かお ひかり かおこ、っちょう ダ・ヴィンチの顔は紅潮していたが、目からは光が消えていた。顔にもから むすう きす だにも、無数のすり傷がある 、、、こ、ド ) よ、つぶ ? ・ 「レオナルドさん : かお アニーか、顔をのぞきこんで聞いた。 「 : : : だいじよ、つぶなものか : : : 」 こ、ん ダ・ヴィンチが、、つつろな声でこたえた。 「どこか、けがでも ? 」と、アニー むごんた ダ・ヴィンチは、無言で立ちあがった。それから、折れ曲がり、やぶれた翼 みお ふか をじっと見下ろしていたが、やがて深いため息をついて、つぶやいた。 ・ : ずたずたになっただけだ 「けがはない。 ばしゃ うなだれ、よろめきながら、馬車のほうへもどっていくダ・ヴィンチ。 ジャックとアニーは、だまってついていった。 ばしや、つま 馬車の馬が、主人をなぐさめるかのように、鼻を鳴らした。 しゅじん こころ こころ つばさ 105 ・・・・ダ・ヴィンチ空を飛ぶ
わら めいせい 人々はわしを笑い、わしをばかにするだろう。もはや、これまでの名声など、 かち カえ さあ、帰ってくれ ! 」 なんの価値もないー あまりのけんまくに、さすかのアニ ] もたじろいだ やく 「すみません 。ただ、お役に立ちたかっただけなんです : : : 」 ジャックとアニ 1 がその場を立ち去ろうとすると、ダ・ヴィンチが弱々しい こ、んよ 声で呼びとめた ま わる 「いや、待て : そんなつもりじゃなかったんだ。悪かった」 りようてかお ふか ジャックがふり返ると、ダ・ヴィンチは両手で顔をおおい、深いため息をつ かお へやまね いた。それから、ゆっくりと顔をあげ、ふたりを部屋に招き入れた。 さあ、はいってくれ」 「すまん : かお えがお アニーの顔に笑顔が浮かんだ。 へやあしふ ふたりは、レオナルド・ダ・ヴィンチの部屋に足を踏み入れた〇 ひとびと 0 0 かえ さ よわよわ 7
ジャックも聞いてみた。 さんねん しあ 「三年もかかっているのに、絵が仕上がらないから、おこっているのですか ? 」 なみた すると、リサは目をふせ、首を横にふった。涙をこらえているようだ。 、り・ゅ、つ 「でも : なにか、理由があるんでしよう ? 」と、アニ 1 かおみ リザは、ゆっくりと頭をあげ、ダ・ヴィンチの顔を見つめたまま、アニ 1 こたえて言った〇 「わたくしがほほえむのを、レオナルドが待っているのはわかっています。わ しあ たくしがほほえめば、レオナルドは、わたくしの笑みを描き入れ、絵を仕上げ しあ てしまうでしよう。そうして絵か仕上かれば、わたくしには用がなくなり、レ オナルドはわたくしのことなど、すぐにわすれてしまうでしよう : : : 」 おも リザの思いがけないこたえに、三人は、ことばを失ってしまった。 かお やかてダ・ヴィンチは、顔をリザに向けたまま、アニ 1 に言った。 あたま くびよこ さんにん うしな よ、つ 1 38
こ、ん アニ 1 はそう一一一一口うと、部屋の中のダ・ヴィンチに声をかけた。 「レオナルドさん」 おどろ ダ・ヴィンチが、驚いてふり向いた みけん ひょうじよう 眉間にしわをよせ、ひどくふきげんな表情をしている。ジャックたちを見る かお と、さらに顔をしかめて言った。 「なんだー なんの用だ ! 」 アニ 1 が、バスケットをさし出して言った。 とど 「これをおいていかれたので、届けに来たの : : : 」 「おお、そうか : : : 」ダ・ヴィンチのしかめ面が、すこしゆるんだ。 「それは、ありかとう。そこの、ドアの横においといてくれ」 アニーは、バスケットをドアの横におくと、ダ・ヴィンチを見つめた。 「レオナルドさん : わたしたち、あなたの助けになりたいんです」 かお すると、ダ・ヴィンチはふたたび顔をゆがめ、ふきげんにどなり散らした。 よ、つ へやなか よこ つら たす 6
よ、つひし 「ということはーーー」ジャックが、羊皮紙を見つめながら言った。 かれて 「ばくたちは、レオナルド・ダ・ヴィンチに一日じゅうつきそって、彼の手つ だいをすれば、夜までに〈幸せのひけっ〉を見つけられるんだね ? 」 「ええ、きっと、そ、つね」と、キャスリ 1 ンか、つなずいた。 かお ふあん 「でも : : : 」アニ 1 が、不安そうな顔でつぶやく こんかい ンは、今回もいっしょに行かれないんでしよう ? 」 「テディとキャスリ あたま テディが、頭をかきなから言った。 「うん。ばくたちは、まだ、モ 1 ガン先生の手つだいでいそがしいんだ」 キャスリーンか、はげますよ、つに一一一口、つ 「アニー、わたしたちがいなくても、だいじようぶよ。あなたたちにはディア ントスの杖があるじゃない」 かお それを聞いて、アニ 1 がはっと顔をあげた。 っえも 「あ、お兄ちゃん、杖を持ってきたに」 っえ よる しあわ せんせい み み て いちにち ダ・ヴィンチ空を飛ぶ
った リザさまに伝えておくれ。もしリサさまがほほえんだら、レオ しあ ナルドはただちにリサさまの笑みを描き入れ、絵を仕上げるだろうと。だが、 しあ やしきとど 絵が仕上がっても、お屋敷に届けることはせす、生涯レオナルドが持ちつづけ るだろ、つと。そして、リサさまのことは、けっしてわすれない 、と」 った アニ 1 かそれを伝えようとすると、リザが言った。 「わたくしにも、聞こえましたわ」 ひろ かお つぎの瞬間 リサの顔にほほえみか広かった。 くち きんいろ それは、ロもとがわずかにあがっただけの、かすかな笑みだったが、金色の かお 夕日に照らされたリザの顔は、神々しいほどに輝いて見えた。 、かんい」、つお、も , も ! 」ダ・ヴィンチが、感動の面持ちでつぶやいた 「おお : そのまま そのままでいてください ! 」 「すばらしい ダ・ヴィンチは、筆に絵の具をつけるときも、リサから目をはなさなかった。 「そのほほえみを、くずさないでください、モナ・リサ ! 」 ゅうひ しゅんかん ふで こ、つご、つ カカや しよう、力し 139 ・・・・ダ・ヴィンチ空を飛ぶ
かお こんなにやさしい天使は、はじめて見たわ」 「なんていい顔 : かんたんこえ アニ 1 が感嘆の声をあげた。 じしん みなお だか、絵を見直したダ・ヴィンチは、急に自信をなくしたように言った。 しや、ちかうかもしれん。どうも鼻がちかうような気かする」 「うーん : そして、スケッチブックからそのペ 1 ジをやぶり、ふたりにさし出した。 りそうてんし 「これは、きみたちにあげよう。理想の天使のモデルは、もうすこしさかすこ とにする」 「えつ、ほんとう ? あ、ありかとうございます ! 」 ジャックは、スケッチを受けとると、本のペ 1 ジにはさんで、バッグの中に しまった。 「理想のモデルをさがすのはむずかしいこのあいだは、聖母マリアにびった かたち ・け・つきよく はんにち かおみ りの顔を見つけて、半日あとをつけたが、結局あごの形がだめだった」 「はあ : : : 」ジャックは、なんと言ってよいか、わからなかった。 きゅう てんし ほん なか ・・・・ダ・ヴィンチ空を飛ぶ
りよう、つ「、 大空へ ! 「レオナルドさん、さあ、目をつぶって ! 」 さいしょ ダ・ヴィンチは、最初、首を横にふっていたが、アニ 1 になんども言われて、 りようてかお しかたなく両手に顔をうずめた。 「レオナルドさん、目をつぶったままで聞いて。今朝、あなたはわたしたちに、 しん がかひつよう み、、つ第、、つりよく 『真に偉大な画家に必要なのは想像力だ』と、おっしやったわ」 くび 、つご ダ・ヴィンチの首が、わすかに動いた。 そ、つぞ、つじよう そうぞ、つぶぶん 「これからおこることは、その想像の部分ーー本 . イ 目 5 象上のできごとよ」 っえたか おおごえじゅもん それからアニ 1 は、杖を高くかかげ、大声で呪文をとなえた。 とり・つばさ 「ディアントスの杖よ ! わたしたちに鳥の翼をください ! 」 かお そのとたん、顔をおおっていたダ・ヴィンチの両手が、ジャックとアニーの さゆ、つ 両腕が、左右にのびていった。 し学 / し おおぞら っえ め め くびよこ りよう一、 109 ・・・・ダ・ヴィンチ空を飛ぶ
ひかり かお ダ・ヴィンチの顔がくもるのを見て、ジャックはあわてた。 A 」 き そら 空を飛んで、せつかく幸せな気もちになったのに、ここで、その人のゆうう まえ しあわ お かおみ つな顔を見たら、また落ちこんでしまうかもしれない。そうなる前に、〈幸せ み のひけっ〉のこたえを見つけてもらわないと : おも ジャックは、田 5 いきって聞いてみた。 を」よ、つ 「レオナルドさん。今日はいろいろあったし、モデルの人に来てもらうのは、 ひ またべつの日にしたらどうですか ? 」 を」よ、つ まえ やくそく こうせん 「それはだめだ。ずっと前から約東しているのだからね。それに今日は、光線 きんいろ ゅうがた じかん のぐあいか、とくにいいのだ。夕方のこの時間、うちの中庭にさしこむ金色の 、デ 、刀 りそうてき しようぞ、つカ 光と、その光がつくるやさしい影は、肖像画を描くには理想的なのだよ」 さんにん えなかにわ そうこうするうちに、三人を乗せた馬車は、ダ・ヴィンチの家の中庭へと、 はいっていった。 げんかんまえ わかおんなひと ふかみどりいろ 玄関の前に、深緑色のドレスを着た、若い女の人が立っていた。 ひかり しあわ の み き ばしゃ 0 なかにわ ひと ひと 1 28
「その気もち、なんとなくわかります」と、ジャックが言、つと、 「それだけではない」と、ダ・ヴィンチはため息をついた。 じぶんさくひんまんぞく かんせい おも 「わしは、自分の作品に満足したことがない。 ついに完成させたと思っても、 いや、もっとああしよう、こうしよ、つと、手を入れつづけてしま、つ : : : 」 へやなか そこで、部屋の中をぐるりと見まわす。 「おまけに、わしは、やりたいことがありすぎるのだ。それで、いつも時間が たりなくなってしまう」 「たとえば、どんなことを ? 」と、アニ 1 「そりゃあ、たくさんある」 さら へや ダ・ヴィンチは、ヾ ノンを皿におくと、立ちあがって部屋のすみへ行った。 あ それから、そこにおいてある木のトランクのふたを開け、しばらく中をのぞ かお していたが、 顔をあげて言った。 み て なか じかん 4 8