同社はさらに新潟県内限定で同じ内容 ( 社員が働く姿 ( 作家 ) ・佐藤優 ( 作家 ) などを使ったシリーズ広告を を映す ) テレビ CM も放映している。 掲載し始めた。さすがに 3. 1 1 以前のような「原 発は安全です」という文言は使えないため , 当初 は原発を停止したままだと割高な原汕輸入が貿易 もはやそこには何ら科学的説明や解説もなく , 赤字を生み , 国家財政に悪影響だ , とする「財政 働く人々の姿を見せて「安全のために必死で努力 圧迫論」を展開したが , 15 年初めに起きた原油 しています」と言っているにすぎない。つまりは 価格の急激な低下で電力会社がみな黒字になって 「精神論」だけなのだ。しかし , それは製造業な しまい , このロジックも使えなくなった。そのた らテレビでも車でも同じであり , 福島原発事故の め現在は , 様々なエネルギーを併せて使用するこ 時も , 社員は命がけで働いたはすだ。それでも自 とが日本の安全保障上必要であるという「エネル 然の猛威の前ではなす術がなく , 事故は起きた。 ギーベストミックス論」にシフトしている。これ つまり , どんなに懸命に働く社員がいても , 事故 らは全て , 「原発は必要だ」という結論ありきで が起きないというお墨付きには成り得ない。だか 作られているのだが , そこには , たった一度の事 らこのような広告は安全を保証するものとはなら 故で避難を余儀なくされ , 5 年経っても故郷に帰 ないし , 何ら説得力がないのだ。 れない 10 万人余の被災者の存在は一行たりとも ではなぜ電力会社や電事連はこのような広告を 出てこない。不都合な事実には一切触れないのが 打つのかと言えば , まずーっには , 企業広告とし て , 電力関連で働く人々への「我が社は決して原 原発広告不動のスタイルなのだ 発をやめないぞ」という意思表示の意味がある。 そしてもう一方の代表的な原発広告のパターン 社員のモチベーション向上のためのツールなのだ。 (B) は , 広告業界で「同情喚起型」「同意形成型」 そして二つ目の理由は , 冒頭に挙げた 3. 11 以前 と言われる方式であり , これは原発所在県で主流 のやり口である , 「メディアに金を渡すことによ となっている。浜岡原発の再稼働を狙う中部電力 って批判的報道の自粛を促す」ことを狙っている。 は , 15 年 8 月から毎月 , 「私は , 浜岡原子力発電 つまり , 再稼働に対して批判的な記事を書かせな 所で働いています」と題する 15 段 ( 1 ページ ) のカ いための方策なのだ。情けないことに , 多くのメ ディアがまたもや電力会社の毒まんじゅうを食い , ラー広告を静岡新聞に 6 回掲載した。そのいす 1 れもが , 原発施設の様々な部署で働く社員の姿を その軍門に降りつつある。そのあたりの過去の歴 史については , 拙著『原発プロバガンダ』を御高 大写しにし , 「社員がこんなに真面目に頑張って プ いるのだから , 事故は起きません」と暗に訴える 覧頂ければ幸いだ。 内容になっている。関西電力も今年 2 月 6 日に 広告とは , 出し手と受け手のコミュニケーショ 「すべては , 安全のために」と題した 1 ページ広 ンを徹底的に訴求した「アプローチ技術の結品」 告を福井新聞に掲載し , さらに東電も 2 月 1 1 日 である。しかし , 福島原発が未だに危機的状況か に「更なる安全を胸に」と題する 1 ページ広告 ら脱することが出来す , 避難者が故郷に戻れない を新潟日報に掲載した。これらには全て , 1 回 限り , いくら「原発は安全です , 必要です」と言 500 万円以上の高額な掲載料がかかっている。 われても , 説得力のあるコミュニケーションなど 成立するはずがない。現在の原発広告にはそうし しかし , これらの広告はいずれも中部電力の 「働く社員の姿」というビジュアルとそっくりで , た致命的な欠陥があり , 今後もそれが修復される 社名を差し替えたらどの会社の広告か区別がっか ことは困難だ。だから原発広告は , メディアに対 ないようなシロモノだった。そもそも原発事故を する賄賂という役割だけで , 今後も命脈を保って 起こし , その収拾も出来ていない東電が何を根拠 いくだろう。 に「更なる安全」と言っているのか全く不明だが , 科学 科学反面を被る「原発広告」の欺瞞
応・物 0 00 第可加 0 当 : ルー物な 7 -0 ー△ー 0 ー、 i V みー 、 4A0 ー国ⅵ赴 0 図 6 ー米国議会への偽造手紙も含む , 石炭企業のキャンペーン 2009 年 , 重要な気候法案の議会での表決前 , 化石燃料企業のための偽装団体 , 「米国クリーンコー ル電力組合 ( ACCCE ) 」は広報活動会社を雇った。この会社は米国議会のメンバーに , NAACP を 含む 13 の非営利団体が差出人であるかのように装った偽造手紙を送り , この法制定についての非 営利団体の立場を偽って伝えた。ヒラリー・ O. シェルトン , NAACP のワシントン事務局長 / NAACP の擁護活動部シニア副部長は , この事件についてポンナー・アンド・アソシェイツ社を鋭 く批判した。 gion( アメリカ在郷軍人会 ) 」 , 「 Jefferson Area Board on Aging( ジファーソン地域高齢者評議会 ) 」などの組織と 偽った手紙も出されていた。偽造手紙はキャシ ・ダールケンパー ( ペンシルバニア州選出 ) やクリ ス・カー ー ( ペンシルバニア州選出 ) 議員にも出され てし、た (Perriello 2009 ) 。 詐欺が暴露された結果 , 議会の調査やエネルギ ー自立地球温暖化問題特別調査委員会での公聴会 が行なわれた。議会の調査からは , この詐欺行為 を犯したのはポンナー・アンド・アソシェイツ社 であることが判明した。これは , 「米国クリーン コーノレ ' 電丿」糸比合 '(American Coalition for Clean Co 引 Electrici- ty(ACCCE)) 」という名の偽装団体と下請け契約し たロビー活動会社である (center 府 Media and Democra- CY2014a ) 。クリーンコール電力組合は石炭企業で 構成され , 主な資金提供も石炭企業から受けてい 気候欺瞞のドシェ 科学 0705
ヨ 9 や 3. 1 1 以前 , 原発推進を目的とする広告 , いわ ゆる「原発広告」というジャンルが存在した。 れは広告収入に依存するメディア各社 ( 新聞・雑誌・ テレビ・ラジオ・インターネット ) には極めて重要な収入 源で , その出稿金額は過去 40 年間で約 2 兆 4000 億円 ( 朝日新聞調べ ) にものばっていた。年額に換算 すれば約 600 億円という , 途方もない金額である。 2010 年の東京電力の広告費は約 260 億円で , 日 本の広告費ベストテンに顔を出すような巨額であ った。 メディアにとって , 年間数十億円もの広告費を 出してくれるスポンサーは貴重で , その意向には 逆らいにくくなる。つまり , 特定のスポンサー企 業から広告費を多く貰いすぎると , その企業の不 祥事を報道する事に対し , 手心や自主規制が働く ようになってしまうのだ。そしてそれこそが , 原 発広告出稿の真の狙いであった。 あえて記事などで原発を賛美してもらう必要は ない。とにかく批判さえしなければいいのだ。そ うすれば , 電力会社は年に数億円の広告費を払い , ロ当たりの良い広告を山のように掲出してくれる。 しかし , 一度でも何か批判的な記事を掲載すると , 広告代理店や電事連 ( 電気事業連合会 ) からクレーム が入り , 下手をすると , 先々に予定されていた広 告が取りやめになることがあった。そのため , 「原発に批判的な記事を書くと , スポンサーを失 う危険性がある。また , 電力会社や電事連から執 拗なクレームが来る。だったら原発には触れない でおこう」とする「自主規制」的な気分が , 福島 第一原発事故直前まで , あらゆるメディアに蔓延 していた。つまり , 「巨額の広告費」がメディア 科学の仮面を被る 「原発広告」の欺瞞 本間龍 ほんまりゆう 著述家。著書に「原発プロバガンダ』 ( 岩波新書 ) ほか。 いた。ところが , 2014 年頃から , 安倍政権の原 くは , 原発ムラによるあらゆる広告が停止されて さすがにその影響は甚大で , 原発事故後しばら 事故で証明されたのだった。 の科学的根拠もなかったことが , 福島第一原発の 「原発安全神話」であった。しかしそれらには何 うに流された結果 , 日本社会に醸成されたのが そしてこのような広告が 40 年もの間に湯水のよ 上記の文言をご記憶の読者も多いのではないか。 るテレビ・ラジオ CM も盛んに流されたから , 特に 90 年代以降は , 様々なタレントが出演す 言が必ず入っていた。 4 ) 原発は日本のエネルギーの 3 分の 1 などの文 発は二酸化炭素を排出しないクリーンエネルギー があっても , 放射能は絶対に外に漏れない 3 ) 原 故を起こさない安全なシステム 2 ) もし万一事故 別された。そしてそのいずれにも , 1) 原発は事 トなどが対談し , 原発の必要性を説くものに大 電力会社の幹部や科学者たちと , 著名人やタレン 面を専門的な図解などを使って解説したもの B) ターンがあったが , 概ね A) 主に原発の技術的側 その 3. 11 以前の原発広告には幾つかの定型パ 発再稼働路線に追従するように , 再び各地の原発 所在地や雑誌などで原発広告が復活し始めた。そ の内容は , ひとつは「原発の安全性」ならぬ「必 要性」を説くもの (A) と , 「安全性を徹底的に追 求しています」という「精神論」を声高に説くも の (B) という , 大きく二つの種類に分かれている。 ( A ) の代表例として電事連は , 14 年から週刊新 潮で「これからのエネルギー , 私の視座」と題し , デーモン小暮 ( 歌手 ) ・舞の海 ( タレント ) ・手嶋龍一 の報道を完全に制圧していたのだった。 JuI. 2016 VOL86 N07 0630 KAGAKU
言島事故 5 年後の原子力安全規制 : 見状と将来の課題 田忠広 2011 年 3 月の東京電力福島第一原子力発電所 要な提案を行う。なお分析対象範囲は 2016 年 2 事故 ( 福島事故 ) から 5 年を迎えたいま , その反省の 月末までとしている。 ーっとして作られた新しい原子力安全規制は , 十 福島事故後の原子力安全規制の現状 分に機能しているのだろうか。筆者は新規制基準 策定の検討チームのメンバーとして策定に関わり , 現在は原子炉安全専門審査会 ( 炉安審 ) , および核 原子力発電に関する動向 燃料安全専門審査会 ( 燃安審 ) の委員も務めている。 新規制基準は , 原子力規制委員 , 原子力規制庁 こでは委員としての視点も含めて , 先例として 職員および , 原子力安全基盤機構や大学の専門家 知見の多い米国の安全規制を参考にしつつ , 原子 による外部有識者から構成される検討チームによ カ規制委員会による新規制基準の策定とその後の って公開の場で検討された。この基準は , 例えば 審査会合について検証する。 自然現象に関する従来の要求は不十分であったと 2012 年 6 月 , 原子力基本法の目的として , 「国 して , 地震や津波の想定手法の強化 ( 基準津波 , 基準 民の生命 , 健康及び財産の保護 , 環境の保全」が 地震動 , 活断層の認定など ) , およびその対策を求めた 目的に追加された。また「核原料物質 , 核燃料物 また従来は事業者の自主的取り組みでしかなかっ 質及び原子炉の規制に関する法律」 ( 炉規法 ) にも , た重大事故 ( シビアアクシデント ) の対策について , 炉 大規模な自然災害やテロリズムなどを考慮する文 心損傷の防止 , 格納容器の閉じ込め機能の維持の 言が追加された。さらに同年 9 月 , 国家行政組 強化を要求し , さらにテロや航空機事故対策とし 織法第三条および原子力規制委員会設置法にもと て , 安全機能のバックアップとなる特定重大事故 づき , 環境省の外局として原子力規制委員会が発 等対処施設の設置を要求した。 足した。この委員会の取り組みの一つに , 実用発 これらは厳しい要求であったはずだが , 施行日 電用原子炉 ( 商業用の原子力発電所 ) や核燃料施設 ( 再処 から 1 週間後には電力会社 4 社 7 発電所 ( 計 12 基 ) 理工場 , 研究炉など ) に関する新規制基準があり , そ が審査を申請した。 2016 年 2 月末現在 , すべて れぞれ , 翌年の 2013 年 7 月と 12 月に施行され の電気事業者 11 社 16 発電所 ( 計 26 基 ) が申請し , うち 3 社 3 発電所 ( 7 基 ) が審査に合格した。九州 2016 年 2 月現在 , 原子力発電については新規 電力川内発電所 1 , 2 号と関西電力高浜 3 , 4 号が 制基準の施行から 2 年半が経過し , ほとんどの 運転を開始した ( その後 , 高浜 4 号はトラブルにより停止し , 事業者は新基準の適合性の審査を受けている。し 高浜 3 号は裁判所による仮処分決定により停止した ) 。 かしその基準や審査会合 , また原子力規制委員会 審査の結果 , 例えば 2014 年 9 月に許可を得た や事業者の対応について多くの課題が見えてきて 川内原発 1 , 2 号は , 耐震設計の基準値 ( 基準地震動 ) の値を設定しなおし , 従来の値 400 cm/s2 から いる。本研究では , まず新規制基準とその後の審 620Cm / s2 に上げた。また仮に重大事故が発生し 査会合について現状を概観する。続いて , 現状の 取り組みから課題を抽出し将来の原子力規制に必 た場合の環境への放射性物質の放出量は , 原子力 0726 KAGAKU JuI. 2016 VOL86 N07 かったただひろ 明治大学
境問題への関与 ( ァンガージュマン ) をまとめた本に 『 Active Geography たたかう地理学』 3 というタイ トルをつけたのはそのためです。しかし , そこに は , とりわけ 3. 1 1 以後の状況が大きく関わって いました。 なぜ「たたかう自然地理学」が必要なのか ? 3. 11 の原発事故は , これまでの科学と社会の ありかたに決定的な疑問をつきつけました。国会 事故調は , 原発事故の根源的な要因は , 原発の審 査に関わる組織的・制度的問題であり , 本来は原 発を規制すべき当局が , 規制されるべき電力会社 の「虜」になっていたという逆転関係を指摘しま した。原子力工学など原発を推進したい分野にと どまらす , 活断層や地震などに関わる地球科学も 「虜」になっていたのです。とくに , 原発の立地 , 安全性を左右する原発周辺の活断層については , それを少しでも短く , できればないものとしたい 電力会社側の要請があり , 審査会のメンバーに対 してそのような働きかけが行われ , それに応じた 地球科学者がいたことが明らかにされています 4 。 たとえば活断層の認定に関する問題では , 日本 列島の活断層を初めて組織的に研究し , 全国を網 羅する活断層分布図を作り上げたのは自然地理学 , とくに変動地形学の研究者たちであったにもかか わらす , 原子力安全委員会の耐震指針検討分科会 には一人の変動地形学者も入っていませんでした。 治水をめぐる河川審議会と同じように , こでも 自然地理学は討議のアリーナから排除されていた のです。 代わりに委員になっていたのは地質学者でした。 しかし地質学の分野では , 空中写真に現れた直線 状の構造 ( リニアメント ) だけが活断層であるとする 旧態依然の考え方が残っており , 委員もそれだけ で活断層の認定を行っていました。まともな研究 者であれば , 他分野の研究成果だからといって見 過ごすことはありえないでしよう。ましてその審 議中に , 変動地形学研究者によって島根原発に近 い場所でトレンチが掘られ , 変動地形学方法で認 0636 KAGAKU Jul. 2016 VOL86 N07 定された場所に活断層が見出されたにもかかわら ず , 分科会はそれらの成果を取り入れようとしな かったのです 5 。これは学会ではありえないこと でしよう。さらに重大な問題は , そこに利益相反 の疑いもあることです。原発の安全性の審査に関 わりながら , 一方では蔭で電力会社に「指導」を 行い , 謝礼を受け取るという行為は , 許されるこ とではありません。こうした利益相反の疑いがも たれる研究者は , 委員の一人であった衣笠善博氏 だけではないともいわれています % 自然地理学は , 本来 , 地球を俯瞰する独自の視 点をもっています。地質学があくまで地層そのも のにこだわるのに対し , 地形学では , 地層だけで なく , 地層の堆積・侵食によってできる地形にも 目を向け , 両者を矛盾なく説明することが求めら れます。たとえば肉眼で見ることができない海底 の地層については音波探査が用いられますが , 音 波探査で見える範囲の地層が切れていなければ , 地質学的には断層はないという結論になります。 しかし , たとえ地層が切れていなくても , その付 近の海底にゆるやかな崖のような地形が見つかれ ば , 自然地理学者は , この崖はどうしてできたの かとまず考えるのです。そうしてあらためて地層 を見ると , 確かに地層は切れていないが , そのあ たりで撓んでいるということに気づきます。この 撓みはなぜできたのだろうと考えると , 音波探査 の及ばない深い位置に活断層があって , それが上 にのる比較的軟らかい地層を撓ませてきたのでは ないか , と疑わざるを得ないのです。実際 , 島根 原発の近くでは , 陸上でそのような地形が見つか ったものの断層露頭がなく , では掘って確かめよ うと掘削した結果 , 予測したとおりの場所で地下 に活断層が見出されたのでした / 。このような検 証が陸上ですでにいくつもなされている以上 , 海 底に関しても , 同様の疑いがもたれるところでは 深部に活断層の存在を推定することが原発の安全 性の検討では当然ではないでしようか 現代の日本 , とりわけ 3. 1 1 以降の日本は , れまで以上に , 「たたかう自然地理学」を必要と しているのです。
早期死亡者増加数」を死者数とみなしている。 2008 年の世界保健機関 ( WHO ) の報告によると , 世界の大気汚染による国別の年間死者数ランキン グ第 1 位は中国 ( 47 万 0649 人 ) であり , 日本は第 1 1 位 ( 2 万 3253 人 ) となっている ( 国際統計格付けセンター 2016 ) 。 確かに福島第一原発事故では , 放射性物質の被 曝による直接の死亡者は , 現時点では報告されて いない。しかし , その第一の理由は原発事故や放 射線被曝が「安全」だからではない。しかも , あ る程度の放射線被曝は生じてしまっており , 甲状 腺がん発生の問題をはじめ , その長期的な影響に ついても確定したことは言いがたい状況である。 「間接的」とされる原発事故関連死も深刻であ る。困難で長期にわたる避難生活で命を落とした 人々 , 農地や家畜が汚染され生活再建に絶望し自 ら命を断った人々など , 原発事故関連死の数は東 京新聞の調査によると福島県だけで 2016 年 3 月 時点で 1300 人を超えている ( 東京新聞 2016 年 3 月 6 日 ) 。間接といえども , その人たちは , 原発事故 がなければ死ぬこともなかった人たちである。 事故の規模によっては数万から数千万の人々が 避難を強いられ , コミュニティが崩壊し , それぞ れの人生が破壊される。これらが原発事故で起き ることである。つまり , 原発事故の被害と大気汚 染の被害はまったく性質の異なるものであり , 単 純に比較できるものではない。 原発と化石燃料の両方を , 経済成長を犠牲にせ ずにフェーズ・アウトしていく可能性が見えてき ている現在 , このような理解は一層重要であろう。 すなわち , 大気汚染に苦しむ途上国の経済発展を 考慮した場合でも技術的・経済的には石炭火力な どの代替は可能であり , その代替技術は原子力で はなく省エネや再生可能エネルギーになりつつあ る * 5 。原発と化石燃料発電のうち , あなたが嫌い なほうをなくすために , もう一方を容認すべきだ * 5 ーイギリスのシンクタンクである海外開発研究所 (ODI) が 途上国における石炭 , 経済発展 , 貧困撲滅との関係に関して詳 細な質問回答集 ( FAQ ) を作成しているので参照されたい ( ODI 2016 ) 。 という考え方をする必要はないのである。 なお , 安全な新型原子炉であればよいという考 えもある。しかし , 安全性が高いとされる「受動 的安全システム」を搭載した第 3 世代原子炉は 世界において計画・建設中の原発の半数以下であ る。一方 , より安全だとされる第 4 世代原子炉 の商業化はまだまだ先である。 ( 4 ) 原発推進は温室効果ガス排出削減を実際にもた らしたか ? この問いに対する日本での答えはノーである。 現実として , 日本においては原発と石炭火力発電 は常に同時に建設・導入されてきた。すなわち , 原発と石炭火力発電は常にセットの技術であり , 原発が停止するなどした場合 , 石炭火力発電がバ ックアップとして使われた。その結果 , これまで 日本は , 1970 年以降 , 原発を推進しながら一貫 して石炭火力発電所を増設し C02 排出を増やし てきた。これは先進国の中では極めて特異的なパ ターンであり ( 安田 2015 ) , 事実上 , 日本政府は原 発推進に温暖化対策を「利用」しただけであった ことの証左でもある。 そうなった最大の理由は , 原発を推進する利益 集団も , 石炭火力発電を推進しようとする利益集 団も , 経済官庁 , 大手電力会社 , 大手重機メーカ , エネルギー多消費産業というまったく同じ組 織や企業だからである。このような「原子力・化 石燃料ムラ」の住人で互恵関係にある人々 , 特に 大手電力会社は , 総括原価方式のもとで原発や石 炭火力などの大規模集中型の発電システムを構築 して固定資産や電力販売量を最大化する経済的イ ンセンテイプをもっていた。同時に , 固定資産や 電力販売量を減少させるような省エネ・再生可能 エネルギーや炭素価格づけ ( 炭素税や排出量取引 ) など の導入に対しては強硬に反対してきた。 また , そもそもシステム全体を考慮した場合の 原発による C02 排出はゼロではない。ウラン採 掘などに付随する C02 排出などを考慮すれば天 然ガス火力発電の約 3 分の 1 になり (Mez 2016 ) , 残存量減少によってより大きなエネルギーがウラ 原発と地球温暖化問題との錯綜した関係科学 0723
( 1 ) 2 ℃目標達成に原発は技術的・経済的に優位で不 可欠か ? 温暖化対策という文脈での原発の技術的・経済 的な評価は , 国際社会全体で考える場合 , 具体的 には「産業革命以降の温度上昇を 2 ℃以内に抑 制するという国際的な目標 ( 2 ℃目標 ) を実施する上 で , エネルギー ミックスに原発を含めるべき か」「その場合に最も重要なポイントとなる原発 とその他の発電技術の費用やリスクの違いはどれ ほどか」「原発を他の発電技術で代替した場合に 2 ℃目標達成のための費用が大幅に上昇するか」 などの問題になる。 実は , これらの問いの比較的簡単な発電費用の 部分に対する答えは 2014 年に公表された「気候 変動に関する政府間パネル ( (I)CC ) 」の第 5 次評価 報告書 ( AR5 ) においてすでに出されている。 IPCC AR5 で対策や政策を検討する第三作業部会 ( WG3 ) 報告書では , 原発などの特定技術の有無による 2 ℃目標達成の費用の変化を定量的に示している。 そこでは , 原発をフェーズ・アウトした場合でも , 2 ℃目標達成の費用が大きく増大することはない ことカゞ示されている (IPCC AR5 WG3, Technical summary, p ・ Fig. TS13) 。その理由は , 「利用できる低炭素 の発電技術は複数あって互いに代替可能 ( 1PCCAR5 WG3 , Ch. 6 , p. 48 ) 」だからである。 IPCCAR5 の参照元となる論文の多くが執筆さ れた 3 ~ 4 年前とくらべて , 現在は再生可能エネ ルギーの発電費用が一層低減している。その一方 で , 原発の発電費用は確実に上昇している。たと えば , 最新の各発電工ネルギーの新設の場合の発 電費用を整理している Lazard(2015) は , 米国では 太陽光や風力発電の方が原子力や化石燃料よりも 大幅に安価であることを示している * 3 。しかも , この場合の原発の発電費用には , 政策費用や事故 * 3 ー英国ヒンクリーポイントの原発建設計画では , 現在 ( 2016 年 5 月 ) の電力卸売市場価格の 3 倍近い価格で英国政府が原発 からの電力を買い取る契約をしている。なお , 現在の日本の再 生可能エネルギーの発電システムコストは , モジュール価格や 建設費などの違いによって米国などに比べて数割程度高いのは 事実である。しかし , 数年で米国レベルになる可能性は極めて 高い。 費用 ( 事故収東費用 , 廃炉費用 , 損害賠償費用 , 地域再生費用 , 放射性廃棄物保管料 , 賠償保険料 ) などの社会的費用が十 分には考慮されていない。 そもそも原発は 2013 年時点での世界全体の電 カ消費量の 10.6 % , 最終エネルギー消費の 1.7 % を供給しているに過ぎない (IEA 2015 ) 。すなわち , たとえ原発をフェーズ・アウトしても , 代替可能 な低炭素発電技術やエネルギー源 ( 省エネを含む ) が 存在して費用増加も大きくならないというのが ( 原子力に特にこだわりの強い人々を除く ) 多くの科学者の 共通認識となっている。 なお , 既設の原発をもつ大手電力会社にとって , 限界発電費用 ( 主に燃料費 ) という観点から見れば , 原発の再稼働は経営上 , 合理的である。しかし , それはあくまでも電力会社の経営にとってであり , 日本や国際社会全体にとっての長期的な経済合理 性とは別問題であることには留意する必要がある。 また , 国際社会全体ではなくて一国で考えた場 合の「原発は技術的・経済的に不可欠」という議 論に対しては , エネルギー・シフトを進めながら 好調な経済を維持しているドイツ * 4 という反証か ある。すなわち , 国の意思と制度設計によって , 野心的な GHG 排出削減数値目標をもちながら原 発をフェーズ・アウトすることは可能である。逆 ドイツなどは野心的な目標をもっことによっ て省エネと再生可能エネルギーへの大規模投資を 正当化し , それによって国全体の経済成長や雇用 拡大を実現しつつあると言える。 ( 2 ) 原発固有のリスクである低頻度高被害をどう考 えるか ? 原発がもっリスクの特徴として , たとえ発電費 用が相対的に安価であり ( 実際にはすでに新設の場合は 高価なのだが ) , かつ事故確率が大きくないとしても , * 4 ードイツにおける GHG 排出削減目標は原発なしで 2030 年 に 55 % 削減 ( 1990 年比 ) である。これは原発ありの日本の目標 ( 2030 年に 1990 年比で 18 % 削減 ) に比べて 37 ポイントも野心 的である。また , 2015 年時点でのドイツでの再生可能エネル ギー関連の雇用者数は 36 万人であり原発関連の雇用者数 4 万 人をはるかに超えている ( REN212016 ) 。 原発と地球温暖化問題との錯綜した関係 科学 0721
④は , 温暖化対策に積極的に関わる世界および プロック博士 , 実業家ではビル・ゲイツ氏などが 日本のほとんどの研究者や市民団体の立場や考え いる。温暖化対策に積極的な人々 , 特に研究者の であり , 筆者もそうである。ただし , 2011 年 3 中では極めて少数派である。しかし , 彼らのよう な「著名人」の意見が世界の温暖化研究コミュニ 月 1 1 日に福島第一原発事故が起こる前には , 温 ティの代表的な意見と受け止めてしまっている 暖化対策を推進する研究者の多くが原発の問題に 人々が存在する。 ついて大きな声を挙げなかったのも事実である。 ②は , 温暖化対策というよりも , 局所的な問題 その意味では研究者が反省すべき点は多々ある。 であると同時に , 地球レベルの環境問題にもなっ また , 温暖化対策を進めてきた環境省も日本政府 ている大気汚染対策の必要性から原発が必要と考 の原発推進に対しては , 経済産業省が管轄するェ ネルギー行政にはロを出せないという理由もあっ える。温暖化問題に関しては懐疑的な場合が多い。 て事実上無抵抗に等しかった。そのため原発推進 日本では元 NHK ディレクターの池田信夫氏のよ と見なされたことは否定できず弁解もなかなか難 うな「著名人」がいる。 ③は , ①原発と化石燃料発電の両方を推進する しい。 日本政府 , 経団連 , 大手電力会社 , エネルギー多 ⑤は , 反原発ゆえの温暖化懐疑論であり , 特に 消費産業などのこれまでの主張であり , それは今 日本で長く脱原発運動に積極的に関わっていた 人々の一部にこのような考え方をもつ人たちが存 でも継続している。例えば , 2016 年 2 月にも東 北電力が女川原発再稼働のために「原発がないと 在する。作家・ジャーナリストの広瀬隆氏などで 二酸化炭素排出が増える」という趣旨のビラを原 あり , 反原発運動に積極的に関わっている人々だ けではなく一般市民に対しても大きな影響力をも 発の周囲 30 km 以内の人々のみに配布している。 つ。温暖化問題に懐疑的であるために , ④のよう 一方で , どの大手電力会社も既存の経営資産が活 用できる化石燃料発電を手離さない。②と③は , な考えをもつ人々とうまく協調できていない。 ⑥は , ③の日本政府や産業界などの主張に影響 化石燃料に関して本来は相容れない考え方である を受けていて , 脱原発と脱温暖化は二律背反だと はずなのに , それぞれを主張する人は重なってい る場合がある③のような考えをもつ人々は , 不 考えてしまっている。そのため , 素直に温暖化対 十分な定量的議論のもと , 脱原発と脱温暖化 , 脱 策のためには原発は必要と考えている。日本では 原発と経済発展 , 脱温暖化と経済発展のいすれも 少数の一般市民の考えである。 ⑦は , 同じく③の政府などの主張に影響を受け 二律背反の関係にあるとも主張する。日本政府の エネルギー基本計画 ( 2014 年 4 月閣議決定 ) などの政 ていて , 脱原発と脱温暖化だけではなく , 脱原発 府文書でしばしば言及される「 3 つの「 E 」 ( 安定供 と経済発展 , 脱温暖化と経済発展のいずれもが 給 , 経済効率性の向上 , 環境への適合 ) と 1 つの「 S 」 ( 安全 律背反だと考えてしまっている。すなわち , 脱原 性 ) ( = 3E + s ) のバランスが重要」という「標語」も , 発や脱温暖化が経済発展を阻害するのではという まさにこれらが二律背反の関係にあるというイメ 懸念をもつ。そして原発のリスクよりは温暖化の ージを一般市民に刷り込むための戦略的な言説だ リスクの方がましだと考える。おそらく日本では と言える * 多数の一般市民の考えであり , そのような論調は メディアでもしばしば見受けられる * 2 * 1 ー「 3E 十 S のバランス」というのはある意味では当たり前 であり , それ自体では何も本質的な意味をもたない。問題なの は「どのようなバランスか ? 」であり , 政府が主張する「理想 あり , かっその中の産業界関係者の割合や審議会での議論が 的なバランス」に対して日本のステーク・ホルダーの間で十分 「バランス」のとれたものとは思えない。 なコンセンサスがあるわけではない。少なくとも , 政策決定プ * 2 一例えば , 尾関章「脱温暖化。 r 脱原発 ? ならば後者をと ロセスの中で形式的には重要な役割をもつエネルギーや温暖化 る話」 ( 朝日新聞 Web Ronza, 2016 年 1 月 7 日 ) 。この文章の 問題関連の政府審議会などは , その委員のすべてが政府任命で 最後では「脱温暖化 and 脱原発」の可能性について触れてい 0 1 三 科学 0719 原発と地球温暖化問題との錯綜した関係
照射脆化 ) 補足説明資料」 ( 資料 1 + 5 ) 2 を提出し , 高経 年化技術評価の詳細説明を行った。その説明資料 は , 前報で問題にした破壊靭性データとその解析 をどのように行ったかのプロセスをある程度詳し く述べていると考えられる。 こで , 「考えられ る」としたのは , 肝心の記述がほとんど白抜きに なっていて , 中身がわからないからである。驚く べきことに , 「機密に係る事項」という名目で , 秘密にすべきでない安全に関わるデータや数値が 白抜きになっているのだ ( 詳しくは , 筒井哲郎 , 蝌学』 6 月号参照 3 ) 。 これらの問題をめぐって , 4 月 20 日 , 原子力 資料情報室と原発ゼロの会 ( 阿部知子議員事務所 ) の共 催で原子力規制庁ヒアリングをおこない , 質疑が 不十分に終わった点については再質問し , 5 月 12 日と 16 日に文書回答が届いた。また , 5 月 12 日の衆議院原子力問題調査特別委員会では , 菅直人議員が , ( I) 関電資料 1 ー 1 ー 5 の白抜き問題 , ( 2 ) 原子炉圧力容器破壊靭性評価の信頼性 , 3 監視規程を作成した日本電気協会の中立性・公開 性の 3 点について , 規制委員会に説明を求めた。 「白抜き」について 原子炉圧力容器の健全性を確認する破壊靭性評 価において重要なのは , 各回の監視試験における 破壊靭性値の生データと破壊靭性曲線の作成プロ セスである。前報 1 に詳しく書いたように , 美浜 2 号機などについては , 原子力安全・保安院時代 の「高経年化意見聴取会」で関西電力は , 監視試 験の生データをすべて公開し , 破壊靭性曲線の作 成プロセス図も示した * 1 。ところが , 高浜 1 , 2 * 1 ー阿部知子議員 ( 原発ゼロの会 ) の質問書に対し , 規制庁は , 「原子力安全・保安院時代に意見聴取会の資料として公開され ていた照射脆化関連データについては原子力規制委員会として は提出を受けていません。」と回答してきた。これは奇妙なこ とである。旧組織 ( 原子力委員会 , 原子力安全・保安院など ) の 資料はすべて原子力規制委員会が引き継いだはずである。当初 , 規制委員会のホームページ上にも載っていた意見聴取会などの 資料は , サイトの容量が不足になったなどという理由で , 2015 年 9 月 ( 発足から 3 年後 ) に削除されたとのことであるが , 電子 データとして規制庁が保管し活用していないとは考えにくい。 0644 KAGAKU Jul. 2016 VOL86 No. 7 号機についての対応する数値は完全に白抜きであ る ( 資料 1 ー 1 ー 5 , p. 34 , 35 ) 。この違いはなぜ生じたのか , 公開の原則が保安院時代より後退しているという ことはないのか , というのが菅直人議員の第一の 質問だった。 原子力規制委員会田中俊一委員長は , できるだ け公開するという原則には変わりない , セキュリ ティー関係や商業機密に当たるところは , 情報公 開法上不開示情報に該当するので公開しない , 資 料が極めて膨大なので事業者からの申請をベース に対応している , という趣旨の答弁を行った。そ れに対し , 菅直人議員は , 関電が企業秘密だから 公開できないと言ったら , はいそうですかと白抜 きにする , とても国民的には理解できない , と追 及した。田中委員長は , 「ご指摘の点 , 私も同意 できるところはありますので , ・・・・・・改善を図って いきたい」と答えた。 具体的に関西電力作成の説明資料 1 ー 1 ー 5 の白 抜き箇所を示しての追及に対しての回答であるか ら , この資料についての白抜き箇所の是非につい て規制庁が見直し , 当然ながら公開するものと期 待する。また , 一般論としての回答でもあるから , 事業者提出資料全般についても改善がなされなけ ればならない。 破壊靭性評価の信頼性 関西電力作成の「高浜 1 号炉高経年化技術評 価書 30 年目 ) 」に示されている運転開始 60 年後の 破壊靭性予測曲線と「同 ( 40 年目 ) 」の予測曲線と を比較すると , 両者の位置が著しく異なり , 40 そのようなことであれば , 原子力規制行政が歴史的スパンでの 思考を停止していることになる。あってはならないことである。 私たちが直接接する規制庁の若手職員たちがときとして歴史経 過を知らないという経験をするので , そうでないことを願う。 なお , この旧組織の資料 ( 高経年化技術評価に関する意見聴取 会 ( 第 13 回 , 2012 年 4 月 13 日 ) 資料 2 「関西電力 ( 株 ) 美浜発電 所 2 号炉の高経年化技術評価に関する照射脆化関連データ」 ) は 国立国会図書館によって収集・保存されており , 次のサイトで 閲覧できる : http: 〃 warp. da. ndl. go.jp/info:ndIjp/pid/9483636/ www.nsr.go.jp/archive/nisa/shingikai/800/30/013/240413. html
リーチ , そしてデータセンターも含まれる (walker 1998 ) 。ロードマップは計画の出資 / 実行者とし て , 一連の化石燃料事業団体 , 偽装団体 , 化石燃 料企業 , 自由市場シンクタンクを特定していた。 これらには以下の団体や企業が含まれる。 ・アメリカ石油協会 ( API) とその会員 ・ビジネス・ラウンドテープル ( 訳注 : アメリカの 有力な財界ロビー ) とその会員 ・エジソン電力協会とその会員 ・米国独立系石汕協会とその会員 ・米国鉱業協会とその会員 ・アメリカ立法交流評議会 ・ Committee for a Constructive T01 れ orrow ( 建設的 な明日のための評議会 ) ・ The Competitive Enterprise Institute()Æ争力のあ る企業協会 ) ・ Frontiers of Freedom ( 自由の開拓者たち ) ・ The Marshall lnstitute ( マーシャル研究所 ) API の今日 : いまだに不確実性を 焚き付ける 事業者団体は今日でも誤報を流す努力を続けて いる。例えば , API は 2002 年 10 月以来 , 確立 した気候科学を疑問視するカリキュラム教材を , アメリカ科学教育者協会を介して広める計画を実 行し , 「 CIassroom Energy! 」というウエプサイト をいまだに続けている。このサイトは , 幼稚園か ら高校までの教師のために授業計画と教材を提供 している (API 2002 ) 。その上 , ウェイーホック・ス ーン ( ドシェ 1 ) のような , 人間を原因とする気候変 動の科学的証拠の信憑性を傷つけようとする研究 をしてきたことが十分知られている科学者に , 資 金を提供した。 2009 年に API は , 「米国クリー ンエネルギー安・全保障法 (American Clean Energy and se- curityAct) 」を弱体化しようとした。この法律は , しばしばワックスマン・マーキー法と呼ばれ , 炭 素排出を規制しようとする連邦政府の重要な試み だった。 API は偽装団体を使って , ほば 20 の州 で「エネルギー市民」という , やらせ集会を開催 させた。集会は , かなりの市民が炭素排出規制に 反対であることを示唆するように企画されたが , 実際には反対者はほんのわずかだった ( Gerard2009 ; Talley 2009 ) 。「グリーンピース」にリークされた API のメモからは , API が BP, シエプロン , 工 クソンモービル , シェルなどの化石燃料企業の重 役たちに , 社員をやらせ集会に送り出すように求 めていたことか暴露された (center Media and De- mocracy 2012 ; Gerard 2009 ) 。 もっと最近の 2011 年に API は , アメリカ環境 保護庁 ( (I)A ) による , 大気浄化法の下で炭素汚染 を規制する決定に抗議し , 環境保護庁の地球温暖 化ガスを規制する権限に対して訴訟を起こす企業 グループに加わった。環境保護庁に対する API の訴訟は , まさしくこの事業者団体が気候科学に ついてそれまで何年にもわたってでっちあげよう としてきた疑惑にもとづいており , 次のように論 述している。「環境保護庁は , 『現在の地球温度の 異常な高さ』の原因が主として人為的な排出にあ ることは 90 から 99 % 確実であると公言してい るが , この温度記録はこのレベルの確実性をまっ たく一支手芋してし、なし、」 (Coalition for Responsible ReguIation, etal.,v. EPA2010 ) 。 欺瞞のドシェ 3 : 西部州石油協会の欺瞞キャンペーン 内部文書は , 大手化石燃料企業による気候保護 に関する欺瞞キャンペーンの重要な要因が , いわ ゆる「アストロターフィング ( 訳注 : 偽草の根運動 ) 」 組織の構築であったことを示している。気候変動 や再生可能エネルギーに関する前向きな政策に反 対する , 見せかけの草の根組織の構築である。 このような活動がもっともはっきり見られるの は , 2014 年に暴露された西部州石油協会 ( ) のプレゼンテーションである。 WSPA は合衆国 西部の石汕企業のためのトップロビイストで , 国 内でもっとも古い石油事業団体である ( 図 5 , 補遺 c 気候欺瞞のドシェ 科学 0701