竹中氏の発言に、銀行関係者は一様に眉を曇らせました。現職の経済閣僚が、元日銀 マンとはいえ、一介のエコノミストの提示したデータを公然と裏打ちしたのです。二〇 〇一年秋以降、「三十社問題ーがマスコミを賑わせたのは、読者も記憶にあたらしいと ころだと思います。取り沙汰された主な企業名は、破綻した熊谷組やマイカル、青木建 設をはじめとして、ダイエ 1 、ダイエーオーエムシー、オリエントコーポレーション、 大日本信販、住友建設、飛島建設、佐藤工業、フジタ、東急建設、ハザマ、三井建設、長 っ谷工コ 1 ポレーション、日産建設、千代田化工建設、大京、ミサワホーム、藤和不動産、 東急不動産、興和不動産、兼松、日商岩井、ツムラ、合同製鉄、カネボウ、クラリオン、 三協アルミニウムエ業等々がズラリと並んでいる。 日 + 竹中氏は不毛の論議が続く不良債権問題に業を煮やし、急所の在りかを内外にアピー 九ルしました。 不良債権処理の過程で、不況に苦しむ中小企業が多数倒産し、失業者 一が街に溢れるといった言説は、論点のすり替えでしかない。中小企業向け不良債権は、 〇額からいってもたかが知れている。真の問題点はマイカル同様、巨額の不良債権を抱え 章ている特定企業をどうするかなのだ。 第竹中氏は金融当局に対し、そう突きつけたのです。
③経営基盤強化のため、持ち株方式による企業再編を促進する まず、①については、そのゼネコンの履行保証をするかどうかで、銀行側の覚悟を見 極めようとしています。要するにいざとなったら責任を持ちなさいよと、銀行に証文を 突きつけている。言うまでもありませんが、もし銀行が履行保証しなければ、そのゼネ コンは潰れるしかありません。 ②については、銀行の自己資本比率と同じように、一定の自己資本規制をクリアでき ないゼネコンには、建設業許可を認可しないという方針。①と同様、ゼネコンのふるい 分け作業です。 最後の③は、ゼネコン各社に再編の道筋を明示している。 経営統合を検討する三井建設と住友建設のケースは例外として、歴史のあるゼネコン 大手は企業風土などまったく異なるカラ 1 をもち、そのゼネコン同士をいきなり合併さ せるのは現実問題として難しい。それならば持ち株会社方式はどうなんだーー行政はそ う投げかけているわけです。 銀行業界でつかわれたのは、まさにこの手法だし、公共事業の入札ひとつをとっても、 傘下企業別に、これまで通り一社に一票は確保できる。つまり国交省は業界のふるい分 けと再編を一気に加速させ、不良債権処理問題に対応する構えなのです。
にとってメリットの少ない客、リスクの高い客からは応分の手数料、金利をとろうとい う営業方針が今後さらに徹底されるでしよう。また資金調達手段の構造変換が起こって いる以上、間違いなく銀行数も淘汰されてゆく。 大事なことは、銀行が淘汰される時代の到来は、同時に預金者、利用者も、銀行から 選別される時代になるという点です。融資する客としない客、金利を優遇する客としな い客を、銀行がビジネスライクに取捨選択してくる。 では、資本力のない零細企業は、今後はどこから資金を調達すればいいのか。日本の 企業の大部分は中小企業。その経営者の最たる仕事は、資金繰りじゃないかと、疑問を 持たれる方もいらっしやるでしよう。 でも、どうか安心してください。地域密着型で小回りがきき、零細企業というだけで 簡単に切り捨てもしない銀行は、ちゃんとあります。それが本来の信用組合であり信金 であり、地銀なのです。 従来、企業は取引銀行を信用金庫などから都市銀行の方へスライドさせていく慣習が ありました。それが企業に箔を付け信用力を高めるステップでもあったわけです。とこ ろが金利やサービスの自由化で、いざ都銀と取引関係を結んだものの、期待した以上の サービスが受けられないという事態がこれからは出来してきます。
が倒産し、セゾングループやダイエーの経営危機も明らかになっています。建設は熊谷 組や青木建設、二〇〇二年一月に倒産した殖産住宅同様、いっ経営破綻してもおかしく ない企業が目白押しで、鹿島、大成、清水、竹中、大林組以外は、すべてその俎上にの ばります。不動産については三井や三菱、住友といった財閥系以外は、ほとんどの企業 件が苦しい経営を強いられている。商社も住友、三井、三菱、伊藤忠以外は全部ダメでし 事 よ、つ 大 の っ いまマーケット関係者が注視している、三十社リストにも記載された問題企業を主要 支援行別に整理してみましよう。 ・みずほ : : : 佐藤工業、飛島建設、日産建設、ハザマ、神戸製鋼、、十字屋 日 + ・三菱東京 : : : 山水電気、市田、東急建設 九・三井住友 : : : フジタ 一・ : : : 藤和不動産、大京、大末建設、東洋建設、日新製鋼 〇・あさひ & 大和・ : ・ : 不二サッシ、長谷工コーポレーション 章こうしたポーダーライン上にある企業、債務超過といわれてもおかしくない企業向け 第の債権が、総額でいったい幾らになるのか。公的資金再注入に二の足を踏む金融庁は、 菊いまだその試算すら行っていません。これを行政の怠慢といわずして、何というのか。
ープ企業同士が利益背反になることもなく、結束に役立っている。 三井住友海上火災にみられるように、生・損保の合併などはこの先でてくるにしても、 三井住友銀行のグループ企業は、かならずしも銀行がイニシアチプを握っているという わけではありません。二〇〇二年二月一日に誕生した三井トラストフィナンシャルグル 行ープ ( 中央三井信託銀行 & 三井アセット信託銀行 ) は、その好例といえるでしよう。っ まり同じ財閥グル 1 プであっても自由な活動を許容しあうそのフアジ 1 さがプラスに働 くと面白い銀行になるのではないでしようか。三菱グル 1 プにはない融通無碍さが、逆 行 銀 に他社とのアライアンスに活かされてくる可能性が高いわけです。 の たとえば旧さくら銀と緊密な関係にあった野村證券の投信を販売したり、日本生命の 塒商品を販売したりといった事態も大いにあり得ます。商品戦略的にみると、それは明ら かにプラスなのです。 三井住友の潜在能力としてその筆頭に挙げられるのが、リスク性商品を顧客に勧める 金説得力の高さです。金融商品の販売力はメガバンク随一の呼び声も高く、グループ企業 章の三井生命も、変額個人年金の運用能力の高さでは群を抜いています。中長期のスパン 第でリテール事業をとらえようとしている、そのスタイルが確立しているのはメガバンク のなかでも三井住友だけでしよう。
金で雪ダルマになったダイエ 1 をそのまま存続させていいのかどうかは、また別問題で す。そごうの場合はどうだったんだ、という話にもなりかねません。 現在、ダイエー側は金利減免のほか、再度のクレジットラインを設定するよう銀行側 に求めています。こうしたダイエー再生にむけての働きかけは、 *-. グループが二〇 〇一年十一月頃から進めていたもので、経営はすでに実態的に同銀行が握っている。 〃福岡セット〃も、債権放棄のかわりに株式を受け取る「デット・エクイティ・スワッ プ」という方法が検討され、地元企業の参画を呼びかけています。 しかし、支援行の真意はズバ リ、″福岡セット〃を外資へ一括売却することではない でしようか。球団のダイエーホークス、球場とホテルを運営する福岡ド 1 ム、その保有 会社である福岡ダイエー・リアル・エステートの三社は、〇一年二月期で合わせて三十 三億円の営業黒字を計上しています。簿価で一千三百億円、時価でも一千億円は下らな い物件ですから、相応の資金量のある企業でないとおいそれと手はだせない。そうなる と、やはり現実的な売却先は外資ということになる。 外資にとっては、〃福岡セット〃がすべて黒字会社だけに小口で債券化し、販売する ことも容易になる。ただ問題は千軍万馬の外資が時価通りに買い取るかどうか。やはり 数百億円は買い叩かれるはめになるのではないでしようか。すると、自動的にダイエ 1
182 資先の格付けの見直し、要注意先債権の引当金を大幅に増加させるといった大胆なリス トラを断行すると宣言したのです。 三井住友は行員の質も高く、すべての面において筋肉質なイメ 1 ジが強いと思います。 ふたつの財閥系銀行が合併したことでうまく財閥色も薄まって、銀行としての均整の良 さということならば、おそらくビッグ 4 のなかでもトップに位置するでしよう。 金融商品の販売力は抜群だが その均整ぶりは、なにも営業圏だけにかぎったことではありません。両行が得意とす るホールセールはともかく、リテ 1 ルが強いとされてきたさくら銀は、エーエム・ピー エムと提携してコンビニバンクを始めたり、業界に先駆けて消費者金融に手を着けたり と積極的な営業戦略をとり、実績を挙げてきた。住友の方は関西圏のトップッーの一角 ですから、リテ 1 ルではそれなりの実績、ノウハウをもっています。 また商品展開を左右するグル 1 プ企業についても、銀行傘下に証券、信託銀行、そし て生保まで抱えこもうとしているみずほグループとは対照的に、三井住友金融グル 1 プ は緩やかな連合体になっている。持ち株会社ではなく両行の合併ですから、各々のグル
区分全体、債権総額の何パーセントという形で貸倒れ引当額が決められる。つまり特定 の案件に引当金を厚く積み、その他は薄く積むといった″裁量〃が、個々の銀行側に許 されている。 もう一度、みずほフィナンシャルグループに話を戻します。危機が噂されて以降も、 件マイカル向けの融資は三千億円まで膨れ上がっていました。そのほとんどは資金繰りの 大ための短期融資で、大部分が無担保です。それにもかかわらず、きわめて低い引当てし つかしてこなかった。この点が重要なのです。 日 ポーダーライン上の問題企業とは ? 十 もともと日本の大 九重ねて申し上げますが、マイカルは決してレア・ケ 1 スではない。 一手企業は金融市場から直接、資金を調達する直接金融よりも、銀行から借入れる形の間 〇接金融を重視してきました。メインバンクは企業にとって、文字どおりマザ 1 であり、 章ドクタ 1 でもあった。メインバンクが政策的に潰さないと決めた企業は、まず倒産する 第ことはなかったのです。 っこう こうした商慣習、伝統のもと、「この企業の債権を要注意先に区分しても、
174 す。 O c•0 というのはキャッシュ・マネジメント・サ 1 ビスの略で、カルピスやソニーな どで導入されている法人向けの新しいサービスです。 その企業の海外を含む資金の出入りや決済など金融ファイナンス全般にわたって、ひ とつの銀行が面倒をみる。コマ 1 シャルバンクが中心になって、グル 1 プ企業のいろい ろなサービスを提供し、手数料を稼ごうという戦略です。銀行側はグル 1 プ全体で連結 決算すればいいわけですから、これまでのようにグループ内で競い合う必要がなくなっ た。だからこそ可能になったサービスともいえます。 たとえば契約した日本企業が中国に生産拠点を持っているとすると、どこから原材料 を仕入れるか、決済はどういう形で行うか、労働賃金はドル建てにしてからそれを元に 替えて支払うか、日本円で建ててから元にするか等々、ファイナンスの需要は複雑で多 岐にわたります。 従来であれば、企業が社内でファイナンスのスペシャリストを養成し、ことにあたっ ていましたが、企業にスペシャリストを抱えておくだけの余力がなくなってきたために ファイナンスをまとめて外注化する、つまり銀行に任せてしまおうというマインドがう まれました。
180 オールマイティに関していえば、もうひとっデメリットがあります。つまり全方位で あるがゆえに、銀行の特徴を打ち出しにくい部分がでてきやしないかという問題です。 かって第一勧業銀行はハ ートの銀行、つまり庶民派のイメ 1 ジを打ちだしていましたが、 では、みずほにどんなカラーが似合うのかと訊かれると、甚だ曖昧になってくる。みず ほ自身にとっても、企業イメ 1 ジはまだ漠としているのでしよう。持ち株会社だけに、 それぞれの銀行の特徴がバラバラのままで、まとまりを欠いている。 とにかく三行の呉越同舟ですから、主導権争いは今後も避けては通れないわけで、ま ずは人事で組織を固めることができるかどうか。産みの苦しみは、まさにこれからとい ったところではないでしようか。 ・三井住友銀行 日本を代表する財閥系銀行二行が合併し、三井住友銀行は誕生しました。 特にさくら銀行から、三井の名を復活させた三井グル 1 プは意気軒昂です。三井グル 1 プの御三家は銀行、不動産、そして商社ですから、名実ともに御三家が復活したこと