誤解しないでいただきたいのは、アメリカと日本のスタイルの、どちらがいいか悪い かではないのです。日本の銀行がメインバンク主義の裏側で、恣意的な案件、特例案件 の存在を常に許してきた、その放漫さに問題の根っこがある。 本来、マイカルなどは要注意先にカウントすべき企業ではなかったはずなのに、メイ ンバンクが潰さないといったら、絶対に潰れないんだという強引なロジックで、要注意 先に無理やりもぐりこませ、処理を先送りしてきた。同様の案件が、まだ三十社ちかく あるということなのです。 もうひとつ、アメリカの思惑について指摘しておきたいと思います。 株式の持ち合い解消が進むにつれ、企業グル 1 プ、ひいては財閥グル 1 プの結束が緩 んできます。つまり事実上の「ケイレッ」解消です。ケイレッ問題は、八九年の日米構 造協議以来の懸案事項。アメリカにとっては千載一遇のビジネス・チャンスの到来です。 金融ビッグバンが実現したいま、アメリカにとって残る最後の障壁がこのメインバンク 主義という慣行なのです。 小泉首相と自民党守旧派を結ぶ「田中六助人脈」
「中小企業向け融資を増やせ、貸し渋るなといってきたのは、どこの誰なんだ」 「日本経済を本当にだめにしていいのかー こうした意見が、いまでもたまにメディアにとりあげられます。 たしかに誰にでも分かりやすい、耳に入りやすいロジックではあります。しかし、騙 牛されてはいけません。こうした言い草を陰で演出しているのは、多くの場合が銀行なの 大です。 っ要注意先債権というパンドラの箱に世間の関心が集まっているーー銀行関係者は、そ うのことでずいぶん頭を悩ませてきました。 私自身の取材経験でも、質問の核心が要注意先に移った途端、銀行幹部たちの口から 日 + 同様の言い訳が漏れるのを何度、耳にしたか分かりません。 月 「ハ、ン、いずれこのロジックでキャンペーンを始めるつもりなんだな」 年 一私には、すぐにピンときました。 〇要するに、論点のすり替えなのです。いま問われているのは、要注意先債権のすべて 章を直接償却しろ、ということではありません。また要注意先の区分そのものが悪いとい 第っているわけでもない。 そのなかに不良債権にカウントされるべき大手の案件を紛れこませているでしょ ?
により、自己査定では不明瞭だった、「要注意先」に含まれる不良債権が浮かび上がっ てきました。 ところが、それでも問題が残ったのです。要注意先に対する債権でも要管理債権に含 まれないものは不良債権ではないということになるわけですが、対ゼネコンをはじめと する問題債権の山が、その区分に紛れこまされ、〃塩漬け〃にされていたのです。 件 「マイカル 大その典型例が、二〇〇一年九月に倒産した業界四位の総合スー っ ( 旧・ニチイ ) でした。負債総額は、グループ全体で一兆七千四百二十八億円。マイカ ル単体の昨年七月時点の借入状況は、概ね次の通りになっています。旧一勧一千二百四 十一億円、旧興銀七百四十七億円、旧富士銀六百九十七億円、旧三和銀一一百十五億円、 日 ←住友信託百三十億円、新生銀百一一十九億円、旧大和銀百一一十五億円、東京三菱百十億円、 九農林中金九十六億円、あさひ銀八十二億円。驚くべきことに、主力銀行の一勧をはじめ 一とする各行は、要注意先に区分されていたマイカル向け債権を不良債権扱として「要管 〇理債権」にカウントしていなかったのです。 章結局、要注意先の中にどのくらい実質的な不良債権があるのかは、金融再生法開示基 第準による区分でも不正確だと言わざるを得ないのです。そのため、前述した国会での民 主党議員の質問にあったように不良債権の実態を考える上で、破綻先・実質破綻先と破
182 資先の格付けの見直し、要注意先債権の引当金を大幅に増加させるといった大胆なリス トラを断行すると宣言したのです。 三井住友は行員の質も高く、すべての面において筋肉質なイメ 1 ジが強いと思います。 ふたつの財閥系銀行が合併したことでうまく財閥色も薄まって、銀行としての均整の良 さということならば、おそらくビッグ 4 のなかでもトップに位置するでしよう。 金融商品の販売力は抜群だが その均整ぶりは、なにも営業圏だけにかぎったことではありません。両行が得意とす るホールセールはともかく、リテ 1 ルが強いとされてきたさくら銀は、エーエム・ピー エムと提携してコンビニバンクを始めたり、業界に先駆けて消費者金融に手を着けたり と積極的な営業戦略をとり、実績を挙げてきた。住友の方は関西圏のトップッーの一角 ですから、リテ 1 ルではそれなりの実績、ノウハウをもっています。 また商品展開を左右するグル 1 プ企業についても、銀行傘下に証券、信託銀行、そし て生保まで抱えこもうとしているみずほグループとは対照的に、三井住友金融グル 1 プ は緩やかな連合体になっている。持ち株会社ではなく両行の合併ですから、各々のグル
ニアリー・イコ 1 ル・基準になっています。 coæo とはアメリカの証券取引委員 会の略で、全米に九百人を超える捜査官、事務方を含めると三千人以上のスタッフを誇 る″市場取締り機関〃です。ニューヨーク証券取引所に上場している東京三菱銀行が全 合銀協トップに就いた時、このスタイルが導入され、会計基準も基準に近い ものとなりました。 っ る 基準は、日本の会計基準と国際会計基準の中間に位置するスタイルです。決算 す 方法が連結方式へ変更されたのも、各行は時代の要請と割りきって、粛々と対応してき 格 本ました。 っ ぐ アメリカの金融界は、八〇年代後半まで続いた金融危機で、「要注意先であっても、 をどんどん倒産した」という苦い教訓を得ました。だから不良債権といえば、要注意先債 注権をもサプ・スタンダードとみなし、処理する際には、その要注意先債権総額の十五パ 金 1 セント程度を併わせて直接処理してしまう。債権の売却、あるいは債権放棄を通じて、 的パランスシートからさっさと外してしまうのです。 章対する日本の金融界は、い わゆる″メインバンク主義みが依然、幅をきかせています。 第つまり当該の企業は将来、業績が上向くかもしれないから銀行で面倒をみます、潰しま せんから、どうぞ放っておいてください、 という独特の慣行を捨てきれないでいる。
らに深刻化しました。企業の業績が急速に悪化し、土地安も重なって資産が劣化する。 次から次へとあらたな不良債権が発生する。まさに最悪の事態に直面しています。 全銀行の法人向けの貸出総額は約三百五十二兆円。気がつけば、いったん減少傾向に 転じたはずの不良債権が、再び上昇カープを描いて、膨張していました。銀行の貸出金 に占める不良債権の割合は、い まも不気味な拡大を続けています。 その総額は、二〇〇一年三月末時点で十七兆四千億円 ( 主要十五行 ) にのばります。 全国べースでは三十六兆八千億円 ( 〇一年九月末時点 ) で、同年三月末の数字よりも三 兆一千億円増加している。主要十五行の数字は柳沢金融担当相が明らかにしたものです が、その三ヶ月後、今度は金融庁が不良債権の手前にある「要注意先債権、の総額をあ らたに公表しました ( 主要十六行 ) 。額にして、実に四十二兆六千億円です。 さらに国会の質問に立った民主党議員が金融庁に対し、全国の銀行べースで、要注意 先を含めた「問題先債権」が幾らあるのかと質したところ、百四十兆円という回答があ りました。預金取扱金融機関の総与信額の二割に達する金額です。 要注意先にカウントされる企業群は、本来、経営環境は悪化していても、元利の返済 などは滞っていないグループだとされています。したがって百四十兆円すべてが不良債 権というわけではありませんが、不良債権およびグレイゾーンの債権がそれだけある。
マイカル倒産劇の何が本当に衝撃だったのか ? ここでマイカルの倒産劇に、少し触れておきましよう。 メインバンクだった第一勧業銀行は、二〇〇〇年九月、富士銀行や日本興業銀行と経 営統合し、世界最大規模のメガバンク「みずほフィナンシャルグループ」の傘下に入り ました。しかし、経営統合したからといって、それによって不良債権自体が都合よく消 えて無くなるわけではありません。 熊谷組のように私的整理のガイドラインに沿って債権放棄をしたり、あるいは法的整 理するなどして、どこかの時点で債権を帳簿から切り離さないかぎり、いつまでたって も銀行経営を圧迫し続けます。それが不良債権の厄介なところです。 マイカル向けの債権が不良債権にカウントされていなかった経緯については、すでに 触れました。プラックポックスと揶揄される「要注意先債権ーの引当金は、バランスシ ート上は一般貸倒れ引当金として積まれ、マックスで貸出額の十五パーセント、平均で 四パーセント程度とされています。 ところが、この「要注意先債権 , というのは、個別案件ごとに引き当てるのではなく、
読者もご存知のように、銀行による企業などへの貸し出しを債権と言いますが、不良 債権とはそのうちで金利や元本の返済が約束通りできなくなったものを指します。 銀行が保有する債権を分類するにはいくつかの方法があるのですが、その代表的なも のが「銀行の自己査定に基づく債権区分ーです。銀行から借金をしている会社などを 「債務者 , と呼びます。銀行はそれぞれの経営状況や財務状況、さらに返済状況などに 基づいて、債務者を四段階に区分。これを自己査定と言います。これにより債務者は状 況の悪い方から、「破綻先・実質破綻先」、「破綻懸念先」、「要注意先」、「正常先」と区 分されるのですが、このうち、破綻先・実質破綻先と破綻懸念先の債権を不良債権と呼 ぶのです。 ところが、銀行の自己査定に基づく債権の区分は、実態として各行で解釈、運用にバ ラつきがあります。まさにプラックポックスになっている。ひと頃、この債権区分を 云々するのは、ジャーナリズムのなかで枝葉末節の議論と軽んじられていましたが、そ うではなかったのです。 つまり、要注意先に分類されている債務者の中にも、経営状況や財務状況が悪くなっ ている会社が相当数存在するのではないかという疑念が、高まってきたのです。特に一 九九八年の金融再生法施行や九九年の銀行への公的資金再注入という局面を迎えるなか
で、不良債権のディスクローズベースをキチンと定めて、要注意先の中でも問題のある 債務者は公表すべきだという意見が大勢を占めるようになりました。 そこで注目されてきたのが、「リスク管理債権における区分」や「金融再生法開示基 準による債権区分」です。 前述した通り不良債権とは、金融機関の貸出等の債権のうち、元本・利息の回収が不 件 大能になったり、その懸念があるものを指します。金融庁は貸出先の返済状況に着目して、 つ「破綻先債権」「延滞債権ー「三ヶ月以上延滞債権」「貸出条件緩和債権」を「リスク管理 〕債権」と定義づけています。一方、金融再生法に基づく資産査定では、返済が継続され ていても貸出先の財務状況が悪ければ不良債権として開示しなければなりません。これ + を金融再生法開示債権というのですが、具体的には、「破産更生債権及びこれに準ずる 九債権」、「危険債権」、「要管理債権」がこれに当たります。 一金融再生法開示基準による区分で定義される不良債権のうち、「破産更生債権及びこ 9 れに準ずる債権 , は自己査定における「破綻先・実質破綻先、に、「危険債権は「破 章綻懸念先 , に相当します。そして、「要管理債権ーとして分類されるのは、自己査定に 第おける「要注意先」に対する債権のうち、リスク管理債権の基準の「三ヶ月以上延滞債 権ー及び「貸出条件緩和債権ーに当たるものです。この金融再生法開示基準による区分
綻懸念先という自己査定による不良債権に要注意先を加えた「問題先債権」という分類 に注目が集まるようになったのです。 要するに銀行は、十分な貸倒れ引当金を積むといった、本来やっておかねばならない 善後策を意図的にずっとしてこなかった。事前の備えを放棄してきたのです。 「そんないい加減なことが、あのお堅い銀行で行われていたはずがない ! 」 そうおっしやる善良な読者も、なかにはいらっしやるかもしれません。ですが、どう か思い出していただきたい。バブル崩壊後、どれだけの数の金融不祥事が続き、銀行内 部でどんな出鱈目ぶりがまかり通っていたのかを。 後の大蔵省接待スキャンダルで明らかになったように、行政との癒着があったがゆえ に、銀行の夜郎自大ぶりが表面化してこなかっただけの話です。 「そんなツケを支払わされるなんて : : : 」 たしかに、その通りです。でも、この不良債権問題を処理しなければ、日本の金融シ ステムはいつまでたっても正常化せず、市中にカネもまわりません。 金融庁の特別検査が引き金に