100 ピッキングによる窃盗被害 12 2000 8 6 4 2 件 O 千 所長が苦い顔をした。 「なるほど、そうか、市場での競争原理が働 かないからだな。独占の弊害が出たわけだ。 そんなひどい状況なのに、業界は、対策も講 じていないのか」 み 「ピッキングに強い錠の認定制度が昨年でき 内ていました」。戻った明日香が報告した。今 管回の騒動で業界団体と全国防犯協会連合会は 視従来の ( 防犯 ) 基準のうちカギ穴部分の 耐ピッキング性能だけを評価する「 CL—O 7 庁 視認定」を導入した。専門家が五分かけても開 かなければ合格する。 出 「ほお、合格品なら犯罪から身を守れるの か」。所長の質問に明日香がロごもった。「そ れがどうも怪しいんです」。業界二位の会社 のピッキングに強い製品が認定されていない 96 年 す
97 第 2 章こんなところにも日本経済 なぜピッキング被害が急に増えた ? 犯罪に弱い″独占市場〃につけこむ 若い女性が事務所に飛び込んできた。「両親のマンションに泥棒が侵入、 帰った母が犯人と鉢合わせしました」。犯人はピッキングというカギ屋さん の解錠技術を悪用したらしい「被害が増えているようです」。探偵、深津明 日香の表情が曇った。所長が激怒した。「治安の良さが自慢だったのに、日 本はいったいどうなってるんだ。被害増の背景を探れー 「開かないカギはない」と言われても 依頼人の母親は、犯人の顔を見たため暴力団員風の男につけ回された。警察に訴えても 聞いてもらえず、引っ越さざるを得なくなった。明日香は嘆した。 「ひどい話。ます実態から調べましよう」 「こ、こんなに増えてる」。資料を前に明日香の手は震えた。警視庁管内では一九九六年 まで百件前後だったが、九七年から急増。二〇〇〇年には一万件を突破した。地方都市に も急拡大している。
I S B N 4 - 5 5 2 ー 1 9 0 6 0 - 6 C 0 1 3 5 \ 6 4 8 E 日本経済新聞社 定価 ( 本体 648 円十税 ) 9784552190606 1 9 2 0 1 5 5 0 0 6 4 8 1 「国債格下げつてどういうこと ? 」「オープン価格って安いの ? 高 いの ? 」「ピッキングはなぜ増えたの ? 」 最新ニュースの焦 点から日頃の素朴なギモンまで、またまた日経新聞のエコノ探 偵団が徹底調査 ! 職場や学校で自慢できる経済雑学もこっそ り教えます。 リサイクル資料 ( 再活用図書 ) 除籍済
第 2 章こんなところにも日本経済 2 0 0 X 年宇宙の旅しつ行ける ? : : : : : : : : : 都心に大観覧車がなぜ増える ? プロ野球に " 新球団〃が誕生 ? なぜピッキング被害が急に増えた ? ・ なぜ日本全国で温泉がわき出る ? マンガが売れないー 犯人は誰だ ? 地方ラーメン店がなぜいま続々上京 ? 結婚式のナゾ「地味婚」ってホント ? : 海外修学旅行が急増意外な理由とは ? ・ 第 3 章デフレ不況黒幕はどこにいる ? 少子化ショックに日本経済は耐えられる ? ・ 不景気続きでも家庭ごみはなぜ減らない ? ・ ペットボトル・リサイクルは , つまくいってる ? ・ 日本の統計にはなぜ非難が集中 消費不振の″真犯人〃は若者のモノ離れ ? ・ 囲 83 109 123 129 146 140 153
はドレめに ケイザイ、けいざい、経済・ーーこの言葉を耳にしただけで、逃げ出したくなりません か。耳慣れない用語、難しい理屈、次から次に出てくる数字。「日本経済の現状 ? ああ、 考えただけで頭が痛い。私には分からない。でも、理解できなくても関係ない。知らなく ても十分生きていけるさ」。そんな風に考えている人も多いのではないでしようか。 それは、とんでもない間違いです。経済は、私たちが生きていくこと、暮らしそのもの ーマーケットで買い物して、 です。会社に勤め、給料をもらって生活する。近所のスー お金を払う。車に乗って、行楽に出かける。そうした日常の中に、身の周りに、経済活 動、経済問題はあふれています。学校に通い小遣いを使う子どもたちも例外ではありませ ん。実は、フリーターの増加やマイライン導入、ピッキング犯罪の急増など日常茶飯事こ そが経済現象の核心であり、大きな変化を反映しているのです。その変化が私たちの生活 を左右すると言ってもいいのです。 例えば、いま日本は物価が下がり続けるデフレーションの状態にあるといわれます。物 価がどんどん下がる。安い商品が買える。これは良いことですが、悪い側面もあります。
「なぜこんなに急増したの ? 」 9 「警官は母にカギを換えないのが悪いと説教しました」。依頼人は憤る。 「そんなに開きやすいの。粗悪品を作った製造元が被害増の〃犯人〃ね」 明日香は被害者のカギを作った美和ロック ( 東京・港 ) に向かった。被害は主力商品、 ディスクシリンダー錠で多発していた。広報室長、越野則之さん ( 療 ) の答は驚くべきも のだった。 「最近の解錠技術だと早ければ十秒で開きます」 「そんな簡単に ? 欠陥品では ? 」。驚く明日香に越野さんは説明した。 「粗悪品ではありません。そもそも解錠技術を使って開かないカギはないんです」 「安全を売っている割に無責任ね」と思いつつ明日香が食い下がると、弁明を始めた。 「ピッキングに強い型も前から売っています。でも売れなかった」。その結果、大量の旧 型が付いたままになった。 「みんなカギを軽視しているんですよ。住宅のモデルルームでは、キッチンは見ても、錠 前は見ないでしよ」。説明を聞いた明日香は、なにか強い違和感を覚えた。 「まるで消費者が悪いとでも言わんばかりだな」。報告を受けた探偵、加江田孝造は、カ ギメーカー、堀商店 ( 東京・港 ) 相談役の松本次郎さんに防犯意識について聞いた。 「日本は治安が良かったからカギは要らなかった。戦後、団地が急増したころから需要が
という。「裏に何かある」。孝造は大阪に向かった。 不合格になったのはゴール ( 大阪市 ) の錠。「審査が不当です」と技術部課長の徳山信 徳さん ( ) は訴える。基準は十分満たすのに、普通、窃盗には使わない特殊技術で開け られたという。同社の主力製品は試験さえしてもらえなかった。審査を請け負う日本ロッ ク工業会は「審査は適性」と反論するが、徳山さんは「我が社が同会に入っていないか ら。被害を防ぐ制度なのに、我が社の閉め出しに利用された」と不信感を募らせる。 「被害そっちのけで縄張り争いか。これでは高性能力ギの普及は遅れる一方じゃないの か。不可解極まる。行き詰まった時は現場に戻れだ」。孝造はカギの専門家を訪ねた。専 経門家は「業界は消費者への意識が不足しているんです」と説明を始めた。 本 日 、も 「弱点が漏れたら悪用されるから対策はとらない」 ろ と 「証拠を見せます」。男は孝造を一室に案内、ー 0 認定を受けた型のカギを示した。 「いいですか、ピッキングより簡単に開くんです」。一般家庭にもありそうな道具で細工し た。「ガチャ」。二十秒弱で無力化してしまった。 章 孝造は青ざめた。「これならだれでも開けられる」。男は「同じカギがかなりの数売れて ます。リコール ( 無料の回収・修理 ) すべきですよ」と指摘した。 0 メーカーはこの弱点をー O 認定を受ける前に改善したが、不具合があったことは販
を盾に真相を隠したり、あいまいな説明で逃げることも多いのです。ものごとの本質から 目をそらすことが、自分たちの利益確保や保身、安全につながるからです。 しかし、探偵たちは決してあきらめません。旺盛な好奇心、粘り強い探求心、ちょっと したことも見逃さない鋭い観察力を武器に、役所や権威のウソを暴き、アリバイを崩し、 黒幕を推理して″真犯人〃を突きとめます。ある時は、ガードの固い経済官庁やリコール 問題が起きた自動車会社の幹部を直撃。また、ある時は、サンマ不漁のナゾを追って東北 地方の漁港を転々。時に、居酒屋の縄のれんをくぐり、ラーメン店をはしごします。 徹底した調査、証拠集め、データ分析を繰り返すことで、驚くようなカラクリやトリッ クが見えてきます。意外な結末に、読者は驚き、あきれ、憤りさえ感じるかもしれません。 これまで納得できなかった身近なナゾが解けて、霧が晴れるように、日本社会への視界 が開ける可能性もあります。例えば、「ピッキングのナゾ事件」では、窃盗団の存在より ももっと恐ろしい " 黒幕〃が判明します。「大観覧車の怪」では、考えもしなかったよう な「発見」に気持ちがスッキリするでしよう。 " 真犯人〃が分かり、経済のカラクリ、ダ イナミズムが見えてくれば、消費者はもっと賢く、より強くなれます。日本経済の底流に 「ある不合理な仕組みや制度、構造的な問題を変革する大きな力になるはすです。 そこで、読者の皆さんにも、探偵たちが調査にあたって日ごろ心がけている七つの心得 をご紹介しましよう。名付けて「エコノ探偵心得帳」。きっと経済を見る目を養うのに役
し、リフォームにはお金がかかりますから」 : 」と言いかけた払太に「多少引き下げても効果が全く無いんです」 「家賃を下げれば : と、あきらめ顔。現在は入居者募集も中断している。 「やはり、空き家を放置している家主がいるのか」。払太は帰り道、明日香に事情を説明 した。払太は事前に、千葉県内の賃貸住宅約三千室の仲介を任されているという寺村不動 産代表取締役の寺村俊彦さん ( ) を訪ねていた。 寺村さんは「空室が出て、すぐに新しい入居者が決まるアバート・マンションは全体の 新二割程度。八割は空室が恒常化していて、入居者募集をあきらめてしまう家主さんもいま 本 す」と話していた。 の 中 の 家主の経営努力が足りない ? コ フ「ちょっと待って ! 」。明日香がバッグから、先日入手した一枚のグラフを取り出した。 の それは入居者募集のために仲介業者に登録された「賃貸物件登録数」。昨年後半から伸び あ 率の低下傾向が目立っている。 章 「なるほど。空室増でも下がらない家賃のカラクリが見えてきたわ」 第 明日香と払太は急いで、賃貸住宅などの資産管理の相談を受けているタクトコンサルテ イング ( 東京都港区 ) の社長で税理士の本郷尚さん ( ) を訪ねた。本郷さんは「原因は
39 第 1 章あなたのフトコロの中の日本経済 電力小売りで価格競争電気代は安くなる ? 自由化が新規参入阻み効果は限定的 「規制緩和で電力の価格競争が始まったそうだけど、電気代はもっと安くな らないのかしら ? 」 ーパーを営む女性が訪ねてきた。深夜営業を始めたところ、 近所で食品ス 電気代が予想以上にかさみ、困っている探偵、加江田孝造がビールやカッ プめんなどの食糧調達でいつも世話になっているお店だ。放ってはおけない と、孝造は調査に乗り出した。 新規参入が進まない 孝造はイトーヨーカ堂 ( 東京・芝公園 ) の本社を訪ねた。電力自由化で恩恵を受けると 言われている会社だ。人件費、家賃に次いで電力料金が大きな負担とな 0 ており、年間約 二百億円の電気代を払 0 ている。自由化で負担が軽くなったかどうか尋ねると、意外な答 えが返ってきた。 「安い電気を買いたいのですが、会社が売り込みに来ないのです」