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検索対象: 夜光街 : 真夜中の翼
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1. 夜光街 : 真夜中の翼

174 うらしをしゆく 特にこの〈裏新宿〉では。 きよぎ それが真実であるにしろ虚偽であるにしろ当事者でない者にはたいした問題ではない。重要 なのは内容だ。 しどう さんか その点、四堂組の次男が傘下の幹部に拉致されたという噂は〈裏新宿〉の少年たちには申し 分ないものだった。 〈裏新宿〉を駆けめぐった噂はあっという間に黒社会に及んだ。 かぶきちょうひんばん そしてその噂の人物がここのところ歌舞伎町に頻繁に現れている、という事も。 「警官の数、増えたな」 やすくに 靖国通りに面したファーストフードショップ、そのカウンターに頬杖をつきながらフェンウ つぶや ェイが呟いた。 ながれ アイスコーヒーの氷を噛み砕きながら、流も通りに目をやった。確かに見渡しただけでも制 服警官が数人。 きび 襲名式が近づき、四堂組本部のある新宿は一層警備が厳しくなっていた。 「いくぞ、フェンウェイ」 から 空になった紙コップを握りつぶし、ゴミ箱に投げつけて、二人は店を出た。 ひやくにんちょう 四日間、一一人は派手に〈裏新宿〉を流した。百人町の仲間のアパートで少しの睡眠をとる以 ほおづえ

2. 夜光街 : 真夜中の翼

241 夜光街 「流が無事でよかったよ」 これのどこが無事に見えるんだよー 「お前 : フェンウェイのセリフに、流は両手を広げる。全身揉みくちゃな上、露出している肌にはガ ラスで切った傷がいくつもある。 安心したら今頃になって痛みがやってきた 「いてててて」 流の傷を京也が覗き込む。 「なかなか痛そうだな。「病院』に行くかい卩 〈イビサ〉へ。だが流は首を横に振った。 「今は、〈裏新宿〉へ行きたい」 「おい、言っとくけどな。〈裏新宿〉に戻ったら俺とお前は敵同士なんだからな」 忘れてんしゃねーぞ、とでも言いたげに一也が流を指さした。その指を平手で叩いて。 「借り一一つあり、のな」 互いに不敵に笑い合う。 そう、戻らなければ 自分の行こうとしている所なんてまだわからない、けど。 今は〈裏新宿〉へ。

3. 夜光街 : 真夜中の翼

けんそう 遠くの高層ビル群を薄紫のグラデーションが染めてゆく。夜の喧騒が嘘のように静かな歌舞 あさ からす 伎町、路上にはゴミが散乱し、それを漁りに来た鳥が舞い降りる。 風が流の頬を撫でていった。 この時間が一番、好きだ : ・ 流にとって歌舞伎町は彼の居昜万ごっこ。 士戸オオここだけが流に生きる意味を教えてくれる。 ふうぞく 夜になれば、立ち並ぶ風俗店に数えきれない人間が群がる。女が目当ての男と金が目当ての かんらくがい 女、アジア一の歓楽街、歌舞伎町はしかし別の名を持っていた。 おおくぼ よよぎ いっかっ 〈裏新宿〉 西は大久保、東は代々木までのエリアを一括してそう呼んだのは、その〈裏 新宿〉を争っている幾つもの「チーム」と呼ばれる少年の集団だった。 大人の知らない〈裏新宿〉に少年達はいた。まるでそれが自分自身の命であるかのように、 はけん 街覇権を争っていたのだ。 光 夜

4. 夜光街 : 真夜中の翼

158 「あなたの安全の為ですー おだ それでも努めて穏やかに言う。まるで自分に言い含めるように。 「それと〈裏新宿〉に関わるのもやめてください」 流が弾かれたように顔を上げた。 「それも親父が言ったのか ? 」 いえ、これは私の頼みです。・ : ・ : あんな役回りは一一度とごめんですから」 ただ 木佐の視線の先に彼自身がつけた火傷。爛れてまだ赤みをもったそれに木佐は顔を歪めた。 だけど〈裏新宿〉の事 「 : : : 嫌な役を押しつけて : : : それは悪かったと思ってる。だけどー , 言かにとやかく言われたくない」 〈裏新宿〉は、あの場所は自分が唯一生きられる 何と言えばわかってもらえるのか 場所なのだ。あそこでだけ感しる事のできるものをなんと説明したらよいのか、流にはわから ゆず ない。だけど絶対譲ることはできない。できはしないのだ。 「あなたは : : : 何をそんなに : しゅうちゃく なにをしてそこまでこの少年を執着させているのか 木佐にはわからない。多分その激情の名を彼自身まだ知らないに違いない。 : どうですか」 「傷の具合は : ′」、フじよう げんきゅう これ以上言及してもこの強情な少年は意見を曲げないだろう。木佐は流の上半身のところど はじ ゆいいっ

5. 夜光街 : 真夜中の翼

202 流れる水を集めるように、支流が重なるように、 必然のごとく感じている自分に驚いていた。 「行こう」 瞳は前を向いて。 なぜ〈裏新宿〉なのか。 なぜ俺は、〈裏新宿〉でしか生きられないのか。 俺を走らせるものがなんなのか。 そんな事、知らない。 わかる事なんか数少なくて。 しどう 四堂流。 十六で 夏。 かたわ 、冫い目りから覚めた時には流の姿はすでになく、傍らに一枚の置き手紙だけがあった。 こ、フしてここにいる意志達を、流はまるで

6. 夜光街 : 真夜中の翼

104 「〈裏新宿〉をでかい顔してたおまえがこのザマかあ。ええ ? しやがみこみ流の顎を捕らえる。自分のセリフに酔っているのか声が少しうわずっている。 うつわ 「 : : ・・プタ野郎。〈裏新宿〉のルールを破らなきや俺を堕とせないなんて器が知れるぜ」 平手が流を襲った。 「てつ、てめえリつけあがってんしゃねえぞ ! 」 見開かれた目が怒りで血走る。 「須藤さんっ ! 」 仲間が腕をつかむ。しかし須藤の怒りはおさまらす腕をふりはらい、流に向かって蹴りをい れようとした。流は腹の筋肉に力をこめた。 が、蹴りははいらない。 いぶか 須藤は歪んだ笑みを見せると、訝る流に背を向け部屋を出ていった。仲間の一一人もあわてて 須藤を追い姿を消した。 どうなってんだ : あぜんとする流の耳に須藤達の言い争っ声が切れ切れに聞こえてきた。 「なにを : : : やばいっすよ , 「うるせえっ 「 : ・・ : はどうするんです

7. 夜光街 : 真夜中の翼

「失礼しますー 入室する際、自分と分かっても必ず名乗る。そして許しを得てからでなくては絶対に入室し ない。それが木佐が自分に課した礼であり、いついかなる時もその礼を欠かした事はなかっ そ、フ、これまでは。 ししつじすべ 正宗の返事を待たず障子を滑らせる。 「どうした」 座椅子に背を預けくつろいでいた正宗は木佐のいつもとは違う様子に眉をしかめた。 この男のこんな様子を見るのは正宗の知る限りはしめてのことだった。 ぶれい 「なんだ木佐。無礼しゃないか」 正宗の代わりとでもいうように晃が口を挟んだ。 「申し訳ありません」 無礼を詫びながら木佐は他に人がいないことを確認した。 街「流様が〈裏新宿〉のチームに拉致されました。今日夕方のことです。先程華南の友人から話 光を聞きました」 夜 〈裏新宿〉の名に正宗が目を見開く 「ーーーなぜ流がそんなガキ共に拉致されたんだ」

8. 夜光街 : 真夜中の翼

仲間はどこにでもいる。支配人が日本人でも、裏にまわれば中国人経営の店、路地裏、コマ 劇場前広場、ゲームセンター とど 大人達の目の届かない場所で、少年達は夜を駆け抜ける。向かってくるやつらは叩き伏せ る、誰も止めない、止めさせはしない。 この街で、流は自由だった 父の寝室へ向かう途中、流は応接室で十数人の男達を見た。多分、組幹部付きのボディーガ ードたろ、つ くろぬ いしぺいぞ そういえば屋敷の石塀沿いに黒塗りの外車が何台も停まっていた。 よぎ 幹部会でも開かれているのだろうか。ふと過った考えを流は振り払った。正宗は数カ月前、 の手術を受け十日ほど前に退院してきたばかりなのだ。 「流か。はいれ」 しようじ 庭に面した障子が音もなく横に滑る。 た・ 0 一礼して端座した流の前にいたのは父だけではなかった。 すべ

9. 夜光街 : 真夜中の翼

京也の一言に何人かの女生徒がふり向いた。 われさき 我先に説明しようと今度は京也のまわりに人垣ができた。 「門の前に変なやつらがいるの」 「帰る生徒を一人一人チェックしてて、あたし怖くって通れないい 流は女生徒の人数分すいた人垣の隙間から顔をのぞかせた。 ・ーーーーーあいつらー 何人かの目つきの悪い少年が正門を遠巻きにしている。その中に流は数日前自分を襲った顔 を見つけた。〈・〉のメンバーだ めあてはおれか 流は小さく舌打ちした。 それがチームの間での暗黙の了 〈裏新宿〉でのいさかいは〈裏新宿〉で決着をつける 解だった。 だが〈・〉は流を取り逃がした一件で頭に血が昇っていた。どんな手を使っ 街ても流を生け捕るつもりなのだ。 光 こうまでされて逃げるつもりは流にはなかった。 夜 決意した流は人垣をかき分けて前に進み出た。 待ちぶせていた中の一人が顔を上げた。

10. 夜光街 : 真夜中の翼

れいり 病床につく父の枕元で流を見つめるのは兄、晃。その怜悧な視線を流はあえて無視した。 いっからだったろう。兄貴がこんな目を俺に向けるよ、フになったのは : 「昨日は戻らなかったそうだな」 ばんやりと考え事をしていた流を、正宗の声が現実に引き戻した。 「 : : : はい。昨日はフェンウェイの所にいました。ご、い配をおかけしました」 「娘じゃないんだ、そう心配はしとらん。しかし、フェンウェイはおまえにとってはいい友達 かもしれんが付き合いもほどほどにしておけ。学校にも他に友達くらいいるだろう」 て、フい、フ一」とか ヤ」 , 」ろよ 正宗が中国人であるフェンウェイとの付き合いを快く思っていない事を流はうすうす気付い ていた。 っそう 「あの子の家は大久保だったろう。あのあたりは物騒だ。もし何かあったとしても中国人連中 けっそく にはわしも手を出しにくい。 あいつらは結束だけは固いからな。それに最近はあの辺をギャン けず グを気取ったガキ共がしのぎを削っていると聞く、おまえぐらいの歳のやつらがだ」 かす 街流の肩が微かに震えた。 よねん 光「あのあたりを〈裏新宿〉などと呼んで縄張り争いごっこに余念がないらしい」 夜 晃が後を引き取った。 一一人は知らない。目の前の少年がその〈裏新宿〉をかけたチーム争いの中心にいる事を。 びようしよう とし