190 くなるから、人の派遣にとどまらず、プロジェクト全体を統括し、仕事の成果にも責 任を負ってくれるアウトソーシングに人気が集まっているのです。これだと派遣と違 って、スタッフにいちいち指図する煩わしさも省けます」 企業で成果の要求レベルが厳しくなり、派遣業にも風圧 。「派遣業はこれまで 人を送り出すだけでした。どこでも通用する " 市場価値 ( 能力を備えた派遣労働 者は少なく、成果への不安を感じた企業は、アウトソーシングに向かうのです」と是 永さん。こうした動きに対応、派遣会社もようやく人材の訓練に、本格的に力を入れ 始めたという。 「そうか ! 」。孝造は合点した。 「正規雇用の壁が厚く、雇用の流動性に乏しい日本では、派遣などで人材の市場を広 げるより、事業や業務そのものを取引する方が簡単で、企業にも受け入れやすいん 「質の向上に努めない限り、派遣市場は大きく成長しません」。孝造が最後に訪ねた 三和総合研究所の主席研究員、森永卓郎さん ( 昭 ) は、ズバリ指摘した。人材育成へ の取り組み次第で派遣会社間の格差が拡大、「今後四ー五年のうちに業界の本格再編 が進む」とい , つ。
る悪循環に陥っています。それを断てるかどうか、今まさに天王山です」 事務所近くの幻世紀政策研究所へ行った明日香に理事長の田中直毅さん ( ) はこ う切り出した。 「悪循環 ? 」 「そ , つ。説明しましょ , つ」 田中さんによると、バブル崩壊後、建設・不動産や多くの分野の中小企業が雇用確 見 保の名目で保護され、多額の公共事業や銀行融資への公的保証などを通じて恩恵を受 明けてきた。しかし、過剰な雇用を抱えた非効率な企業が厳しい価格競争に耐えきれ 本 ず、新たな不良債権の発生源になっている。 加政府による最近の集計でも、元利払いが滞るなど問題企業向けの債権が金融機関全 解 体で百兆円を超え、「不良化予備軍」の多さを裏付けた。 ゾ ナ田中さんは指摘する。 「不良債権の処理を通じ非効率な企業を整理しながら新規分野の企業育成策を急ぎ、 章 産業を再生させないと、日本経済全体の生産性と競争力を高められない。不良債権を 第 7 減らせば銀行も成長分野の企業に資金を回しやすくなるという指摘があるが、それも 大きくみれば日本の生産性の話にたどり着く」
孝造が満足そうに戻ってくると、明日香が、神戸で会えなかった関西学院大学教授 の林宜嗣さん ( ) と電話中だった。 林さんは、「ロケ誘致は、国の公共事業への依存、つまり施設などハコ物依存型経 済の限界がみえ、そこから脱却、自立しようとする地方の変化を象徴している。撮影 許可など、様々な面での規制緩和が今後重要になります」と指摘した。 報告を聞いて所長がうなった。 2 「うーん、地元の顔を磨いて売り込むのは、ハコ物経済脱却の妙手でもあるんだな」 。明日香が「うちの事務所も磨いて、ロケを頼まれるはどすてきなオフィスにしまし 変 ようよ」ともちかけると、所長がにやりとした。 「よくいった。かなり年代物だから、磨けばきっと撮影希望が殺到するぞ。もちろ ん、磨くのはきみだ、このぞうきんで ! 」 ( 二〇〇一年六月十日 ) え 章 第
便になることさえある。景気も悪いし、建て替えまで待とうと思うのかもね」 だが、・所長は納得しなかった。 「生命・財産がかかっていてもかいを まかに経済的な背景があるんじゃないか」 探偵に再調査を命じた。 る 企業は「外圧」に迫られる え 現「いっ来るか分からない地震し こ大金は使わないよ」 明外に出て孝造が愚痴っていると明日香が顔を上げた。 昨「企業はどうかしら。災害のリスク ( 危険 ) と経済的な損得が結びついてるかも ! 」 明日香に連れられて訪ねたのは、応用アール・エム・エス ( 東京・千代田 ) の副社 解 長、兼森孝さん ( 的 ) 。企業の自然災害のリスクを分析し、情報提供している。建物 ナのリスク評価を手掛けるイー・アール・エス ( 同 ) の社長、草野直幹さん ( ) も同 席してくれた。 章 兼森さんは「企業では : とうせ他社もまだだという考えは通用しなくなりました」 第 3 と指摘した。 「きっかけは ? 」
道路の自動料金収受システムはなぜ普及しない ? 技術は世界最先端でも利用者の便利は後回し みんなで出かけた花見の帰り高速道路の料金所で渋滞を尻目に高級車が「 ずるいなんであの車だけタダなん *0 専用」ゲートを素早く通り抜けた。「 だ」。「止まらず払える新システムですよ。知らないんですか」。探偵、深津明日 これは謎 る よく見ろ、ほとんど使われていない 香の指摘に所長はむっとした。「 あ だぞ」。 ラ カ ぞ 利用率は通行台数の 1 ー 2 % 明日香はすぐに調査を始めた。観察すると、 ( 自動料金収受システム ) 専用 お 三台。 路を通る車は一分にせいぜい二、 ゝに、こんな便利な仕組み 4 「支払いのわずらわしさもなく渋滞をすり抜けられる。確カ を使わないのは不思議だわ」 は、有料道路の料金所のアンテナと自動車に付けた専用車載器の間で無線で
197 第 4 章おかしいそ ! カラクリがあるはずだ 自動車盗難の発生状況 7 6 5 盗難牛数 4 3 検挙件数 還付数 2 万 件 1 92 年 93 97 96 95 94 98 庁増。二〇〇一年は約六万四千件にのばっ 警 。所 「そんなに」。驚く孝造に桑原さんは 。出 「暴力団員などが組織的に盗み始めたか らです」と指摘した。 従来は、乗り回して捨てる単独犯が多 かったが、販売目的の犯行が増えた。手 ロは巧妙で検挙率は落ちている。「他の 暴力団に売る例もあるようですが、中古 車を装った輸出が増えたのが最近の特徴 です」。 海外に ? 」 孝造は仰天した。「実際、盗難車が英 国、南アフリカなどで見つかっていま す」と桑原さん。車が国外に出てしまう と捜査が難しく、車が所有者に戻る率 っ ) 0
人材派遣ま、つこ、、 【し力しどこまで広がっている ? 成果を約束するアウトソーシングに押されて需要鈍る 「人材派遣は増えてますか ? 新年度入りで新卒の派遣が伸びているようです が」。求職中の男性が訪ねてきた。派遣登録したが、仕事がないという。「派遣者 数は首都圏で百万人を超えたらしいですよ」。探偵、加江田孝造が指摘すると、 所長が命じた。「派遣労働は雇用流動化に役立つはずだ。すぐ調べろ ! 」。 好調な業種は限られ、すそ野が広がらない 訪ねてきたのは、四十代前半のダイエー社員。二〇〇一年三月二十九日、人気急増 の希望退職募集 ( 千人 ) に応募し、枠に入った。退職金をもらえてうれしいかと思い きや、どうも様子が違うらしい 「退職金が通常の倍になることに引かれました。派遣などの短期雇用ならとりあえず 何とかなると楽観していたのですが、どうも予想外の展開でとまどっています」。退 職は一カ月先だが、焦りを隠せないようだ。
一日も休んでいる。 「祝日の数を加えても休日数は少ない部類です」と渡辺さん。明日香は、「どうりで、 休み過ぎだと言われても、実感がなかったわけね」とつぶやいた。 「そもそも有休がきちんと取れていれば、祝日や連休を増やす必要なんてないんだ そう気づいた明日香は、日本労働研究機構を訪ねた。 「どうして有休の取得率が低いのですか」と聞くと、副主任研究員の小倉一哉さん ( ) は、「欧州などに比べて、日本の休暇制度は、まだ不十分な点が多いのです」と 指摘した。 長期休暇が一般化している欧州では、年度初めに従業員にどう休みを割り振るか、 労務管理部門が計画を立てる。日本では、年休の管理が従業員に任されている分、か えって取りづらい面があるという。 小倉さんは「一定期間連続した休暇を取らせなければならないという規定がないな ど、法的な課題も多い」と話す。明日香は、ため息をついた。 「祝日の多さは〃有休後進国〃の裏返しだったのね」 事務所に帰った明日香は、「年休が取れない社会のまま、国内需要を喚起しようと
明日香の 1 、に、松下さんは、「そこがポイントです」と声を強めた。 「特に、三十歳代などの動向が重要だとみています」 「彼らは本を読まない世代といわれていますが、結構、そのことに不安を感じていま す。カフェで手軽に読めるもので、友人らとの会話に必要な情報やノウハウに近い知 識などを得ておきたいとの気持ちが強い」 こう指摘しながら、松下さんは、打ち明けた。 「そうした層のニーズにこたえるのが新書で、出版する側も、回転の速さで対応して いる面があります。従来の教養本が若者に好まれなくなったことも、ロングセラーも のが後退するなど、新書市場の変化を生んでいます」 探偵二人の報告を聞いた所長は腕組みした。 印「しかし、結局、お手軽な本がどんどん増えていくのかな。これじゃあ、含蓄などで 売る教養本は、ますます読まれなくなってしまうぞ。日本の将来が心配だな」 デ所長の言葉を聞いて、所長夫人の円子が奥から出てきた。 嶂「あら、よっぱど教養があるみたいないい方ね。あなたの書棚には漫画の本しかない 第 じゃない。さっさと、整理してくださいね」 ( 二〇〇一年九月二日 )
「双方向」の原型はラジオ 「しかし、飾りがないだけで信頼は深まるのか : ・ : 」。疑問が解けないまま、二人は 急いで放送関連の市場調査会社、ビデオリサーチに寄った。 すると、応対した消費者マーケティング局の桑原真さん ( ) が開口一番、「実は、 番組のパーソナリティーへの親近感がカギなのです」と指摘した。 ラジオの聴取は、自宅と車の中など多様で、〃ながら〃が特徴だ。「しかも、われわ れの調査では、七五 % の人が一局だけを聴き続け、特定のパーソナリティーのファン になる傾向が強い。信頼の源泉は、そこにあるのです」と桑原さん。 孝造はハッとした。「ファンの信頼か。わかったぞ、ラジオ通販の秘密が」。そして だめ押しに放送作家の石井彰さん ( ) を二人で訪ねた。 「ラジオのパワーは計り知れませんよ」 石井さんはそう前置きして、孝造の見方を裏付けてくれた。 「ラジオのバーソナリティーは自分だけに語りかけるような話し方で、心をいやして くれる。消費者が安心感をもち、通販を利用するのは自然なことでしよう」 明日香も、ニッポン放送で会ったバーソナリティー 、那須恵理子さんの言葉を思い