はんせん 「それじゃ、あの帆船は、世界じゅうの海を、はじめてくわしく調べてまわっ おも と田 5 、つよ、つになっていた。 や海底の状態を、もっとくわしく調べたい、 、刀つ、刀い うみたんけんちょうさ せいふきようりよく そこで、イギリスの学会と政府が協力し、世界の海を探険調査するという、 大事業を行うことになったのである。 ご、つ ぐんかん ほんかくてき 力いよ、っちょうさ 、かい第 : っ 軍艦のチャレンジャ 1 号は、本格的な海洋調査ができるように改造され、 ろくにんけんきゅうしゃ 力いぐんしかんすいへいやくにひやくよんじゅうにんの 六人の研究者のほか、海軍士官と水兵約二百四十人を乗せて、一八七二年 ねん にイギリスを出発した。そして、一八七六年まで、およそ三年半をかけて、 たいようたんけんちょうさ 北極海をのぞく世界のすべての大洋を探険調査し、帰国した。 おお しんかい 力、か′、て」 かいめし しん この調査で、多くの深海のなぞが科学的に解明され、まちがって信じられ しんじつあき ていたことも、真実が明らかになった。 げんざい 力いようカくちしきおお ご、っちょうさけつか 現在の海洋学の知識の多くは、このチャレンジャ 1 号の調査結果がもとに なっている。 つきよく、かし だいじぎようおこな かいてい ちょうさ じようたい しゆっぱっ せかい せかい しら 、つみ せかい さんねんはん しら ねん ・・・・・巨大ダコと海の神秘
ちょうさ 「あの、それで、どんな調査をしているんですか ? 」 き一よ、り - ふか ふね すいおん かいすいせいぶんしら 「船を一定の距離ごとに止め、海底までの深さや、水温や、海水の成分を調べ 、刀いりゅう る。海流や、海中の生物や、海底がどんなふうになっているか、などもね」 「そ、それで、これまでに、どんなことがわかったんですか ? 」 たいようひかり せいか 「そうだな。たくさんの成果があったが、いちばんの発見は、太陽の光も届か くら うみそこ ものほ、つこ ぬ、真っ暗でつめたい海の底が、じつは、生き物の宝庫だったということかな」 おも 「いままでは、そう思われていなかったの ? 」と、アニ 1 しん しんかい せいぶつ つうせつ というのが通説だった。いまでも、信じな 「ああ。深海には生物などいない、 うみそこ おも い人はたくさんいる。海は底なしだと思っている人もいるくらいだよ」 「ふ、つん : : : 」 うみなか ふか しんしゅせいぶつ 「しかし、わたしたちは、深い海の中で、すでになん千種という新種の生物を はつけん すいおんか ふか 発見した。それから、海は、ある深さまでいくと、一年じゅう水温が変わらな し A 」い、つこ A 」 A 」か : ・・ : 」 ひと かいちゅうせいぶつ 、つみ かいてい 力いてし ひと せんしゅ いちねん はつけん A 」ど ・・・・・巨大ダコと海の神秘
ふね 医」よ、か ぶがいしゃ 「モーズリ 1 先生 ! この船に、わたしの許可なく部外者を立ち入らせること きそくいはん たいきょ は、規則違反ですぞ。ただちに退去させていただきたい ! 」 かんちょう たんけんちょうさ 「ですが、艦長。この生き物 : いえ、子どもたちは、わたしたちの探険調査 きようみ ふね み に、とても興味をもっているので、船をひとまわり見せてやりたいのです」 きそく きそく かんちょう 0 「規則は規則守っていただきましよう ! 」と、艦長がきびしくこたえる まえすすで そこでアニ 1 が、がまんできすに、前へ進み出た。 わる ふねけんがく 「ヘンリ 1 さんが悪いんじゃありません ! わたしたちが、船を見学させてく ださいって、おねがいしたんです」 きようじゅめ 「ほう・ : : ・」トムソン教授の目が、キラリと療った。 たんけんちょうさ きよう - み 「なぜ、そんなに、探険調査に興味があるのかね ? 」 し うみだいす うみ 「海が大好きで、海のことを、もっと知りたいの」と、アニ 1 が一一「ロうと、 し ちょうさ しんかい 「どうやって深海を調査するのか、知りたいからです」と、ジャックも言った。 きようじゅ ひょうじよう あか すると、教授の表情が、ばっと明るくなった。 せんせい もの か ・・・・・巨大ダコと海の神秘
だいだいてきちょうさ ようになっているのかを、大々的に調査することにしたのだよ ! 」 きようじゅ 教授は、ひと息入れて、つづけた。 ちょうさ 「これほど徹底した調査は、、 しまだかって行われたことがない。われわれは、 やく 一、い、はノ ふか すいおんかいすいせいぶん 約三〇〇キロメートルごとに停泊して、海底までの深さ、水温、海水の成分、 しら しおむ せいぶっさいしゅう 潮の向きや速さなどを調べておる。また、ドレッジを引いて生物を採集し、そ ぶんせき じよう、を一、か′ル ふねはんせん っ かぜなが れを分析する。この船は帆船だが、蒸気機関も積んでおる。風で流されては、 せいかくそくてい しようききかんちからひ 正確な測定ができぬのでな。そういうときは、蒸気機関のカで引きもどすのだ。 さいしゅう おお 。こが、子どもたちょー なんといっても大きな成果は、ドレッジ採集によ しんしゅせいぶつはつけん って、なん千もの新種の生物を発見してきたことだ ! 」 くち だが、そこで、艦長が口をはさんだ。 きようじゅ こんかい たんけんちょうさ 「トムソン教授。今回の探険調査が、すばらしい成果をあげていることは、疑 まえ てんこうあっか かえ いようもありませんが、この子どもたちは、天候が悪化する前に、島へ帰して いただきたい。 いますぐに、です ! 」 せん てってい はや し一し かんちょう おこな かいてし せいか せいか ・・・・・巨大ダコと海の神秘
だいす が大好きになったそうです しゅうり レ」、つ ごう お さがみわん せとないかし 修理を終えたチャレンジャー号は、相模湾から瀬戸内海へと移動しながら、 ちょうさ なんたん につほんきんかい たいへいようおうたん 日本の近海を調査したあと、太平洋を横断し、南アメリカ南端のマゼラン海峡 しゅ「こ、つ とお さんねんはんご きかん を通って、出航から三年半後の一八七六年五月、イギリスに帰還しました。 チャレンジャー号の苦労 ご、つ チャレンジャ 1 号は、出航した直後から大しけにあい、クリスマスのごちそ レ」 ちゅう けんきゅうしゃ ふなよ ふなで うは宙を飛び、研究者たちは船酔いし、たいへんな船出となりました。 ひ いちじかん しす また、ドレッジは、重りをつけて二千メ 1 トル沈めるのに一時間かかり、引 しよう」 さんじかん すいしんちょうさ きあげるには、蒸気工ンジンを使っても三時間かかりました。水深調査やドレ さぎよう のりくみいん ふねか ッジ作業があまりにもたいへんなので、いたすらな乗組員が、船で飼っていた きようド ) ゅ とど オウムに、「トムソン教授 ! 四千メ 1 トルおろしましたが、まだ海底に届き おは ません ! 」とい、つことばを、覚えさせたりしたそ、つです。 ちょうさ きよりすす ひろ すす 航海は、一定の距離を進んでは帆をたたんで調査し、また帆を広げて進むと 一」、つ力し ′、ろ、つ おも しゆっこ、つ 0 つか ちよくご ねんごがっ おお みなみ かいてい ・刀いきよう 1 56
お話のふろく , ーー巨大ダコと海の神秘 しんかろん ダーウインの〈進化論〉と、フォーブズの〈無生物帯説〉 ご、つ まえ たんけんよんじゅうねん チャレンジャー号の探険の四十年ほど前、イギリス人のチャールス・ダーウィ ご、つ たんけんちょうさ さんか ンは、ビ 1 グル号による世界一周の探険調査に参加し、めすらしい動物や昆虫 ひょうほん きこくご あっ せいぶつ の標本を、たくさん集めました。帰国後、「すべての生物は、ごくかんたんな しゆるい せいぶつ すこ かんきようてきおう へんか 生物から少しずつ変化し、環境に適応したものが生き残って、さまざまな種類 えだわ はっぴょう しんかろん ・刀し一、し に枝分かれした」という〈進化論〉を発表しました。そのなかで、「海底の生 ぶつ かせき 0 物は、陸では化石になってしまったものばかりだ」と進べています じん 一方、やはりイギリス人のエドワード・フォーブスは、ドレッジ調査から、 うみふか せいぶっしゆるい すいしん 海が深くなるにつれて生物の種類が減ることに気づき、「水深六〇〇メートル しゅちょう せいぶっそんざい むせいぶったいせつ 以上の海には、生物は存在しない」という〈無生物帯説〉を主張しました。 と せつぎもん チャールズ・トムソン教授は、こ、つした説 ( こ疑問をもち、海のなぞを解くた ご、つ たんけんちょうさ めに、チャレンジャー号による探険調査を計画したのです はなし しよう つほ、つ うみ きょだい きようじゅ せかいいっしゅう うみしんび へ むせいぶったいせつ じん のこ 0 うみ どうぶつ ちょうさ こんちゅう 154
きょだい さぎよう じみち しこ AJ か いう、地道な作業のくり返しでした。そのため、ネアース艦長は、い、 のりくみいん あるとワインをふるまうなど、乗組員がいやにならないよう、気を配りました。 たんけんちょうさせいか 探険調査の成果 ) 」、っちょうさ けつか 、んカ せかい 、つみかいていちす チャレンジャー号の調査の結果、世界の海の海底地図が、ほば描けるまでに ひょうほん はつけん やくいちまんさんぜんしゅ なりました。集めた動植物の標本は、約一万三千種。そのうち、はじめて発見 じよう よんせんしゅ ふか せいぶっそんざい されたものが、四千種以上ありました。また、どんなに深い海にも生物が存在 ふか せいぶっそんざい すること、たとえ離れた海域でも、おなじ深さにはおなじような生物が存在す じゅうよ、つ 、か′にん ることなど、重要なことが確認されました。 巨大ダコ きろく これまでに、体長九メートルのミズダコが発見された、という記録が残って こ、つきしんつよ にんげん 廿一い・か′、 います。ミズダコは、好奇心が強いものの、おとなしい性格で、人間をおそっ きろく たという記録はないようです。 あっ たいちょう どうしよくぶつ ・刀しし かえ はつけん かんちょう 、つみ のこ 157
りそうてき 「それなら、このチャレンジャ 1 号は、もっとも理想的な場所だ ! あ ちょうさ あ、申しおくれた。わしは、この調査を指揮しているトムソンだ」 0 ヘンリ 1 が、あわてて紹介する きようじゅ たんけんちょうさ こんかい はくぶつがくしゃ せかい 「トムソン教授は、偉大な博物学者で、今回、世界ではじめての探険調査を、 じよおうねっしんていあん ビクトリア女王に熱、いに提案した方なんだよ」 む 「そうなんですか : : : 」ジャックとアニ 1 が、尊敬のまなざしを向けると、 「ほっほっほ : まあ、そんなことはどうでもいい」と、けんそんしながら、 きようじゅ りようておやゅび へストのポケットに両手の親指をつつこんで話しはじめた。 教授は、。 りくち しんかい 廿一い、かノ、 、り , 、刀し 「われわれ人類は、陸地については、かなり正確に理解しているが、深海は、 かくち なが 長いあいだ、なぞにつつまれたままであった。 いや、すでに、各地からさ ふちゃく りようしあみ せいぶつ まざまな報告が届いてはいたのだ。海底ケープルに付着した生物、漁師の網に みち きようみ だんべんてきじようほう かかった未知の生き物など、だ。そうした断片的な情報が、われわれの興味を せかい うみ うみ せいぶつ せかい かきたてた。そこで、世界の海にはどんな生物がいるのか、世界の海は、どの ーも、つ じんるい ェイチエムエス もの し学ノし しよう、力い かいてい そんけい 4 7
「わたしたち、家ではいつも、『なんにでも興味をもちなさい』って言われて いるの ! 」と、アニーも一言、つ。 ちょうさ 「ばくたち、けっして、調査のじゃまはしませんから ! 」 か、ん 1 か、ジョーとトミ 1 をふり返った。 ふたりのことばを聞いて、ヘンリ こ、つきしん こ、つか / 、しん 「こんなにも好奇心があって、向学心のある子どもは、めすらしいじゃないか おも ふねみ こういう子どもたちにこそ、われわれの船を見せてあげるべきだと思う。どう せんない きよ、ついちにち だろう。どうせ今日一日、ここに停泊しているのだから、船内をひとまわり見 かんちょう じかん おも 艦長には、わたしが話をする せてやるくらいの時間はあると思うんだが : から : : : 」 かおみあ ジョーとトミ 1 は、顔を見合わせていたが、ついにジョ 1 がうなずいた。 「わかりました。先生がそこまで一言、つんなら : : : 」 「やったあ ! 」と、アニ 1 「ありかと、つございます ! 」と、ジャックも、つき、つきしながら一一一口った。 せんせい こ はなし ・・・・・巨大ダコと海の神秘
とくべっ 特別に作られたものなんだ きようじゅ そのとき、トムソン教授が、高らかに言った。 まえ もの くらかいてし 「さあ ! 真っ暗な海底で暮らす生き物たちが、いまはじめて、われわれの前 に、そのべールをぬぐぞ ! 」 かお それを聞いて、アニ 1 の顔がくもった。 あか 「ちょっと待って。その子たちは、いきなり明るいところに連れてこられて、 びつくりしてるんじゃない ? 」 きようじゅ しかし、教授は、そのことばが聞こえなかったかのように、話しつづけた。 ちょうさ みちひょうほん 「われわれは、いままで、この調査で、なん千という未知の標本を、海底から さいしゅう 採集してきたのだ ! 」 みまも のりくみいん みんなが見守るなか、乗組員が、甲板の上に、網の中のものをぶちまけた。 だいぶぶんどろ 大部分は泥で、その中に、ピンク色の魚や真っ赤なヒトデが、ピチピチとは けんきゅうしゃ ねている。それを、研究者たちが、手早くビンなどに収集していく つく なか かんばんうえ てばや ぜん あみなか しゅうしゅう かいてい ・・・・・巨大ダコと海の神秘