顔 - みる会図書館


検索対象: 水の化石
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1. 水の化石

す。驚いたような小さな息が自分の唇に触れる感触に、西野は少し笑った。 した 一一回目のキスーー白川は逃げない。それどころか、かすかに唇を緩めて西野の舌を受け入れ 時間にしたら十数秒の、わすかな接触。少し乾燥した唇の感触に、唇を離すときそっと舐 めてやった。 少し離れて白川の顔を見ると、ムッとしたような顔をしている。 「怒った ? 」 「怒ってない」 「しゃあ、何でそんな顔してるんだよ」 白川は答えない。 「いやなら突き飛ばせばいいだろ」 「 : : : じゃない」 「え ? 」 「いやしゃないよっ ! 」 言わされた、というような顔をした。そして西野は、言わせてしまったとちょっと後悔し た。だけど、言葉に出してくれなければ、それを許してくれる理由がわからない。だから今 うずま あんど は、わすかな後悔と多大な安堵が、西野の心の中でグルグル渦巻いている状態だ。 そむ フィと顔を背けて、アパートに向かって歩く白川の耳が、少しだけ赤かった。それが寒さの ゆる

2. 水の化石

合気道も習っているなんて。 「段とかあるの ? 」 「あるけど。でも、試合とかはないんだよ」 「そうなんだ ? 「うん。演武会とかはあるけどね」 ようやくのことで部屋に着く。どうやら、そろそろ他の部屋の住人も、実家から戻ってきて いるらしい 「お、戻ってきたか」 かぎ 鍵を開けている最中に、隣のドアが開いて小池が顔を出す。 「お久しぶりです」 「こんにちは」 かげあいさっ 西野の陰で挨拶をした白川に、小池が目を細めて笑った。 「何だ、一緒に旅行でも行ってたのか ? 」 「違いますよ。駅で一緒になったんです」 「たまたま ? 「 : : : 違うに決まってるでしよ」 何となく、小池の言い方が気になってムッとして返すと、彼はからかうような顔で笑ってい

3. 水の化石

「あの : こんわく 一一人の反応に困惑したような顔をして、白川が西野の顔を見る。西野は思わす苦笑してしま 「学内で見てるでしよう」 はだ 「掃き溜めに鶴ってこのことだな」 「掃き溜めって、俺の部屋だよ」 ムッとして言い返すと、小池がハッと我に返った。 「あ、すまん。やつばり本物は美人だ」 「本物じゃない白川って ? 「いや、別に写真が出回ってるとかそんなわけしゃ : : : 」 「出回ってるんだ」 失言のオンパレードの小池である。それに気づいたのか、彼はプンプンと首を振って否定し こ 0 「俺しゃない、俺しゃないぞ ! 」 「いいよもう。で、白川と話でもしたいんですか ? 」 何が『う : : : 』だかわからないが、小池が黙り込んでしまった。仕方ないので林田に視線を つる われ

4. 水の化石

白川は否定しない。自分が甘やかされて育ったという自覚は、ある程度あるようだ。 「一人暮らしなんて、絶対にできないだろ」 そう言った西野の顔をしっと見返して、にこりと笑った。 「そうしたら、ここに転がり込む」 「俺に食事を作れってか ? 」 「少しすっ教えてもらうよ」 あや 向上心もあるらしい。もっともそれが本気で言っている言葉なのかどうかは、はなはだ怪し いところだが。 ほうちょう 「包丁持ったことあるのか ? 「 : : : 授業で」 「いつだ、そりや ? 」 「・ : : : : 中学のとき」 どうせまた何か突っ込まれるのだろうという心構えをしながら、白川が答える。何か言おう 石と息を吸った西野だが、彼の顔を見てあきらめた。 の「ま、そんなところだろうな」 水 どんぶりの中身をきれいに平らげた白川を誉めてやるように、ばふっと頭をおさえると、ま うわめづか るで猫か何かみたいに上目遣いで西野を見る。

5. 水の化石

「俺、大丈夫だよ」 「電車に乗るまで見送る」 過保護なのか、彼が別れがたいだけなのかーー・白川はわからないというように困惑した顔を する。それに気づいて、西野も困ったように笑った。 「信用してないわけしゃないから。単に俺がそうしたいだけ」 ・ : だな」 「え ? 」 あっか 「俺、女の子扱いされてるみたい」 「何言って : ・・ : 」 電車が入ってきた。別れがたそうな西野を置いて、白川は電車に乗る。 「おやすみ」 「うん」 いつもだったら、白川ももっと離れがたそうな顔をするのに、今日は少し様子が違った。電 石 車が動き出したときに、ホッとしたような表情を見せたのだ。 の「何だよ」 文句を言ったのは、白川にと言うより自分にだ。改札を出たときに、春野の姿はなかった。 燗どうやら市原も、先刻反対側の電車に乗ったらしい

6. 水の化石

言われて、少しだけ頬を赤くした白川の顔を見てしまい、なぜだかつられて西野も頬が熱く なってしまった。 「でも、携帯の電源はオフにしておかないと : : : 」 「バカでしよう、この子」 あき 彼女は呆れたような声で言うと、盛大なため息をついた。 ようしゃ 学内でも有名な秀才の白川を捕まえて、バカ呼ばわりである。さすが彼の親類は、容赦がな 。多分、日常の彼を見慣れているせいもあるのだろうが。 かげ 「屋上とか、建物の外とか。あるいは、ラウンジでソフアの陰でこっそりって手もあるじゃな いの」 「でも : : : 」 「バカ正直なのは、あんたの美点でもあるけど、欠点でもあるわね」 ズバッと言っているのだが、なぜだか声の調子は優しい。やはり白川は、従姉に大事にされ ているようだ。 「西野君、義直の入院の理由は聞いた ? 」 「いえ、まだ : : : あまり話したくなさそうな感じなんで」 「そりゃあねえ」 彼女がニャッと笑う。それに白川は、ひどく情けなさそうな顔をした。 ほお

7. 水の化石

西野は、そんな彼の顔から心持ち視線を外して訊いてみる。 「今日、ど、つする ? 帰る ? それとも、このまま泊まっていく ? どうしよう、と小声で言いながら、白川が上体を起こす。 いくらきれいにしてあっても、男子学生のアパートだ。そこに白川がいることが、やけ に不自然に感してしまう西野なのである。 「俺」 「ちょっと待って」 白川が口を開いた途端に、西野が手を上げて制す。 「何 ? 」 「待ってて」 立ち上がると、西野はそっと足音を忍ばせてドアに近寄り、いきなりバッと開いた。 「うわわっ ! 」 石「な、何だっ ? 」 の住人の小池と林田が、びつくりした顔で突っ立っていた。 の約一一名ーーアパート 水「何かご用ですか ? 努めて冷静な声を出したつもりの西野だったが、通常よりもいくらか声が低いのは自覚して とたん こいけはやしだ

8. 水の化石

囲だ、自分の背に回された腕の感触で、彼の気持ちを感し取る。 「白川が大切ーー何よりも、大切」 言い聞かせるように言う西野に、白川も腕に力を込める。 「だから、あんまり心配させないでくれ」 くびすじ くちびる ヒクリと体が揺れたが、逃げない。頬に唇をすらしても 白川の首筋に、そっとキスをした。。 といき 逃げない。甘く細い吐息だけが、空気を揺らす。 甘く苦しい感覚が突き上げてくるのを感じて、西野はてて体を離した。 「え ? 」 「ごめん」 「何が ? 」 ます きよとんとした顔を、真っ直ぐに見返せなかった。こんな状態で欲望を感したなんて、白川 には絶封に言えない 「悪い、俺もう帰る」 「えっ ? 」 すそっか 白川が慌てて西野のジャケットの裾を擱んだ。多分、無意識にだったのだろう。その手を見 返し、それから白川の顔に視線を移す。まるで置いて行かれるのを嫌がる子供のそれだ。必死

9. 水の化石

じようじん どちらにしても、彼の頭の中は計り知れない。多分、常人では理解できない構造になってい るのだろう。 「今日、飲みに行く ? 」 しやそう なが 電車の中で、車窓の風景を眺めながら、珍しく白川がそう言った。飲みに誘うのは大抵西野 の方で、いつもは白川がそれに頷いてよこすのだが、今回はかなり予想外で、西野は思わす一言 葉を失ってしまった。 聞こえていたのだが、聞き間違いしゃないだろうかと、思わす訊き返した。それに白川は、 ちょっとムッとしたような顔をして西野をチラリと見る。 「飲みって言った ? とたん コクリ、と白川が頷く。途端に自分の顔がしまりのない表情になるのを自覚した。小躍りし い気分というのは、きっとこういう時のことを一一 = ロうのだ。 「いいよ。どこに行こ、つ ? 」 大抵は週末。翌日が休みの方が、お互い気持ち的にものんびり飲めるし、西野も家庭教師の 予習をしなくて済む。 「静かなところがいいな」 「酒は ? 」 こおど

10. 水の化石

「白川、開けてやってくれる ? さっきの小池さんだと思うから」 「うん」 素直に頷いて、白川はドアを開けに行く。まあ、西野にしてはこれはサーピスだ。ドアを開 けて迎え入れてくれるのが白川だなんて、ちょっと驚くだろうし嬉しいだろう。 ん ? 考えてみたら、俺だってまだそんなことしてもらってないぞ。 「日本酒で良かったかー ・・うつ」 また白川の顔を見て息を飲んでいる小池にニャニヤしながら、白川の後ろから顔を出す。 「いい日本酒 ? 」 「好みとかあるからなあ : : : 口に合うかどうか」 しようびん 小池から一升瓶を受け取り、そのラベルを見て白川がにこっと笑った。 うらがすみ せをたい 「浦霞って、仙台だ」 その表情からすると、好きな酒らしい 「飲みやすい ? 」 石「うん。おいしい いつも安い酒を飲んでいる学生にしては、なかなか頑張った方だろう。 の 「まさかこれだけってわけしゃ : : : 」 西野が思わず言った。メンバーはこの四人だけしゃないはすなので、アルコールの量が絶対