「早く、海へ遊びに行きましようよ ! 」 アニーは、さっさとスニーカ 1 とくっ下をぬいで、はだしになった。 あそ しあわ 「おいおい、アニー。ばくたちは、ここへ遊びに来たんじゃない。〈幸せのひ けっ〉をさがしに来たんだよ」 あそ さいこ、つしあわ 「さっきも言ったでしよう ? 海にはいって遊ぶことは、わたしの最高の幸せ み なの ! だからもう〈幸せのひけっ〉は、見つかったもおんなじよー そう一一一一口うと、アニ 1 は、鼻歌まじりで、なわばしごをおりていってしまった。 ジャックは、はあ、とため息をついた。 うみ あそ ( 海にはいって遊ぶことが〈幸せのひけっ〉 そんなわけないだろう ) ひら としよかんか ほん 心のなかでそうつぶやきながら、リュックを開き、図書館で借りてきた本を 出し、かわりに『深海探険』の本を入れる。 「お兄ちゃ 1 ん、早くう ! 」 よ 木の下から、アニーが呼んでいる こころ はや した うみあそ しんかいたんけん はや しあわ はなうた しあわ うみ ほん 0 した 6 2
、だいじよ、つぶじゃない・ ( ば / は : ジャックは、心のなかでつぶやいた なみ 波がますます高くなり、小さなホートは、あがったりさかったりする 「ジェットコ 1 スタ 1 みたい ! 」と、アニ 1 がはしゃいだ。 じよう丿 ジャックは、それどころではなかった。ボ 1 トが上下するたびに、からだも 、つ 浮きあがったり落ちたりして、胃の中のものを吐き出しそうになる てまえ じぶん ふねみ だが、自分から「船を見たい」と言った手前、ここで吐いては、面目がたた めまえ とくに、ジョ 1 やトミ ] の目の前で、ぶざまなまねはしたくなかった。 ジャックは、リュックをぎゅっとっかみ、目を閉じ、歯をくいしばって、こ みあげてくる吐き気をのみこんだ。 はんせん ヘンリーが巾月 凡裔のほうを見て言った。 ごよ、つ 「もう、ドレッジを引きあげはじめている。今日は、なかなか順調のようだな」 「たいへんな作業なの ? 」と、アニーがたすねる 当、ぎよう こころ なか は じゅんちょう めんばく ・・・・巨大ダコと海の神秘
からだしす それだけ言うと、大ダコは、ふたたび、水中に体を沈めた。 こ、んた かんばんにんげん 甲板の人間たちは、だれひとり、声も出せない。 こ、ん ちんもく おもくる 重苦しい沈黙をやぶって、アニ 1 の声がひびいた。 「みんな、聞いたでしよう ? あのタコは、こう言ったわ。 かえ ぶつ 物じゃないうちへ帰りたい』って」 かおみあ のりくみいん 乗組員たちは、顔を見合わせた。 「たしかに、そう言った。おれは、聞いたぞ」と、ひとりが言った。 のりくみいん 「おれにも、聞こえた」と、べつの乗組員も言った。 「おれも、聞いた」 「おれもだ」 くちぐち みんなか、口々に言いはじめた。 うみぬし 「あいつは、海の主かもしれない・ しんび 「これは、神秘だー おお すいちゅう 、刀し 『ばくは、屋 1 36
こ、ん じぶんこころ みみかたむ 「自分の心の声に、よく耳を傾けてね。そうすれば、まちかうことはないわ くわ と、キャスリ 1 ンもつけ加えた。 しあわ 「ええ。かならす〈幸せのひけっ〉を見つけてくるから、待っててねー げんき アニーが元気よく言った。 しんかいたんけん ほんうえゅび じゅもん ジャックが、『深海探険』の本の上に指をおき、呪文のことばを言おうとし ひか いっしゅんあか たそのとき、ピカッといなずまが光り、あたりか一瞬明るくなった。 「ここへ行きたい ! 」 らいめい そのとたん、ゴロゴロゴロッ ! と、雷鳴がとどろいた とっぜん、風が強くなり、ツリーハウスが急に回転をはじめた。 かいてん 回転は、どんどんはやくなる おも ジャックは、思わす目をつぶった。 しず やかて、なにもかもが止まって、静かになった。 なにも聞こえない かせつよ きゅう かいてん
こ、んき そのとき、アニ 1 の声が聞こえた。 「お兄ちゃん : 、つ ちゅう かえ ふり返ると、アニ 1 のからだも、宙に浮いていた。 あんしん ばあい よかった ! 」だが、安心している場合ではない。 「あ、あ : ころ はや お化けダコに殺される ! 早く逃げようー ひっし ジャックはそう一一一一口うと、必死で、タコの足にパンチした。 すると、アニーがさけんだ。 「お兄ちゃん、やめて ! このタコは、わたしたちを助けてくれたのよ ! 」 「なに言ってるんだー ばくたち、お化けダコにつかまってるんだぞ ! こい あくま にんげんうみそこ つは : こいつは、人間を海の底に引きすりこむ、悪魔なんだ ! 」 み 「ちがうわ ! よく見て、お兄ちゃん ! このタコは、わたしたちを、水中か ら引きあげてくれたの ! 」 「な、なんだって : ひ ひ あし たす すいちゅう 109 ・・・・・巨大ダコと海の神秘
、かい第、 / 、 「お、お兄ちゃん、あのときとおんなじよ。海賊のキャプテン・ボ 1 ンズが、 てした 手下のピンキーとスティンキーを連れて、もどってきたんじゃ : 「アニー、逃げよ、つ ! 」 すなはま みす ノヤックよ、ヾ シャパシャと水をはねながら、少浜にあがった。 うみ アニ 1 も、いそいで海からあがり、おろおろと言った。 「どうしよう、お兄ちゃん。どこへかくれる ? 」 ハウスに決まってるよ ! 」 「ツリ 1 ジャックは、リュックの中に本をつつこみ、スニーカーとくっ下をつかむと、 さきゅう 砂丘のほうへ走っていく〇 「でも、海賊には、ツリ 1 ハウスか見えるのよ ! あのときだって、ピンキー とスティンキーは、なわばしごをのばって : : : 」 アニ 1 が、ジャックのあとを追いかけながら一一一口う 「いいから、とにかく、ここから逃げるんだ ! 」 なか ほん した ・・・・巨大ダコと海の神秘
うみかいぶつ 「みんなが話していた海の屋物は、、 しなかったみたいね」と、アニー を一 きようじゅ まがお かえ それを聞きつけたトムソン教授が、真顔でふり返って言った。 医」よ、つ 「そうだな 今日はかからなかったが、 いっかかならず、つかまえる」 そこで、ジャックがたずねた。 きようじゅ かいぶつ おも 「トムソン教授は、この海に、ほんとうに屋物かいると思っているのですか ? 」 きようじゅ 教授は、すこし考えてから、こうこたえた。 ちきゅう ひょうめんよんぶんさんちか 、つみ うみひろ ふか これまでも、われわ 「地球の表面の四分の三近くは、海だ。海は広くて深い。 ものはつけん はつけん れは、たくさんの生き物を発見してきたが、まだ発見されていない生き物が、 そ、つぞう かいぶつ あとどのくらいいるかは、想像もっかない。 とすれば、どこかに屋物のような ひてい かのうせい ものかいてもおかしくはないだろう ? わしは、その可能性を否定しない」 おも ( たしかにそうだ ) と、ジャックは心のなかで思った。 きようじゅ 「だか おそれる必要はない」と、教授はつづけた。 むち きようふ おも 「恐布は、無知から生じる。正体がわからないから、おそろしいと思うのだ。 0 かんが しよう ひつよう 、つみ しようたい こころ 0 もの 0
じぶんあっ かん みんなの視線が、自分に集まっているのを感じる。 かおま こ、ん ジャックは、顔を真っ赤にして、消え入りそうな声で言った。 「ゴホ : 、す、すみません : : : 」 いっき 「ほっほっほ : すつばいライム・ジュ 1 スを、一気に飲もうとしたんだろ 、つ ? わしらはいつも、こうしてすこしずつ飲むんだよ」 きようじゅ そう言って、トムソン教授が、コップのジュースをすすってみせた。 「どうして、すつばいライム・ジュースを飲むの ? 」と、アニ 1 がたずねる。 びよう」 かいけっぴょう 「ビタミン O をとるためだよ。ビタミン O が不足すると、壊血病という病気に かかり、からだが弱くなるんだ。歯ぐきから出血して、そのうち、歯が抜けた さいあく ばあい いのちお り、最悪の場合は、命を落とすこともある : : : 」 「ええつ、ライム・ジュ 1 スを飲まないと、死んじゃうの ? 」 おおごえだ わら せつめい アニーが、驚いて大声を出したので、ヘンリ 1 、 か笑って説明した。 くだものた しんせんやさい 「いや、新鮮な野菜や果物を食べていれば、そんなことにはならない。でも、 しせん おどろ よわ ふそく しゆっけっ
およ おき 「お兄ちゃん、もっと沖のほうへ、泳いでいってみましようよ。もしかしたら、 したしんかい しあわ 〈幸せのひけっ〉は、その下の深海にあるのかもしれないわ」 しんかい もんだい 「問題はそれだ。もし〈幸せのひけっ〉が深海にあるのだとしたら、ばくたち、 せんすいてい 潜水艇もないのに、どうすればいいんだろう : : : 」 へんしん つか 「ディアントスの杖を使って、アザラシか魚に変身すれば ? 」 しんかいおよすかたそうぞう じぶんさかな ジャックは、目をつぶり、自分が魚になって深海を泳ぐ姿を想像してみた。 くら みす あたりは真っ暗で、なにも見えない。水はつめたく、押しつぶされそうなほ くちあ もの ぶきみ くらやみなか ど重い。とっぜん、暗闇の中から、不気味な生き物が、大きな口を開けて : はっ ! と目を開けて、身ぶるいする みつ そういえば、〈三つのルール〉のことをわすれていた 「だめだめ ! ディアントスの杖は、やれるだけのことをやってからでないと、 つか 使えないんだ。ばくたち、まだ、なにもやってないじゃないか ! 」 おも っえ しあわ っえ さかな おお
なが 、つふ 長い航海中は、それがむずかしい。それで、ビタミン O が豊富なライム・ジュ 1 スを飲んで、おぎなっているんだよ」 くち しかし、ジャックは、もうなにも口にする気になれなかった。食べ物を見る だけで、吐き気がする。とくに、ピクルスのにおいはたまらない。 ふね そのうえ、船のゆれか、ますますひどくなってきた。 ジャックは、ヘンリ 1 にそっとささやいた。 あら なみ 、荒くなってきたんじゃないですか」 「 : : : な、なんだか、波が 「そう言われればそうだな」 ヘンリーが、天井でゆれるオイル・ランプに、目を向けたときだった。 さら 、つ、ん ふねおお とっぜん、船が大きく傾いて、テープルの上のコップや皿が、ガラガラとす べり落ちた。 「きゃあああっ ! 」 おも アニ 1 が、思わず、ジャックの腕にしがみつく。 こ、つ力いちゅう てんじよう かたむ 、つで もの ・・・・・巨大ダコと海の神秘