言葉 - みる会図書館


検索対象: 水の化石
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1. 水の化石

194 西野の言葉に、彼女は不満そうだ。が、それは事実なので仕方がない。 「あとは、道路側しゃなくて、反対側に持つようにつて、よく言われるだろ」 「言われないけどー : でも、確かにそうだよね」 しぶしぶ 渋々頷いた。どうせ彼女のことだから、バッグは変えないだろうが、持ち方くらいはこれか ら気をつけるかもしれない。 部屋の前で、彼女がドアを閉めるまで見守った。 「お茶でも飲んでく ? 」 「まだ部屋があのままだから , 「そうか。じゃあ、おやすみ。ありがとう」 西野と白川の顔を交互に見て言ってから、彼女はドアを閉めて鍵をかけた。それを確認して からアハートを出る。 「ごくろうさん、だな」 「何が ? 」 「付き合ってくれてさ」 西野の言葉に、白川は小さく笑う。 「西野に付き合ったって言うか : : : 彼女、俺の友達でもあるから」 何だか、衝撃を受けてしまった。衝撃と一一一口うよりは、感動かもしれない。人目がないことを

2. 水の化石

くせ 思わす子供に言い聞かせるような口調になってしまうのは、俺の悪い癖だなあと思いなが ら、西野が言葉を続ける。 「俺は、白川の電話を楽しみにしてるんだ」 白川が口を噤む。 「白川が見た光景を、白川の言葉で伝えてくれるだろ。多分、俺が見たんしや、ただの風景な んだよ。だけど白川のフィルターを通すと、なんか感動的に思えるんだよな」 『 : : : そうかな』 「そうだよ ? 」 彼の気持ちが一緒に伝わってきて、それが西野を感動させる。たとえ同しものを並んで見た としても、彼が感じているように西野が感しることはできないだろうという意味でもある。少 し残念だが、多分それは事実だ。 だから、自分は残っていると白川に一言う。 「俺は、白川の電話を待ってるからさ」 石 ・・うん』 の「安心して、今まで通りいろんなところに行って来いよ」 どんな顔をしているんだろうな、と思った。少し複雑そうな表情をしているのかもしれな つぐ

3. 水の化石

160 『本当は、リップルマークの写真、携帯で撮ったんだけど : : : ちゃんと撮れてなかった』 白川のことだから、それもありか、と田 5 ってしまう。 「まあ、写真だけだったら、ネットでも探せるからいいよ」 『実際に見た方が、やつばり感動が全然違う』 「だろうな。でも俺はやつばり、白川っていうフィルター越しの方が感動するよ」 『感覚が違うのかな』 「まったく同じ人間なんていないよ」 『そ、つか : : : うん、そうたな』 そんなことは、白川だって今まですっと感していたことだろうに。それでも少し寂しそうな 声なのは、西野と同し感動を分かち合いたいと思っているせいかもしれない。 「寂しいの ? 」 ふと訊いてみた。それは、今すぐとなりに自分がいなくて、という意味ではなかった。白日 に質問の意図が伝わったかどうかわからないが、彼はわずかな沈黙のあとに言った。 『寂しい、のかな うん、多分』 「俺がいないから ? 」 『わからないけど : : : 今まであんまり、こんな気分になったことなかった』 不器用な言葉で素直に伝えられる言葉。今すぐにでも会いに行きたくなる。

4. 水の化石

「それで案外、俺も満足してるよ ? 」 そんな言葉で彼が安心するかどうかわからなかったが、そう言ってみる。だが、白川は黙っ と、彼の言葉を待つ。 たままだ。何を考えているんだろう 『西野』 「何 ? 」 『今度、一緒に行く ? 』 何だか、一大決心をしたみたいな口調だよなあと、ちょっと笑ってしまった。その誘いは、 確かに魅力的だった。が、白川に旅行に誘われたというニュアンスとはちょっと違う。いや、 かなり激しく違う。 そんな色つばい類いのものでは、きっとない。それに、白川の旅は観光旅行とも違う気がす る。まあ、端から見たらどこが違うのかと言われるかもしれないが、どちらかといえは、彼の それは研究のための旅行みたいなものだと思っている。 うれ だから、多分心構えが違うのだ。誘ってくれるのは嬉しいが、遊び半分で行く旅行ではない 石 ので、やつばり自分は行けないかなあ、と西野は思う。 のしかも、まだ目的地の決まっていない旅である。 「無理しなくていいよ」 『無理してるわけしゃないけど』 153 はた たぐ

5. 水の化石

『着いたら連絡する』 「疲れてるだろうから、翌日でいいよ」 おとこぎ がまん これは、男気というか、やせ我慢だ。 『しゃあ、連絡できたら当日連絡するから』 「ああ。気をつけて」 『西野ーー』 『ありがとう』 そう言って、電話は切れた。 なんだなんだ、そのありがとうってのは ? 何か特別な意味があるのか、それとも、寛大な一言葉に対してなのか ? わからなくて、モャ モャした。喜んでいいのか、不安になっていいのかわからない。だったら折り返し電話をかけ て訊けばいいものだが、それも何だかできない。 多分、白川自身もうまく説明できないだろうという気がするからだ。 「あまー すぐ近くで声がした。春野である。 「聞いてて恥すかしー かをたい

6. 水の化石

小池の言葉が終わらないうちに、ドアがノックされた。 「久しぶりー。白川もいるんだって ? 」 「いるよ」 「こんにちは」 まぶ 挨拶をした白川に、林田と大山が少し眩しそうな顔をした。 「癒される : : : 」 ポソリと言った大山に、小池がニャニヤ笑う。 「こいつ、彼女の気が強いから、結構大変らしいよ」 「そんなこと、関係ないしゃないですか 5 」 一番年下の大山は、大抵突っ込まれ役である。 「おおー、何だこの野菜炒めは」 「キャベッ炒めだよ」 「ごちそうがあるぞ ! 」 石 林田と大山が騒いでいるのに笑いながら、西野が手を出した。 の「え ? 「ピールか何か、持ってきたんだろ」 「あ、そうそう」 181

7. 水の化石

126 野は落ち着いて会計を済ませた。 「酔ってるだろ」 「平気だよ」 まだ涙の残る声で言ったが、白川はほんのりと笑う。 「西野はすごい」 「何が ? 」 「俺の欲しいもの、何でわかった ? 」 「本当に欲しかった ? 「うーん : : : 物が欲しかったわけしゃないけど」 あいまい 曖昧な表現だが、何となくわかる。 「でも、欲しかったものだ」 白川の想いが伝わってくるような気がして、西野も幸福な気分になる。 「しゃあ、白川の欲しいものと、俺があげたいと思うものは、同しなんだな」 西野の言葉に、白川が立ち止まる。そして、しっと見つめてきた。 「ん ? 」 「それってすごいことしゃないのかな」 ああ、もうつ ! 何で今日に限って、こんなに人通りが多いんだー

8. 水の化石

118 「久しぶりに会おう」 こわね 照れたような声音で、すぐに返してくるのがかわいい 「で、またあの店で飲もう。ワインを飲んで、白川が酔っぱらったら、また俺の部屋に泊まれ ばいいよ」 『うん』 この誘いは、変な下心なしだ。本当に、言葉通りの意味。だから安心していいよと、心の中 で付け加えた。 「しゃあ、明日な」 『西野ーーー』 『電話、ありがとう』 言ってすぐに切れた。彼が目の前にいたら、絶対に抱きしめていた。それができないのが残 念でもあり、でも、それをしないから、白川を安心させてやれたのではないかと思ったりもす る。軽いジレンマだ。 「つし、あとはこれを渡すだけ」 つぶや 西野は、優美がくれたストラップの隣に置いてある、小さな包みを見ながら呟いた。

9. 水の化石

うなあって、ちょっと興味が湧く」 「あー、それは俺も思う。西野は ? 「俺 ? 俺は、バイトとか、アパートの仲間と飲んだりとか、あとは、うーん : ・・ : 買い物した り・とかか ? ・」 「白川君って、一人暮らししゃないから、食品の買い出しとかも必要ないわけでしよ」 「まあなあ」 春野が、細かいところをチェックする。 「やつばり、本を読んでいるのかもな」 それが一番彼らしいと、西野の言葉に一一人は頷いた。 「すんげーたくさん読んでいそう」 「うん、分厚い本とかね」 多分、それはあたっていそうな気がする。だが以前、気になったものを調べたりすると言っ ていたから、図書館に行ったり、 ハソコンで調べものをしたりもしているだろう。すべては知 石識の積み重ねだ。 うな 水西野が腕を組んで唸った。 「どしたの ? 」

10. 水の化石

「そうかもね」 少し濡れた唇で白川が言った。無邪気な表情に、無邪気しゃない唇 無意識に逸らした視線に、白川は少し不思議そうな顔をした。 「旅行ーー・」 「え ? 」 何か話題を提供しなくてはと、必死に考えて言葉を紡ぐ。 「また、どこか行く予定は ? 」 「うーん。あるけど」 「またかよ」 自分で話を振っておいて、ひどい言いぐさである。だが、後期に入ってからすでに一一回も行 っているので、今度行ったら三回目になる。 「よく金があるなあ : : : っていうか、単位は ? 」 「どうだろう。出席率優先のやつは、だめかもしれない」 たんたん そんなことを淡々と言う。普通だったら、もう少し焦るなり何なりするところではないだろ 「卒業できなかったら、困るだろ ? 「多分ね」 あ つむ