210 かぎ 一人で鍵を開けて、明かりをつけて、両手に提げていたスー。 ( ーの袋を、ダイニングのテー プルの上にヨイショと置いた ' 。 「食事のしたく、しておかなきや」 1 日中お仕事して、二人は疲れて帰ってくる。 せめて美味しいものでも作っておいてあげなきや。 公平は冷蔵庫の前までいって、ペタリと床に座り込んでしまった。 でも、なんか、ちょっと今日はくたびれちゃった。 5 分だけ休もう。 そのまま膝を抱えて、公平は小さく泣いた。 ひざ
232 スポーツ刈りで、長身で、ガールフレンドの一人くらいいそうなのに、なんでわざわざ男な んかに迫ってくるんだ ? ズズッと、近づかれた分だけ後ずさる。 が、すぐに、背後に積んであったマットの山にぶつかってしまった。 「いらない : ・。自分の面倒くらい自分でみられる」 「じゃあ、瀬名はなんだよ ? 恋人か ? 」 「そんなんじゃない」 「だったら、なんでそばにいる ? 無理矢理犯られちまったんだろう。身体で言うことをきか されてるんじゃないのか ? 」 もうそう こ : ・これは妄想型のストーカーか ? 高校生にもなって、そんなバカげたことがあるとホンキで思ってるのか ? 「わかってるぜ。男が欲しいんだろう ? だから、俺達が瀬名に代わってやってやるよ」 ジリジリと近づいてくる男達。四人に囲まれていては、逃げ場もない。 「俺、外を見張ってくらあ すき と、中の一人がきびすを返したその隙に、得意の逃げ足でダッシュをかけた。 「逃がすなっ ! 」 からだ
192 不思議な不思議な場所だ。 「おっと、魔法使い様のお出ましだ」 有栖川の芝居がかった言い回しに引かれて、公平は振り返った。 瀬名は、いつも以上にズベタラした足取りで人ってくるところだ。 この男も、また変わらない一人だった。 公平がどこの誰でも、どんな育ち方をしても、そんなことは気にもしない。 たぶん父と芳の関係だって、最初から正直に話していれば、そうなのかですませてしまった だろう。 瀬名が怒った理由はただ一つ。 痛みを知っている人間が、同じ痛みを他人に返したからだ。 なのに、許せないほどの怒りを持っていてさえ、それでも瀬名はウワサに荷担しない。 一人真実を胸の中に呑み込んでいてくれる。 この男なら、わかってくれる。 ちゃんと正直に話して、謝って、心を見せれば、きっとわかってくれる。 創立祭までとは決めているけど、だからこそよけいに気まずい関係にはなりたくない。 短い短い間でも、笑って付き合っていたいから 「瀬名 : : : 」 しばい かたん
「た : ・助かったあ : : : 」 あんど 安堵の声を上げた公平の前で、鉄の扉が開く。 。ハアーツと差し込んできた光の中、男達のシルエットが浮かび上がる。 全部で四人。うち二人には見覚えがあった。 公平の顔が引きつった。 今度こそハッキリと思い出した。中学の陸上部、たった 1 ヶ月ほどしか世話にならなかった そのクラブで、二人は妙に親切にしてくれた先輩だった。 だが、それだけのこと。名前さえもう思い出せない。 他の二人は、顔も知らない。 うれ 「嬉しいぜ、手紙を読んでくれたんだ」 と、薄ら笑いを浮かべて言われれば、とてもじゃないけど助かった気分にはなれない。 「俺を覚えているか ? 」 「中学の陸上部の先輩・ : ? 」 猫 子 「へえ、ちゃんと覚えててくれたんだ。あの頃はずいぶん面倒みてやっただろう ? 」 な ン「覚えてない。たった 1 ヶ月だ」 「こっちは覚えてる。ずっと気になってたんだぜ。お前は色々可哀想な事情があるから、虐め られてやしないかってな。でも、もう大丈夫だ。俺達がちゃんと守ってやるー 231 か、わいそう いじ
144 いたずら 悪戯な目を光らせて、久住が腰を引く。 「は : ・ああ つ」 内臓を引きずり出されるような感覚に、芳の秘孔がさらにキ = ウッと締まる。 「い : ・イヤア ぬ・ : 抜かないでえ : : : 」 「ふふ : ・、そんなに締めつけて。あなたの下のおロは、変態大王が大好きなんですね」 もだ 久住は、仰け反り悶える美しい人をたつぶりと目で眺めつつ、激しく腰を使い出した。 ひだ 花びらのように美しい襞を、掻き回し、突き上げ、愛のかぎりを込めて、これでもかとばか りに貫く。 そのたびに、甘やかな悲鳴が湯場に満ちる。 もっと 「あっ・ : 、ひっ : ・ ! 久住・ : 、もっと : 「可愛い人 : ・。一晩中、泣かせてあげますよ」 砂を吐くほど甘々な恋人達の夜は、まだ始まったばかり いじ 変態大王の久住が、芳をネチネチと虐めて泣かせている頃。 変態大王の一人息子は、瀬名をネチネチと虐めて困らせていた。 かわい ひこう
145 ピンクな子猫 ごうもん ばんさん 公平と向かい合っての晩餐など、ただでさえ瀬名にとっては拷問に等しいことなのに、ピン クのエプロンはそのままだし。 目の毒だからと、ひたすらメシをかっ込んでいれば、 「すごい食べつぶりだねえ。食事が終わったら俺を食べる ? 」 ほんろう なんて、誘いとしか思えないセリフで翻弄してくるし。 それが終わればテレビを見ようと、勝手にホモビデオをセットして、それがまた不良が美少 や 年を犯りまくるってお約束のストーリーだし。 ふろ 勃たなきや変って状況まで追い込んでおいて、あげくにいっしょに風呂に人ろうと言い出す 始末。 さらに、魔性の誘惑を振り切って一人でさっさと風呂に人れば、。ハジャマがわりのスウェッ のぞ トを持ってきたとか言って中を覗いてくる。 「きさまあ 1 さっさとべッドに人っておとなしくしてろ と、エコービンビンの浴室で叫び出すまで、よくまあ我慢したもんだ。 だが、公平にだって言い分はある。 「だって、瀬名ってば狡いんだもん、」 と、自分の部屋で瀬名を待ちながら、公平は思い返す。 食事の前、瀬名に父の。ハンとシャツを着替えとして渡した時。 ずる
284 けさがた 夕暮れ迫る教室で、瀬名は一人、机にドカリと腰を下ろし、今朝方手に人れた学校新聞にチ ョキチョキとハサミを人れていた。 こうへい その右手首には、公平からプレゼントされた金のチェーンが、所有権を主張するように光っ ている。 めいう 『創立祭特集号』と銘打った今週号は、新聞部始まって以来の売り上げを記録したという。 その一面をドーーーンと飾っているのは、もちろん『新説・白鳥の湖』クライマックスのキス シーンである。 『白鳥の美少年、魔法使いの手に落ちる ! 』 との見出しも華やかに、瀬名自身にも覚えのないインタビュー記事まで載っている。 あれから 5 日たつのに、学校中は未だにその話題でもちきりだ。 ぎやくたい しつかり舌を絡めた濃厚なキスシーンのイン。ハクトに比べれば、親のホモネタや過去の虐待 など問題外らしく、誰も口にさえしない。 川ピンクなキス はな から せな
( 上玉っ ! ) ようぼう 誰もが思うその容貌に、いち早く反応するのはやはりコギャル達。 「誰、誰、、あれ ? ちょーカワイ—D 」 くずみこうへい 「何、知らないのお、 ? 久住公平ちゃん 9 てー、もう今年の 1 年でサイコ・ーヒットって感じ い。すつごい素直だしー・。メチャクチャいい子よ」 コギャルの情報はとにかく早い。 人学してまだ 1 週間にもならない新人生達を、当たり前のごとくチェックしている。 中でも、 1 年組久住公平は、お返事のよさも相まって、赤丸急上昇の大人気。 「クラブ、決めたのかな、 ? 公平ちゃん人ってくれれば、すつごい戦力になるのにー」 注がれる熱い眼差しの中、公平は我が意を得たりとほくそ笑む。 ( ふふふ : 、。これでなきやウソだよね ) 性格がよくて、可愛くて、それでいて媚びも気どりもない好感度抜群のアイドル系。 そう、それが正しい評価。 だって、俺ってば頑張ってんだもん。 優しくされたい。 可愛がられたい。 チャホャされたい。 じようだま かわい
200 と、言いながら、了解も得ないで勝手に隣に座ってくる。 「それより、君、妙な手紙をもらってないか ? 男からのラブレターみたいなの」 「もらってるだろう ? 」 「なんで、そんなこと : ・ ? 」 「そりゃあ、生徒会だって、色々騒ぎが起きないように調べてるからね。君、中学時代に陸上 部に人ってたそうだね。どうやらその時の先輩が二人ほど、ウチの陸上部にいて、そいつらが ウワサを流したり手紙を書いたりしてるらしい」 「陸上部 : : : ? 」 と、公平はしばし考え込んだ。 そういえば、中学 1 年の頃、ほんの一時だけ人っていたことがあった。逃げ足を鍛えるつも りだったが、すぐにウワサが広まって、 1 ヶ月ほどで辞めてしまった。 つもり 「ウチの陸上部には、生徒会書記の津森がいてね。そいっからの情報なんだ。さっき瀬名とも 話してたんだけど、瀬名を襲ったのもどうやら同じ連中らしい」 「瀬名が、襲った連中のことチクったの ? 」 横目で背後をうかがうと、瀬名はさっきまでの席に座ったまま、両手を組んで背もたれに寄 りかかり、居眠りでもしている様子。 りようかい きた
「そこでだ、君の出番となる」 「はあ : 二 : ? 」 「一人でも多くの観客を動員するためには、誰もが見たいと思う、イン。ハクトの強いスターが 必要だと思わないか ? 」 「つまり、客寄せ。ハンダですか ? 」 きょこうかみひとえ 「それを言っては身も蓋もない。真実と虚構は紙一重。・ハ力とハサミは使いよう。客寄せ。 ( ン しろ - っと ダも招き猫も、見せ方一つで大スター。素人の君がどれだけ大衆を化かせるか試すのも、これ いっきよう また一興」 それって褒めてるのか、おい、 とは思うが、だが、世の中はそんなもの。 人はにノセられて物を買いあさり、ウソ八百のワイドショーに群がる。 皆、真実より、よくできたウソの方が好きなのだ。だったら逆に、真実をウソにすることだ ってできる。 「その気にならないかい ? あと 1 ヶ月、創立祭までだよ」 公平の気持ちを見透かしたように、有栖川が止めの一言。 「 1 ヶ月・ : だけ ? . 「うん」 ふた とど