ナイフ - みる会図書館


検索対象: 夜光街 : 真夜中の翼
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1. 夜光街 : 真夜中の翼

142 木佐は肯定の言葉を口にし、立ち上がった。 「木佐」 ノブに手を掛けた木佐は流の呼びかけに足を止めた。 「悪い こんな役を押しつけて 言外に語る想いに木佐は首をふった。 店内の片付けはあらかた済み、ポーイの姿はなかった。 木佐はカウンターに入るとワークトップを見渡し、いくつかのナイフを見比べた。 「何してるの、祐士 ? 店先のライトを消し、戻ってきた美貴が不思議そうに木佐の行動を見つめた。 「美貴、この果物ナイフ、もらっていいか」 いくつかあるナイフの中から、センチほどの小振りのものをとりあげた。 「いいわけないでしよう。使うのよ、それ」 「しゃあ、明日にでも同しものを届けさせよう」 取り返そうとする美貴の手をかわすと、木佐はガス台のひとつを点火し、ナイフをかざしは じめた。 ナイフは見る間に焼きついてい

2. 夜光街 : 真夜中の翼

すき 流をいたぶる事で隙のあった男の足元を払う。 きょ のが 虚をつかれた男は大きくバランスを崩し、流の横に転倒した。の瞬間を逃さす、ナイフを 握る右手を爪先で蹴り上げる。 ナイフは空を飛び、次の瞬間流の手の内に収まっていた。 そのままナイフを逆手に持ち替え、起き上がろうとする男の喉にびたりと当てる。 「言え。誰の命令だ ? すべ ひんやりしたナイフの感触が喉を滑る。 が、男のロは開かない。 「偉いよ、あんた。アタマに忠義立てて伝説になれるよ」 ごくりと唾を飲み込む音が聞こえる。が、男はロを割らない 男の拒否を見て取った流はナイフを押しつけて横に引いた 刃を滑らせた場所に一本の線が残り赤い液体が糸を引いて落ちた ソウル . レッド 一一一口、フからあっー 「あああっ ! やめろおっー 〉のアタマに言われたんだっ ! 俺の意志じゃないって ! 本当だって しゅぼうしゃ きようこう . 。痛みと血に恐慌をきたした男はべらべらと首謀者の名を吐いた 知った名前だった。確かこの〈裏新宿〉で〈百鬼夜行〉に次ぐ勢力を誇るチームだ。 さかて

3. 夜光街 : 真夜中の翼

107 夜光街 ひざ 両腕をつかまれ体も膝で押さえこまれ打撲の跡が残る体に激痛がはしる。声さえ上げられな 「よーし。しつかり押さえとけよ」 嬉々とした須藤の声が頭の後ろから聞こえる。 見ることはかなわないがその音から須藤が取り出した物がなんであるか、流にはわかった。 シャツがズボンからたくしあげられ、直後ナイフが布を切り裂いていった。 体はまったく動かせない。自由になるのは指先だけ。首の後ろでナイフが一「三度前後に動 えり き衿を断ち切った。 「なんか言ってみろよ。ええ ? しぎやくしん 須藤の嗜虐心に満ちた声が流をなぶる。 流は唇をきつく結び一言も発しない。 無言の反抗に構わす須藤は流に馬乗りになった。 「 : : : そうだな、〈 (.nOD*-ä・〉。それがいい 背負っていくんだ」 くつじよく 屈辱でめまいがする。 そう彫ってやる。てめえは一生その名を

4. 夜光街 : 真夜中の翼

143 夜光街 それ、どうするの ? 喉まで出かかった言葉を、美貴はロにする事はできなかった。 火に向かう木佐の瞳が彼女にそれをさせる事をためらわせた。 カチリ ロ火を消す音に、美貴ははっとした。 充分に熱したナイフを手に、木佐は控室に戻ってゆく。美貴も、予感に押されるようにその 後を追った。 「シャツを脱いでください 控室に戻るなり、木佐は言った。多分、間をおけば決心が揺らぐ、から。 視線の先、流はナイフになんの恐れも見せす e シャツを首から抜いた。 背中の左肩、黒々と読み取れる文字〈 coO>*Ä・〉。 浅く焼けた肌。 すじじよう まだ落ちついていないのだろう。刺青された部分の皮膚が腫れ上がり、筋状に盛り上がって 木佐は流が動かぬよう、腕を強くつかんだ。 瞬間、手の平に震えが走る。強張った体が流の緊張を木佐に伝えた。 「祐士リ何してるのよ ! 正気ワ こわば

5. 夜光街 : 真夜中の翼

流の問いに一一人は顔を見合わせた。 ・ : 誰に向かってもの聞いて 「なんだ ? その態度は。今の状況わかってんのか ? 偉そうに : んだっリ」 、追いつめられたこの状況で冷静さを欠かない流の態度は、二人の怒りに火をつけた。 相手は一一人。退路は、、ない。 武器さえもないこの状況の中、残された道はひとつ。 流は気づかれないように頭上に目をやる。 金網は 2 メートルと少し。 一人がジーンズのヒップポケットからナイフを取り出す。飛び出し型のそれは、乾いた音と のぞ えいり 共に鋭利な刃を覗かせた 狭い路地に一瞬、鋭い光がきらめく。 はか 流はナイフから目を離さないまま間合いを計った。相手が踏み込んでくるその時を狙って。 ガシャンー 少年が踏み込んだのと流が両手を背後の金網に伸ばしたのは同時だった。 けんすい そのまま腕に力を込め、懸垂の要領で体を引き上げる。 上手い具合に腰が回り、顔を上げた時流は金網の向こう側に降り立っていた。 えら

6. 夜光街 : 真夜中の翼

144 美貴が一一人の間に割って入った。 「レーザーで消せるわよ。こんな事しなくたって ! 祐士、聞いてるの卩 たいじ 流をかばう形で木佐と対峙する。だが木佐の表情は変わらない。 「どけ」 向けられた鋭い瞳に、美貴は一瞬あとずさった。 止めなければー なのに体が動かない。 まるで木佐の瞳に射すくめられたように、一歩も踏みだすことができない。 木佐は再び流の背に視線を移した。 「流様」 呼びかけに流は顎を引く。 さら 木佐は腕をつかむ手に更に力をいれ、引き寄せ、 押し当てた。 ナイフを刺青に しやくねっ 灼熱 , せまうしゆく 凝縮した熱が皮膚をつかみ、焼き、引き裂く。何も考える事などできない。身が弾くように 反り返る。 はじ

7. 夜光街 : 真夜中の翼

「待ってたぜ、四堂流」 ねめつけるような視線。その男こそあの日ナイフを奪われ、ぶざまに許しを請うたメンバー ひたい だった。額や目元に幾つもの傷がある。口元には青あざさえ浮かんでいた。 「なんだてめえか。どうしたんだよその傷。ああ、そうか。おれをとり逃がしたんでアタマに やられたのか」 〈 (-nOD*-Ä・〉のアタマはこのおれ、 つばっかやろうつリみくびんしゃねえっ ひろし 須藤洋だっ " 「アタマあ ? おまえがあ ? 意外だった。こんなやつが〈百鬼夜行〉に次ぐチームのアタマとは。何人ものメンバーの命 みさかい を預かるアタマが見境をなくし、〈裏新宿〉の「条約 , をも無視している。 こいつがアタマ : かす 流は微かに笑った。 うつわ この男は人を統べる器ではない。 「でかい口たたいてられんのも今のうちだ ! おいっー 須藤が顎をしやくると回りを取り囲んでいた仲間がじりしりと流に迫ってきた。 五人・ : 流は相手の人数を確認すると間合いを計った。武器らしい物は持ってない。

8. 夜光街 : 真夜中の翼

しまった : もう一人いたのか : 手離しそうになる意識を必死につなぎ止めなんとか片膝をつく。 かろ のど 喉の奧から昇ってくる苦いものを辛うじてこらえ相手を睨み付ける。 「へえ、俺の蹴りで落ちないやつははしめてだ。褒めてやるよ」 ゆが 歪んだ笑みが流を見下ろしている。 「いきがってんしゃねえぞ、ガキが」 男は取り出したナイフの刃にゆっくりと舌を這わせた。 カ なんの前触れもなく男は流の顎を蹴り上げた。 声もなく地に伏す流に金網の向こうの少年達がはやしたてた。 一一度一一一度、蹴りが流を襲う。ロの中に砂が侵入し嫌な音が歯の間を行き来する。 痛みの中、流は体の奧が冷えていくのを意識した。 こどう 鼓動が速くなる。 何度も感じた事のあるこの感覚。 こおう 自分の中で呼応する何か。 そう、冷えてゆく感覚の中で現れる、自分自身の、熱。 ざっ

9. 夜光街 : 真夜中の翼

176 ざっとうはま 雑踏に阯まれて後方にいるであろう人物を確認する事はできない。が、確かにいる。一一人の 様子を窺っている人影。 一一人はコマ劇場裏を走った。休日前の歌舞伎町は普段より人でごった返している。 四人、五人、通行人をすかして駆ける。通りまであと数メートル。 ヤ」ど、フ ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。鼓動が体を支配する。 雑踏がきれた、その時。 「お前ら ! 」 とつじよ 目の前に突如、人影が飛び込んだ。 とっさにポケットのナイフに手をやる。 「お前ら、どこの学校だ ? 」 「は ? 」 予想もしないセリフに二人はあっけにとられた。 「こんな時間にこんな所フろうろしていい歳じゃないだろう。名前と学校名を言いなさい」 後ろからもう一人メガネをかけた中年の男が息をきらせながら走ってきた。 : 逃げ足だけは早い : : : 」 「はあはあ、まったく : ねずみいろ よく見ればどちらも地味な鼠色のスーツを着た男だった。とてもやくざには見えない。 補導員 とし

10. 夜光街 : 真夜中の翼

かげでそれほど退屈な入院生活でもなかった。 しかし木佐に刺青を焼いてもらった事は一一人にも伏せていた。 げきど あの時、流に焼けたナイフを押しつけた木佐に美貴は激怒していた。自分が木佐に頼んだの だと説明しても美貴は良識ある大人のする事ではない、と木佐を責めるのを止めようとはしな かった。 自分のせいでこれ以上木佐を悪者にはしたくない。流はこの事をその後、誰にも話さすもち ろん火傷も見せはしなかった。 しんじゅく 電車ががくんと大きく揺れた。新宿駅に到着したのだ。 「四時五十分、やつべー。フェンウェイのやっ怒ってるぞ」 約束の時間に遅れること一一十分。一一人は階段を駆け降りると東ロ改札に走った。 果たしてフェンウェイは改札横にあるマイシティのエレベーターホールに待ちくたびれたよ うに座り込んでいた。 「遅いっリ何時間待たせんだよ ! 」 一一人の姿を認めると立ち上がり、走り込んできた流の体に肩をぶつけた。 「悪い。ホームルームが長引いたんだ」 流の言葉にフェンウェイはため息をついた。 おご : マック、奢れよ」