わかっ - みる会図書館


検索対象: いちばん外側の色
74件見つかりました。

1. いちばん外側の色

そんな一週間が続き、期末試験の時期になったとたんに、空閑は来なくなった。それもそう だろう。期間中は、それこそ第三者に気を配っている余裕なんかない。部屋にいられるだけで も、何となく落ち着かない 空閑は、大地のそんな気持ちを汲んでくれたのだろう。あるいは、自分も試験勉強をするた めに、家にこもっているのかもしれない。 と思ったら、夜の十一一時頃に電話がかかってきた。毎日ではないのだが、空閑が電話を よこすとしたらこの時間なので、すっかり大地にも心構えができてしまった。 『今日はどうだった ? 』 「わかったか ? 」 「わかった」 ふんいき 頷かなかったら、空閑はもう一一度と来ないとか言うところだったのだろう。そんな雰囲気が 伝わってきたので、大地も頷かざるを得なかった。 「しゃあ、勉強しよう」 につこりと笑った空閑の笑顔が、大地には何だか、エイリアンのそれに見えた。

2. いちばん外側の色

126 空閑は肩をすくめただけで、何も言わなかった。 うんぬん くや 「まあ、仕事云々は冗談だから。ちょっと悔しくて言ってみただけ。こう見えても僕は、基本 的に公私混同はしない主義」 それは意外です。 思わす口を滑らせそうになったが、すんでのところで我慢した。 「恋愛云々は別にして、仕事のことは予定に入れておいてくれる ? 」 「わかりました」 八道が、さつばりした性格で助かる。ここでネチネチ言われたら、空閑は席を立っていたか もしれない。我慢も限度を超すと、かぶっている猫も吹っ飛ばしてしまうだろうから。 「でも君は : ・・ : 」 まだ何か言うのか、と視線を上げると、八道は今までとはちょっと違う視線で空閑を見つめ 返した。 「素直な恋愛はできにくいんだろうね」 それは、先刻の空閑の反応を見たから言っているのか、それとも、他のことから推測してい るのか。空閑にはわからなかったので、 「そうかもしれないですね」 と曖昧に同意した。

3. いちばん外側の色

194 空閑はキスを拒まない。それは、今までのことから大地はわかっている。それならば、次の ステップに進むことも可能だろうかーー。唇の位置をすらし、彼の首筋にキスをする。空閑が あえ みみもと 耳許で、小さく喘ぐのを聞いた。大地の下腹に、熱い波が起こる。 「だ、大地っー 「え ? 」 もがく空閑に、知らないふりで答える。だが、空閑が動揺する理由はわかっていた。逃げら れないように大地がしつかりとホールドしている上に、密着させた下肢からは、大地の熱を感 し取っているのだから。 だが大地は、空閑の表情には、困惑と衝撃だけではなく、快感が混しっているのを読み取っ てしまった。その表情を見ながら、大地は、自分が空閑を欲しているのだと確信する。体は正 直だとも思った。 「 : : : でもさ、欲しいって気持ちと恋愛感情って、イコールだと思う ? 」 ふと言った大地の言葉に、空閑は表情を強ばらせ、力すくで体を引きはがすと、思い切り腕 を振り上げた。 ひま 避ける瑕もなかった。痛みより先に、衝撃が大地の頬を走る。キンと耳鳴りがした感しがあ り、そのあと頬に熱が生じた。 こわ ほお くびすじ

4. いちばん外側の色

122 空閑は、心を落ち着けるように深呼吸をし、彼を見返した。 「つまり、何が言いたいんですか ? 」 「僕とっきあわない ? 」 : はい ? ・」 かなり遅れた、間抜けなタイミングだった。しかし八道は、悪びれた風もなく、もう一度繰 り返す。 「僕とっきあってみない ? と言った」 「あの、俺、男ですけど」 「そんなの、最初からわかってるよ」 はさ この業界には、案外そっち系の人もいる、と小耳に挟んだことがある。しかしそんなこと かか は、空閑にはあすかり知らぬことだったし、実際に関わり合いができるとも思っていなかった たぐ ので、聞き流していた類いの情報だ。 おうよう まじまじと見返してみるが、八道はにつこりと笑って鷹揚に構え、空閑の返答を待ってい る。色よい返事でももらえると思っているのだろうか ? 「あの : : : 」 「うん ? 」 「今まで気がっかなかったんですが、八道さんって、そっち系のひとですか ? 」 まぬ

5. いちばん外側の色

108 は助かるのだが、相変わらす、相手の予定よりは、自分の予定中心で決める人だ。 どちらにしても、彼に飯でもおごってもらいながら、最終回の話を早く決めてしまった方が 。そして仕上げたら、しばらく彼とは一緒に仕事をしないでも済むかもしれない。 「それは、ちょっと楽かもしれない」 空閑は、もともとこういう付き合いは苦手な方ではなかったが、彼はちょっと苦手な部類に 入る。なぜなら彼は、空閑とキャラがかぶるからだ。つまり、人付き合いが表面的だがうま という点でだが。 相手が表面的につきあっているというのがわかってしまうのが、お互いに苦痛だ。それでも 今回は、仕事がらみだからあきらめているし、空閑もそこそこ大人だから、それに合わせてい る。 それに : あの馴れ馴れしさも、実は苦手なのだ。何か、下心があるように思えて仕方がない できれは自分の思い過ごしであって欲しいとは思うのだが、基本的に空閑は、いやな勘ぐり はど当たってしまうたちなのである。 かん

6. いちばん外側の色

なぞ 空閑の話は、時々謎だ。話の方向も、彼のツポも、今ひとつわからないことがある。もっと も、これもジェネレーションギャップというやっか、と考えて、あえて追及しないことにして いくら大地に、彼と同い年の兄・栄がいるといっても、話題が百。ハーセント重なるなんてこ とはあり得ない 年齢が五歳違えば、それなりの意見なり考え方の違いも出てくるだろう。 「ま、とりあえす、あと少ししたら休憩か」 ぼっとう 大地は時計を見、ドラマの時間を確認して、再び勉強に没頭し始めた。 「大地、マジで見てくれるかな」 つぶや 空閑は、電話を切ってから、思わず呟いてしまった。 大地の好きなキャラクターである主人公を、いつにも増して大活躍させてしまった。プロデ きてれつ さらみが ューサーはおもしろがったが、内容の奇天烈さに更に磨きがかかってしまった。 「せつかくの近未来設定なんだから。あんまり地味しゃなくていいよ』 彼がそう言ってくれたからだ。 彼はずいぶんと空閑を買ってくれている。一体、自分の脚本のどこがそんなにいいのかと、

7. いちばん外側の色

空閑の顔を見ないままで、大地が訊いた。自分の隣で、彼が体を強はらせるのがわかった。 彼とこの前キスしたのは、いつだっただろうか。最初は、目の前の唇に誘われた。一一度目は、 その感触を確認したくなった。 「大地はなんでそんなことしたがるわけ ? へだ 少し固い声のまま、空閑が訊いてくる。ェアコンの効いた室内で、数センチを隔てた体から は熱が伝わってきた。冷えた空気の中なので、余計に敏感に感し取ることができるのかもしれ 「なんでだろう : ・・ : 」 した 気持ちのいい感触。彼が拒むので、舌を入れた深いキスはできなかった。空閑のロの中は、 熱いだろうか。その舌は、どんな感触なのだろうーー。 めぐ 首を巡らせて空閑を見る。彼の顔は真横にあった。ひたりと当てられた大地の視線に、空閑 は身しろぎもしなかった。まるで何かにとらわれたかのように、しっと大地を見返してくる。 色 まっげまばた ふたえまぶた 側相変わらずの、くつきりとした一一重瞼と長い睫。瞬きを忘れたかのように、大地をしっと見て ひとみ んいる、茶色がかった瞳の 引吸い寄せられるように、唇を寄せた。空閑は、逃げもしなければ、瞼も閉しなかった。 接触するだけのキス。反応のない唇に焦れて、大地は舌を出してそっと舐めた。空閑の体が ピクリと揺れる。 161 こわ

8. いちばん外側の色

「バカにしてる ? 」 と、ちょっと感心してるところ』 『いや。そんなに好きなドラマなのか 本気かどうかもわからないが、大地は思わず真面目に受け答えた。 「まあ、結構好きかも。録画しても、どうせ見る時間ないからさ。だったら、ちょっとだけ休 憩兼ねて見ようかな、とか。一週間に一回だし , 『ふーん』 自分で話題を振ったにしては、何とも気のなさそうな返答だ。 『しゃあ、今晩も見る ? 』 「うん」 『見たら、感想教えてよ』 「何で ? 『何となく』 の空閑は、時々曖昧な話し方をする。それが彼の癖なのか、それとも、どうでも ) いるのか、大地にはわからない。だけど、素直に頷く ん 「わかった」 ち そのあとは、大した会話も交わさずに電話を切った。 一体あの人、何を話したかったんだろう ? まじめ しいと思って

9. いちばん外側の色

「本当に、兄貴いなくていいの ? うなず だいち 大地が言うが、空閑は一向に気にしない様子で頷いた。 。だ ) たい俺、大地に会いに来たんだし」 「全然平気 「うん。でも、さあ : : : 」 大地は、ちょっと困っていた。この年上の友人と、一体何を話題にしていいのかわからない のだ。電話で話をしていることを考えると、同し内容でいいのだろうと頭ではわかっている。 わかっているのだが : : : 目の前に彼がいると、何となく落ち着かない。 の「あれ、大地って、友達あんまり家に呼ばない主義 ? 」 外「呼ばない主義っていうかーーーあんまり、家に呼んでる時間、なかったから」 「あー、そうだろうな。サッカー小僧だもんな」 ものめずら 空閑は、初めて入る大地の部屋を、物珍しそうに見回している。 さかえ 大地の部屋も、兄の栄の部屋も、同じ広さーー六畳である。べッドも同じ。机も同じ。それ

10. いちばん外側の色

いちばん外側の色 なのに : 「サイアク」 ふう ポソリとタオルの中に呟いた。一体何で自分は、こんな風にイライラしているのか、わから なかった。空閑が来てくれたのだから、本当だったらもうちょっと ) しいところを見せたかっ た。だけど、まったくそれどころではなかった。情けない話だ。 顔を上げると、遠くで空閑がこちらを見ているのがわかった。もしかしたら、途中で下げら れた大地を心配しているのかもしれない。 もう一度、盛大なため息をタオルの中に吐き出す。 「サイテー」 これ以上、彼にこんなところを見られたくないと思いながら、大地は、大きなタオルに深く 深く顔を埋めこんだ。