左手を上げるとどす黒いアザが散っているのが見えた。体がズキズキ痛む。 「友達が組に飛び込んできた時は驚いたぞ。医者に手当てしてもらった。まあ医者といっても まっとうなのじゃないがな」 冗談めかして言った後、日比野の表情はかたくなった。 「俺はケンカは買うなとは言ったが抵抗するなとは言ってないぞ。こんな盛大にやられやがっ 「日比野さんのせいしゃない、 日比野はかすかに笑って木佐の髪をかき回した。指先から後悔が伝わってくる気がした。 ドアがノックされ、日比野が席を立った。 「ちゃんと寝てろ」 振り向いて木佐にそう告げると日比野は部屋を出ていった。入れ違いに誰かがやって来た。 「真冬・ : 」 真冬だった。 の一「久我は宇賀神さんを送 0 てい「た。もう遅いしさ。宇賀神さん、木佐のそばにいる 0 てがん 後ばってたけど : ・」 努めて明るく説明していたが、 「だいしようぶか : : : って聞くのもまぬけだよな :
「正解。ぜんぜんひねりないだろ」 「藤井君、誕生日、いつなの ? 」 「十一一月一一十四日」 クリスマスイプ ! かっこよすぎ・ : ・ : 」 「みんなそう一一 = ロうけどさ、クリスマスプレゼントとバースデープレゼント一緒にされちゃうん じきそ たぜ。親に直訴しても年末でいそがしいとか言われてうやむやにするし」 「ていうかもうすぐしゃないか」 昼休みの教室。 まふゅ 木佐と真冬、それに美貴と久我が机を囲んでいた。 「そうだ ! クリスマスパーティーしないか ? 」 うなず 真冬が提案すると美貴もうんうんと頷いた。 「やりたい。 藤井君のバースデー ーティーも一緒にやるのはどう ? 」 だが、真冬は歯切れ悪く黙り込んだ。 雪 の「いやなの ? 」 うがじん 後「いやしゃないけど。だってクリスマスイプだよ。宇賀神さん、カレシと会う予定あるんしゃ ないかって : ・ いるわけないしゃないー 「いつ、いないわよ、そんなのー やめてよね ! 」 ふじい
106 「なにバカな事、言ってんのよ。はら、行くわよ。藤井くんも ! どうやら木佐の文句を聞くつもりはないらしい。美貴は木佐と真冬の腕をつかんですんすん 進んでい 自分の腕をつかむ細い指を見て、木佐は観念した。 ほとん 女子生徒の殆どは木佐を敬遠していたが、彼女だけは違った。幼なじみという理由もあった 力、木佐は昔から美貴だけには弱かった。 「宇賀神さん。彼、なんていうの ? 名前教えてくんないんだよ」 美貴を挟んで歩いていた真冬が聞いた。 「木佐祐士。可愛げないけど、悪いやっしゃないから」 とても好意的とは言えない紹介の仕方に異議を差し挟む気になれず、木佐は薄くため息をつ 。かっこいい名前だなあ 「木佐祐士 : ・ のん気な真冬の言葉に、一一回目のため息がもれる。 それが木佐と真冬との出会いだった
よ。学校はどうしたの ? 」 「お前こそどうしたんだ。もう授業ははしまってるぞ」 「寝坊よ ! 寝坊 ! 目覚まし、知らないうちにぶっ飛んで壁にあたって壊れてたの ! それ より祐士はどうしたのって聞いてんの ! 」 逸らされた話題を美貴はちゃんと戻して木佐を睨みつけた。 「頭痛で腹痛、で、早退だってさ。宇賀神さん」 二人の間に藤井真冬が割ってはいった。 「ふ、藤井くん : : : 」 突然あらわれた真冬に美貴が目を丸くした。が、それ以上に驚いたのは木佐だった。 「こいっ知ってるのか ? 」 「え、うん。転校生。祐士が謹慎中にうちのクラスに転校してきたの」 どうりで見たことのない顔だ。 「ああ、もうこんな時間。話すなら歩きながらにしない ? 」 腕時計に目をやりながら美貴が一一人を促した。 「行ってられるか。俺は帰るからーーーーうわっー あや 腕をひつばられ、バランスを崩した木佐は階段を踏み外し、危うく転げ落ちそうになった。 「美貴、おまえな : : : 」
138 予想もしなかったつつこみに、美貴はらしくなく動揺してイスを蹴った。 「セクハラ : ・・ : なのかな ? 」 足を踏みならして去っていく姿を見ながら、真冬は久我に恐る恐る聞いた。 「いんや、 - そうとも思えないけどな。女心はフクザッなのよ」 「だって宇賀神さんきれいだしさ : ・。カレシいない方がふしぎだよ」 「いろいろあんのよ。それより「お前みんなでクリスマス会って : : : コドモか ? 半分あきれ顔の久我に、真冬は真剣に語った。 「楽しい事はやっといた方がいいだろ。青春は時間がないんだって」 顔を寄せ合う一一人の世俗的な会話に加われないでいた木佐が立ち上がり、 「決まったら教えてくれ」 言い残してそっけなく立ち去っていった。 「 : : : 俺には美貴よりこっちの方がふしぎだね」 「どういう事 ? 」 ひたい 久我ははあとため息をつき、額にかかる髪をかきあげた。 「今、あいつ、なんてったよ ? 「クリスマス会に参加します』っつたんだぜ。藤井はっき合い 浅いからわかんないだろうけど、木佐のやっ変わったよ。なんだか最近みよーに人間らしくな オ。前は俺や美貴にも一線引いてるところがあったんだけどな」
吐き捨てるように言って少年を突き放した木佐は信号が青になっている事に気づき、横断歩 道を渡った。 前も見すに駅舎に飛び込む。と、階段を駆け降りてきた人間に思いきりぶつかった。 「きやっ ! 」 はね飛ばされたのは相手の方だった。 しりもちをついて腰を押さえているのはセーラー服の少女だった。肩より長い髪は柔らかい ふんいき カールをえがき、年より大人びた雰囲気を与えている。それは木佐のよく知る友人だった。 うがじんみき 宇賀神美貴。彼女は木佐のクラスメートで、久我と同し中学以来の幼なしみだ。 「美貴」 ゆが 呼ばれて少女は痛みに歪めていた顔を上げた。 「 : : : 祐士。なによ。ちゃんと前見て歩いてよ」 「悪い」 いっしゅう 謝罪の言葉を美貴は一蹴した。 雪 の「なによ、それ。ぜんっぜん悪いって気持ちが伝わってこない」 くちびる 後美貴は唇をとがらせ、それでも木佐が伸ばした手につかまって立ち上がり、スカートのほこ りを払っていたが、 はたとその手を止めた。 ねいいけどなんでそっちから来るの 「そっか。今日、謹慎明けなんだっけ。ん ?