 , メモ , 報告からは , 企業の重役たちが自らの製品 ( 石炭 , 石油 , 天然ガス ) が人間と気候に害をあたえることを , 少なくとも 20 年間は知っていたことがわかる。 0692 KAGAKU Jul. 2016 VOL86 N07 これらの文書は , なせ企業が地 球温暖化への疑惑をまき散らす 活動を止めて , 地球温暖化への 責任の一端を担うべきなのかを 立証している。 ・欺瞞キャンペーンは今日も続いている 2014 年と 2015 年になってやっと公開された文 書から , 地球温暖化にまつわる欺瞞キャンペーン が現在も続けられているという証拠は明白になっ た。今日では , 大手化石燃料企業は気候科学が突 き止めた事実の主要な点は認めている。多くの企 業は , 温室効果ガス排出の削減政策を支持すると , 公言すらしている。それでもなお , これらの企業 の一部は , 気候科学や気候政策について一般市民 を欺くような誤報を流す団体を , 支援し続けてい る。 要約すれば , 以下に紹介する文書は , なぜ , れらの企業が地球温暖化への疑惑をまき散らして 防止政策の進行を妨害するのを止めるべきなのか , なぜ , 地球温暖化やすでに起こっている被害への 責任の一端を担うべきなのかを立証しているので ある。 否定しがたい地球温暖化の影響 今日でもすでに , 地球温暖化はわたしたちの社 会 , 健康 , 経済に有害な影響を及ばしている。 のような影響は地球の気温が上昇し続けるにつれ て , ますますひどくなるであろう。社会 , 人々 , 経済は現在 , 次のような影響に直面している。 ・海面の上昇。地球温暖化は海面の上昇率を加 速させ , 海岸沿いの洪水のリスクを劇的に高めて いる ・ますます長く続き , 被害が大きくなる山火事 シーズン。地球が温暖化するにつれて , 世界の多 くの地域や干ばつが起こりやすい地域では , 乾期 における山火事の危険が高まり , 山火事が続く期 間も長くなっている。 ・ますますひどくなる健康への影響。気候変動
表 1 一気候の時間一空間スケールと , それぞれの地域呼称・気候現象・関連する気象・影響する地形の例 気候のスケール ( 時間スケール ) 寿命時間 ( 空間スケール ) 水平的広がり 鉛直的広がり 地域呼称の例 気候現象の例 関連する気象の例 影響する地形の例 大気候 105 ~ 7 秒 地球温暖化・氷河期・季 国・州 地球・北半球・大陸・ 1 m ~ 120 km 200æ4 万 km 分 ャーチベット山塊 ユーラシア大陸 , べリア高気圧 シェットストリーム , シ 節風 ヒマラ 中気候 103 ~ 5 秒 1 æ200 km 1 m—6 km カン沙漠 日本アルプス , タクラマ 集中豪雨・竜巻 谷風 盆地の気候・海陸風・山 地方・地域・州・市町村 小気候 局地・集落・小河川流域 10 cm ~ 1 km 10 m ~ 10 km IO ~ 4 秒 季節風・貿易風 海岸平野 , U 字谷 突風・斜面の夜間冷気流 ヒートアイランド 微気候 O 秒 1 cm ~ 1 OO m 1 cm ~ 10 m 宅地・室内 温室内気候・衣服内気候 自然堤防 , ドリーネ 風の息・川霧 50 万 10 万 5 万 1 万 508 1 5 50 18 間 58 時 1000 1 年 6 カ月 1 カ月 10 時間 3 日 1 旬 ( 10 日 ) 1 時間 ( 斜面下降風 ) 晴夜の冷気流 温帯低気圧による風 局地低気圧による風 地形による局地強風 山越え気・流 湖風谷風 河風 陸風 海風 熱帯低気圧・台風 1 ハリケーンなどによる強風 寒冷前線による突風 ビル風 谷風竜巻 山風 宅髣舞台風 5 m 10 m m 18 m m 1 km 5 km 10 km km 18 km km 1 网 km 水平距離 図 1 一地球上の風の時間一空間スケール ( 吉野 , 2008 ) 2 のグラフ上で , 微気候スケールから大気候スケー ルまでほば直線上にのります。時空間スケールの 訒識が重要なーっの証拠です。 ロ心、 こでさらにこの先の問題点をあげておきます。 その第 1 は , 個々の現象を楕円形で囲むことです。 統計学で言う確率楕円ですが , 現在のところ , 個々の風の現象が確率楕円で表現できる構造をし ているかどうか詳しくは検討されていません。図 こうとしますと問題が明らかになります。日本な どでは , 日降水量の頻度曲線は L 字型 ( 小さい値が 圧倒的に多い ) ですし , 雲量の頻度曲線は U 字型 ( 雲 量 0 ~ 1 と 9 ~ 10 に多い ) などが知られています。つま り , 確率楕円 ( 中央値の頻度が最も多く , その値の幅も大き い ) とは限らないことがわかっています。この処 理をどうするのか , 今後の課題です。 もうーっの問題は , 最近のいわゆる地球温暖化 です。世界の気象台・観測所における気温の観測 1 と同じように 0638 KAGAKU 例えば降水現象について図を描 Jul. 2016 VOL86 N07
結果によりますと , 最近の数十年 , 特に 20 世紀 末以来 , 地球規模で温暖化がはっきりしています。 30 年の平均気温は高くなってきています。地球 平均では確かですし , 日本国内のほとんどの地点 ( 非常に狭い地域 ) でも温暖化しています。だからと 言って , 図 1 の線を右上にどこまでも外挿して 地質時代の温暖な時代まで延ばしてよいとは言え ません。最近 , 地球温暖化は , 人間活動によって 排出される二酸化炭素が原因であるとする説に反 対する " 懐疑論 " がでていますが , その多くは時 空間スケールが異なる現象を持ち出して , 議論し ている場合がよくあります。時空間スケールを考 慮し , 同じスケールの現象を取り上げて議論する 必要があります。長い時間スケールで広地域につ いて温暖化する気候でも , 短い時間スケールで局 地的には寒冷な気候が出現することがあります。 人間の生活にはこの寒冷が重大な影響をもっ場合 があります。 風土とは何か 英和辞典で climate をひくと , 「気候」「風土」 とあります。また , 和辻哲郎の名著『風土』の英 訳書の書名も「 CIimate 」です。では , 気候と風 土は同義語でしようか ( 吉野 , 1978b ) 3 さらに疑問があります。『古事記』・『古風土記』 の時代は古代日本において文化の花が開いた奈良 時代です。この場合 , 古ー風土記は「こ一ふどき」 と読み , 内容は現代の言葉では「地誌」です。 の読み方や内容は江戸時代まで続きました。一方 , 和辻哲郎を始め , 昨今使われている「風土」は 「ふうど」と読み , 意味・内容が少し異なります。 和辻は「人間存在の契機」と提えました。 一般的には「人間活動を取り巻く背景・基盤な どの自然 / 人間環境のすべて」を言います。もち ろん , 大気環境も含まれています。したがって , “綴り方風土記”・ " 人物風土記 " ・ " 経済風土記”な どと使われます。 たくさんある風土 ( ふうど ) の定義で注目される のは , フランス文学者で詩人でもあった片山敏彦 による「風土とは人間の心の受け入れ態勢であ る」という定義です。つまり , 「気候」は人間不 在でも成立しますが , 「風土」は人間が主体とな って受け入れなければ , 成立しないという定義で す。 結論を言えば , 風土は人間次第で極端化するこ とが起こりえます。 文献 1- 吉野正敏 : 気候学 , 大明堂 ( 1978a ) 2 ー吉野正敏 : 世界の風・日本の風 , 成山堂 ( 2008 ) 3 ー吉野正敏 : 風土と気候とクライメイト , 山田英世編「風土論 序説』 , 図書刊行会 ( 1978b ) pp. 9 ~ 30 都市気候研究における 自然地理学の役割 日下博幸 くさかひろゆき 筑波大学・計算科学研究センター 計算科学研究センターで自然地理学の研究 ? わたしの所属を見て , 「なぜ , 計算機センター の人が自然地理学をテーマに記事を書いているの だろうか ? 」と思った読者は少なからずいると思 います。わたしが所属する計算科学研究センター は , ( 理論 , 実験に次ぐ第三の科学の手法と呼ばれている ) 計 算科学の手法を用いて , さまざまな研究をするセ ンターであり , 計算機を管理している学術情報セ ンターではありません。わたしは , このセンター で , スーパーコンピュータと数値モデル ( シミュレ ーションモデル ) を用いて , 気象学と気候学の研究を 行っています。計算科学の手法を用いながら研究 をしていますが , その研究対象は , 都市気候 ( ヒー トアイランドなど ) や局地風 ( ある地域で吹く風 ) などであ り , 自然地理学の小気候学分野で取り扱ってきた ものがほとんどです。わたしにとって , 自然地理 学はとても大切な学問分野です。そこで , 本稿で は , わたしが専門としている都市気候研究を題材 科学通信科学 0639 リレーエッセイ地球を俯瞰する自然地理学
影響を総合的に予測する確立した手法はなく , 予 ナム中部フェの海岸平野にあるタムジャンラグー 測に使える定量的なデータも限られています。そ ンなど , 東南アジアの海跡湖を対象に , 大規模な こで筆者は , ます対象とする地域の自然と社会・ 洪水災害や , 深刻な海岸侵食などについて調査を 経済の実情を , 総合的に把握するための地図を作 行ってきました。これらの湖の湖岸を歩いてみる 成することにしました。 と , 洪水や海岸侵食のみならず , 湖と海とを隔て タイのソンクラー湖では , 湖岸や海岸だけでな ている砂州の決壊 , 湖水の塩分濃度の上昇 , 地下 く , 湖の流域を含めた地形分類を行い , そこに特 水への塩水侵入などによって , 人々の暮らしや生 徴的な土地利用や植生を加えた地図を作成しまし 業に様々な影響が出ていることに気づかされます。 た 1 。これをベースに , フィールドワークで収集 そのような海跡湖における急激な環境変化は , した情報と合わせて , 海面上昇の影響を予測し , 近年加速している地球温暖化による海面上昇が影 潜在的な危険や被害を評価しようと考えたのです。 響していると考えられます。日本国内の海跡湖で 地を分類図に 00 、ては , すでにこ 0 リレー、 , セ は , 湖岸に堤防が築かれ , また人為的に海とのつ イても紹介されたように , 洪水や火山のハザード ながりが絶たれた湖も多く , 私たちは海面上昇の マップや , 地盤液状化の予測などのべースマップ 影響についてほとんど気づきません。しかし , ま として活用されています。その地形分類という手 だ自然状態に近い東南アジアの湖では , 上記のよ 法を , 将来の海面上昇の影響予測のべースとして うな様々な問題が発生しています。今後の地球温 利用しようと考えたわけです。したがって , 作成 暖化・海面上昇によって , これらの湖ではさらに した地図はある種の「海面上昇ハザードマップ」 厳しい状況になることが懸念されます。そのため , と言えるかもしれません。 このような地域では , 海面上昇による影響につい タイのソンクラー湖では , 内陸側の湖岸低地で , て科学的に予測し , その対応としての適応策を早 広範囲の浸水と洪水の激化が予測されました 2 。 急に検討し実施することが , 緊急の課題となって これは , 海面上昇の影響に加え , 湖に流入する河 います。 川上流域で , 熱帯雨林が伐採され , ゴムのプラン 以下では , 筆者が関わったタイとベトナムの 2 テーションが拡大していることも , 大きな要因に つの海跡湖での , 海面上昇の影響予測と適応策の なると推定されました。すなわち , 海面上昇の影 検討について紹介しましよう。 響予測では , 標高の低い海岸や湖岸の低地に注目 するだけでなく , 少なくとも流域を広く俯瞰し , : ム域を俯瞰した海面上昇の影響予測 そこでの自然や人為的要因も視野に入れる事が重 海面上昇の影響予測といっても , 筆者は , 低地 要です。 の水没や海岸の侵食などを , コンピューターなど 住民と自然とのかかわりを踏まえた適応策 を使用してシミュレーションするのではありませ ん。現実の海岸や湖岸で , それぞれの地域に特有 一方ベトナム中部のタムジャンラグーンでは , の砂浜 , 湿地 , マングロープ林 , サンゴ礁などの 1999 年 11 月の大水害をきっかけに , 将来の水害 地形や生態系に対して , 具体的にどのような影響 の軽減と海面上昇の影響を予測するため , 先の事 が生じるのか , 主にフィールドワークを通して検 例と同様に , 地形分類をベースにした海面上昇影 討しようという立場です。また , これらの土地に 響評価図を作成しました 3 。そして , 海面上昇へ 居住している人の住み方や土地利用 , 生業など , の具体的な適応策を検討するために , 2012 年に 地域の社会・経済への影響も考慮する必要があり 1 年間フェの農林大学に滞在し , 今後の海面上昇 ます。 で大きな影響を受けると予測される地区で , 詳細 ところが現在のところ , そのような海面上昇の ′月し 0642 KAGAKU Jul. 2016 VOL86 N07
気地球温暖化をめぐる〈力学〉 。。、気候欺瞞のドシェ 憂慮する科学者同 原発と地球温暖イ匕問題との 匕石燃料産業の内部メモが暴き出す , 何十年にもわたる共同情報隠し 718 錯綜した関係 明日香壽川 学ぶ創る遊ぶ プラハ・アジェンダを止めているのは誰か [ 科学時評 ] 630 科学の仮面を被る「原発広告」の欺瞞・・・・本間龍 川崎哲
特集地球温暖化をめぐるく力学〉 気候欺瞞のトノエ ーー化石燃料産業の内部メモが暴き出す , 何十年にもわたる共同情報隠し 憂慮する科学者同盟 * 本当の気候デマ Union Of Concerned Scientists てアメリカ市民をだますための , 何十年にもわた るキャンペーンである。このようなキャンペーン は , 企業自らの手で行なわれる場合もあれば , 事 業者団体や偽装団体を通して間接的に行なわれる こともある。 オクラホマ州選出の上院議員で , 現在 , 上院環 このレポートに収集・抜粋されている内部文書 境・公共事業委員会委員長を務めるジェ ームズ・ は , この欺瞞の様子を物語っている。 ーこで紹介 インホーフは周知のように , これまでしばしば気 する 7 つの「欺瞞のドシェ ( 関係書類 ) 」は , 2015 候変動を「デマ」と呼んできた。 年になってようやく明るみにされた。これらの文 インホーフ上院議員はこの主張を繰り返しただ 書は , 大手化石燃料企業が 30 年近くにもわたっ けでなく , 上院で自分の見地を解説するまでに拡 て , 気候変動に関する科学的な研究結果を故意に 丿 ( した (lnhofe 2015a, lnhofe 2012 , lnhofe 2005 , lnhofe 2003 , 隠蔽し , 公衆を欺き , 緊急に必要なクリーンエネ lnhofe 1991a , lnhofe 1991b , lnhofe 1991C ) 。もちろん , イ ルギー経済への転換を促進する政策を阻止してき ンホーフ上院議員は , 地球温暖化の歴然とした証 た , という否定できない事実を物語っている。 拠を認めようとはしない。地球が急速に温暖化し , 大手化石燃料企業は内密の合意 , 企業自らの働 その主な原因が化石燃料の燃焼から出る温室効果 きかけを隠して責任を逃れるための偽装団体の使 ガスにあることは , 数十年前から科学的に明らか 用 , 独立した科学者と称する者への秘密裏な資金 であるのに。 提供といった策略をとってきた。企業の偽装団体 それでも , インホーフ上院議員はある一点につ は偽造手紙すら使って , 自分たちが女性 , 社会的 いては正しい。すなわち , 温暖化に関するデマが 少数者 , 子ども , 老人 , 帰還兵の福祉を支援する これまであり , 現在も続いているという事実であ 公益団体であると主張し , 連邦議会の議員たちに る。一握りの世界最大の化石燃料企業 ( シエプロン , 緊急に必要な気候立法に賛成しないよう説得して きた ( 例えば M Ⅲ er2009 参昭 ) コノコフィリップス , 工クソンモービル , ピーボディ・エナジ ーなど ) による , 気候変動の現実とリスクを隠蔽し 欺瞞のドシェ The Climate Deception Dossiers:lnternaI Fossil Fuellndustry 本レポートで紹介する 7 つの「欺瞞のドシ Memos Reveal Decades Of Corporate Disinformation 工」は , 企業連合や事業者団体の内部文書 , 約 Union Of Concerned Scientists * 主執筆 : Kathy Mulvey, Seth Shulman, 寄稿者 : Dave An- 85 件を集めたものである。これらの文書は情報 derson, Nancy CO , Jayne Piepenburg, Jean Sideris リークによって一般に知られるようになったり , 2015 年 7 月 訴訟によって明るみに出たり , あるいは情報公開 翻訳 . 今泉みね子 科学 0691 気候欺瞞のドシェ
原発と地球温暖化問題との錯綜した関係 明日香壽川 4 節でまとめる。 ソ」という考え方の問題点を指摘する。最後に第 第 3 節では , 「温暖化問題は原発推進のためのウ 化対策に不可欠」という議論を批判的に検討する。 え方を分類整理する。第 2 節では , 「原発は温暖 ます第 1 節で温暖化問題および原発に関する考 めぐる錯綜した状況の分析を試みる。そのために 本稿では , このように原発と地球温暖化問題を 著名度から無視できないほどになっている。 門とはしていない ) 」の影響力が , その声の大きさや もつ一部の研究者や「著名人 ( 多くが温暖化の科学を専 は共通認識があるものの , それとは異なる考えを ど様々な誤解がある。また , 多くの研究者の間に と政治経済的な動機にもとづいた言説との混同な このような状況に至る背景には , 科学的な事実 いう懸念すら存在するように思われる。 問題の話をすると原発推進と見られてしまう」と いすれも二律背反」という認識があり , 「温暖化 化 , 脱原発と経済発展 , 脱温暖化と経済発展は , する。また , 一般市民の間にも「脱原発と脱温暖 化問題そのものに懐疑的な人々が少なからず存在 言説に影響を受けて , 原発に反対するゆえに温暖 に必要」と主張し続けてきた。一方 , そのような 大手電力会社 , 経団連などが「原発は温暖化対策 特に日本では , 民主党政権時代を含めて政府 , に関する議論を避けて通ることはできない。 発電 ( 以下では原子力発電所と共に原発と略記 ) の位置づけ 語る際には , エネルギー・ミックスの中の原子力 あすかじゅせん 東北大学 ・サックス教授 , ガイア理論のジェームス・ラ ズ・ハンセン博士 , コロンビア大学のシェフェリ 者として元米航空字宙局 ( NASA ) 研究員のジェーム ①は , 日本には少ないものの , 海外では , 研究 しだと考える。 ⑦③に影響されて原発よりは温暖化の方がま 必要だと考える。 ⑥③に影響されて温暖化対策のために原発は 電は推進する。 のためのウソだという考えから , 化石燃料発 ⑤原発には反対する。温暖化問題は原発推進 化石燃料発電は推進しない。 暖化対策として必要不可欠ではないと考える。 ④温暖化対策は重要と考えるものの原発は温 している。化石燃料発電は推進する。 しかし , 原発推進のために温暖化問題を利用 ③温暖化対策を本当は重要だと思っていない。 は推進しない。 て原発が必要不可欠と考える。化石燃料発電 ②温暖化対策というよりも大気汚染対策とし 進しない。 発を必要不可欠と考える。化石燃料発電は推 ①温暖化対策は重要だという強い思いから原 つに分類整理される。 考え方あるいはポジションはおおよそ下記の 7 影響するという意味で温暖化問題および原発への 日本におけるエネルギー・温暖化政策の策定に 考え方の分類 温暖化間題および原発に関する 0718 KAGAKU Jul. 2016 VOL86 N07
私の「気候」の定義は「地球上で , 1 年を周期 文献 1 ー / 」、野有五 : E-Jounal GEO, 1 , 89 ー 108 , https://www.jstage.jst. として繰り返す , 大気の平均状態」というもので go. jp/article/ejge0/1/2/1 2 89/—article/-char/ja/ す ( 吉野 , 1978a 戸。目下のところ , この定義に大き 2 ー小野有五 : 科学 , 69 , 1003 ー 1012 ( 1999 ) 3 ーー小野有五 : Active Geography たたかう地理学 , 古今書院 , な反論はないようです。しかし , 少し詳しく考え 392 p. ( 2013 ) ると , 疑問がいくっかすぐにでてきます。 ( 1) 地 4 一石橋克彦 : 科学 , 83 , 439-444 ( 2013 ) 球上といっても , 地球全体なのか , アジア・ヨー 5 一石橋克彦 : 科学 , 76 , 963 ー 964 ( 2006 ) ; 小野有五 : 第四紀研究 , 55 , 71 ー 91 ( 2016 ) ロッパなどという地域なのでしようか , 関東地 6 ー明石昇ニ郎 : 原発崩壊・増補版 , 金曜日 , 232 p. ( 2011 ) 方・東京都などの地域なのでしようか。 ( 2 ) 公 7 ー中田高 : 科学 , 79 , 167 ー 174 ( 2009 ) ; 鈴木康弘 : 原発と活断層 , 岩波科学ライプラリー , 114P. ( 2013 ) ; 添田孝史 : 原発と大津波 園・家屋内なども含まれると理解してよいのでし 警告を葬った人々 , 岩波新書 , 204 p. ( 2014 ) ようか。 ( 3 ) 極端に狭い空間ですが , 就寝中のべ ッドの中の気候も , この定義でよいのでしようか ( 4 ) “ 1 年を周期として”という表現は温帯・寒帯 ではよいが , 1 年中 , 高温な熱帯でもこれでよい のでしようか。 ( 5 ) 熱帯では雨季・乾季がありま す。卓越する風向の変化もあります。「大気の平 よしのまさとし 均状態」にこのような季節現象も含まれるのでし 筑波大学名誉教授 ようか。 ( 6 ) 平均状態をどう捉え , どう表現した ら , よいのでしようか。 30 年平均値を「平年 気候とは 値」として , これで「平均状態」としてよいので しようか 「気候」とは何か。「気候」の定義ほどさまざま 気候現象の時間一空間スケール で , 曖味なものはありません。ノルウェイ気象学 派の重鎮で世界的な気候学者であったイヨットシ ュケ (). L. G0dske) は 1966 年に世界気象機関 ( WMO ) 以上のような問題を整理し , 定義を補完するの の気候委員会報告の出だしで , いみじくもこう述 が時空間スケールです。ごく大まかには大気候 べています。 ( 地球全体 , 南北の半球 , 大陸規模 ) ・中気候 ( 地方 , 地域規 「気候」の定義の数は気候学者の数より多い。 模 ) ・小気候 ( 局地規模 ) ・微気候 ( 微地域 , 微細空間規模 ) なぜならば , 気候を研究する気候学者・気象 の 4 気候スケールに分類されます。表 1 は数値 学者・地理学者ばかりでなく , 地質学・地形 でそれぞれの空間スケール ( 水平距離 , 高さ ) と , 現 学・水文学・建築学・土木学など理工学関係 象の寿命時間 ( 発生してから消滅するまでの時間 ) を示し の研究者や , 作物学・林学関係の農学研究者 , ています。また , それぞれのスケールの気候を形 さらには , 心理学・衛生学などの医学研究者 , 成する大気現象 , 影響する地形の代表例を示しま 哲学・倫理学・歴史学などの文学研究者など , す。 たくさんの分野の研究者がそれぞれ「気候」 このような時間一空間スケールで分類される大 の定義をするからである。 気現象だという背景を知っていれば , 上述の定義 この指摘はちょうど 50 年前のものですが , 現 で共通の理解は可能でしよう。 在でも通用します。いや , 昨今の環境科学の発展 さらにもう少し詳しく時間一空間スケールを風 で , 経済学・政治学などの分野も活発な研究を行 の場合で説明します。図 1 は横軸に水平距離を , ない , 気候の定義が不明療という問題はさらに深 縦軸に時間をとり , 各種スケールの風の現象をプ 刻になっているように思います。 ロットしたものです ( 吉野 , 2008 ) 2 。両対数目盛り 科学通信科学 0637 リレーエッセイ地球を俯瞰する自然地理学 温暖化する気候と生活 ーー風土は極端化するか 吉野正敏
・地球温暖化ガスの排出を削減する , 公正でコ スト効率がよい政策を支援せよ。化石燃料産業は 一般的にはこれまで , 炭素の価格付け ( カーポン・プ ライシング ) , キャップ・アンド・トレード , 再生 可能エネルギー基準 , 再生可能燃料基準 , 直接的 な排出規制などを含む , 多岐にわたる政策に反対 してきた。産業は今こそ , 地球温暖化の最悪の効 果を低めるのに必要な規模の排出削減へと導く政 策を認め , それを公に支援するべきである。 ・既存の企業活動からの炭素排出を下げるとと もに , ピジネスモデルを将来の地球規模での排出 制限に備えて更新せよ。化石燃料企業は既存の業 務からの排出を削減するために , すぐにできる行 動を起こすべきである。例えば , 油田から出る天 然ガスを燃やすという , 浪費的な習慣を止めるな どである。化石燃料企業は , 化石燃料の燃焼をな おも続けることによるリスクの理解ならびに炭素 排出を制限する , 国内および国際的な政策の重要 性と必要性を反映するために , ビジネスモデルを 更新すべきである。このために有用な要因として , 化石燃料企業は今後 20 年間にとるべき道を緻密 に計画し , わたしたちが低炭素エネルギーの未来 を確実に達成できるようにすべきである。 ・気候被害と備えにかかるコストの分担金を払 え。世界の各所で地域社会は , 海面上昇 , 極端な 暑さ , ますます頻繁になる干ばっその他 , 気候に 関連した影響の被害に直面し , コストを負担して いる。地域社会は現在そして未来において , これ らのリスクの予防や準備のために特別の投資をし なければならない。化石燃料企業は , このような コストでかれらが負うべき分担金を払うべきであ る。 ・企業活動への気候変動の財政的ならびに物理 的なリスクを完全に公開せよ。法律では , 合衆国 に拠点をもつ化石燃料企業は , 企業活動に物質的 に影響をあたえる可能性のあるリスクについて , 毎年出される証券取引委員会 ( ) の年次報告書 で議論するよう求められている。けれども , この ガイダンスの順守は一貫していない。化石燃料企 業は気候変動のリスクを完全に評価し , あらゆる 物質的なリスクを SEC と株主に公開するべきで ある (Frumhoffetal.,( 審査中 ) にもとづく ) 。 事実上はあらゆる企業が「ソーシャル・ライセ ンス」の下で業務を実行している。すなわち , 企 業が従業員や消費者を自らの企業の製品や活動に よる有害な影響から守ることを , 一般市民が信じ ることでなりたっ協定である。しかし , 企業はこ のライセンスを失うことがある。数十年にわたっ て公共社会は , タバコ , アスベスト , 鉛のような 問題で , 企業が自社の製品が人間の健康や福祉に 悪い影響をあたえることが知られているのにその ような影響を認め , それに対処しない場合には , ソーシャル・ライセンスを失うことを明確にして きた。 気候変動も同じである。このレポートで記載し た行為は , これらの企業のソーシャル・ライセン ス取り消しを正当化する。化石燃料企業は温暖化 ガス排出の責任を認め , 低炭素エネルギーシステ ムへの転換を促す政策を妨害するような欺瞞工作 を止め , 被害にかかるコストの公正な負担分を支 払うべきである。 このような変革をもたらすには , 株主の参加 , ダイベストメント運動 ( 訳注 : 環境などに被害をあたえる 企業への投資を引き上げる ) , 消費者の圧力 , 訴訟など の方法を含む , 地球規模の行動への呼びかけが必 要であろう。わたしたちは , このレポートで出さ れた情報が , このような変革の前進に役立てるこ とを信じ , 期待している。 編集部注 : 文献と補遺については原文 ( ウエプサイト http://www.ucsusa.org/sites/default/files/attach/2015 / 0 刀 The-CIimate-Deception-Dossiers. pdf からダウンロード可 能 ) にてご確認ください。 気候欺瞞のドシェ 科学 0717