シャツ - みる会図書館


検索対象: 夜光街 : 真夜中の翼
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1. 夜光街 : 真夜中の翼

156 怒鳴りながらナイロンバッグをベッドに投げつける。流の怒りは簡単におさまりそうにな 「つつ ガクランの袖を乱暴に抜いた途端、流は左肩に激しい痛みを感した。シャツを脱ぎ、肌に触 れないようそっとシャツをめくる。そこにはまだ痛々しい火傷の跡があった。 「流様、木佐です」 あわ ノックの音に、慌ててシャツを下ろそうとした流は木佐の声に手を止めた。 「 : : : 入れよ」 口を聞く気分ではなかったが木佐は許しを得てからでなくては絶対に入室しない。それを知 っている流は仕方なく呟いた。 生真面目に一礼した木佐は流の肩に目を止めると眉をしかめた。まるで自分自身がその痛み を感しているかのよ、フに。 「総長が : : ・ : : 仮襲名が済むまで学校に行く以外は外出を控えるようにとの事です。登下校は 車で送らせます。独りでの行動は絶対に避けて下さい , 瞬間、流の頬が赤く染まった。 てめえらの都合で命令なんかするなっ ! 俺は俺のしたいようにするー 流が素直に命令を聞きはしない事くらい木佐にはわかっていた。だけど ほお そで ひと

2. 夜光街 : 真夜中の翼

118 「流様」 再度の呼びかけに流のまぶたがばんやりと持ち上がり焦点を結んだ。 「そうです。もう大丈夫です」 おだ 穏やかな顔を流に向ける。流は安心したように目を閉した。 流の全身に残る打撲の跡に、木佐は再び湧きあがる怒りを強く感じた。シャツの背中部分が 切り裂かれている。 これは ? それまでシャツで隠れていた肩に何かが見えた。 瞬間、視界が真っ赤に染まった。 流の、かすかに焼けた肌に黒くはっきり読み取れる文字。 「こっ、これ ! あいつら : : : 墨いれやがった 絶句するフェンウェイを押し退け、木佐は部屋を出ていった。 京也に監視されていた須藤は、部屋から出てきた木佐を見るや、ひっ、と声を上げた。

3. 夜光街 : 真夜中の翼

203 夜光街 家に戻るから心配しないようにと 用件だけを書きなぐった紙片はひとまず木佐を 安心させた。 まさむねあきら 腕時計の針は午前六時半をさしていた。 正午には正宗と晃が西新宿の四堂組本部に到着す る。それまでにこなさなければならない事は幾つもある。 ゅうじ 「行くの ? 祐士」 いつの間にか美貴がドアを開けて立っていた。 「なにか着替えはあるか」 切り裂いてしまったシャツの代わりに、美貴はロッカーからウェイター用のシャツを取りだ こら し、木佐に着せかけた。左肩の痛みを堪えながら袖に腕を通す姿を見物していた美貴は何かを 思い出したようにふっと遠い目をした。 「ねえ祐士、もし死にそうなほどの重傷を負った時はここには来ないでね」 木佐がボタンを留める手を止めた。 「手厳しいな」 ってくる、香りは。 「あたしの目の前で死なれるなんてまっぴらって事よ。白い花をもう一瓶生けなきゃならない しゃない」 薄く笑って後ろを振り返る。 そで

4. 夜光街 : 真夜中の翼

143 夜光街 それ、どうするの ? 喉まで出かかった言葉を、美貴はロにする事はできなかった。 火に向かう木佐の瞳が彼女にそれをさせる事をためらわせた。 カチリ ロ火を消す音に、美貴ははっとした。 充分に熱したナイフを手に、木佐は控室に戻ってゆく。美貴も、予感に押されるようにその 後を追った。 「シャツを脱いでください 控室に戻るなり、木佐は言った。多分、間をおけば決心が揺らぐ、から。 視線の先、流はナイフになんの恐れも見せす e シャツを首から抜いた。 背中の左肩、黒々と読み取れる文字〈 coO>*Ä・〉。 浅く焼けた肌。 すじじよう まだ落ちついていないのだろう。刺青された部分の皮膚が腫れ上がり、筋状に盛り上がって 木佐は流が動かぬよう、腕を強くつかんだ。 瞬間、手の平に震えが走る。強張った体が流の緊張を木佐に伝えた。 「祐士リ何してるのよ ! 正気ワ こわば

5. 夜光街 : 真夜中の翼

135 夜光街 「あっという間によくなられたようですね。看病のしがいのない人だ」 「なんだよ、それ。俺がよくなってよかったのか悪かったのかわかんねえ言い方 「それは、もちろん」 言いかけて、木佐はロをつぐんだ。 流は美貴が用意したのだろうシャツを着ている。その e シャツは»-a サイズなのか流には大 さこっ きすぎ、ネックホールがずれ、鎖骨が見えていた。 そこに、まだ消えない青あざがあった。 全身にまだいくつも残っているだろう打撲の跡を思い、木佐は眉をしかめた。 たく まさむね 三日前、負傷した流を自分の判断で美貴に託した事を木佐はその日のうちに、正宗に報告し うよきよくせつ 美貴は元々大学病院の学生だったが、紆余曲折の末、やくざ相手の医者になった。 病院に行けない事情のケガを負った多くのやくざが彼女を頼った。その腕とロの固さから、 美貴は長年四堂の信頼を得ていた。 木佐自身も、美貴に世話になったのは一度や一一度ではなかった。 普通の病院で治療すれば、学校に流の事がばれてしまう恐れがあった。 だからこその判断に、正宗は首をたてにふった。 だが、晃は違った。

6. 夜光街 : 真夜中の翼

106 瞳を射った。 土さか : こいつ、押さ、えとけー 須藤の命令に、しかし後ろの一一人は動かない。 「聞いてんのかっリ」 再度の一喝に一一人はびくりと肩を震わせた。 互いに顔を見合わせてからのろのろと流に近づいてい 冗談じゃねえー 一人の手が肩に触れたとたん流は拳を繰り出した。拳は正確に相手の鼻面にヒットした。 「ぐっ : : : 予期しなかった突然の反撃に相手はもんどりうった。顔面に手をやると温かいものを感し せんけっ 。拭った手の甲には、鮮血。 「このガキツリ」 ちゅうちょ それまで彼を躊躇させていたものはその瞬間消えた。 流のシャツをつかみカまかせに引き倒す。うつ伏せに倒れこんだところをもう一人が反対側 から押さえこんだ。 いっかっ

7. 夜光街 : 真夜中の翼

口に流は助手席のドアを乱暴に閉めた。 〈イビサ〉はまだ営業していた。 木佐の状態を見た美貴は顔色を変えると、すぐに奥の部屋へ入るように言った。流は木佐を 支えながら目立たぬよう、ざわめく店内を通り抜けた。 「悪いけどスーツだめにするわよ、いいわね」 はさみ 美貴にははなから木佐の返事を待つつもりはない。引き出しから鋏を取りだすと思い切りよ くスーツとシャツを断ち切った。 流は息を呑んだ。 かすり傷どころではない。銃弾がかすめた肩ロは皮膚がえぐれ、血がどくどくと吹き出して いる。しかし傷よりも流の眼を釘付けにしたものがあった「 光 きばむ さこっ 夜 左側の鎖骨の下の胸でーーーー牙を剥いているのは一頭の黒い狼。その双眸はまるで生きてい るがごとく燃え上がり、流は目をそむける事ができなかった。

8. 夜光街 : 真夜中の翼

107 夜光街 ひざ 両腕をつかまれ体も膝で押さえこまれ打撲の跡が残る体に激痛がはしる。声さえ上げられな 「よーし。しつかり押さえとけよ」 嬉々とした須藤の声が頭の後ろから聞こえる。 見ることはかなわないがその音から須藤が取り出した物がなんであるか、流にはわかった。 シャツがズボンからたくしあげられ、直後ナイフが布を切り裂いていった。 体はまったく動かせない。自由になるのは指先だけ。首の後ろでナイフが一「三度前後に動 えり き衿を断ち切った。 「なんか言ってみろよ。ええ ? しぎやくしん 須藤の嗜虐心に満ちた声が流をなぶる。 流は唇をきつく結び一言も発しない。 無言の反抗に構わす須藤は流に馬乗りになった。 「 : : : そうだな、〈 (.nOD*-ä・〉。それがいい 背負っていくんだ」 くつじよく 屈辱でめまいがする。 そう彫ってやる。てめえは一生その名を

9. 夜光街 : 真夜中の翼

それが流には悲しかった。 母は、死んだのだ。 優しい母だった。父親がやくざであることに引け目を感しないよう、気を遣い、厳しくそし て優しくしてくれるような人だった。 見上げていた青空がやにわにぶれはしめ、下を向くとシャツの胸のあたりにパタバタと水滴 が落ち小さな染みが広がった。 しばらく考えてそれが涙である事に思い至った時、流は視界に人影を認めた。 「誰だ ! 」 顔を拭いながらする。 誰もいないと思っていた木立の下、プレザー姿の少年ーーー兄よりも年上のーーが自分をじっ と見つめていた。 としは まだ年端もいかない子供が自分を誰何した事に驚いている様子はない。 かたひざ 少年は木陰を出ると流の目線に合わせるように片膝をついた。 ゅうじ 「流 : : : 様ですね。初めまして。木佐祐士といいます , それが出逢いだった。 流はその顔に見覚えがあった。 弔問に来ていた若頭が連れていた、たしか高校を卒業したばかりの息子だと父に紹介してい つか

10. 夜光街 : 真夜中の翼

115 夜光街 階段を登りきった所にいかにもたてつけの悪そうなドアがあった。木佐はノックするでもな く思いきりドアを蹴った。 かもい 凄ましい音をたててドアは真ん中からひしやげ ( 鴨居から剥がれ落ちた。 ・ : これって不法浸入なんだよな : : : 」 あお 一臣は後に続きながら天を仰いだ。 「なんだ、きさまリ」 突然の侵入者に須藤と仲間がいきり立った。 いちべっ 木佐は一瞥もくれず室内を見回した。と、視線が奧にあるドアをとらえた。 「ふざけてんしゃねえリドア壊しやがってー 木佐の肩をつかんだ少年は、次の瞬間肘を食らい、棚に吹っ飛んだ。 がらがらと派手な音をたてて刺青道具が落ち、色のついた液体が少年の e シャツを汚した。 「おまえが須藤か」 木佐の問いに、須藤はロを開けたまま何も答えない。 「おまえが須藤だな」 問い、ではない。 事実の確認を迫る木佐に、須藤は冷たいものを感しこくこくと首をたてにふった。 「あのドアを、開けろ」 す ひじ