そうだね」 「そ、つか : ジャックは、本をバッグにしま、つと、アニーにつづいて、なわばしごをおり かわぞ ひと みち 川沿いの道を、大ぜいの人が行きかっている だいじ 。その 長いスカ 1 トをはいた女の人、なにかを大事そうに持って歩く人 : くろふく しんぶ とお あいだを、子どもたちかかけ抜けていく 。黒い服を着た神父さんが通りすぎた。 、つまの あお 馬に乗った兵隊が、青いケープをはためかせてやってくる ほんひょうし ジャックとアニーは、本の表紙にのっているダ・ヴィンチの姿をさがしたが、 近くにそれらしい人は見あたらなかった。 「わたし、だれかに聞いてみるわ」 しようじよ こ、ん みち アニ 1 は、道ばたで花を売っている少女に声をかけた。 ひと 「あの、レオナルド・ダ・ヴィンチっていう人を知りませんか ? 」 とくい 花売りの少女は、得意げにこたえた。 ちか なが しようじよ ほん おお ひとみ おんなひと すがた
ダ・ヴィンチは、どこにもいない。見うしなってしまったのか : おんなひとかおだ りようがわまど とお 通りをはさんだ両側の窓から、女の人が顔を出して、おしゃべりしている こ、え 「あの、すみません」アニ 1 が、女の人に声をかけた。 とお 「いまここを、レオナルド・ダ・ヴィンチさんが通りませんでしたか ? 」 みぎがわまどおんなひと すると、右側の窓の女の人がこたえた。 かえ 「ああ、たったいま帰ってきたよ」 ひたりがわまどおんなひと つづいて、左側の窓の女の人が言った。 「レオナルドの屋敷は、この先だよ」 「どうもありかとう ! 」 やしきむ ジャックとアニーは、女の人が教えてくれた屋敷へ向かった。 たてもの その建物は、入口がアーチ形のトンネルになっていて、そこを抜けると、石 レ」 しろ、つま なかにわ 敷きの中庭になっている。中庭には、白い馬をつないだ馬車が止まっていた。 おく まどゅび ジャックが、奥の窓を指さして言った。 じ なかにわ い」り ) 、十っ やしき おんなひとおし さき おんなひと み ばしゃ ぬ 0 0 4 7
きよう、わ一」′、 きゅうでん 「これか、いま話したシニョ 1 リア宮殿だ。ここで、フィレンツェ共和国の政 い、り ) 、十っ じおこな 治が行われる。さあ、入口はこっちだ」 とびらあ ひろばめん ダ・ヴィンチは、広場に面した扉を開けて、中にはいっていった。 かいだん ろうかすす なかにわ 噴水のある小さな中庭から、階段をのばり、廊下を進む さき おお するとその先に、大きな木の扉があった。 ひら きよう . わ一」ノ \ ひょうど、力い だいひょうぎかいしつ 「ここは、共和国の評議会が開かれる大評議会室だ。一度に大ぜいの議員がはい よ ごひやくにんま れることから、〈五百人の間〉とも呼ばれている」 だいひょうぎかいしつ ダ・ヴィンチのあとについて、大評議会室にはいったジャックとアニーは、 あっと息をのんだ。 ごうかおおひろま おも ごひやくにん せんにん そこは、五百人どころか、千人ははいれるだろうと思われる、豪華な大広間 」じよう 学 / ししノ、、刀′ル だった。議場というより、まるで体育館のようだ。 さんよにんおとこひと 0 あしば 奥の壁にはりつくように木の足場が組まれ、その上で、三、四人の男の人が、 さぎよう なにやら作業をしていた。 ふんすい おくかべ とびら なか 、つえ いちどおお 0 ぎいん ・・・・ダ・ヴィンチ空を飛ぶ
「おお 1 ダ・ヴィンチは、ブドウ畑でブドウを摘んでいる人たちにも呼びかけたが、 かれ かお 彼らも顔をあげなかった。 ちじようひと そら ほんものとり きみようさんば 地上の人はだれも気づかないが、空を飛ぶ本物の鳥たちは、この奇妙な三羽 とりみ あっ の鳥を見つけ、鳴きながら集まってきた。 鳥たちは、三人のまわりを飛びまわり、「どこへ行くの ? 」「いっしょに行く くち よ」と、ロぐちに話しかけてくるよ、つだ〇 せんばう やがて、前方にフィレンツェの町並みが見えてきた。 ダ・ヴィンチ、ジャック、アニーの三人は、鳥たちといっしょにフィレンツ 亠まつじようノ、、つ じようへを」 工の城壁を越え、町の上空にはいっていった。 いろやね なみ つら さざ波のように連なるオレンジ色の屋根の上を しようろ、つ だいせいどう 大聖堂のド 1 ムと鐘楼の上を きゅうでんと、つ 、んんえか シニョーリア宮殿の塔の上を、円を描いて飛ぶ。 さんにん 、つえ 、つ、ん よこナ まちな さんにん うえ レトり・ ひと 1 1 4
「ああ、リザさま」ダ・ヴィンチは、馬車から飛びおりて言った。 「申しわけありません。すっかりお待たせしてしまいました 、刀学 / きぬ あたま 女の人は、頭にうすいべ 1 ルをかぶり、肩には絹のショ 1 ルをはおっている ちゃいろめ ちゃいろなが かみひろひたいおお こげ茶色の長い髪、広い額、大きな茶色い目。ジャックは、この女性をどこか おも おも で見たことがあると思ったが、どうしても思いだせない : 「すぐに用意します」ダ・ヴィンチは、家の中にはいっていった。 「どうぞごゆっくり。お待ちしていますから」リザと呼ばれた女の人が、落ち わら こ、ん ついた声でこたえた。だが、ほんとうに笑っていない。 ばしゃ おんなひとまえすす ジャックとアニーは、馬車からおり、女の人の前に進みでた。 じこしようかい 「こんにちは。わたしはアニ 1 です」と、アニ 1 が自己紹介した。 ジャックは、しどろもどろになりなから、 兄のジャックです」と言った。 「は、は、はじめまして : すると、女の人がにつこり笑ってこたえた。 ーも、つ おんなひと おんなひと しえなか おんなひと じよせい 129 ・・・・ダ・ヴィンチ空を飛ぶ
ひかり かお ダ・ヴィンチの顔がくもるのを見て、ジャックはあわてた。 A 」 き そら 空を飛んで、せつかく幸せな気もちになったのに、ここで、その人のゆうう まえ しあわ お かおみ つな顔を見たら、また落ちこんでしまうかもしれない。そうなる前に、〈幸せ み のひけっ〉のこたえを見つけてもらわないと : おも ジャックは、田 5 いきって聞いてみた。 を」よ、つ 「レオナルドさん。今日はいろいろあったし、モデルの人に来てもらうのは、 ひ またべつの日にしたらどうですか ? 」 を」よ、つ まえ やくそく こうせん 「それはだめだ。ずっと前から約東しているのだからね。それに今日は、光線 きんいろ ゅうがた じかん のぐあいか、とくにいいのだ。夕方のこの時間、うちの中庭にさしこむ金色の 、デ 、刀 りそうてき しようぞ、つカ 光と、その光がつくるやさしい影は、肖像画を描くには理想的なのだよ」 さんにん えなかにわ そうこうするうちに、三人を乗せた馬車は、ダ・ヴィンチの家の中庭へと、 はいっていった。 げんかんまえ わかおんなひと ふかみどりいろ 玄関の前に、深緑色のドレスを着た、若い女の人が立っていた。 ひかり しあわ の み き ばしゃ 0 なかにわ ひと ひと 1 28
やくごひやくねんまえ 「約五百年前のイタリアだ。フィレンツ工という都市だよ」テディがこたえた。 ごびやくねんまえ 「五百年前のイタリア ? ばくたちは、そこでなにをするの ? 」と、ジャック。 ひと きせきてんさい 「うん 〈奇跡の天才〉と呼ばれている人をたずねてほしい」 テディがそう言って、マントの下に持っていた一冊の本をさし出した。 ほんひょうし おとこひとえが 本の表紙には、ひとりの男の人が描かれていた なみう かみ むね くち ゆるやかに波打っ髪と、胸まで届く長いひげ。鼻は高く、ロもとはきゅっと むす まゆげ めひか 結ばれている。ゆたかな眉毛の下には、やさしげな目が光っている 本の題名は おも 「えつ、レオナルド・ダ・ヴィンチだって」思わす、ジャックがさけんだ。 ひと 「その人の名まえ、わたしも聞いたことがあるわ」と、アニ 1 れきしじよう 「そりゃあそうだよ ! 歴史上すごく有名な人だもの。ああ、ばくたち〈奇跡 の天才〉に会しし彳 、こ一丁くんだ ! 」ジャックは、早くも興奮している てんさい ほんだいめい レオナルド・ダ・ヴィンチ した とどなが ゅうめい ひと はや いっさつほん こうふん きせき
わとり おおぞら つばさゆうがひろ 翼を優雅に広げ、大空を飛ぶ鳥の姿が見たくて、マルコからなん羽も鳥を買い はなしてやっている。わしらは、似たものどうしだな」 わら 「そうね ! 」アニーは、うれしそうに笑った。 ジャックは、このやりとりを聞きなから、ひとり考えていた ( ようやくレオナルド・ダ・ヴィンチに会えたぞ。なんだかとても変わった人 、ちにち これから、ばくたちは、一日じゅ、つこの人につきそい、こ みたいだけど : ひとて の人の手つだいをしなければいけないんだ。それには、まず気に入ってもらわ ないと : : : ) えカお そこで、ジャックも、にこにこと笑顔をつくって自己紹介した。 「助けていただいて、ありかとうございます。ばくは、ジャックといいます こっちは妹のアニ 1 で、じつは、小鳥をはなしたのは : : : 」 しかし、ダ・ヴィンチは、ジャックをさ、んぎって、話しつづけた。 にんげん ものきようみ じっさい 「いや実際、わしは、生き物という生き物に興味がある。人間はもちろん、鳥、 たす いもうと もの とりすがたみ かんが じこしようかし ひと ひと ・・・・ダ・ヴィンチ空を飛ぶ
おも おも ふしぎだと思う気もち。そして、もっともっと新しいことを知りたいと思、つ気 もち。ど、つして ? しつ ? どこで ? なにが ? どうなっているのだろう ? ひと どうすればいいのだろう ? この人はどんな人だろう ? あの人はなにをした ぎもん いのだろ、つ ? とね。わしは、いつもそんな疑問をもっていた。そして、そのこ ひっし たえを、必死で考えてきた : : : 」 「ばくも、そ、つです ! ジャックは、なんだかうれしくなってさけんだ。 、刀子′ ダ・ヴィンチはりつづける。 あした はつけん おも 「明日はどんな発見があるだろうと思うと、朝がくるのが待ちどおしくなる あき ふゅ たの あたら つきあたら 新しい月、新しい年かくるのか楽しみになる。春が、夏が、秋が、冬か、待ち どおしくてたまらない : 「わたしも、そ、つよ ! 」と、アニーもさけんだ。 ま、んしつば、 かな おも 「新しいことをはじめようと思うと、その前の失敗も、悲しかったできごとも たの すっかりわすれて、わくわくと楽しい気もちになる ! 」と、ダ・ヴィンチ。 あたら カ / カ ひと あさ あたら はる なっ ひと 135 ・・・・ダ・ヴィンチ空を飛ぶ
「翼だ ! 翼だ ! 本物の鳥の翼だ ! 」 おかしやめんはし そう言って、丘の斜面を走りまわりはじめた。 おおぞら 「さあ、行きましよう ! 大空へ ! 」 ひとこと さんにんつばさひろ アニ 1 の一言で、三人は翼を広げ、大きく羽ばたきながら、一歩、二歩、三 歩と、助走した。 かんせんあし しゅんかんさんにん つぎの瞬間、三人のからだは、地面からふわりと浮きあがった。完全に足が と ちゅう 地面をはなれ、宙を飛んでいる。 おおぞらむ しよう ) け・ ふあんてい はじめのうちこそ、不安定にからだが上下したが、気がつくと、大空に向かっ て、ゆうゆうと羽ばたいていた。 「うおおお ごえ こうふん ダ・ヴィンチが、興奮してさけび声をあげた。 、かっ′ \ 、つ じようノ \ 、つ たっ やがて上空に達した三人は、羽ばたくのをやめ、風に乗って滑空しはじめた かせここち ほおをかすめる風が心地よい じめん つばさ じよそ、つ つはさ ほんものとりつばさ さんにん じめん おお 亠よ かせの つ さん 1 1 1 ・・・・ダ・ヴィンチ空を飛ふ