聞い - みる会図書館


検索対象: あざやかな日々 : 夜光街
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1. あざやかな日々 : 夜光街

赤いバンダナの視線は元からフェンウェイに移った。しっと自分を見下ろす相手を、フェン ウェイは思い切り睨み返した。相手も目を離さなかったが、やがて口元に笑みが浮かんだ。 「 : : : お前、なんていうんだ ? 」 「人に名前聞く時はてめえが先に名乗りやがれ」 「フェンウェイ ! 」 ュエン 元が叫んだ。 怒らせるセリフだったが、相手の男はにやりと笑って腕を組んだ。 かずや 「フェンウェイ : : : か。俺は市井だ。市井一也。見ねえ顔だが、今後〈裏新宿〉をうろっくっ もりなら俺の名前くらい覚えておいた方がいいぜ」 「 : : : 〈裏新宿〉ってのはてめえへのあいさつなししゃ歩けねえ場所なのか ? なんだか知ら ないけど、俺は自分の好きな時に好きな場所へ行く。誰の許しも乞うつもりはねえ」 ーししカ威勢力ししオー ゞ ) ) ごナじゃ〈 ~ 表新宿〉しややってけねえ。よ 「そうやってつつばってんのよ ) ) ゞ、 く覚えとくんだな」 市井一也はそう言って、組んでいた腕をとくと仲間の方へ戻っていった。 ュエン 市井達の姿が見えなくなると、一兀はほっとしたように大きくため息をついた 「フェンウェイ。お前、やばいって。あいつら〈裏新宿〉で一番でかいチームなんだぞ。わざ わざ火に油そそぐマネしてどうすんだよー。どうなるかと思ったぜ : : : 」 にら ュエン

2. あざやかな日々 : 夜光街

138 予想もしなかったつつこみに、美貴はらしくなく動揺してイスを蹴った。 「セクハラ : ・・ : なのかな ? 」 足を踏みならして去っていく姿を見ながら、真冬は久我に恐る恐る聞いた。 「いんや、 - そうとも思えないけどな。女心はフクザッなのよ」 「だって宇賀神さんきれいだしさ : ・。カレシいない方がふしぎだよ」 「いろいろあんのよ。それより「お前みんなでクリスマス会って : : : コドモか ? 半分あきれ顔の久我に、真冬は真剣に語った。 「楽しい事はやっといた方がいいだろ。青春は時間がないんだって」 顔を寄せ合う一一人の世俗的な会話に加われないでいた木佐が立ち上がり、 「決まったら教えてくれ」 言い残してそっけなく立ち去っていった。 「 : : : 俺には美貴よりこっちの方がふしぎだね」 「どういう事 ? 」 ひたい 久我ははあとため息をつき、額にかかる髪をかきあげた。 「今、あいつ、なんてったよ ? 「クリスマス会に参加します』っつたんだぜ。藤井はっき合い 浅いからわかんないだろうけど、木佐のやっ変わったよ。なんだか最近みよーに人間らしくな オ。前は俺や美貴にも一線引いてるところがあったんだけどな」

3. あざやかな日々 : 夜光街

130 連れてこられたのは西新宿にあるビルだった。 ぬぐ 二階の応接室らしい部屋で一一人は日比野に渡されたタオルで血を拭い、簡単な手当てをし ひとごこち 日比野が部屋を出ていってようやく人心地ついた真冬は窓を開けた。隣のビルとのすき間か ら通りを走る車のライトが見えた。 「・ : ここ、なに ? さっきの人の会社かなんか ? 」 着替え用にと渡されたシャツに腕を通していた木佐が顔を上げた。 「そんなんしゃない。ここは : ・組事務所だ」 「ああ。クラスのやつらから聞いてるだろう。俺のおやじがやくざの若頭だって。日比野さん も組員だ」 真冬の目がわずかに見開かれる。さらりと語られたその内容に、だが驚いている様子はなか 「だいじようぶ。切れて・ : 血を呑んだだけ : ・ : ・」 「そのまんましゃ帰れないだろう。一一人とも来い」 車道には車が停めてあった。促され、木佐は真冬を助け起こし、日比野のあとを追った。

4. あざやかな日々 : 夜光街

228 腕をつかんで振り向かせると男は驚いたが、すぐに余裕の笑みを見せた。 「君、なにを言ってるんだ。さっきも言っただろう。私たちはこの子の母親からーー・ー 「それはちょっと違うんじゃないかな」 緊張感のない声と流れ込む冷たい空気に流は震えた。 ちらちらと舞う雪をバックに、開いたドアの向こうに立つのはもちろん宝京也だった。 一一人の男は突然あらわれた別の高校生に驚く様子はなかった。 「そこをどきなさい」 ふんいき 男がいらついた声で命令する。いちいち相手にしていられないという雰囲気だった。 しんけん 「そうはいかない。ありすの両親はすでに離婚が成立していて、母親に親権はないって聞いた け・ど ? ・」 男達がかたまった。 「それでも無理やり連れてくというんだったらいいですよ。でもそれは立派に『誘拐』にな る。覚悟はあるわけですね」 ) や ! 私達は : : : 頼まれただけで : ・」 しどろもどろになる男達の前に別の人物があらわれた。 うわぜい ロひげをたくわえた人のよさそうな、上背のある男だった。 「ありす ! 」 たから

5. あざやかな日々 : 夜光街

まっすぐで、目が離せないくらいに危なっかしい。向かい風に進もうとする流は自分とは正 うらや 反対で、時々羨ましくも思える。 羨ましい ? 羨ましいなんて思っているのか ? 自分の中にそんな感情があるのか ? ひそ 自問して京也は密かに笑った。 かすみ 外側から見ると自分は霞を食って生きていると思われているらしい 汚いものとは無縁で、優しくて、頭もいい。外見に関しては接した女性の目を見ればどんな ふうに見られているかわかる。 だが それは生きていくにはとても都合いい 本当の自分はもっと汚い人間だ。それは自分が一番よく知っている。 なにしろあの母親の血が流れているからな : ・ 件 じちょう 拐一自分そっくりの母の顔を思い浮かべて京也は自嘲気味に笑った。 、ありすの親にしたって財界人で政界にかなり顔がきくと聞いた。だからこそ母は繋がりを持 タちたがった。自分に得にならなければ動くことのない冷たい女だ。 いそして自分自身もその資質を色濃く受け継いでいる。 うずま 胸の中にはどろどろしたものが渦巻いている しっと だからなのか。流に嫉妬してしまうのは。 217 つな

6. あざやかな日々 : 夜光街

くちびる 制服だけではない。少年は似ていた。色素の薄い柔らかそうな髪。薄い唇。 木佐が昔、知っていた人間にあまりにも似ていた。思わず名を呼びそうになってしま、フほ 「なんでそんな事、聞くんだ ? 」 不思議そうな流の声に、ステアリングを握る手に力がはいった。 答えようとした木佐は後続車がないことを確かめて路肩に停車した。サイドプレーキを引 き、それからようやく口を開いた。 「 : : : 似ていたんです。昔、知っていたやつに」 ふうん、と何気ない相づちを聞きながら、木佐はらしくない感傷に浸っていた。 のうり 脳裏に」人の少年があらわれる 深く刻まれた、けれどすっと記憶の片隅に追いやっていた少年。 さかのぼ 流れていく景色のように、記億が遡っていく。 雪 息をした時の空気の冷たさ。 の 後黒い学生服の肩に降りつもる白い雪。 うそ 最 最後まで嘘をつき通した。 木佐。そう呼んだのは。胸に去飛するものは きよらゝ ろかた ひた

7. あざやかな日々 : 夜光街

102 駅前ロータリーまでやって来ても少年はついてきた。駅舎に向かう横断歩道の信号は赤だっ 真冬と名乗った少年が隣に立った。そして信号待ちの合間に、ポケットからあめ玉を取りだ し ( のん気になめ始めた。 「お前、学校はいいのか。戻れよ」 視線を前に戻して、木佐が一一一一口う。 「だったらあんただってなんで学校、行かないんだよ」 「俺は頭痛に腹痛で早退だ」 とたんに横で高らかな笑い声が上がった。ちらりと見るとさもおかしそうに笑う少年の顔が 目に入った。 「お前、いいかげんにしとけよ ! 」 えりくび さすがにむっとして、木佐は少年の襟首をわしづかみにした。 「だって、あんたどー見ても頭痛そうにも腹痛そうにも見えないって。じゅーぶん元気しゃ ん」 ずけずけと一言う。間近で睨まれても少年はびくつきもしなかった。収めようとするが、それ でも笑いは口から漏れる。 「ばかばかしい。 にら

8. あざやかな日々 : 夜光街

「助けて ! 」 振り返ったありすが助けを求める。今にも泣き出しそうな表情に胸がずきりと痛む。けれど 母親の迎えならば自分達が手を出すわけにいかない。 , ーーー人騒がせな「不思議の国のありす』だったけど : ・ きびす 自分に言い聞かせて、踵を返す。カウンターに戻り、スツールに腰掛けるとフェンウェイが しっと流を見つめた。 「なんだよ」 「本当にいいのか ? 」 「いいのかって俺になにができるっていうんだよ」 なにもできるはずがない。わかっているのになぜそんな言い方をしてくれるのか。 しようそう ふく フンウェイをにらんで、、それでも膨らむ焦燥を止めることはできなかった。 拐「ああ ! ちくしよ、フ ! 」、 誘 ン こちらを選ぶことはどう考えても間違っている。わかっていたが自分を騙せないこともわか タっていた。それ以上に。 い、流はスツールを飛び降りて、・階段を駆け昇った。 ありすの必死の抵抗に手をやいている男達は、まだ踊り場にいた。 ありすはやだって言ってんだろ ! 」 227 だま

9. あざやかな日々 : 夜光街

236 トの真ん中に NAGARE と書いてあるように見えるのは気の 遠目でよく見えないが、ハー せいだろうか。いや、きっと気のせいだ 「な、なあ京也、まさかと思うけど、あれチョコレートしゃないよな」 「いや、あれはまがうことなきチョコレートだろう。一日遅れのバレンタインか。けなげじゃ ないか」 それ以上聞きたくなくて、流は耳をふさいで席に戻った。 。まいったな」 「とするとありすは僕のライバルってことか : 耳はふさいだはすなのに。なにか聞いた気がする。なんだかいやーなセリフを。 とりあえす聞かなかったふりをして机につつぶす。 じゅなん 流の受難はこれから始まるのだった。

10. あざやかな日々 : 夜光街

85 最後の雪 終業のチャイムが聞こえてきた。 きさゆうじ 木佐祐士が顔を上げると、校門から生徒達が散らばっていく姿が見えた。 かなん 腕時計で時間を確かめる。私立華南高等学校前に愛車、シーマを停めてからきっかり一一十分 がたっていた。 運転席から降り立っと、木佐は下校していく学生服の群れを見渡した。 女子生徒はセーラー服。男子生徒はよくあるごく普通の濃紺のガクランだ。だが一カ所だけ えりもとそでぐちむらさき ふちど 変わっているところがあった。ガクランの襟元と袖口が紫のラインで縁取られている。 たてまえ あまり見かけないデサインと紫という色は、他の学校との差別化をはかるという建前だった しそく が、そんな所にも金持ちの子息が多い華南ならではの格式の高さがあらわれていた。 一一人の女子生徒がけらけらと笑いあいながら校門を出てきた。 と、少女の一人が木佐に気づき、目を見開いた。つられるようにもう片方の少女も振り向 こわ き、途端に表情を強ばらせた。 一一人は不自然に目を逸らすと、木佐の前をあたふたと通り過ぎていった。一度振り返った少 女達は木佐と目が合うと飛び上がって走り去っていった。 おび 女子生徒のあからさまな脅え方に、木佐は苦笑した。 さすがにダークスーツを着込んだ、目つきの鋭い男が下校時の高校前に立っていたら悪目立 ちしてしま、フ。