げ・つ」、つ なのに組をやめたと言った途端、田島は激昂した。日比野が組をやめた事は田島にとって朗 ・け当」り・ん 報であれ、逆鱗に触れるような事ではないはずではないのか。 考え込む相手を正面にとらえ、日比野は目を細めて流を見つめた。そして自分がある事を語 ろうしている事に気ついた それは流が四堂組総長の息子だからではなく、日比野自身が語って聞かせたかったからに他 ならない。そうさせる何かを確かにこの少年は持っていた。 「まだ坊ちゃんにはわからないかもしれないな。田島さんは俺が四代目を継ぐことには反対だ ったが、組をやめて欲しくはなかったんだ。それも総長に依頼された襲名をも俺は蹴った。田 すうこ、つ 島さんにしてみれば、自分の中で崇高だった組と総長の座が踏みにしられたようなもんだ。俺 おとこ にもその気持ちは痛いほどわかる。侠にとって『誇り』はなにより大切なものなんだ : その言葉を流は心中で呟いた。 目に見えないものを有り難がる気持ちは流には理解できなかった。こんな目にあって、そう 後説く日比野の気持ちが今一つわからない。それほど『誇り』が大切だろうか 緒「でも : : : 命だって狙われたのに人がよすぎるよ ! 日比野さんには『誇、り』はないのか 継よ ? を 疵 日比野は開け放たれた窓の外を見た。道路に面したそこには電気の切れかかった街灯がちか ちかと点滅していた。 ほう 一 1 ロ ろう
夜光街 熱帯夜ー 価を継ぐ者“ 青春を考えるヴィヴィッドな文庫 ~ 真夜中の翼 ~ 不良少年たちが抗争に明け暮れるく裏新宿〉。その中で、極 道総長の息子という正体を隠しながらも、頭角を顕す流は・・・ 流の父が総長を務める四堂組関係の組員を狙った事件が発生 そんな中、流は偶然出会った灰原という男と親しくなるが ! ? 眠る記 一夜光街③ 灰原の陰謀で兄を失った流。自分を責める彼は、投げやりな 日々を送っていた。だが、く裏新宿〉に流を狙う新たな敵が ! ? 前編夜光街④ = 入院中の父の容体が、想像以上に悪いことに衝撃を受ける流 だがそんな流に、彼を執拗に狙う比嘉の罠が迫っていた・・・。
「総長にも、ですか」 と問いかけた。 組ではなく、という意味を日比野は汲み取ったとみえ、小さく頷いた。 「総長には話してかまわない。が、それに対する報復は無しだ」 うめ 木佐が頷くのを見て、日比野は体を横たえた。やはり痛むのだろう。低い呻きが口をつい 心配そうな流の視線に気づき、日比野が笑った。 「おいおい、一一人そろってそんな目で見てられちゃおちおち寝てられないじゃないか」 冗談めかしたセリフに、木佐も腰を上げた。 「なにかあったらいつでも連絡してください」 片手をあげて日比野が応じた。上がり口に立っ流を促すと一一人は階段を降りていった。 遠ざかる足音を聞きながら、日比野は天井を見上げた。そうしているとあえて無視していた 後体の痛みをじわしわと感じる。打たれた部分が知らぬうちに熱を持っていた。その熱から目を 者逸らすように日比野は寝返りをうった。 継 を めぎと 疵助手席に乗り込む前に流は小さな深呼吸をした。何気ないふりで車に乗ったが、木佐は目敏 つ、」 0 カオ
日比野さんが四代目を : ・ 流も日比野を見つめた。あれ程カタギに戻りたがってた日比野がどうして。 「 : : : 何言ってる。お前は組をやめたはずだろう」 浅井が詰め寄ったが、日比野は少しも動しない。その場にいた全員が日比野の次の言葉を待 「今日、総長に会って来た。復帰を原いにな。総長は預かりになってた俺の除籍願いを破って くれた」 一度、言葉を切って日比野は幹部全員を見渡した。 「俺は四代目を継ぐ 編声には一点の曇りもない、力強さが満ち満ちていた。 たかゆき 後 冗談でもなんでもない。日比野孝之は極道に戻り、四堂組四代目を襲名する覚悟をしたの 者 を「両国の始末、俺につけさせてくれるな」 疵ぼうぜん 呆然と日比野を見つめていた浅井ははっと我に返り、周囲の幹部達を見渡した。突然の事に 幹部達も動揺を隠しきれない。 つ、」 0
島を見上げた。 田島の視線は流を通りこし、日比野にあった。 「 : : : 日比野、もう一度聞く。お前は襲名の話を断ったんだな。 ・ : そして、足を洗った」 日比野の腕が流を横に押しやった。 じよせき ・ : 言わせてもらえば、襲名の話を聞く前から俺は総長に除籍願いを : : : 出していました。 ・ : 正式に総長の許しをもらったのは出所後なんですよ : : : 」 荒い息の下、とぎれとぎれに説明は続く。 田島は黙って聞いていたが、やがて杖をつかんだ手を横にのばした。と、後ろに控えていた 組員がそれを受け取った。 「日比野 : : : 、俺にとって四堂ば宝だ。命をかけるにふさわしい宝だった。だからこそ四半世 紀もの間命をはってこられた。てめえで決めた事とはいえ盃を返すのには相当な決心と痛みが 伴った。半身を引き裂かれるような痛みだ。お前みたいにただ情に流されるのとはわけが違う 田島は何かに耐えるように唇を噛みしめた。 「 : : : お前がカタギになったんならもう会うこともないだろう」 きつばりと言い切り、田島は日比野に背を向けた。 「もうこれ以上話すことはない。うせろリ」
木佐は心からそう思った。 「そろそろ治療も終わるでしよう。両国に会いますか ? 」 うなず 流は頷き、ソファーから腰を浮かした。 やにわに外が騒がしくなった。 あさい 人の声と足音が通り過ぎていく廊下に出ると、浅井をはじめとする幹部らが両国のいる部 屋に入っていくのが見えた。 木佐について流も部屋へ行くと、幹部達が治療を終え、左手を吊った両国を取り囲んでい かたわ た。傍らには美貴がいる ふんいき 目に見えるような険悪な雰囲気が漂っていた。 両国さん : ・ 「両国、どういう事だー 一人で先走りしおって ! 」 編「総長の命令に反したことはわかってるんだろうなー げ・つこう 後 激昂した幹部が詰め寄る。両国は多少青白い顔色をしていたが、立ち上がり、間に挟まれる 者 形だった美貴を横に押し退けた。 を「 : : : わかってるさ。何もかも覚悟の上の行動よー 開き直りとも取れる言葉に幹部らはさすがに怒りをあらわにした。 あお 「そうか。その覚悟ってやつを、しゃあ見せてもらおうか。総長の意向を仰ぐのはそれから
田島は日比野の前に立ち、しみしみと語り始めた。 さかずき 「日比野。俺はな、最近昔のことをよく思い出すんだ。三代目総長から盃をもらった、あれは もう三十年近く前になる。あの頃は俺もまだ青っちょろいチンピラだった。四堂を背中にしょ ってるって誇りだけは誰にも負けねえだけのな」 田島が懐かしそうに目を細める ほとん 「今は親分同士がみな、盃を交わし合って殆どの組が親戚状態になっちまってる。だから戦争 タマと なんどき だからっておいそれと相手の命ア殺るってわけにゃあいかねえ。だが昔はいっ何時殺るか殺ら れるかわからん時世だった。そんな中で俺は当時四堂の宿敵だった組を壊滅させた。これで な」 そういう意味 田島が右手を持ち上げ、人さし指を曲げた。拳銃で相手親分を狙撃した 「八年だ。八年クサいメシを食わされた。まあ、その後もなんだかんだで計十数年はムショ暮 後らしょ 緒喋りながら、田島はイスを一巡りし、日比野の目前に戻った。 継「組は何物にも代えられない。俺の人生は組と共にあった」 かげ 疵 過去形で話す田島の瞳がふと翳った。 「総長がお前を四代目に据える為に根回ししてる事はわかってる。 しゃべ しんせき ・ : 日比野、俺は組の未来
梅姿 フェンウェイの従妹。 ホストンから来たか りで、心細思いをし ている。 日比野孝之 四堂組の前若頭ま服役 を終え出所し発はかつ。 - 正宗から後継者に指名 ぎれ、拒否するか・ ひびのたかゆィき り、をき凹い ~ 美導ひ巨 ろ・・ ~ , のでもー持ニ 既部 - ッ「に冖を 幹」なカ 国 の " スき 両堂氛い 四派包ら 7 しどうまさむね 四堂正宗 四堂組の総長で流の父。 重い病気で入院中。後、、第論。、 継者をめぐり抗争が激、冫な、 しくなってきている。
奴さんが動かないでくれればこっちの仕事も半減するがな」 数多くの抗争で先頭を切った血の気の多い両国が今回は不気味なくらいおとなしい。 ゆえ だがその代わり、末端組員の勇み足が目に余った。それは巨大組織であるが故だったが、手 出し厳禁という指令が守られないとなると統制が乱れているという事に他ならず、四堂組の権 しつつい 威を失墜させる重大事でもあった。 窓辺に立ち、プラインドを指で下ろすと、通りの向こうにパトカーが停まっているのが見え 「サツの監視も幹部にまで及んでる。しめてかからなけりゃな。 ・ : 総長は跡目をどうするつ もりなんだ」 島の呟きを背中で聞きながら、木佐はプラインドを弾いた。 やさしいメロディーが耳に心地しし ピアノ。懐かしい曲だ。どこかで聞いたことがある。そうだ。あの〈イビサ〉というバーで 女店主が弾いていた。 いや、違う。もっと昔だ。 やっこ はじ けん
「木佐しゃねえか」 振り向くと、信号待ちしている車の窓から覗いた顔をネオンが照らしだしていた。四堂組幹 りようごくひろみ 部の一人、両国弘美だった。 「一人か ? こんな所でなにしてる」 かぶき やすくに ぎっとう 日も落ちた歌舞伎町、靖国通り沿いの雑踏を木佐は歩いていた。四堂組若頭ともあろう者が ボディーガードもなしでこんな場所をうろついている。それも内部分裂があきらかになり、 っ鉄砲玉に狙われるかもしれないというのに。 あき 両国は無防備さに呆れて、刈り上げた頭をぐしゃぐしやとかき回した。 「とりあえず乗れ」 かったんだ : 日比野は四堂組総長の息子の安全を優先したのだ。自分が足手まといになってしまった事実 が流には耐えがたかった。 ひぎ 押さえようとしても指の先が震えた。流はそれさえ認めるのがいやで、膝の上で拳をつく り、震える指を隠した こぶし