百貨店が営業時間を延長する狙いは ? 若い女性向け商品そろえ " 脱百貨店。目指す 金曜日の夜ーー・探偵、深津明日香が自宅でイライラしながら待っている と、大学時代の友人が約束より一時間も遅れてやって来た。 「何してたのよ」と聞く明日香に、「最近、デバートが営業時間を延長して いて、つい寄ってしまうの」。仕事帰りに洋服や雑貨を見て歩くのが日課と いう。「消費が盛り上がっているわけでもないのに、どうして ? 」。明日香は な 営業時間延長のナゾを探ることにした 許 多くは一、ニ階と地下階に限定 ま 腕時計の針は、もうすぐ午後九時を指す。だが、一階の化粧品売り場は勤め帰りの女性 で混雑している。東京都豊島区の東武百貨店池袋本店では、一一〇〇〇年九月一一十一日から 章 閉店時間を一時間繰り下げて、午後九時にした。 明日香は予想以上のにぎわいに驚いた。 4 ・ 「理由は、やはり売り上げアップですか ? 」。東武百貨店総務部広報担当の奈良和夫さん
248 一一〇〇〇年九月にオープンした。。の閉店時間も午後九時だ。本店より一時間繰り 下げた。大きな特徴は商品構成にある。地下の飲食フロアを除く一ー六階の全部を有名プ ランドを核にした若者向け衣料・雑貨店で統一した。 「これでも百貨店なんですか ? 」 「いや、なんと言ったらいいのか。目的は若年顧客の開拓なんですよ」 岡本さんによると、本店の客に占める二十代の割合は二三 % 、三十代を合わせても三六 % 。他の百貨店と同様、中高年の比率が高かった。それが、。。の開業で、本店でも 二十代の比率が急速に高まっているという。 「では、営業時間の延長は ? 」と問いかけた明日香に、岡本さんはうなずきながら答え 「帰宅途中の OQ や学生に来てもらうには、商品の大胆な絞り込みと時間延長が不可欠だ ったのです」 その夜、明日香は大阪駅前で孝造と会い、お好み焼きを食べながら、調査結果を報告し 「営業時間の延長は、若者の百貨店離れをくい止めるためだったんです」 孝造が顔を上げた。「それだけかな。おもしろい話を仕入れたよ。明日、東京に戻って もう少し調べてみよう」。そう言うと、孝造はうまそうにビールを飲んだ。
タイムシフティング ステファン・ レクトシャッフェン 高瀬素子 = 訳 あなたはいつも「時間がない」と イライラしていませんか ? 時間 欠乏症に悩む現代人をストレスだ らけの生活から救う時間管理術。 やっと中年に なったから、 足立則夫 「本当の老いを迎える前に・・」中 年から新しい道に踏み出した人た ち。伊能忠敬、与謝蕪村ら歴史上 の人物も交えて描く 41 人の出発。
246 大型店 ( 百貨店、スー′← ) の営業時間延長届け出件数 296 300 250 200 150 1 OO 50 件 0 185 8 年 1 ー 9 月 っ 4 8 年 1 ー 9 月 37 東京都 ( ) の答は意外だった。 「いや、今年度の売り上げは前年度並みの見通 しなんですよ」 百貨店、ス ーパーなど大型小売店の時間延長 は、二〇〇〇年四、五月に集中した。東京、神 奈川、埼玉、千葉の一都三県では、この二カ月 めで昨年同期の六十七件から二百二十五件へと三 県ま倍以上に増えた。新しい出店ルールとなる大規 模小売店舗立地法 ( 大店立地法 ) が同六月に施 各 行され、時間延長の手続きが面倒になると考え た各社が駆け込み申請したのだ。 だが、その後も時間延長の動きは続いてお り、制度変更は決定的な理由ではないらしい 大阪府では一九九九年、時間延長に踏み切る店 舗が多かったため、二〇〇〇年に入って届け出 が減っている。売り上げも五月以降、下げ幅が 拡大、八月の全国百貨店の売上高は前年比三・ 大阪府
300 「企業は九〇年代半ばから人減らしを本格化しました。新卒採用を抑えたので、若手の仕 事量が増えた可能性があります」 レジャー産業市場が軒並み縮小 「えつ、そんな現象が」。孝造は驚いた。、、 総務省調査を基に小倉さんがまとめた資料をみ ると、週六十時間以上働く労働者の数は、九四年から九九年までの五年間に二十代後半で 一五 % 、三十代前半は一三 % 増えた。一方で、四十代前半は一八 % 減った。 「確かに長時間働く若手が増えています。これがスキーヤーの『忙しさ』の理由ですか」 「そうです。若手の労働時間が長くなった背景には、先輩が後輩に雑用を押しつける風潮 もあると思います」 事務所近くの会社に勤める大卒営業マン ( 四 ) は嘆いた。 「数少ない新卒社員がなかなか配属されず、いまだに私が一番の若手なんですよ。仕事は 増える一方で、先輩に頼まれれば休日出勤もします。スキーは大好きですが、ここ数年、 にしくて全く行けません」 自由時間デザイン協会の調査でも九〇年代半ばから「前年より余暇時間が減った」と答 える若手が増加している。二十代男性は九六年に三二 % だったが、九九年は四二 % に増え
八 % 減となった。 「一体、時間延長は何のためなのかしら」 困った明日香は、自宅に遊びに来たデバート通の友人に電話をかけてみた。すると、 「時間延長は地上一、二階や地下階に限定する場合が多いわね」という返事が返ってきた。 「一、二階や地下 ? 」 「たまにはショッピングくらいしなさいね。婦人服飾雑貨や食品売り場でしよ。これつ て、不思議じゃない ? 」 「確かに売り上げを少しでも増やしたければ、すべてのフロアを対象にするはずね」 事務所に戻った明日香は、所長に大阪出張を願い出た。すると、わきで聞いていた先 輩、加江田孝造が声をかけた。 許 は「おもしろそうだな。ちょうど大阪に行く用事もあるし、後で合流するよ」 デバチカを閉鎖する店も 明日香が訪ねたのは、大阪市阿倍野区の天王寺駅前。その一角に、全面ガラス張りの外 章 観がひときわ目立っ建物があった。近鉄百貨店が阿倍野本店の隣接地につくった別館「 。。 ( フープ ) 」だ。その前で、同社販売推進部長の岡本嘉之さん ( ) が明日香を迎 えた。
250 収益性の高い商品に絞った″五十貨店〃に ? 「大阪でも、衣料品の粗利率は食品の倍近い、と聞いたよ」と孝造が言った。 孝造が大阪で会った阪急百貨店広報グループの林克弘さん ( 肥 ) は「二七 % の粗利率を 三〇 % 以上に引き上げることが当面の目標です」と話していた。 そのため、二十、三十代女性を対象に、利幅の大きい、メーカーと共同開発した衣料も 用意、有楽町店の新設売り場で販売を始めたという。 「やっと分かったわ。百貨店は収益力アップのために、若者向け衣料などに販売を集中、 脱・百貨店を目指している。若者の来場が見込める延長時間が、その格好の舞台になって いたわけね」 最後に訪ねた流通経済研究所 ( 東京都品川区 ) の専務理事、寺沢利雄さん ( ) は分析 「百貨店は規模 ( 売り上げ ) の拡大指向を捨てて、収益性の高い商品に絞った " 五十貨 店〃を目指すべきです。そのためには、時間延長を上手に活用する必要がありますね」 「さて、帰ろうか」 孝造が振り返ると、明日香がそわそわしている。 「私の本格調査はこれからです」
251 第 4 章もうごまかしは許さない ! 「ショッピングですよ。あ、いけない。閉店時間が迫ってる」 そう言うと、孝造に背を向けて、駆け出した。 ( 二〇〇〇年十月十五日 )
います」と話す。 孝造は考えた。 「三十代がゲレンデから遠のいた理由の一つは子供か」 九〇年代前半までのプーム時に滑り始めて中核を担ったのがいまの三十代。それがいま や育児で手一杯だ。「託児サービスがまだ十分に広がっていないから、復帰する人が少な いのかもしれない」。孝造は納得しかけた。 「だが、待てよ。二十代の事情が分からない」 孝造は、東京から来た男性会社員 ( ) をつかまえた。すると、「お金は問題じゃない。 る 明 忙しくてなかなか来られないんです。じゃ、時間がないので」という一言を残して、滑り 暗去った。 「あの急ぎ方は並みじゃないな。何かナゾを解くヒントがありそうだ」 洗「 " 時間のなさ。がナゾを解くカギですね」。東京に戻った孝造に、明日香が言った。 本「そういえば最近、仕事が増えて音を上げてる友人が多いんですよ。企業の売り上げがど んどん伸びている訳でもないのに不思議ですよね」 章 「それだ ! 」。孝造の表情がバッと明るくなった。 一。田主任研究員、 9 「背景に労働問題がありそうだ」。二人は日本労働研究機構に向かった。リ 小倉一哉さん ( 肪 ) は指摘した。
298 全国のリフト利用客数 ( 財 ) 日本交通公社まとめ、年度は 12-3 月 ) 750 700 650 600 0 延べ百万人 500 89 年度 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 長時間労働者の増加率 ( 94 ~ 年、週 60 時間以上、全産業、総務省資料から ) 30 20 % 0 ー 10 ー 20 ー 30 ー 40 15 ~ 19 歳 20 ~ 24 25 ~ 29 30 ~ 34 35 ~ 39 40 ~ 44 45 ~ 49 50 ~ 54