「あるよ。叔父さん達が集まると、時々やるから」 「へえ ? これは意外だ。 はなふだ 「ポーカーになることもあるし、花札になることもあるし : : : 大抵は、叔父さん達に教わって る」 「いい叔父さん達 : : : 、なのか ? 」 西野の問いに、彼が笑う。 「どうなんだろうね」 「何か賭けてる ? こっとう みやげ 「時々は、高い酒とか、骨董品とか、海外土産とか : : : 賭けてるみたい。俺はもちろん、そう いうのの対象外だけど」 「そら当然だよな」 正月も明けて四日。駅の周辺は、もう普通に営業している店が多かった。 「会社員って、いっから仕事なんだろ。明日かな ? の「叔父さん達は明日からって言ってた」 「大変だよなあ」 社会人は、学生と違って休みが少ない。というよりは、学生があり得ないくらい休みが多い たいてい
「念のための検査入院なんだけどね。叔父さんもーーあ、ここの院長だけど、義直には甘いっ ていうか、過保護だから。まあ、打ったところも頭だから、それでこのフロア、脳神経外科に 入院してるってわけ」 ようやくのことで全容がわかった。そして、結果も問題なしとなっているらしい 「じゃあ、退院は ? 」 「もう、今日にでも退院したいよ」 訴えるように言う白川に、彼女がクスッと笑った。 「今日退院するって、叔父さんに言っておいてあげようか ? どうせ、入院費とかは叔父さん かどうにかしてくれるんだろうし」 「圭ちゃんから言ってもらえれば助かる」 ようこ 「容子おばさん、今アメリカでしょ ? 」 「うん。だから、そのへんの手続きとか、俺ひとりしやどうしていいかわかんないんだよ」 容子おばさんというのは、白川の母親のようだ。 じきそ 「バッカねえ。義直が叔父さんに直訴したら、すぐに言うこと聞いちゃうわよ。ま、とりあえ す私が言っておいてあげる。でも、上からナースステーションに話を通さなくちゃならなくな るから、やつばり今日いつばいはいないとダメよね , その話に、白川はムッとしたような顔をしたが、何も言わすに彼女に頭を下げた。
呼ばわりする。も「とも、そう呼ぶのはそれだけではなく、世のことに疎か「たり、家事が まったくできなかったりするから、というのも理由だが。 「酒が強い家系 ? 「どうだろう : : : 父と母はあんまり強くないんだけどね。叔父さんとか従兄弟とかは、みんな 弓いかな」 「ふうん」 優しげな顔をして酒に強い、というのはちょっとフェイントだ。だが、西野も酒には強い方 かいほう なので、いい飲み仲間ができて嬉しくもある。しかしその一方で、酒に酔った彼を介抱する楽 しみというのは、あまり味わえなさそうだ。 「ワイン飲んだときは、ちょっとかわいかったな」 とうも西野は正直す ポロッと本音が出た。心の中で思っていただけのつもりだったのだが、・ ぎるよ、つだ。 白川は、それを聞いてチラリと西野を見たが、何も言わなかった。が、ほんのりと頬が赤く 石なっている。その反応が、またまたかわいくなってきてしまう西野なのである。 の「あのときは、ちょっと気分的にハイだったんだ」 「なんで ? 」 「 : : : わからないけど」 お せ とこ ほお
あとの言葉が出てこなかった。安心しすぎて、本当にその場に座り込みたい気分だったの 「あ、俺の部屋に来る ? 」 何も言わない西野に少し困った顔をしてから、白川は西野を自分の病室に案内した。 「個室なんだ ? 」 「うん」 ものめずら 物珍しさに、周囲を見回す。トイレまで備え付けてある。電話も一台。窓の近くには、小さ なアレンジメントの花が置いてあった。 誰が持ってきたんだろう : ・ いまさら そう一一一口えば自分は、まったくの手ぶらできてしまったと、西野は今更ながらに気づいた。普 通だったら、見舞いの品を何か持ってくるんだろうなあ、と。 内装は、途中で見た四人部屋とそんなに変わらない感しだが、設備は多分贅沢なのだろうと 孑沖できた。 「なんで個室 ? 」 「叔父さんが : : : あ、ここの院長やってるんだけど、なんだかすごく過保護で : : : まあ、べッ ドがここしか空いてないってのもあったみたいなんだけど」 しんせき 「親戚の病院なんだ ? 」 ぜいたく
140 階下に怒鳴った声が、白川にも聞こえてしまったらしい。彼は電話の向こうで笑っていた。 「何 ? 」 『いろいろと忙しそうだ』 「まあね。白川はどうなんだよ」 『俺は、手伝うこととかあんまりないなあ。叔父さん達と飲んでたりする』 ぞろ それはそれで、結構大変そうだ。白川の話だと、かなりの酒豪揃いだそうだから。 『白川って、二日酔いになったことねえの ? 』 : どうだろ、あったかな」 「ないかも : つまり、記慮力のいい彼が覚えていられないくらい、希なケースだということかもしれな うらや 。それくらい、彼は一一日酔いもしないらしいのだ。まったく羨ましい体質だ。西野だって、 そんなに酒に弱い方ではないが、やはり羽目を外すと一一日酔いになる。 特に、アパートの住人と安い酒をチャンポンに飲んでいるときなどは、てきめんだ。 『アパートの忘年会はどうだった ? 』 「ひどかったよ」 あびきようかん 即座に答えた。一言で言うなら、阿鼻叫喚だ。いつも一緒に飲んでいるメンバーは、その中 でも比較的理性的に飲める面々なのだ。 『今度、その話聞きたい』 まれ
192 宴会は盛り上がった。白川がいて、更に春野が参入して、そして今回のひったくり事件で、 白川が更に話題を提供した。こんなに楽しくてにぎやかで話題のある宴会は、久々のような気 がする。 思わぬところにライバル出現 : : : かもしれない 「ただいまー。やっと登場の春野です」 西野が、アパートの住人達に紹介した。 「こんばんはー」 にこやかに挨拶をする春野に、彼らはどうやら緊張している様子だ。でも多分、白川と初め て会ったときはどじゃないよなーーなんて、勝手に自分で解説を入れる西野なのだ。 「この部屋で女の子を見る日が来ようとは : : : お父さん、嬉しいよ」 めがしら 小池が目頭を押さえた。 「いつ、俺のお父さんになったんですかー 白川がクスクス笑っている。その笑顔を見て、西野はあきらめた。 もういいよ。白川が楽しいなら何でも : さら
晦日に大掃除ーー・ちょっと遅いんしゃないだろうか、とも思ったが、西野の帰宅を待ってい たのだとしたら、それは自分のせいでもある。 「お父さん、庭の植木、植え替えるでしよ」 あるじ もちろん、大掃除には一家の主も動員される。例外はないのだ。 何だか知らないが、年末しゃなくても良さそうな仕事がたくさんある。絶対に、男達をこき 使うためにためておいたに違いないと、西野は田 5 った。 白川の家では、そんなことはないのだろうかと、ふと思った。 彼が、大掃除に駆り出されたり、家事の手伝いをやっているところなんて、とてもしゃない が想像できない。それにー・・ー彼には申し訳ないが、あまり助けにはならないような気がするの たカ : 案外家族で、海外で年末年始を過ごしていそうな気がするーーー何となく、金持ちのイメージ で、西野が勝手に想像しているだけだが : 白川が入院していたとき、母親は海外だと聞いた。旅行に行っていたのか、それとも何か、 石 毎外で仕事をしているのだろうか。実際に、彼の両親の話を聞いたこともない。話したがらな のいわけではなく、多分西野が質問しないからだ。 訊いたら教えてくれるだろうか。彼の家族構成や職業、家はどんな感しなのか、白川は家で は何をしているのか。質問としては、きっとささやか過ぎてくだらないこと。だけど、彼のこ