夜光街 熱帯夜ー 価を継ぐ者“ 青春を考えるヴィヴィッドな文庫 ~ 真夜中の翼 ~ 不良少年たちが抗争に明け暮れるく裏新宿〉。その中で、極 道総長の息子という正体を隠しながらも、頭角を顕す流は・・・ 流の父が総長を務める四堂組関係の組員を狙った事件が発生 そんな中、流は偶然出会った灰原という男と親しくなるが ! ? 眠る記 一夜光街③ 灰原の陰謀で兄を失った流。自分を責める彼は、投げやりな 日々を送っていた。だが、く裏新宿〉に流を狙う新たな敵が ! ? 前編夜光街④ = 入院中の父の容体が、想像以上に悪いことに衝撃を受ける流 だがそんな流に、彼を執拗に狙う比嘉の罠が迫っていた・・・。
田島が食い入るように見つめているのは日比野ではない。視線はその後ろに注がれていた。 その瞳に映りこんでいるのは きぐう ・ : ・ : こおりや、流坊ちゃん。こんな所で会うとは : こっちの方がよっぱど奇遇だ」 しまった , おもわく 日比野は一瞬にして田島の思惑を知った。 「坊ちゃん、逃げろリ」 振り向きざま日比野が叫んだ。が、流は状況が飲み込めす立ちつくしている。 日比野が流の腕をつかもうとしたが、それはかなわなかった。一一人を取り囲んでいた組員の 一人が田島の目配せで、一瞬早く流をはがい締めにした。 流はとっさに背後の男のみぞおちに肘打ちを見舞ったが、その瞬間、男は腹筋に力をいれ、 流の肘打ちを難なく受け止めた。 うらしんじゅく 〈裏新宿〉を渡り合うことに慣れた流も体の自由を奪われては抵抗のしようがなかった。それ も相手はケンカが本業のやくざなのだ。 「まあ、そうつれなくする事もなかろう。是非とも坊ちゃんにも出所祝いに参加してもらおう しゃないか」 うそぶく声は笑いを含んでいる。だが、ここで切れるわけにはいかない。 ひじう
204 ー・ー・・ーー・俺は : : : 撃ってない ? 体からカが抜けていった。ほっとしたのに、それでも手の震えは止まらない。 流以上に木佐はほっとした。 だが、あのやり方はできれば避けたかった。 「すみません : : : 。流様から銃を奪い取る時間がなかったとはいえ、あんな風に」 流は首を振った。 「俺が飛び込んだんだから、お前が謝る必要なんかない、 たとえ撃たれても、あそこに行きたい、 と体中が訴えていた。わき上がる炎を、あの気持ち を押し止める事はできなかった。 むぼう ほど 「まったく流様、あなたは 無謀にも程がある : : : 」 銃を飛ばされた瞬間、飛び込んできた流。 流が撃たれる。 流を殺させるわけにはいかない。 そう思った瞬間、木佐の体は動いていた。自分はこの少年を護るためには命を賭けることさ え厭わない。その想いが木佐を、あの瞬間動かした。 だが、そうさせた流は、こうして見るとやはりたった十六の少年なのだ。 こころざし 彼の体だけでなく、心を、そして志をも護ってやりたい。 まも
33 疵を継ぐ者後編 流の中で怒りが燃え上がった。 自分で日比野さんを連れてきてこんなめにあわせてうせろだと卩 拳を握り、背を向ける田島に飛びかかりたい衝動を辛うして押し止めた。 今は日比野さんをここから連れ出さなきや : そして手当てをしなければ。流は日比野の腕を肩にまわし立ち上がらせた。 日比野は流より少し背が高いだけだったが半分以上体重を預けられた形では支えるのが精一 杯だった。それよりも怒りを押さえる努力の方がよほど骨が折れた それでも歯を食いしばって耐えた。組員達の間を通り抜けようとした時、流の前に腕が突き 出された。 さっき車に同乗していた男だった。手には流の携帯電話が握られている。流は男の手から電 話を奪い取り、ノブをまわし、怒りにまかせてドアを叩きつけた。
100 自分を殺していられるか ? 自問しても答えは出ない。 「それはそうと坊ちゃんが来てたぜ」 物思いに沈んでいた木佐の意識が現実に戻る。 「流様が ? 」 「ああ、宝とかいう鼻っ柱の強そうな友達と一緒だった。お前に護衛をつけられたとかでえら い剣幕で怒鳴り込んで来た」 流が怒鳴り込んで来た。その様子は木佐にも容易に想像できた。多分、流がそうするであろ う事も。 「面白えな、坊ちゃんは。世間知らずっていうか、目を離せねえ」 滅多に他人に興味を示さない両国にしては楽しそうに語った。 「あの一本気な所はやつばり親父譲りなんしゃねえか。血は争えねえな」 何気ない一言だったが、木佐はどきりとした。 流は正宗の実子ではない 以前聞かされた事実を知るのは木佐だけだった。もちろん 本人である流もその事は知らない。 たず 一体それがどういう意味なのか。流は誰なのか。それ以上の事を知らされないまま、訊ねは しなかった。 めった
184 によじっ それは両国の迷いを如実にあらわす証拠だった。両国は迷っている。同じ組の兄弟分、 しゅんじゅん や、それ以上の仲間を撃っことに逡巡している。だが。 流は木佐を見た。木佐の表情にはなんの迷いも見えなかった。強い決心は鈍ることなく瞳に 輝いていた。 友人の命より、組の命令を優先する気持ちは流にはわからなかった。それは流の理解を越え る行為だ 木佐は撃つ。両国を、撃つ。 敵ではない、『仲間』を。 だめだ ! そんなの : ・ 「きっ : : : 木佐リやめろよリ両国さんも : ・ 恐布に駆られた心が流を立ち上がらせた。 ひとみ 両国が流を見た。だが、木佐の瞳は微動だにしない。 その時だった。 両国の銃口がふと、下がった。たった数ミリ。だが 流の目が見開かれる。木佐の引き金にかかる指に力がこもった。銃ロの先には両国が 「木佐あ にぶ
展開される光景に皆、気をとられている。肩にかかる組員の手が目にはいった。 今しかない。流は手の甲に田 5 い切り噛みついた。 「つてえええ ゆるんだ腕をすり抜け、振り上げられた杖の前に走り込み、辛うして座っている状態の日比 野に覆いかぶさる。杖が空気を裂く音がしたー 何も起こらなかった。恐る恐る顔を上げると、杖は流の頭上わすか数センチ上で止まってい そうぼう たど 杖を辿っていくと田島と目があった。険しい双眸が流を睨み付けている。流は臆すことなく その視線を受け止めた。 「 : : : 坊ちゃん : : : 」 腕の下から弱々しい声が流を呼んだ。 流を庇おうとしているのか、日比野が身じろいだ。だが、流は日比野の体を上から押さえ込 堵み、抵抗を許さなかった。 継杖はまだ頭上にある。いっ振り下ろされるかわからないが引くつもりはこれつばっちもなか 疵った。十数秒か数分か、沈黙の中一一人は睨み合いを続けた。 ふと空気から緊張感が消え、杖が下ろされた。何の前触れもないその行動に流は面食らい田 かろ
174 短いクラクションに流が振り向いた。ミッドナイトプルーのシーマが路肩に停まった。 「木佐 ! 木佐はべンツの接触事故と膨れ上がる野次馬を横目に、流達に走り寄った。 「両国はどこですか ? 」 「見失った。だけど心配ない。フェンウェイ達に連絡したから、見つけたら連絡がはいる」 言い終わらないうちに流の携帯電話が鳴った。通話を受けていた流の顔が輝く。 「やつらニューセンター街に入ったって」 「そう遠くはないね」 あいづち 京也の相槌に頷き、走りだそうとする流の腕を木佐がっかんだ。 「流様。あとは私にまかせて下さい だけ・」 口を開きかけた流は、自分を見下ろす木佐の額に汗が浮かんでいるのに気づいた。忘れてい くちびるか 。木佐はケガ人なのだ。流は自分の迂闊さに唇を噛んだ。 左足への視線に木佐が気づい 「大丈夫です。たいした事はありません。京也君、流様を頼むよ。無謀な事をしないよう見て いてくれ」 そう言い残し、木佐は事故を見ようとやってくる野次馬の流れに逆らい走っていった。後ろ ふく うかっ
エレベーターには流がいた。流は声をかけようとしたが、いつもと違う両国に気づきためら った。両国は流には目もくれずエレベーターに乗り込んでいく。押し出されるように流はエレ べーターを降りた。 振り向くと閉まる扉の隙間から両国の背中が見えた。 「坊ちゃん、総長の見舞いですか」 ふんいき 浅井が気ますい雰囲気を救った。 「あ、うん。 ・ : あの、両国さんどうかしたんですか ? 」 「いや、たいした事しゃないんだ。ちょっと話し合いが長引いてね」 それじゃあ、と浅井は幹部達と隣のエレベーターに乗り込んでいった。 昨夜の事件で幹部達の間にも亀裂が入りかけている。緊張感は部外者である流にも強く感し られた。 編 後 病室に入ると正宗は黙って流を迎え入れた。 者 「親父 : : : 」 をさすがに今日の父に笑顔は見られない。幹部達との話し合いのせいか、疲労の色が全身に張 りついていた。流の姿を見ると、起こしていた体を枕に預け、薄くため息をついた。 疲れてるのか。寝めよ。口にしようとした言葉はどれもお為ごかしになる気がして流はなに やす きれつ ため
のぞ 再び沈黙が訪れ、流が何か言おうと口を開きかけた時、ドアがノックされ看護婦が顔を覗か 「あら、流くん来てたの , 病院に通ううちに顔見知りになった看護婦だった。流はペこりと挨拶し、立ち上がった。 「親父、俺帰るわ」 正宗に手を振り、医者と入れ違いに病室を出た。早足で廊下を歩き、エレベーターに乗り込 み一階のボタンを押す。ドアがゆっくりと閉まり、流は肩からようやく力を抜いた 父を見舞う時、流は極力病状や余命については触れないようにしていた。それは父も同じら しく一一人の間の会話はぎこちなかった。 こんな時、誰か家族がいてくれたら そう思わずにはいられなかった。母、そして兄、一一人とももういない。家には誰もいない。 時々、流は空虚感に押しつぶされそうになる自分に気づいていた。そんな時はどこかに行き 編 後たくなる。誰かに会いたくなる。 緒自分の居場所はどこなんだろう 継ずっと探している気がする。自分の居場所を。 疵 カくん。 あわ 震動を感じた。ドアが開き、待合客がどやどやと乗り込んで来る。我に返った流は慌ててエ