122 「意識してないほど仲いいんだよ。言いたいこと、言いあってるし。なんかうらやましいな、 そういうのって」 「藤井君だって転校してきてからそんなにたってないのにクラスに友達いつばいできたしゃな し。前の学校でも人気あったでしよ」 ほほえ 美貴の言葉に、真冬は首をふって微笑んだ。 木佐はふと真冬の表情がひっかかった。微笑んでいるけれど、そうではないようなーーー。 「そういえば : ・お前、どこから転校してきたんだ ? 気づいたときにはそう聞いていた。美貴と久我の驚く顔が見えた。 ながの 少し間があってから真冬が答えた。 「へえ、なんでこっちに来たんだ ? 親の仕事の都合かなんか ? 」 「まあ、そんなとこ」 あいまい 曖昧な答え方をして、真冬は顔をそらした。 それはまるでこれ以上聞いてくれるなと言わんばかりで、木佐はそれ以上真冬に問うことを やめた。 ごん。 その時、すぐそばで音がした。
にがにが 大貫の顔色が赤から青に変わる。木佐は腕を組み、答えを待っている。大貫は苦々しく歯が みして、木佐から視線を逸らした。 「・三 : お前だ。木佐 [ 「しゃあ、文句を一言う権利はあるわけだ。ねえ、先生」 「おつ、お前 : 挑戦的な言葉に大貫は言葉を失ったまま、木佐を睨んだ。 大貫が教室を出ていったとたん、生徒達が真冬を取り囲んだ。 「あー ! すかっとした ! 見たか、あの顔」 「いいきみだよな。あいっ生徒いしめしか能ないくせにえばりやがって。前から腹立ってたん だよ」 「お前、すげーなあ ! 」 自分を讃える言葉に、だが真冬は不思議そうな顔をする。 雪 の「だってあんなやり方、フェアしゃないし : ・ そう思ったから言ったんだ」 後「そうだけどさ、やつば言えないしゃん。ふつー」 なあ、と相づちを打っ友人達に、真冬は「それに」と付け加えた。 「あいつを黙らせたのは俺しゃなくて、木佐だ。最高点なんてあいつ、頭いいんだな。あのテ たた
市井は今、ここでどちらにつくかフェンウェイに決めさせようとしている。 めャ ) ぼ 〈百鬼夜行〉につくなら仲間にさせられ、目溢し。そうでなければ敵と見なされ、流と同じ運 命を辿る。 ってことか。 市井は余裕で答えを待っている。 その向こうに流がいる。一戦交えた後の流は肩で息をして、ほとんど立つのもやっとの有り 様だった。この上、〈百鬼夜行〉を相手にしたらどうなるかは火を見るより明らかだった。 流が顔を上げた。視線が、ぶつかる。 「俺はあんたにつくよ。市井」 流の表情に変化はなかった。市井が満足げに頷く。 「おまえはりこうだ。フェンウェイ」 促され、フェンウェイは市井の横へ歩いた。 「〈裏新宿〉でやっていきたいなら〈百鬼夜行〉の下にいるのが一番だ」 にら 市井の視線が流に注がれた。流が跳ねかえすように睨みつける。 この状況でこいつは : あき フェンウェイは呆れるのを通りこして、おかしくなった。この人数を相手にたった一人、誰 まじ うなず
146 なんと言づていいものか、迷ったあげく出た言葉に木佐は笑った。木佐の笑顔にほっとして 真冬は近くにあったイスを引き寄せ、座った。・ 「お前さ、なんで抵抗しなかったんだ ? 」 ふいに真冬が聞いた 「こんなになるまで無抵抗なんて・ : ばかだ」 あき その言葉は責めているのでも呆れているのでもなかった。 なぜ ? 自問して、木佐は自分の中にその答えを求めた。行き当たる真実は 「今なら戻れる気がしたんだ : : : 」 胸に巣くう『嵐』を押しとどめておけるかもしれない。取り戻せるかもしれない。 取り返しがっかなくなる前に 自分を手放してしまう前に だがそれは想像以上の苦しみだった。やつらから受ける苦痛以上に自分自身を押さえる苦痛 の方が強かった。それでも耐えた。耐え続けた。 真冬はなにも聞かなかった。ただ穏やかな笑みを浮かべてそこにいた。 その笑みはあの夜、見せたものと同しで、木佐はなぜかわけもなく不安を覚えた。 「悪かったな。パ ーティーできなくて」 「まったくだよ。楽しみにしてたのに」
とこのガッコらしいけど、そんな恰好じ 「なんでこんなところうろちょろしてんだよ。いい や、すぐにああいうやつらに目えつけられるに決まってんだろ」 流は答えすにフェンウェイをしっと見つめている。 「別に、チームに絡まれるのはあれがはしめてしゃない 「えっ ? って、おまえ、〈裏新宿〉によく来てるのか ? うなず 流が頷いた。そういえば、さっきの戦い方ー・ーーーかなり慣れている様子だった。わざわざこ んな危険なところになぜ流が好んで来ようとするのか、フェンウェイには理解できない行動 「なんのために ? 」 とうわく 聞かれて、流は当惑の表情を浮かべた。一度口を開こうとしたが考え込み、夜空を見上げ、 それから大きく首をふった。 なんでだろう。ここにいて、チームのやつらを相手にやり合うと、感しる 「わからない : んだ、なにかを : ・」 まゆ 気持ちをうまく言葉にできないもどかしさからか、流は眉をしかめた。 「ここに : 流は胸のあたりに手をやり、フェンウェイを見つめた。 「炎みたいに熱いものを。学校でもどこでもない。〈裏新宿〉でだけは感しるんだ」 から
いつくさ . んばかりだ、った。これが裏庭だとしたら、一体正面はどうなっているのか。 周囲に人影はない。フェンウェイはまっすぐ母屋を目指して歩いた。勝手口を見つけ、ノブ をまわす。が、ドアにはカギがかかっていた。 「かあちゃん ? おい、かあちゃん ! 」 ドアに顔を寄せ呼んでみたが答えはなかった。もフ一度ノブをまわしてみたが、やはりびく ともしない。 「つたく 。どこ行っちまったんだよ : : : 」 あきらめたフェンウェイは壁に沿って歩きはしめた。一一階建ての母屋には窓もあるが、まさ かそこから侵入するわけにもいかない。しばらく行くと別の勝手口らしいドアを見つけた。 のぞ ノブをひねるとドアは音もなく開いた。恐る恐る中を覗き込んだフェンウェイは母を呼ばう と口を開きかけた、とーーー 「なにしてる ! 」 「わあつ どな 突然怒鳴りつけられ、フェンウェイの心臓は跳ね上がった。振り向こうとした時バランスを 崩し、思い切り転んだ。 「いってえ : 打った腰をさすりながち、フェンウェイは上からふってきた声が大人のものではないことに
おもむろにぶつけられた問いの意味がよくわからない。 「俺がさ、飛び降りるとか思わなかった ? 早まるなとかい、フもんじゃない。あーゅー時って ってさ。しゃなかったら誰か呼んでくるとか」 うらはら か細い印象とは裏腹に、相手はおもしろそうにまくしたてる。 、フざっこ ) そう思ったが、木佐はなぜかこの時、この生徒にかすかな興味を持った。 「 : : : 自殺するつもりだったのか ? 」 そう聞くと、生徒は待ってましたと言わんばかりに目を見開き、そして満面に笑みを浮かべ て答えを返した。 「いーや。ぜんぜん ! 体温が一度下がった気がした。その後に怒りが沸き上がる。だがそれは相手へのものではな 、聞いてしまった自分へのものだったのだが これ以上こんなバカにつきあってられない 木佐は少年を乱暴に押しのけ、歩き始めた。だが少年は木佐の前に回り込んだ。 雪 ふじいまふゅ の「俺、藤井真冬。真夏真冬の真冬。さむそーな名前だろ。お前は ? 」 後「どけよ」 これ以上っきあっていられない。 木佐は少年を突き飛ばし、再び歩き出した。後ろから追いかけてくる声を無視して。
レーションし、ラッピングしている。 男子の方も漂ってくる甘い香りに落ち着いてはいられなかった。自分がいくつのケーキをゲ ットできるか。ゲットできたうちの一体何個が本気で何個が義理なのか。 うずま 渦巻く思いに、教室は緊張感に満ちあふれていた。 キーンコーンカーンコーン。 全授業の終了を知らせるチャイムが鳴り響いた。そしてそれは同時に戦いの始まりでもあっ 教師が立ち去ると、待ってましたとばかりに女子はそれぞれケーキを手に、一斉に動き出し しんくうかん 「流、今日〈真空管〉にフェンウェイとカラスが来ることになってるんだ。君も行くだろ」・ ゅうが 教室の空気などおかまいなく、京也は教科書を優雅にカバンにしまいながらそう聞いた。 件 事 「う、うん : : : 」 拐 みよう ン答えはしたものの、流は背後から忍び寄る妙な圧迫感が気になって恐る恐る振り向いた。 〃「わあっ ! 」 い手に手に包みを持った女子生徒達がじりしりと迫っていた。 「うわわわわわわ」 「わん ? 大 ? 」 ユ 71 た。 いっせい
本当にそうなのだろうか。出会ってからまだ一カ月しかたっていない。 屋上にいた時、木佐に出会って、長いとはいえない時間を過ごして。 けれレ J ーーーー木佐は抱えていた想いを自分にぶつけてくれた。あの時、驚きはしたが、嬉し かった。 ーーーー俺は木佐にとって友人なんだろうか : 「俺はそんないいやっしゃない」 声は暗く沈んでいた。意外な答えに、日比野は思わす真冬を見た。 うそ 「俺は : ・木佐に嘘をついてる : ・」 まだ話していない事がある。それを知ったら木佐はなんと言うだろうか ? 雪は止むどころかますます強く降っている。 「こりゃあ積もるかもしれねえな : ・ 日比野が暖房を強くし、ラジオのスイッチをひねった。チューニングを合わせると雑音の向 こうから女性アナウンサーの声が聞こえた。 雪 の「ーーーー午後七時頃から降りだした雪は今夜いつばい降り続く模様です。明日朝までの積雪は 後関東で五センチから十センチ。気象庁は 「時間がないんだよ 窓ガラスに当たって流れていく雪を見つめて、真冬は呟いた。
「ありす」 声をかけても、ありすは顔を上げない。 長い髪が横顔を隠していて表情はわからないが、泣いているのかもしれない。 肩に触れてみようかとも思ったが、またエッチ呼ばわりされる可能性を考えるとそれもでき なかった。 きようや やっかいごと 牛「京也に嫌われたわけしゃないんだからそんなにしょげるなよ。厄介事って言ったのは別にあ 拐りすの事しゃないぞ。ほら、あいっちょっとえらそうなとこあるしさ」 なぐさ Å慣れないながらも慰めていると、ありすがやっと顔を上げた。泣いた様子はこれつばっちも タなかった。 ン レ 「ええ ? 」 なか 「お腹すいた ! 」 219 四