考え - みる会図書館


検索対象: 水の化石
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1. 水の化石

『うん : : : 途中で電話する』 「ああ。待ってるから。気をつけて」 今度は、彼は何を見に行くのだろう。興味を持ったらすぐにでも出かけてしまうので、その ひま 前に説明を聞く暇がない 週末から、多分来週の週末まで。大抵一週間くらいだから、今度の金曜か土曜くらいには帰 ってくるだろう。そのときに話を聞いてやってもいいし、途中の電話で話を聞くのもいし 考え考え話す白川との電話は、長くなりがちだ。時々無音の状態さえある。だけど、それで も黙って待っているのは、彼が話したいことを頭の中で整理している最中だとわかっているか ひとみ あのきれいな茶色の瞳で、今度は何を見てくるのだろう。説明してくれるのが楽しみでもあ る西野だった。 「ねえ、また白川君と飲みたいな」 「今はいないよ」 友人で飲み仲間でもある春野小道に言われて、すぐに返す。 にしの はるのこみち

2. 水の化石

「いいわよ、それでも。幸也の友達とか、会う機会ないもの」 それもそうだ。子供の頃は、友人達と互いの家を行き来していたりしたので、どんな友達と 付き合っているか家族もわかっただろうが、地元から離れた学校に行くようになってからは、 なかなかそんなこともなくなった。 「最近は、携帯で電話しちゃうから、取り次ぐなんてこともなくなったしね。全然わからなく なったよね」 「そうよねえ」 うなず 深雪の言葉に、母も頷いた。 / 学生とか中 「まあ、幸也くらいの年代になれば、それなりに落ち着いているんだろうけど。ト はあく 学生とかは、どうなのかしらねえ。親がまったく子供の生活を把握できないってのも、考えも のよねえ」 などとちょっと感心する。自分はあまり考えたこと なるほど、そういう考えもあるのか はないが、親の目から見るとそういうものかもしれない 石 高い棚から、頼まれた重箱と、他にも大皿などを取り出したら、もう用なしだと追い払われ のた。女一一人でいつばいの台所では、西野の存在は邪魔なだけなのだろう。 「テレピでも見てたら」 「別に、見たいのないから」 143

3. 水の化石

176 「マジかよー。起き抜けに酒 ? 」 ばやく西野に、白川は笑いながら立ち上がる。 「開けるよ」 「うん」 相変わらすばんやりして座ったまま答えた西野に、白川は玄関のドアを開けた。 「あれ、西野どうした ? 」 「いますよ」 白川はばヘーっとした西野を示す。一番乗りは、やつばり隣室の小池だった。 「寝てた ? 」 「はあ」 「上着を着たままで ? 」 「 : : : はあ」 「そうか。俺はてつきり、服を着てないから開けられないのかと思った」 ニャッと笑って、ほんやりした西野と、小首を傾げた白川を見比べている。 それならそれで、そっとしておこうって考えは、この人にはないのか : 「まあ、当分そんなことなさそうか」 げせわ 小池の下世話な発想に、西野はため息をついた。

4. 水の化石

とんなささやかなことでも。 とはいろいろと知りたい。・ 普段、自分のことをあまり話さないから、余計に知りたいと思うのかもしれない。 飲んでいるときに、自分の考えなどは少しすっ話してくれる。知り合った頃に比べたら格段 もっと近づきたい。 の進歩だ。だけど、それだけしや足りない。もっと知りたい。 どんよく 俺は貪欲だ。 そう思う。それでも、この想いは止められない こうや 、いけど、手は止めないでよ。にしいんだから ! 」 「幸也、物思いにふけるのもし 深雪は、母親以上に手厳しい 「わかってるよ」 そして弟である西野は、なせか彼女には絶対に逆らえないのだった。 「逆らえないように、 QZ<< に組み込まれているんだ、きっと」 「何か言った ? 」 「何も ! 」 多分そうだ。絶対そうだ : 風呂の掃除が終わった西野は、家中の柱を拭く仕事を頼まれた。そんなに広い家ではない が、家中の柱と言ったらかなりある。 「全部、俺だけで ? 」

5. 水の化石

何となくイメージが擱めた。 「それが見たかったんだ ? 」 『うん。本当は、水の化石を探してたんだけど : : : 水自体は、化石にならないのかな』 もちろん西野にそんな知識はない。 「どうだろうな」 『すごいよ。波打ち際みたい』 「へえ」 話している白川の表情を思った。きっと目をキラキラさせて、目の前の光景を見つめている うれ のだろう。そんなところから連絡を入れてくれたことが、すごく嬉しい。きっと彼は、西野に その光景をいち早く説明したかったのだ。 『明日は、多分四国に行く』 「四国にも、そのリップルマークってのがあるのか ? 『うん。また電話するよ』 石「わかった。ちゃんと充電しとけよ」 の西野のからかうような声に「わかってるよ」と答えて、電話が切れた。ふと振り向くと、友 水人一一人がニャニヤしながら立っていた。 「 : : : なんだよ」 つか

6. 水の化石

「洗える ? 」 「できるよ、それくらい」 「ホントかよ」 冗談半分、そしてもちろん本気半分で言った西野だったが、スポンジと洗剤を示すと、西野 ていねい の使ったどんぶりまで、白川は丁寧に洗ってくれた。使った洗剤はかなり多かったような気が あいきよう するが、まあそれはご愛敬だ。 「台所に立ったりするんだ ? 」 「しないよ」 どんぶりを洗えたくらいで感心するな、とでも言いたそうな口調で返してくる。 「俺も、実家しややらないかな」 「へえ ? 」 「でもまあ、一人暮らしするようになったら、他にやってくれる人もいないし、な」 「そうか : : : そうだな」 と思ったが、白川があまりにも真剣 そこは、そんなに感心するところしゃないんだけど な顔をして頷くのがかわいかったので、そのままうんうんと頷いておいた。 「西野ー」 たた ドンツ、とドアを叩かれて、小池の声がする。「はい ! 」と返事をした。

7. 水の化石

「あるよ。叔父さん達が集まると、時々やるから」 「へえ ? これは意外だ。 はなふだ 「ポーカーになることもあるし、花札になることもあるし : : : 大抵は、叔父さん達に教わって る」 「いい叔父さん達 : : : 、なのか ? 」 西野の問いに、彼が笑う。 「どうなんだろうね」 「何か賭けてる ? こっとう みやげ 「時々は、高い酒とか、骨董品とか、海外土産とか : : : 賭けてるみたい。俺はもちろん、そう いうのの対象外だけど」 「そら当然だよな」 正月も明けて四日。駅の周辺は、もう普通に営業している店が多かった。 「会社員って、いっから仕事なんだろ。明日かな ? の「叔父さん達は明日からって言ってた」 「大変だよなあ」 社会人は、学生と違って休みが少ない。というよりは、学生があり得ないくらい休みが多い たいてい

8. 水の化石

「車にひかれそうになった子供を助けてあげたのよね」 「へえ : 思わす西野は、感心して声を出した。それはすごいことだし、隠すことなんてないじゃない かと思うのだが・ あいきどう 「で、この子小さい頃から合気道やってて、自然と受け身も取れたから、アスファルトの上で も大きな怪我をしないで済んだのよ。そのときは」 そのときは、ってことは、そのあとがあるのだろう。 「そのあと、立ち上がろうとしたときにこけて、頭を打ったのよね ? 」 確認するように彼女が白川を見ると、頬を赤くしてそっぱ向いている。それはかなり、恥す かしいかもしれない 「義直っていつつもそう。詰めが甘いって一一一一口うか、必ずオチがあるって言うか : : : 」 「仕方ないだろ」 石「鈍くさいわよ」 てきび の ハカ呼はわりの次は『鈍くさい』だ。手厳しい。厳しすぎるーが、彼女にはまったく同調 水してしまう。助けを求めるように西野を見た白川だったが、次にはしょんほりとうなだれてし まった。 どん

9. 水の化石

190 春野のスー ーの袋を受け取ってやった西野が、一一人の後ろについた。一応、念のためだ。 「合気道やってるの ? 」 確か春野は、その話も知らないんだった。 「うん」 「そうかあ。そうなんだ : : : 白川君ってすごいんだねえ」 感心の嵐である。俺だって感心してるぞ、と言いたかったが、今は春野の言葉を聞く方に徹 する。 「すごいってわけしゃないけど」 「でもすごいしゃない - 「相手の勢いがあればあるほど、思い切り倒せるんだ。合気道って、相手の仕掛けてきたもの を使って倒す技だから」 「へえ」 西野と春野の声が思わすハモってしまった。 「なるほどなあ」 惣れ直した。 うんうんとひとりで頷いていると、白川がチラリと振り向いた。目が合うと、彼は少し照れ くさそうに笑う。参るよなあ、と思う。本当に、白川はたくさんの顔を持っている。まだまだ てつ

10. 水の化石

水品は昔、水の化石だと信しられていたという説明ばかりが続く。 「ふうん : : : 本当に、水の化石ってないのかな」 化石水という言葉も出てくるが、これは実際の水であって、化石ではないようだ。 「水の化石、ねえ」 どうしていきなりそんなものが見たくなったのか。どこでそんな単語を見つけたのか : : : 西 野にはわからないことばかりだ。 だが、そのリップルマークのことを調べはしめたら、いてもたってもいられなくなったのだ ろう。それは、今までの白川を見ていてよくわかる。 とくしまこ、っち 明日は四国に行くと言っていた。そうすると、この徳島と高知の天然記念物指定になってい る化石漣痕というやつを見に行くのだろう。 それらを前にして、目を輝かせている白川を想像する。どんな知識より、その目で見るもの の方が感動するということは、西野だって知っている。だからこそ、白川を縛り付けられない のだ。 彼の心が感動するものを求めているのなら、それを見せてやりたいと思う。そして、彼の帰 りをちゃんと待っていてやりたいと思うのだ。 明日は、どんな声で電話してくるんだろう。 それを想像するだけでも、西野は楽しかった。