上皮細胞 - みる会図書館


検索対象: 考える人 2014年春号
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1. 考える人 2014年春号

カドへリンはもう 1 つの接着装置デスモソ 1 ムに おいてもやはり接着のために働いている分子である デスモソ 1 ムは隣り合う細胞膜同士をくつつける装 置であるが、タイトジャンクションや接着結合がミ シン目やジッパ 1 による接着であったのに対して、 これはボタンのような接着装置である。ボタンによ って膜と膜をくつつけている。 デスモソ 1 ムにもその裏側には、線維状のタンパ ク質が結合していて、これは中間径線維というアク チン線維より太い線維であるが、この中間径フィラ メントによって細胞の形を決めたり核の保持などが 行われている。 2 つの固定結合、接着結合とデスモソ 1 ムは、細 胞と細胞の接着たけでなく、細胞と基質との接着に も働いている。それぞれ接着斑およびヘミデスモソ 1 ムと呼ばれる ( 図 2 ) 。 デスモソ 1 ムの下方には、もう 1 っ細胞膜同士の 近接した部分がある。ギャップ結合である。それぞ れの膜に 6 個の膜タンパク質が円形に集合すること によって、膜に孔をあける。この孔同士か両方から びったりくつつきあうことによって、細胞と細胞の あいたで、低分子が通ることのできるチャネルを作 っているのである。部屋の壁に孔をあけ、そこにパ イプを通す。隣の部屋から出ているパイプに直接っ なげれば、外へは出ずに部屋から部屋へ移れるわけ である。ギャップ結合は、接着そのものに関与する というよりは、密着したチャネルにより、イオンや その他の低分子物質を自由に通過させることによっ て、隣接する細胞間で、ある種の信号を伝達しあう ための装置である。 心臓は一定のリズムで、多数の心筋細胞がシンク ロナイズした動きをしなければよらよ、 オオし力、心筋細 胞同士もこのギャップ結合を介して、電気的興奮の 伝孑を行ない、収縮運動をシンクロさせている。 4 つの細胞接着装置について述べてきた。上辺側 から、タイトジャンクション、接須結合、デスモソ 1 ム、そしてギャップ結合である。これらの接着装 置は、多細胞生物を構成する基本的な装置である。 細 多細胞生物は、単なる単細胞の集まりではない。 胞と細胞が互いにダイナミックに接着・解離を行い つつ、全体として整然とした細胞の集合体を作らな ければならない このような集合体の単位を「組 織」と呼ぶのである つけ加えておけば、それぞれの細胞のあいだには、 どの細胞もこんなに手の込んだ接着装置を形成しな ければ上皮細胞としての役割を果たせないのである。 世界のどんな匠もぜったいに作ることのできない、 極微の世界の造形美を感じるほどだ。 にもかかわらず、である。これら小腸上皮細胞の 寿命は、せいぜい 5 日。絨毛の下方で生まれた上皮 細胞は、順に上方へ移動し、吸収の活発に起こって いる上方にまで到達すると、ほとんど 1 日で死んで しまう。小腸のなかへ脱落してしまうのである。私 たちのうんちの固形成分の 3 分の 1 は、このような 小腸上皮細胞の残骸である。なんという勿体ないこ 激しい仕事をすること とかと思わざるを得ないが、 で寿〈叩も短いということなのだろうか フェンス機能 細胞接着装置のなかで、これからの話では、タイ トジャンクション ( 密着結合 ) が大切になってくる タイトジャンクションにはフェンス機能と、ハリア機 能があることを述べた。ヾ ノリ . ア機ム目があ一ることによ って、腸内の分子や水成分が、細胞と細胞のあいだ から漏れ出して「内部」に入り込むことはない。 れは外部と内部を区画するうえでは必須の機能であ る。しかし、この隔離を宀霹王に行うと、個体維持は 困難になる。栄養が摂れなくなるからである。しつ かりと隙間を塞ぎながら、かっ栄養素は取りこまな ければならない。何度も出てきたように、生命の外 縁は、「閉じつつ、開いていなければならない」の である。 取り込みたい栄養素は、細胞と細胞の隙間から入 るのではなく、上辺側から、細胞の膜を介して、 ったん小腸上皮細胞の中に入り、そののちに、細胞 を横切るように、次には側底面側から細胞の外 ( 細 胞外液 ) へ送りだされる。これは細胞横断輸送と呼 ばれる ( 図 4 ) 。 栄養素のうち、エネルギーの素になるグルコース の吸収を例に見てみよう。グルコ 1 ス濃度は、ト腸 内腔は細胞内に較べて低い。グルコ 1 スは極性基を もっているので、細胞膜を通過できず、細胞の内外 で濃度の差が生まれる。小腸上皮細胞の微絨毛には グルコ 1 スの運搬体 ( トランスポ 1 タ 1 ) がある。ト ランスポータ 1 ももちろんタンパク質で作られてい る。このトランスポータ 1 によ「てグルコ一 1 スを濃と 度勾配に逆らって細胞内に取り込むのである ( 図 4 ) 。の 濃度の低いところから、高いところ〈り込むた生 めには、取り込むためのエネルギーが必要である

2. 考える人 2014年春号

どういうことかについて、小腸からの栄養成分の摂 取を例に考えてみたい 細胞同士を密着させる それを見るには、小腸の細胞を少し詳しく見てお かなければならない。 小腸の絨毛には一層の小腸上皮細胞が並んでいる。 敷石状に並んだ細胞の平面が絨毛を作っているので ある。この細胞層が、小腸の内腔側 ( すなわち人間 の外部 ) と私たちの内部とを隔てている。 この障壁がしつかりしていないと、腸のなかの環 境がそのまま私たち内部に侵入してしまうことにな る。外部は常に不潔なのであり、このシ 1 ルドが十 分でないと、たちまち体の内部で感染を起こしてし ま、フたろ - フ 連載の第 2 回目にも書いたことだが、 大腸には 1 00 種類ほどのバクテリアが住んでいて、その数は 100 兆個と言われている。 清潔・不潔はたぶんに個人の感覚によって左右さ れそうだが、腸のなかはやはり清潔とは言えないだ ろう。「清潔」とは、「ばいきん・きたないものやよ ごれを取り除き、きれいにしてある様子」 ( 新明解 国語辞典 ) なのたそうである。、ハクテリアかうよう よといる腸内は、青潔であるとは一言えず、やはり不 潔というほかはない。虫垂炎などで、腸を作る膜に 穿孔などが起こると、たちまちに腹膜炎を発症し、 ひどい場合には死亡するが、これは腸内の細菌が 「体内」に侵入し、腹膜に炎症を起こす例である やはり、腸の内部 ( ヒトの外部 ) は不潔なのである に固定されているのである よく見ると、細胞と細胞のあいだに 4 つの接触個 所があるのに気づく。上皮細胞同士の接触には、ど の細胞間にもこの 4 つの接着装置が備わっている。 もっとも上辺側に近いところにあるのがタイトジ ャンクション ( 密着結合 ) と呼ばれる接着装置であ る。これは図 3 に見られるように、膜と膜をミシン で縫ったように接着させている。実際、膜を電子顕 微鏡で観察してみると、ミシンで縫ったような網目 そのような不潔な体外から丗に内部を区画する模様が無数に見られるのである。膜はリン脂質の一一 ために、隣りあう小腸上皮細胞同士の間には、特別 重層からなるそれ自体とても流動性の高い構造であ の工夫がなされている。図 2 に上皮細胞同士の接着 る。布なら糸で縫うのであるが、ここでの縫いあわ の様子を模式的に示している。 せの糸にあたるものは、当然のことながら、タンパ 上皮細胞の内腔側に飛び出している突起が先に述 ク質である。 2 つの細胞のそれぞれの膜には膜貫通 べた微絨毛である。こちらを上辺 ( アピカル ) 側と タンパク質が並んでいる。それが互いに ) 膜の外側で 言フ。それに対して細胞同士が接触する側面と上皮 結合することによって、タンパク質による縫い目を 細胞の底面にあって基底膜と接触している面とを併 作るのである ( 図 3 ) 。 せて、側底面 ( パソラテラル ) 側と一言う。上皮細胞 このタンパク質がクロ 1 ディンとオクルアインと 同士は、この側底面で互いに接触し、かっ基底膜上 いう 2 種類のタンパク質である。ともに膜を 4 回貫 通するタンパク質であり、クローディン同士、オク ルディン同士が膜の外側で結合する。 このタンパク質は実は 2 っとも、日本人によって 発見された。京都大学大学院医学研究科の教授であ 置 装った月田承一郎博士である。これらのタンパク質の 接名前も月田博士によってつけられ、クロ 1 ディンは 細 ム、し」い、 , フ亠日 閉じるという意味の、オクルディンは塞、 図味のラテン語から取られている。タイトジャンクシ ョンの発見以来、この構成タンパク質の実体解明は 多くの研究者がしのぎを削っていた研究対象であっ たが、月田博士の発見は、世界に誇るべき日本発の 成果であった。 これら 2 つのタンパク質の発見があり、さあこれ からタイトジャンクションの謎が解明されると期待 されていた矢先、月田承一郎さんが膵がんのために 亡くなったのは、痛恨の出来事であった。立歳と 外 う若さ 月田さんはともに日本細胞生物天ムのメ / バ 1 との いうこともあり、同じ大学で、かっ研究分野も近く、生 8 親しい友人のひとりであ「た。プルガリア田」想家、 タイトジャンクション ( 密着結合 ) 固定結合 デスモソーム 仲間径 フィラ キャップ結合 ヘミデスモソーム接着斑 亟 基

3. 考える人 2014年春号

小腸の内側の表面には、絨毛と呼ばれる長さ 1 ミ リほどの突起が無数に並んでいる ( 図 1 ) 。絨毛のな かには、毛細血管やリンパ管が走っており、小腸か ら吸収された栄養素は、この血管へ取り込まれて、 全身へ運はれる。絨毛があるおかげで、表面積はっ るつるの管である場合よりも約倍も大きくなる。 しかし、表面積を増やそうという工夫はそれだけ では終わらない。 この絨毛の表面には、一層の小腸 上皮細胞 ( 栄養吸収細胞、粘膜上皮細胞とも呼ばれ る ) が並んでいるが、その個々の上皮細胞の表面に は、多数の微絨毛があり、刷子縁と呼ばれる特殊な 構造を作っている ( 図 1 ) 。この微絨毛のお蔭で表面 積はさ、らに蝉日、ん、 4 もとの 600 倍にもなるとい、フ ト腸は直径 4 センチメ 1 トル、全長 657 メートル ほどの管であるが、このように絨毛にさらに微絨毛 が積算されることによって、全体として表面積は 2 00 平方メートル、じつにテニスコ 1 トほどの面積 を持っことになる。言い換えれば、それくらいの広 さの吸収面積を持たないと、ミクロの大きさにまで 消化・分解してきた栄養物を効率的に吸収できない ということなのである さらにこの吸収を効率的にするために、小腸全体 も絶えず運動を行っている。絨毛の下層には筋組織 があり、一定の間隔で管を細くしたり、また蠕動運 動によって食べ物を前方へ押し出したりしつつ、食 べ物を絶えず攪拌し、小さく分断しつつ、小腸上皮 細胞にまんべんなく接触させているのである。実際、 この筋組織の存在によって、全長 6 メートルほどの 小腸は、我々のお腹にあるときは 3 メートルほどに まで縮んでいる。 動物が食物を食べて、それが栄養として吸収され るためには、消化と吸収という 2 つの過程を経る必 がある。肉などのタンパク質は胃に入ると、胃液 に含まれる酵素によって部分的に分解され、ペプト ンとなる。ペプトンは、膵液中に含まれるトリプシ ンなどの消化酵素によって、アミノ酸にまで分解さ れ、小腸で吸収される。 鵬討谷等一 00 徼絨毛 炭水化物は唾液中に含まれるアミラ 1 ゼによって マルト 1 スやデキストリンに分解される。白米など をよく咀嚼すると甘く感じるのは、マルト 1 スなど の糖ができることによる。これらは、膵液や腸液に 含まれる糖を分解する酵素類によって、最終的には グルコ 1 ス、フルクト 1 ス、ガラクト】スなどの単 糖類にまで分解され、小腸で吸収される。 毛 徴毛 毛細血管 粘版筋板ー→ 動脈一→ 神経 静脈 リンバ管ー→ 図 1 小腸と小腸 ( 粘膜 ) 上皮細胞。 「シンプル生理学』 ( 南江堂 ) より一部改変 0 脂肪類は、胆汁中に含まれる胆汁酸やレシチンな 8 どによって微小な粒 ( 脂肪滴 ) になり、膵液中の消 化酵宇糸リバ 1 ゼなどによって、グリセロ 1 ルや脂肪 酸などに分解されてから腸管から吸収される 消化酵素は膵液、腸液などに多く含まれるが、膵 臓が作りだす膵液は、 1 日に実に 1 ・ 5 リットル、 十一一指腸・小腸から分泌される腸液も 1 日に約 1 ・ 553 リットルもの量か作られるというから驚きで ある。単なる液を作っているのではなく、膵液や腸 液のなかに含まれる、さまざまの消化酵素 ( もちろ んタンパク質である ) を作り出しているのである。 脂肪の乳化に必要な胆汁も 1 日約 0 ・ 5 リットル 膵と胆汁は十一一指腸へ直接送り 作られるとい、フ だされるが、膵液はアルカリ性であり、これによっ て、胃液の酸を中和するのである。中和しておかな と小腸の細胞はたちまち死んでしまう。 栄養物の吸収にもっとも大切なのは小腸であるが、 」腸で吸収できるよ、フにするためには、そこに至る までに、大きな分子 ( 高分子 ) から小さな分子 ( 低 分子 ) にまで分解しておく必要がある。消化酵素は そのために必要なのであり、タンパク質はアミノ酸 、炭水化物はグルコースなどの単糖に、そして脂 肪はグリセロ 1 ルや脂肪酸などにまで消化分解され、 小さな分子として小腸から吸収される。 多くの栄養学の本などでは、このような記述で終 っているように田 5 うが、それではこれらの低分子に までなった栄養物は、どのように小腸から吸収され るのであろうか 本連載は「生命の内と外」というものであるが、 本章では、外部から内部へモノが取り込まれるとは

4. 考える人 2014年春号

エリアス・カネッティに「重要なのは、人がその最 期にあたって何をまだ計画しているのかということ だ。それが、彼の死にどれほどの不公正さがあるか の尺度になる」という一言葉があって印象に残ってい るが、まさに新発見があり、これから研究がスタ 1 トしようという矢先の、あまりにも若い死は、なに よりカネッティ言うところの「不公正 ( アンフェ ア ) 」だという思いを、私たち残された研究者に強 くもたらしたのであった。 タイトジャンクションはど一フい一フ役割をもってい るのだろう。まず第 1 に、細胞と細胞のあいだを閉 塞するという役割が重要なのである。細胞の上辺は 腸の内腔に面している。そこから腸内の液体やバク テリア、あるいは消化物の細片が細胞のあいだから 漏れ出して、少しでも入ってくるとたいへんなこと になる。それをシ 1 ルドするとい一フのがタイトジャ ンクションの第 1 の役割である。細胞と細胞は、い ちばん上辺でタイトに結合しているので、その下に 間隔の広い細胞間スペースがあっても、そこには溶 液は漏れ出してこない。つまり外部と内部のバリア として機能しているのである。タイトジャンクショ ンは別名「閉塞結合」とも呼ばれるが、このような 機能を意味している。 タイトジャンクションのもう 1 つの大切な役割は、 フェンスとしての機能である。細胞膜にはさまざま な膜タンパク質が組み込まれている。膜の脂質一一重 層のなかをふらふら泳いでいると言ったほうがいし かもしれない。 あとで説明するように、特に小腸上皮細胞ではさ まざまの分子を腸内から内部に取り込むために、は 接し合う細胞膜 つきりしたタンパク質の機能分担があり、上辺で働 くタンパク質と側底面で働くタンパク質とは混在し てはならない。縄張りを越えて紛れこんでしまって は栄養の吸収などに著しい障害が及ぶ。 入ってきてもらっては困るところには、フェンス を張り巡らして入れないようにするだろう。タイト ジャンクションは、膜平面に張り巡らされたフェン スとして機能し、上辺のタンパク質が側底面へ移動 すること、逆に側底面のタンパク質が上辺へ移動す び よ お デデ ロク クオ ることを阻止しているのである。柵を張り巡らして、 牧場の外へ牛を逃がさないようにしているのである。 多細胞生物の造形美 タイトジャンクションのほかに、 別の接着装置も 備わっている。簡単に触れておこう タイトジャンクションの下には 2 つの固定結合と 呼ばれる結合装置がある。より上辺にあるものを接 細胞間隙 細 着結合 ( アドへレンスジャンクション ) 、下方のも のをデスモソ 1 ムと呼ぶ ( 図 2 ) 。名前は覚えてもら う必要はないが、 アドへレンスは接着を意味する 接着結合は接着帯と呼ばれる構造を作り、鉢巻き のように細胞を 1 周している。やはり膜貫通タンパ ク質同士が細胞の外側で互いに結合することで、細 胞をジッパーのように結びつけているのである。こ の接着に働いているタンパク質はカドへリンと呼ば れるもので、カルシウムイオンがあると互いに接着 できる。カドへリンもわが国が世界に誇る発見であ 、現在理化学研究所、発生・再生科学総合研究セ 刳ンタ 1 長の竹市雅俊博士によって発見された分子で 着ある ン カドへリンは同じタイプのカドへリン同士が接着 シするという性質を持っている。肝臓の細胞と腎臓の ン細胞をばらばらにし、それを一緒に況せ合わせて、 ) ン しばらくフラスコのなかで揺らしてやる。そうする タとやがて、肝臓の細胞は肝臓の細胞同士、腎臓の細 胞は腎臓の細胞同士が集まって、塊を作る。決して 図 それらが混じり合った塊とはならないそれぞれの 細胞表面に発現しているカドへリンの種類が違うか らである 生体において、肝臓の細胞同士がなぜ結合するの カ肝臓の細胞と神経細胞が、なせモザイクのよう に入り乱れて組織を作らないのかこのような細胞 生物学のもっとも基本的な謎に、明確な解答を与え たのが、竹市博士によるカドへリンの発見であった。 接着結合の内側にはアクチン線維が繋がっており、 細胞の形を変えたり、ひつばりなどのストレスに柔 軟に対応できるようになっている。 182

5. 考える人 2014年春号

生体内のエネルギ 1 としていちばん一般的なのは、 前にも述べたようにという分子であるが、こ こでは <teæを用いるのはもったいないということ で、じつにうまい工夫をしている。このトランスポ ) と一緒にグルコ 1 タ 1 は、ナトリウムイオン (z ースを取り込むことができるのである。は細胞外 の濃度が細胞内に較べて川倍ほど高い だからは、単純な拡散によって細胞の なかに入ることができる。水が高いとこ ろから低いところへ落ちる時、エネルギ ーが放出される。位置エネルギーである グルコ 1 スのトランスポータ 1 は、グル コ 1 スとを同時に結合し、の取り込 みによって生まれるエネルギ 1 をグルコ ースの取り込みのために使うのである これは共役輸送と呼ばれる仕組みである。 細胞内に取り込まれたグルコースは、 側」底一囲側にある別のグルコ 1 ストランス ポーターによって細胞外へ輸送される。 細胞外のグルコ 1 ス濃度は低いので、今 度は濃度に従う単純な拡散であり、エネ ルギーは不要である。 2 度の膜透過によ って「内部」へ取り込まれたグルコ 1 ス は、絨毛の内側にある毛細血管を通じて ( 図 1 ) 、全身へ、そして肝臓へ運はれることになる このように、グルコースの取り込みには、 2 つの トランスポ 1 タ 1 をうまく使いこなし、濃度の低い ところから高いところへ膜を通過させ、もう 1 度、 高い方から低い方へ再び膜透過を行って取り込むの である。この 2 種類のグルコーストランスポーター 低濃度 腸内腔 0 もうひとつの機能、フェンス機能なのである。タイ トジャンクションがあることによって、上辺側の ( 細胞内へ取り込む ) トランスポ 1 ターは、側底面 側には行かず、逆に側定面側のものは、上辺側へ行 くことはない。上辺側ではグルコースを取り込むだ 、側底面側では吐き出すだけと、役割分担が乱れ は、膜上での位置が重要である。側底面側のトラン スポ 1 タ 1 が上辺側にくれば、せつかく取り込んだ グルコ 1 スを逆に戻してしまうことになる。 2 つの トランスポ 1 タ 1 が同じ側に入り混じっていては、 取り込みに著しい障害が起きる それを支えているのが、タイトジャンクションの 頂端部にある 微絨毛 タイトジャンクション 部 部 タ タ 底 グト グト 腸上皮 グルコースは 高濃度 N + ポンプ 細胞外液 ルコー 面管へ 図 4 グルコースの細胞横断輸送。 『細胞の分子生物学』 ( ニュートンプレス ) より一部改変 低濃度 ることは宀ない。 このように膜の上でも、それぞれの タンパク質は本来あるべき場所にとどめられている が、それを繋留ないしは堰き止めるのもまたタンパ ク質 ( タイトジャンクション ) の役割なのである 少し注意深い読者のために、もう 1 点だけ指摘し ておこう。細胞外のの濃度は細胞内の川倍ほど高 いたからの輸送と共役してグルコ 1 スを運ぶこ とができたのである。ではそうしてを取り込み続 ければ、細胞内の濃度は高くなりすぎてしまうだ ろう。これを細胞外に汲み出すのはどうするのか ここでのエネルギ 1 を利用して、を細胞 外に汲み出すポンプが登場する ( 図 4 ) 。このポンプ こにだけを吸み出すのではなく、同時にもう は、単 ( 一つの仕事もする。を汲み出すのと同じポンプを 使って、カリウムイオン &) を逆に細胞外から細 胞内に汲み入れているのである。と反対に、にの 濃度は、細胞内が川倍以上高い。どちらも濃度勾配 に逆らって仕事をしなければならず、エネルギ 1 が 必要である。この , ポンプは、 1 分子の のエネルギ 1 を使って、 3 分子のを汲み出し、同 時に 2 分子のにを汲み入れている。なんと効率的な 工夫だろう。このようにして、細胞内の濃度は低 く、濃度は高く保たれることになる。見事な恒常 性 ( ホメオスタシス ) の維持機構の一例である。 脳は大食漢かっグルメ このように血流中に放出されたグルコースは、全 身の細胞に運はれて、エネルギー源として消費され る。それぞれの細胞には、グルコ 1 スを取り込んだ

6. 考える人 2014年春号

あと、それを順次代謝しながら、エネルギ 1 (<+ を作り出す代謝経路が備わっている。 なかでも運動に関わる筋肉、そしてグルコ 1 スだ 2 っ けしかエネルギー源として利用できない脳が、 の大事なお得意さまである。筋肉と脳とは、それぞ れ、全エネルギ 1 のパ 1 セントを消費している ( 筋肉は運動をしていないときの値である ) 。成人男 子が 1 日に消費するエネルギーは約 2000 キロカ ロリーであるから、脳も筋肉もそれぞれ約 400 キ ロカロリ 1 を消費することになる。注意しておきた いのは、筋肉は体重のパ 1 セントを占めているが、 脳はわずか 2 パ 1 セントなのである。 1 ・ 251 ・ 5 の重さの脳と、 25 の重さの筋肉とが同じ だけのエネルギ 1 を使っている。ちょっと驚きであ る。脳は大喰らいであり、かっエネルギー源として グルコ 1 スしか利用しないというグルメを徹底して さ、れるが、 こうして全身の細胞でグルコ 1 スが消費 余分のグルコースがグリコ 1 ゲンという形で肝臓や 筋肉に貯められる。グリコ 1 ゲンはグルコ 1 スが多 数繋がった重合体 ( 多糖類 ) である。グリコ 1 ゲン は一時的にエネルギ 1 を貯蔵するための分子であり、 必要になればただちにグルコ 1 スに分解される 一方で、もう少し長期の保存には、中性脂肪とし て脂肪細胞に貯蔵するという方法も取られる。グル コ 1 スを取り込んだ脂肪細胞は、グルコ 1 スを中性 脂肪に変え、細胞中の脂肪滴と呼ばれる袋のなかに せっせと貯め込むのである。図 5 を見ていただこう。 旨そうなステ 1 キの白い部分が脂肪の塊であること は誰でも知っているが、ここは実は脂肪細胞の集ま った部分でもある。脂肪細胞の脂肪滴のなかには、 中性脂肪が貯め込まれ、実際に培養した脂肪細胞を くつもの大きな袋 顕微鏡で覗くと、細胞のなかにい が見える。ここに脂肪が貯め込まれているのである 因みに、脂肪細胞には白色脂肪細胞と褐色脂肪細 胞があることは以前からわかっていた。白色のほう は、せっせと脂肪を貯め込むだけ。肥満とともに増 え、肥満の原因でもあり、メタポリックシンドロ 1 ムを引き起こす悪役細胞である。一方褐色脂肪細胞 のほうは、脂肪を貯め込んではいるが、たくさんの ミトコンドリアを持ち、脂肪をエネルキ 1 に変える 細胞、すなわち脂肪を燃やして体をスリムにする細 胞である。 脂肪滴 図 5 脂肪細胞 ところが数年前、この褐色脂肪細胞は実は筋肉と 兄弟であることがわかった。これはちょっとした驚 きであった。「 Nature 」誌に載った論文であるが、 これまで知られていた白色と褐色の性質の違いは、 実はその出自にあったことがわかったわけである 褐色脂肪細胞は、筋肉の兄弟であり、どちらもせつ せとグルコ 1 スを燃やし続けてくれる。実に腑に落 ちるという表現がびったりの論文であった。 体内にある島 小腸で取り込まれたグルコ 1 ス ( 糖 ) は、肝臓へ 運はれ、通常、約半分の糖が肝臓に取り込まれるが、 残りの半分は全身へと流れて行って、主に筋肉に取 り込まれる。肝臓には約 100g のグリコーグンが、 筋肉には 300g 程度のグリコーゲンが蓄えられる という。それでも過剰になれば、中性脂肪として脂 肪細胞に貯蔵されるのである このようにして、血中の糖は常に細胞内に貯蔵し、 必要なときに燃やすことになっているか、この取り 込みに重要な働きをしているホルモンがインスリン である。インスリンと一一一口えば、反射的に糖尿病と う言葉を田 5 い出す人が大部分であろう。 , 」こからは、 血糖のホメオスタシスとそれを制御するインスリン の作用について見ることにしよう インスリンは、膵臓のなかの組織、膵島 ( ランゲ 外 ルハンス島 ) から分泌されるホルモンである。膵臓 の大半を占めるのは、消化液を分泌する腺房細胞での あるが、そのあいだに点在するかのような島が見え生 5 8 る。これが発見者の名をとってランゲルハンス島と

7. 考える人 2014年春号

内と外 テニスコー下←竕、の小 人は ~ 「生きるために食べみべぎで「食べみために 生きてはならぬど一言ったのよソクラテスらしいカ、 生きみために食〈なければ引ない「でま、《食べ 0 。 0 といテことは斗学的にはどうしうことなのたちう もちろん栄養をとるためだと第う答がカえあてく 。るだろうド学をゞったごしのある人なあ三大 4 素ど」一。 = 〔葉ぐ」思々をゑ 肉に、・脂質は油に含まれ 0 して水化物には糖と 食物繊緲があるを それにビタミン亠 = ネラルを加えて五大栄養素と 呼ばれることいあるが化学的には、タンパク質の 摂取はすなわちア ( 《酸を摂をことであり、炭水化 、、効のいいネルギ「源でを「もちろん水を日常 可一摂きとは必噸であ第 さて、これら食物に含まれる栄養素を摂るとは、 食べたものカ、まま体内に取り込まれることでは ないを第 4 ロ述べたように、ロのなかはトボロジ ー的「は外部であ 0 、らつながる 1 本の消化管 》ば 0 肛門にいたるまですべて私たち人間の外部であ 生気紫」 , ら潮 胞幸当生奨、 ( 。の書新賞 る。外部を移動して小る限は、栄養素ま「取り込 1 学、総 , 滝賞心だ」こしにはならない「どこかで「 歌急芸岩すイ ' 、 ) 込む必要ある。 ~ 、業賞賞タれに病・ツ 一 , れ一、・産学受剪ず歌闘 科都文を ; 、 ー栄養摂取の主た場は、小腸である。小腸は一層 の上皮細胞からなる管である。一層のと一一一つたが、 力、滋再。賞義多野阯 も河四、ー効率よく吸収を行うために ) ・小腸の構造複雑に入 ッ現姫代集 . 第 な者」都倉部学章歌妻で ホメオスタシスの謎 卩 . 永田和宏 text&Y N 9 a Kazuhiro 糖の吸収ど消費

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呼ばれる細胞集団である。 ランゲルハンス島より持ちかえりたる細胞の一亜系 わが孵卵器に飼う 永田和宏『後の日々』 という歌を作ったことかあった。。 トイツの病理学 者、パウル・ランゲルハンスの名前にちなんでつけ られたものだが、 体内にある島というところに不田 5 議なロマンが感じられる。スーラの有名な点描画に 「グランド・ジャット島の日曜日の午後」という作 品かあるからたろうか、ランゲルハンス島もいつも のどかな日曜日の午後という感じである。 実際のランゲルハンス島はそんなのんびりしたと そ ころではない。膵島には他の細胞もあるのだが、 の 7 ハ 1 セント以上を占める細胞が、なんと一言 っても主役であり、忙しくインスリンを分泌してい る。通常の分泌タンパク質の合成と同じように、膵 細胞の小胞体で作られたインスリンは、ゴルジ体 を通り、分泌小胞に乗って、細胞表面まで達し、そ して分泌される。ゴルジ体でインスリン前駆体の一 部が切り出され、幻個のアミノ酸からなる < 鎖と 個のアミノ酸からなる鎖が、 2 カ所で連結された 小さなポリペプチドとして分泌される。これが血糖 値を保っための大事な大事なペプチドホルモンであ る 血中の糖がグルコ 1 スのトランスポ 1 タ 1 によっ て細胞に取り込まれると、それが代謝されて < が作られる。これをシグナルとして、細胞内で 次々とシグナルが生み出され、また伝えられて、最 終的には細胞内のカルシウムイオンの増加がインス リン分泌を促すシグナルとなる。以前に述べたこと のある、分泌小胞から表面への移行、そして開口が このシグナルによって調節されている。詳細は省く が、膵細胞は自分で血糖値を咸蹴又して、インスリ ンの分泌調節を行っているのである。 インスリンの発見は、 1921 年のことであった。 これにより、カナダの外科医、・・バンティン クとトロント大学の教授、・・・マクラウド は 1923 年にノ 1 ベル賞を受賞した。ノーベル賞 ( ( 力とエビソ 1 ドがっきものたが、 このノ ] べ ル賞ほど物議をかもしたものも珍しい世紀のスキ ャンダルとも言われ、『ノ 1 ベル賞の光と陰』薪イ ンスリン物衄巴など多くの本が出ている 膵臓を切除した大が糖尿病に罹るというそれまで の報告から、バンティングは膵臓のなかに糖尿病を 防ぐ物所只が含まれているはずだと考え、マクラウド に相談した。そして、マクラウドの研究室を使う許 可を得、学生であった O ・・ベストを助手として 付けてもらった。マクラウドが休暇で留守をしてい る 2 カ月ほどのあいだの実験で、膵臓の抽出物から ~ 幼成分を得ることに成功したのである。マクラウ ドはすぐにその重要性に気づき、自身の研究室を総 動員して、インスリンの抽出、精製法の開発に取り 組んだ。さらに、得られた化合物を、糖尿病の少年 に投与することによって、その効果までも確かめた のである。驚くべき早さであったが、 1923 年に はバンティングとマクラウドの 2 人がノ 1 ベル賞を 共同受賞しこ。、 ) オし力にこのホルモンが社会的にイン ハクトが強かったかをうかがわせる。 ここまではいいのだが、 それからが大変なことに 6 なったバンティングは自分の発見であり、マクラ ウドは部屋を貸しただけと主張し、共同受賞者はべ ストであるべきだと主張した。マクラウドへのあて つけであっただろう、自分の賞金をベストと分け合 たこれに対して、マクラウドのほうもインスリ ンの精製に力を尽くした自身の研究室の研究者に賞 金を分けるということになり、このエビソ】ドが大 きな話題をさらうことになってしまったのである 飽食が生んだ糖尿病 ともあれ、インスリンが糖尿病に対して劇的な効 果をもっホルモンであることは間違いなく、現在に いたるも、インスリン投与は糖尿病に対するもっと も効果的な治療法である。 糖尿病には 1 型と 2 型があることは周知のとおり である。 1 型糖尿病は、自己免疫疾患によって膵召 . 細胞が破壊されることが原因であることが多く、イ ンスリンの分泌が行われなくなって血糖値の上昇を 引き起こす。 2 型糖尿病では、遺伝的な要因のほか 、運動不足、肥満などが原因となる。生活習慣病 などによって、徐々に膵臓に負荷がかかり、膵″細 胞が疲弊し、十分なインスリンを分泌できなくなる のである。その人口は増え続け、日本では 2013 年現在、成人糖尿病人口は約 950 万人と言われる 世界で第川位。 インスリンは骨格筋細胞や脂肪細胞に作用し、血 中の糖を細胞内に取り込ませることによって、血糖 値を下げる。インスリンが細胞表面にあるインスリ

9. 考える人 2014年春号

血糖値を調節するホルモンは、インスリンだけで あろうか実は他にもある。脳の下垂体からは成長・ー ホルモンが出ているし、甲状腺からは甲状腺ホルモ ン、副腎からはアドレナリンやコルチゾール、膵臓 からはグルカゴンなど。ところが、これらはどれも 血糖値をあげるためのホルモンなのである。エネル ギ 1 として糖を使うため、貯蔵していた糖を血中に 放出して、身体中のさまざまの細胞で燃やせるよう にするためのホルモン、糖の出動ム哭下を行うための ホルモンなのだ。インスリンとは逆の作用を持つも の一は、か。り一 なせ、そのようなアンバランスが起こったのか じつはそれには人類が経てきた進化の歴史が深くか かわっている。 ン受容体に結合すると、その情報は、膜貫通タンパ ク質である受容体の細胞質内ドメインに伝えられる それが他のシグナル分子を活性化する。いくつかの シグナル分子の活性化のカスケードを経て、最終的 にグルコーストランスポータ 1 ((.D*-Ä>E-«< と呼ば れる ) を細胞表面に発現させるのである。このトラ ンスポ 1 タ 1 を介して、グルコースが取り込まれる ( 図 6 ) 。 はインスリンシグナルが来るまでは、 細胞内の小胞上に目されている。血糖値があがり、 インスリンシグナルが入ると、細胞表面へ移行し、 グルコースの取り込みを行うのである。消防署に消 という情報を受け取る 防車が待機し、「火事だ ! 」 と、すぐさま見場へ駆けつけるというイメージであ る 糖尿病は文明病たとも言われるように、人類はっ い最近まで、一貫して食の足りない状態で生活をし てきた。飽食などということは部の例外を除いて、 あり得なかったのである。狩猟や採集に行って、運 が良ければ食料にありつく。しかし、ほとんどは 性的な飢餓状態にあった。狩猟や敵から進け出すた め、わずかに蓄えた糖を瞬時に使ってしまわなけれ 胞 細 → 子 分 ル ナ グ ばならないという状况はあっても、余ってしまって 貯めこまなくてはならないという状況はほとんどな かったのである。だから貯めこむためのホルモンは 1 種類たけで間にあっていたのかも知れない放出 するためには全身にさまざまのホルモンを用意して いるにもかかわらずである まさに糖尿病という病気は、一貫して飢餓状態の なかで生活してきた人類にとって、初めて出会った インスリン 血糖・・ ( グルコース ) インスリン受容体 ↓・↓・↓ 貯蔵小胞 図 6 インスリンによる糖の取り込み 飽食という時代の生み出した病気であるとも一言える 人類の誕生から 600 万年という時間に較べれば、 長く見積もってもこの 100 年に起こった、飽食と いう時代は、進化のキアを入れ替えるには、あまり にも短すぎるのである 栄養を摂る。これは生きるために必須である。工 ネルギ 1 の素になる糖 ( グルコ 1 ス ) は、小腸の上 皮細胞による外と内のバリアを越えて、体内に取り 込まれる。取り込まれた糖は、血中を流れ、筋肉や 脳でエネルギーとして燃やされるほか、余ったもの は、肝臓や筋肉にグリコーゲンとして貯めこまれる が、それでも間にあわなければ、脂肪細胞が貯蔵先 となる。これは肥満へつながる いつばう血糖値を咸蹴スして、膵″細胞がインスリ ンを分泌し、強制的に糖を細胞内に取り込ませるが、 肥満や運動不足はインスリン抵抗性を生みだし、負 の連鎖からいっそうインスリンを大量に作らなけれ ばならなくなって、やがて細胞が疲弊、糖尿病 を起こすことになる。これが糖尿病への負のサイク ルである いずれにせよ、細胞の膜を介して、糖 ( グルコー ス ) を出し入れすることによって、全身的な糖のホ メオスタシスが絶妙に保たれているのであり、これ が前回述べた通り、負のフィードバック制御である ことは、あらためて言うまでもないことたろう。私 外 たちが生きているということは、このような全身的 なフィ 1 ドバックを主な制御システムとして採用すの ることによってなされるホメオスタシス恒常性 ) 生 のたまものである

10. 考える人 2014年春号

だとして同性愛を忌避する国が、欧米からの援助を 切望している状況も然り「反西洋」や「反欧米」 を掲げたしたたかなダブルスタンダード ( 二重基 準 ) といえよう。 ワトト教会 たたし、急いで付け加えなければならないのは、 根本派教会がウガンダで果たしている社会福祉的な 役割である。 その好例がカンパラ中心部に本部を構えるワトト 教〈た。カナダからウガンダに赴任したゲ 1 リー・ スキナー牧師と妻マリリンによって、ウガンダ内戦 中の一九八三年に創設された聖霊派教会で、国内八 地域に一一十の礼拝堂を持ち、週末には一一万一一千人以 上の信者が集う。同性愛に反対なのは当然だが、同 教会が有名なのはエイズや戦争で親を失った孤児 その数はウガンダ全体で約一一百万人と推定され るーーらへの救済活動によってである ( ワトトとは スワヒリ語で「子どもたち」を指す ) 。「子どもたち を大きな施設に入れるのではなく、家族の中で育て る」という方針のもと、孤児八人と母親一人 ( 主に 夫を亡くした女性 ) で一家族を形成しながら、住 居・学校・病院・教会・集会所・清潔な水・道路・ 電気が整った「子ども村」を設営している。女性の 自立や児童兵士の社会復帰を促す支援活動にも積極 的だ。孤児らで構成された聖歌隊「ワトト・チルド レンズ・クワイア」はとりわけ有名で、日本を含め、 世界各国を回り、感動と希望を届けている。 ワトト教会そのものは典型的なメガチャ 1 チで、 1 チのノウハウを学んでいるかは不明たが、セルと いうアメリカ流の呼称がそのまま用いられている点 は示唆的だ。 アメリカにおける根本派 ( ファンダメンタリス ト ) とは福音派 ( エバンジェリカル ) や聖霊派 ( ペ ンテコスタル ) などキリスト教保守派の総称であり、 メソジスト派、ユニテリアン、聖公会派といった主 アメリカ同様、信者たちが「観客」ないし「傍観的 な参茄者」にならぬよう、一一千以上設けられたセル と呼ばれる小さなグル 1 プを単位に日頃の活勲が行 なわれている。文字通り、メガチャ 1 チという巨体 のセル ( 細胞 ) を成す基本単位であり、例えば、毎 週水曜日にはセルごとの集いが信者の家で開かれて いる。スキナ 1 夫妻がどこまでアメリカのメガチャ イ被 ワの ク北 ・東 ズ ン レ行 を一 ワ 2 も で 日 よ的た に界れ ち世訪 日し物 1 4 流派 ( メインライン ) に比べて、形式的にはインフ 9 オ 1 マルだが、 教義的には原理主義的であることを 特徴とする。社会階層との相関性が高い主流派 ( 例 えば、聖公会派は中上流層以上に多いとされる ) に 比べると、より開かれており、「神の下の平等」を 体現しているという人もいる。 一方、ウガンダでは古くからさまざまな民間信仰 か存在していたが、約半世紀ほど前からそれらを習 合しながら救済を説く根本派的なキリスト教ーーエ 、ンジェリカル、ペンテコスタル、ポーン・アゲイ ン、カリスマティックなど呼称はさまざまだが、地 元ではバロコレ (Balokole) と総称されることか 多いーーーが誕生し始めた。ェイズや内戦による貧困 や社会歪女が深刻化する一方、国家基盤が脆弱なウ ガンダにあっては、根本派教会のメッセージやスタ イル、そして社会福祉的な営為は急速に民衆の間に 浸透した。政府もそれを歓迎し、教会との関係を密 にしていった。文化人類学者ェイミー・スタンバッ ク ( オックスフォード大学教授 ) は、こうした構図 が、ウガンダに限らず、東アフリカにおける根本派 教会の勢力拡張を助長していると指摘する (Amy Stambach. ミ・ Sc 、 00 Stanford University press. 2010 ) 。少なくとも根本派教会が「 に対して不寛容」という事実のみで説明できる存在 ではないことだけは確かだ アメリカのジレンマ オバマ大統領は、就任早々、保守派のブッシュ前 大統領が出した国際援助に関する大統領令を撤回し、