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検索対象: あざやかな日々 : 夜光街
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1. あざやかな日々 : 夜光街

164 れて真っ白だった。 「楽しかったよ。もう死んでもいいや」 そう言って空に向かって両手を広げた。 しずく 少し青白く見える横顔に雪が落ちて滴になってこばれていった。 それが真冬と会った最後だった

2. あざやかな日々 : 夜光街

り返ると、戸口に立っ少年の姿が見えた。 「まったくお前は ! ケンカ売るなんて、どうしてそう血の気が多いんだいー 坊ちゃんにケ ガさせたりしたらただしやすまないんだよ ! 」 「だってあいつが人をドロボウ呼ばわりしやがったから。それに勝手口のカギ閉めつばなしだ ったかあちゃんがわりいんだろ ! 」 ュイリン 痛いところをつかれ、王林はぐっと詰まったが、 ろうか 「いいからイスを運んどいで。廊下のつきあたりの部屋にあるから。あたしはここの片付けが 残ってるから。一人で運べるだろ」 そう言って、フェンウェイをキッチンから追い立てた。 まどぎわ ぶつぶつ文句を言いながらも言われたとおり廊下を歩いた。つきあたりの部屋の窓際に目当 かわば てのイスが重ねてあった。座面が深い緑の革張りの高そうなダイニングチェアーだ。 々 イスのそばへ行くと、窓から庭が見えた。刈り込まれた芝の向こうに日本庭園が見えた。ア メリカで観たニンジャ映画に出てくるような庭園だった。フェンウェイはイスを運ぶのも忘 れ、物珍しそうに眺めた。 あ と、松の木の陰から人影があらわれた。人影はふたつだった。 「あ、あいっ :

3. あざやかな日々 : 夜光街

赤いバンダナの視線は元からフェンウェイに移った。しっと自分を見下ろす相手を、フェン ウェイは思い切り睨み返した。相手も目を離さなかったが、やがて口元に笑みが浮かんだ。 「 : : : お前、なんていうんだ ? 」 「人に名前聞く時はてめえが先に名乗りやがれ」 「フェンウェイ ! 」 ュエン 元が叫んだ。 怒らせるセリフだったが、相手の男はにやりと笑って腕を組んだ。 かずや 「フェンウェイ : : : か。俺は市井だ。市井一也。見ねえ顔だが、今後〈裏新宿〉をうろっくっ もりなら俺の名前くらい覚えておいた方がいいぜ」 「 : : : 〈裏新宿〉ってのはてめえへのあいさつなししゃ歩けねえ場所なのか ? なんだか知ら ないけど、俺は自分の好きな時に好きな場所へ行く。誰の許しも乞うつもりはねえ」 ーししカ威勢力ししオー ゞ ) ) ごナじゃ〈 ~ 表新宿〉しややってけねえ。よ 「そうやってつつばってんのよ ) ) ゞ、 く覚えとくんだな」 市井一也はそう言って、組んでいた腕をとくと仲間の方へ戻っていった。 ュエン 市井達の姿が見えなくなると、一兀はほっとしたように大きくため息をついた 「フェンウェイ。お前、やばいって。あいつら〈裏新宿〉で一番でかいチームなんだぞ。わざ わざ火に油そそぐマネしてどうすんだよー。どうなるかと思ったぜ : : : 」 にら ュエン

4. あざやかな日々 : 夜光街

208 そして、不幸にも流の考えは的中した。 「しゃあ、今夜はもう遅いし、流にありすを送ってもらおうかな」 「は、はあ卩」 なぜ俺が送らなくてはならないのだ卩 「ありすを連れてきたのは流だろう。ちゃんと送り届ける責任てものがある」 「別に俺が送らなくても専用車があるんだからいいしゃんか」 「ほほう。そういう事、言う ? 」 斜め下を見るとありすと目があった。 「ありすはどうしたい ? 」 「あたしは京也の一言う通りにしたい ! 」 ふくわじゅっ だめだ。これはもう京也の意のまま状態だ。ありすはフランス人形ではなくて腹話術人形だ ったらしい。それでも頭を抱えている流の耳元に、京也が口を寄せた。 「だ、そうだ。それに送らないとありすに一一一一口うぞー」 ぎくりとして流は顔を引きつらせる。 「な、なんて ? 」 問う声が悲しいことになぜか弱々しい こた 「僕が君のこと、好きだって。だからありすの気持ちに応えることはできないって」

5. あざやかな日々 : 夜光街

そうはく ありすの顔が輝いた。反対に男達の顔色は一瞬にして蒼白になった。 ) ゃ。こっ、これにはちょっとした手違いが : : : 」 言い訳するや男達は流を突き飛ばし、後ろも見すに逃げ去っていった。 「なんだ。ありや あたふたと走る後ろ姿を見ていると相手にしていた事が恥すかしくさえなる。視線を移す ほうよう と、父と娘の抱擁シーンの真っ最中だった。 ど、フしてここがわかったの ? 」 「京也くんから連絡をもらってね。お前がたいへんな事になってるって。 ここち ぞ。生きた心地がしなかった」 ありすの父親の言葉で、流も事の次第を理解した。 拐ケンカ別れしたあと、それでも京也は動いてくれていた ンふと京也と目が合った。 タ「僕っていいやつだと思わないか ? 」 い「自分で言ってどうするよ」 「自分で言わないと誰も言ってくれないからなあ」 ありす親子の頭上でそんな会話をかわしながら、一一人は互いににやりと笑った。 229 心配したんだ

6. あざやかな日々 : 夜光街

「正解。ぜんぜんひねりないだろ」 「藤井君、誕生日、いつなの ? 」 「十一一月一一十四日」 クリスマスイプ ! かっこよすぎ・ : ・ : 」 「みんなそう一一 = ロうけどさ、クリスマスプレゼントとバースデープレゼント一緒にされちゃうん じきそ たぜ。親に直訴しても年末でいそがしいとか言われてうやむやにするし」 「ていうかもうすぐしゃないか」 昼休みの教室。 まふゅ 木佐と真冬、それに美貴と久我が机を囲んでいた。 「そうだ ! クリスマスパーティーしないか ? 」 うなず 真冬が提案すると美貴もうんうんと頷いた。 「やりたい。 藤井君のバースデー ーティーも一緒にやるのはどう ? 」 だが、真冬は歯切れ悪く黙り込んだ。 雪 の「いやなの ? 」 うがじん 後「いやしゃないけど。だってクリスマスイプだよ。宇賀神さん、カレシと会う予定あるんしゃ ないかって : ・ いるわけないしゃないー 「いつ、いないわよ、そんなのー やめてよね ! 」 ふじい

7. あざやかな日々 : 夜光街

220 きゅー。腹の虫がありすの主張を後押しする。 「しゃあコンビニでなんか買って : : : 」 「コンビニは嫌い ! なんか作って ! 」 な、なんだと。 いや、いていいのか この現代日本でコンビニが嫌いと言いきる十歳がいるのか卩 いちい ながれ 弱り果てて流が助けを求めると、後ろのフェンウェイと市井は同時に顔をそむけた。自分た ちは関係ないとばかりに。 「なんで俺がこんな目にあうんだー そう言いながらも、流は冷蔵庫を開けてみた。食材はとりあえず擺 0 ている。しばらく考え て、流はトマトとツナ缶を取り出した。棚には食パンの包みがある。 「まったく今日はサイテーだ : : : 」 ぶつぶつ言いながらも流はサンドイッチを作り上げ、ありすに差しだした。 なにか文句でもつけるかと思ったが、ありすは素直にサンドイッチにかぶりついた。 ほおづえ 流はカウンターに頬杖をつき、思わずため息をついた。 ゅうかい 「「誘拐」されたんだぜ。俺」 「おう、『誘拐』な。俺、それ聞いた時、木佐さんに連絡しょーかと思っちゃったぜ。よかっ たよ、しなくって。あの人なら相手が女の子でも手加減しなさそーしゃん」

8. あざやかな日々 : 夜光街

116 ンスの外側は内側とは違う風が吹くんだ」 もてあそ そう言って真冬は両手を広げ目を閉した。風が真冬の髪を弄び、シャツのえりを揺らした。 ふと、指の間をすり抜けていく風が見える気がした。 子供しゃあるまいし : ・ けれど全身で風を受ける真冬はとても気持ちよさそうで 木佐は誘われるようにフェンスを登り、真冬の隣に降り立った。 地上から強い風が吹き上げてくる。冷たい風が体を煽る。上を見ると、怖いくらい青い空が あった。 吸い込まれそうな青。自分が空に昇っていくような錯覚が木佐を襲った。 ふゅう ふしぎな浮遊感。でもそれは味わったことのない実感を伴っていた。普段の生活では感しる ことのない気持ち」ーーー。 「こらあリそこでなにしてる どせい 怒声が木佐を現実に引き戻した。 下を見ると教師がばたばたと手を振っているのが見えた。 今、行くから ! しっとしてるんだぞリ」 「早まるんしゃないリ だっと 教師は後ずさりしながら叫と、脱兎のごとく校舎に飛び込んでいった。 木佐と真冬は顔を見合わせ、同時にフェンスを登って、飛び降りて、階段を駆け降りて あお

9. あざやかな日々 : 夜光街

真冬はわざと頬をふくらませて腕組みをする。 「来週にでも仕切り直そう。・来年も再来年もやろうぜ。お前の誕生会だけ単独でやってもいい」 「ばあか。待ってられるか。時間がないんだよ、青春はーーーーあ」 視線を逸らした真冬が小さく声を上げ、窓辺にかけよった。 窓を開けると白いものが吹き込んだ。夜空にちらちらと雪が舞っている。 「すげえ。雪だ そで 窓の外に両腕を伸ばすとガクランの黒い袖に細かい雪が散った。急いで木佐のもとに戻った が雪はすぐに溶けてしまった。 「つもると いいな。つもるかな」 うれ 嬉しそうに呟く真冬の横顔を見てしまっては木佐も否定などできなかった。 真冬はもう一度窓から両手を広げ、目を閉じた。木佐ははじめて会った時の真冬を思い出し ていた。 「藤井くんとかいったか、もう終電は終わってるだろう。車で送っていこう」 雪 の 日比野がべンツのキーを片手に顔をのぞかせた。 後「でも : : : 」 「帰れよ。俺はだいしようぶだ」 そう言ってやると、真冬はしかたなくガクランに袖を通した。一度ドアに向かったが、開け

10. あざやかな日々 : 夜光街

うれ 子供だった。嬉しそうに笑う、まだ小さなその子供をフェンウェイは知っている。どこかで 会ったことがある。 かたわ 手をのばすが、届かない。子供は傍らに立っ誰かに手を握られ、歩いてい 行ってしまうー・ー。 「フェンウェイ」 ひたい ふいに額に冷たさを感じた。目を開けると自分をのぞきこむ流の姿が見えた。額に濡れタオ からだ ルが載っているのがわかった。身体中が熱い。 だいしようぶだ。そう言おうとしたが、声にならない。流の顔は次第にばやけていった。 まぶた 瞼の裏をちらちらと光が動いている。まぶしさに、ほんの少し目を開ける。 つの間にか、日が昇っ 明るい。差し込む光が白い壁に反射して、部屋は光で溢れていた。い こずえ すきま こぼ ている。開け放たれた窓の向こうに梢が見えた。風で揺れる梢の隙間から光が零れていた。 から 流はもフ起きているらしく、べッドは空だった。体は少し楽になっていた。首筋の熱もかな り引いている おど 目を閉しると、瞼の裏に残った光が躍っていた。同じ光をどこかで見たような気がする。 どこでだったろ、フ : あふ