言葉 - みる会図書館


検索対象: 浄化 : 月影のソムル3
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1. 浄化 : 月影のソムル3

帰って来ないほうがよかったのに : あふ あの言葉に込められた、溢れんばかりの愛情も。 言葉にされることは決してなかった。それでも、確かに自分は愛されていたのだ。 「じっちゃん、やつばり俺、帰って来てよかったよ。じっちゃんのことが大好きだって、こう して伝えられるんだもの」 「シルヴィ : : : 」 リヌスは初めて孫の名を呼んだ。 「育ててくれて、ありがとう。俺は、じっちゃんに命をもらったんだね」 幼い子供のように、シルヴィはリヌスに抱きついた。リヌスの手が小さく震えながら、シル ヴィの背中に回される。 夕日の赤い光が世界樹の葉を透り、ふたりの長い影を地面に落としていた。 また、一陣の風が立った。 「えらいこと聞いちゃったなあ」 おづえ 窓枠にもたれて頬杖をつきながら、ロシュは。ホソリと呟いた。 視線の先には世界樹がある。もっとも、塔の高さもあって、木の下にいる人物は小指ほどの まどわく とお つぶや

2. 浄化 : 月影のソムル3

な」 月を背にして、紫水晶の瞳が冷たく口シ = を見下ろしている。七年間育てた養い子を」の手 で血に染めておきながら、その口調には一片の悔恨も苦悩も感じられなかった。 「裏切って : ・なんか、ない。おいらは、エメリア様のものだもの。ずっと、ずっと : : : 」 ロシュはすがるように、エメリアに向かって手を伸ばした。 ただ、エメリアが間違っていることに気づいただけ。 よご エメリアが真に救われるのならば、この手を汚してもかまわなかった。だが、たとえ『魔』 を解き放っても、エメリアは魔王の運命からは解放されない。そのことを、エメリアにも気づ いてほしかっただけなのだ。 「エメリア様が、大好き・ : だから : : : 」 ゆる 嘘のない言葉に、エメリアの表情がふっと緩む。 「そうか。妙な情に、一瞬ほだされただけなのじゃな。不安定な感情に行動が左右される。人 間とは、まこと不便な生き物じゃ。だが、ちょうどよい。そなたは、もう助からぬゆえ」 かたわ 残酷な言葉を優しく口にしながら、エメリアはロシュの傍らにひざをついた。いとおしむよ うに、血に染まったロシュの上半身を抱き寄せる。 浄 「死ぬのは怖いか ? 」 「 : : : 少し」 かいこん

3. 浄化 : 月影のソムル3

( 誰が弾いているんだ ? ) ( ーディは舌打ちした。竪琴の音というだけでも、いつもヴィラローザのそばにいる、あの いらだ 銀髪の吟遊詩人を思い出して苛立っというのに : ヴィラを殺しても、あんたが救われることなんて決してないのに・ 気づけよ、間違ってるんだって : 頭にこびりついて離れない、シルヴィの言葉を無理やり追い払い、 ハーディはリヌスの部屋 の扉を開け放った。 窓辺の机で書きものをしていたリヌスが振り返り、 ハーディを認めてさっと表情を強ばらせ ちんにゆうしゃ た。闖入者の手には、鈍く輝く抜き身の剣が握られている。刺客であることは一目でわか 0 こ 0 「王の手の者か岬」 ・ : ? ああ、あのデク人形」 あざけ 嘲るような呟きを聞きとがめ、リヌスは改めて ( ーディを睨んだ。確信を込めて尋ねる。 「そなた、王が誰の意思で動いているのか知「ているのだな。その者は魔王ぞ」 「ーー・・魔王、か。なるほど、あの方には似合いの響きだ」 不吉な響きの言葉にも、 ハーディは少しも動じない。 「わか 0 ておるのか ? 魔王とは、この世を闇に堕とす者なのじゃぞ」

4. 浄化 : 月影のソムル3

112 「アスローン ? 」 つぶや ヴィラローザは呟いた。聞いたことのない言葉だ。 「塔の資料によれば、アスローンとは創始の力を秘めた、純粋なるエネルギーだとされており ます」 太陽と月の光が、最も強い気を持つ大地に長年降り注ぐことによって生じるとされ、正にも じゃ 邪にも属さぬその力は、大地を動かし海を干すことすらできるという。 「〈魔王はアスローンによって『魔』を解き放ち、アスローンによって滅びるであろう》。これ が、予言の言葉です」 しんちょう ヴィラローザは少し考えてから、慎重に口を開いた。 「つまり、こうだな ? アスローンは封印を破ることも、逆に魔王を倒すこともできる、と」 もろは この上なく危険な諸刃の希望。人間にとっても、魔王にとっても たんたん リヌスは淡々と答えた。 「理論的にはそうなりましよう。ですが現実問題として、魔王ならいざ知らず、ただ人にその ようなものが使いこなせるはずはありませぬ。ですから、塔の占者がアスローンの出現を察知 したとき、わたしはそれを壊してしまおうと決意したのです」 そうすれば、アスローンは決して魔王の手には渡らない。魔王は封印を解くことができず、 えいごう シグルトの封じた『魔』は永劫に地の底にある。その後、魔王がどんなに災厄を振り撒こう

5. 浄化 : 月影のソムル3

160 そう考えたとたん、ヴィラローザの脳裏に閃光のように駆け抜けるものがあった。 もし、ロシュがシルヴィを連れ去ったとしたら : : : ? あの子供、ただの風使いではない。 寝首をかかれないように : よみがえ ハーディの言葉が蘇る。 ( ロシュが、魔王の手先だなんて : : : ) ヴィ一フローザはカなくその場にひざをついた。 信じたくなかった。あの無邪気な人懐っこさが、すべて自分たちに近づくための芝居だった とは だが、違うというのなら、なぜふたりの姿が消えている ( 魔王め。 ハーデイだけでは飽き足らず、シルヴィまでわたしから奪う気か ) つぶて ヴィラローザは唇をかみしめ、手に触れた礫を握り締めた。鳶色の瞳に、強い憎しみがたぎ 許さない。許すものか、絶対に ! ( 決して思い通りになどさせるものか。シルヴィは必ず助け出してみせる ! ) 震えるこぶしの中で、握り締めた礫が粉々に砕け散った。 せんこう ・とびいろ

6. 浄化 : 月影のソムル3

リヌスが呼び止められたのは、地下に続く階段を降りようとしたときだった。振り返れば、 赤毛の少女剣士が立っている。 「聞きたいことがあるんだが、いいかな。内容は、だいたい察しがついてる思うが」 リヌスは無言でヴィ一フローザを見つめていたが、やがてゆっくりと口を開いた。 「先に、わしの質問に答えてもらえるかな ? その返答如何では、何も答えることができぬや もしれぬが : : : 」 ずいぶん で、質問ってのは ? 」 「随分と不公平だが、わたしに選択の余地はないらしいな。 ディール リヌスは一瞬、ヴィラローザが腰に帯びている『烈火』に視線を落とした。 「そなたは、シグルトなのか ? 」 あのときと同じ質問。ヴィラローザは髪をかき上げながら、できるだけ正確な言葉を探し たましい 「そうとも言えるし、違うとも言える。わたしの魂が、一千年前シグルトであったことは事実 こ らしいからな。だが、今は違う。わたしはヴィラローザで、それ以外の何者でもない。 れで、答えになったかな」 いかん

7. 浄化 : 月影のソムル3

230 王を滅ぼすことができたとしても、シルヴィがいなくなることのほうがよほど怖い。 もし、カ及ばず『魔』が解き放たれ、再来した暗黒の世に、世界中の人間がシルヴィの存在 を非難否定しても、ヴィラローザはシルヴィを守ってみせる。 そのために、ずっとそばにいたいのだ。 「そうだよ。わたしは自分勝手な人間だ。魔王は憎いし許せない。でも、世界を目茶苦茶にし ようとしている奴を倒すことよりも、お前のほうがよっぽど大事なんだ」 にうん シルヴィは信じられないものを見るように、呆然とヴィラローザを見つめていが、やがて、 その顔に柔らかな笑みが広がった。 「ありがとう。その言葉だけで十分だ」 「ばかやろう。わたしは口先だけの奴が大っ嫌いなんだ。絶対に一緒に行くからな。来るなと 言うなら、お前だって行かせないぞ」 ヴィラローザは一歩も引かない。 愛しさが込み上げてきて、シルヴィはヴィラローザを抱き締めた。強く、強く 「本当に、かなわないよな。ヴィラには」 「じゃあーーー .. 」 ひたい 顔を上げたヴィラローザの額に、シルヴィはすっと指を当てた。 いと

8. 浄化 : 月影のソムル3

「ひとりで行こうとしているお前は、無茶じゃないのか ? 」 こわ ヴィラローザの言葉に、シルヴィの表情がギクリと強ばった。 「本当は、わたしが目を覚ます前に行くつもりだったんだろう。気づいてないとでも思ってた のか、この・ハ力」 コンとシルヴィの頭を小突く。 「ヴィラ、俺は : : : 」 「自分の意思でアスローンを使える。だから、ひとりでも大丈夫だ、ってか ? ああ、確かに お前は〈魔王を滅ぼすもの〉だ。だが、忘れるな。同時に〈『魔』を解き放つもの〉でもある んだぞ。そんなお前を、ひとりでやれるわけがないだろう」 「信用ないなあ」 一気にまくし立てたヴィラローザに、シルヴィは苦笑を浮かべた。 「そうじゃない。お前を信用してないわけじゃないんだ。ああ、もう、どうしてわからないん 化ヴィラローザはわめき散らし、シルヴィの両肩をガッとっかんだ。鳶色の瞳が、真っ正面か ら銀緑の瞳を見据える。 浄 「わたしは、お前を失いたくないんだ」 四 シルヴィによって、『魔』が解き放たれることを恐れているのではない。たとえ、無事に魔 こづ とびいろ

9. 浄化 : 月影のソムル3

「妾が向かわせた。放っておけば、あの小娘はまた邪魔しに来るからの」 「ねえちゃ : : : ヴィラローザは、魔物くらいにはやられないよ」 ロシュは乾いた声で呟いた。 その言葉が希望なのか事実なのかは、ロにしたロシュ本人にもわからない。だが、エメリア うなず はあっさりと頷いた。 「そうであろうよ。また、そうでなくては楽しめぬ」 エメリアは血で汚れたドレスをはらりと脱ぎ落とすと、ロシュに持ってこさせた漆黒のドレ あざ スを身につけた。目の覚めるような鮮やかな金髪の持ち主だというのに、ロシュにはエメリア が闇そのもののように思われた。 エメリアは水盤の映像を手でかき回して沈めると、その手をロシュに差し出した。 「妾は行くが、共に来るか ? 」 何処へ、と尋ねる必要はない。わかっているから、エメリアのことは何もかも。 だから一緒に行く。何処までも、いつまでも ロシュはエメリアの手を取った。 「最後まで一緒だよ。おいらは、エメリア様のものだから」 エメリアがロシュを抱き寄せた瞬間、ふたりの姿は部屋の中からかき消えていた。 わらわ どこ しつこく

10. 浄化 : 月影のソムル3

で、何事も起こらない。 「出て来いよ。いるんだろう」 ヴィラローザがもう一度呼びかける。 すると答えるように、世界樹から少し離れた茂みがガサリと動いた。木の陰から姿を見せた のはシルヴィである。 目を見張るリヌスをその場に残し、ヴィラローザはシルヴィに歩み寄った。 「その様子だと、だいたい聞いていたようだな。かくれんぼがうまくなりやがって」 「ヴィ一フ、俺は : : : 」 「急にいろいろ考えると、頭が破裂するぞ。わたしも、まだ整理がついていないしな。だか とりあえずは、じいさんに言いたいことがあるだろう ? 」 ら、今後のことは後で決めよう。 少し笑ってシルヴィをリヌスのほうに押し出すと、ヴィラローザは塔に向かって歩いて行っ た。その背中を見送ってから、シルヴィはゆっくりとリヌスに近づいた。 共に暮らした一年の間、交わした言葉はあまりにも少なかった。抱き締めてもらった記憶も 化ない。 じあい だが、どうして気づかなかったのだろう。自分を見つめる祖父の瞳に、いつも限りない慈愛 の色があったことに。 今なら、わかる。