こし 壇のすぐ下の席に、クレプスリーとハーキャットが腰をおろした。となりには、シー だんじさっ げんすい ハネズ・プレーンがいる。ばくは壇上にあがらされ、元帥たちの前に立った。おもむろに、パ丿スス ひら カイル元帥が口を開いた。 「みような時代になったものだ」 と、ためいきをつく。 「わが一族は長きにわたり、むかしながらのやりかたや、しきたりにこだわってきた。そして進化をと なかま げた人間が仲間われしていくさまを、おもしろがってながめてきた。人間は進むべき道や目的を見うし なってしまったが、われわれはまようことなどないと、いまのいままでうたがわなかった。しかし、そ うも言っておれんようになった。 一族のためとはいえ、仲間をうらぎるバンパイアがあらわれるとは : これも、時代の流れという ぜんだいみもん ものであろう。人間界ではうらぎりなどよくあることだが、バンパイア一族にとってはまさに前代未聞。 にが おかげで、ずいぶんと苦い思いをした。うらぎり者たちに背を向け、さっさとわすれてしまえば、こと こんぼん はかんたんだ。しかしそれでは間題の根本に目をつぶり、さらなるうらぎりをまねくことにもなりかね えいきさっ ない。それだけ、世の中の変化がわが一族にも影響をおよばした、ということだ。この先も生きのびる には、われわれも変わらねばならん。 ー・ナイルと 2 10
と、前おきして、ばくはバンパニーズと出くわしたことやカーダがうらぎったこと、そのあとのでき ごとを、かいつまんで話した。 いかりのあまり、わなわなとふるえていた。 聞きおえたシー げんすい しかも、これから元帥になろうというバンパイアかー 「一族をうらぎるバンパイアがいようとは : かみがみいの いままでさんざん、健康であれと血を飲み、幸あれと神々に祈った相手が、とんだくわせ者だったと は ! おお、おぞましい ! 」 「じゃあ、信じてくれるんですねフ ばくは、ほっと胸をなでおろした。 こうみさっ 「うむ、巧妙にしくまれたうらぎりは、見ぬけんこともあろう。しかし真相かどうかは、聞けばわかる。 ああ、信じるとも、ダレン。元帥たちも、信じるだろう」 バ 1 か腰をあげて、ドアに向かった。 しつこくも早く : : : 」 「急いで知らせんと。 と一言いかけて、はっと立ちどまる。 じょにんしき 「いかん。叙任式が始まるまで、元帥はだれとも会わん。元帥の間にひきこもって、夕方、カーダがや ま会いに行っても、追いか ってくるまで、とびらをあけんのだ。叙任のときは、いつもそうだった。い こし むね しんそう
りさっち げれつ 「わが一族はうらぎられ、領地をおかされた。下劣なうらぎり者にとうぜんのむくいを受けさせたいと しんにゆう いう思いは、わしもみなとおなじだ。しかし、まずはなぜ侵人してきたのか、さらなる侵入があるのか、 つきとめねばならん」 げんすい ここでパリス元帥がカーダを見て、ぎろりとにらみつけた。 けったく 「カ 1 ダ、おまえは、きのう殺したバンパニーズどもと結託しておったのか ? 」 ちんもく 長い沈黙のあと、ようやくカータがうなすいた 「はい」 このやろう、と数人のバンパイアがさわぎたて、あっという間に、広間の外へつまみだされた。残り のバンパイアたちは、青い顔で体をふるわせ、ありったけのにくしみをこめて、カ 1 ダをにらみつけて じんもん ハリス元帥が、尋問を続ける。 「だれに命じられたのだ ? 」 いし 「自分の意志です」 うそをつけー とアロー元帥がいきりたった。 めいれい 「だれの命令か、さっさと吐け。でないと、 17 2
「じゃあ、なんで攻めてきたんですか ? 理由をはっきり、言えますか ? 」 げんすい 「ほら、言えないじゃないですか , ばくも知らない。あなたも知らない。兀帥だって知らないんだ」 ばくはひざまずいて、シー ーの目をひたと見すえた。 「まずは聞いてみるべきだったんだ。そうでしょ ? ばくらはここになだれこんで、バンパニーズをめ った切りにした。だれひとりとして、なぜ攻めてきたのか、わけを聞こうとしなかった。それじゃあ、 けだものとおなじだ」 「聞いとるひまなど、なかったではないか」 はんろん どうよ、つ と反論しつつ、シー バーは動揺しているようだ。 「たしかにね。いまは、むりだ。でも、六か月前は ? 一年前は ? 十年前、百年前は ? カーダだけ だ、ハンパニーズを理解しようとしたのは。どうしてだれも、カーダといっしょにやらなかったんだ ? わかい じたい なんでバンパニーズと和解して、今回のような事態をさける努力をしなかったんです ? 「あのうらぎり者をかばう気か ? 」 ハーか吐きすてるように言った。 「まさかカ 1 ダは、一族をうらぎった。そのことは、ゝ。 せ 力はいようがありません。ただ、ばくか言いた 1 う 6
は見ならってもいいような気がする。名誉を重んじつつ、むだなことはやめればよい。カ 1 ダ・スモル あ ) 、と、つ トはうらぎり者の悪党だが、その点だけはよくわかっていた。
げんすい せんたく しかし、わしは元帥だ。選択の余地はない。動機がなんであれ、おまえは一族をうらぎったのだ。動 かしがたい事実がある以上、わしの希望を通すわけにはいかん」 と一一一口って、 ハリス元帥は立ちあがり、カ 1 ダを指さした。 まれんこう しよけい 「この者を死の間に連行し、すみやかに処刑せよ。そののち、手足を切断して、火にくべよ。魂を楽園 に行かせてはならぬ」 こきゅう ひと呼吸いれて、ミッカー ・レス元帥も立ちあがり、やはりカ 1 ダに指をつきつけ、ためいき まじりに語った。 しよばっ 「ふさわしい処罰かどうかは、わからない。たが、一族を教えみちびき、バンパイアをバンパイアたら かそう しめるおきてには、ぜったいにさからえない。おれも、処刑の間へ連行し、火葬によってはずかしめを あたえることに賛成する」 アロ 1 元帥も腰をあげて、カーダを指さした。 「死の間へ行け」 べんご うらぎり者を弁護するものはおらぬか、とパリス元帥が広間によびかけたが、ひとりとして声をあけ る気配はない。 はんけっ 「反対の声があれば、判決を考えなおさんでもないぞ」 さんせい こし どうき せつだん 192
えされる」 「えつ、でも、まにあいますよね ? 」 ぎしき 「だいじようぶだ。式の前にえんえんと、儀式が続く。チャンスなら、いくらでもあるぞ。とちゅうで かわ ばくろ さえぎって、あやつの化けの皮をはぎ、ゆるすまじきうらぎりを暴露してやるわい しカりをおさえきれないようすだ。 「いや、それより : と、目を細める。 「いまなら、カーダは部屋でひとりきりだ。こちらから出むいて、あやつののどをかっ切って : それはだめ、と、ばくはあわてて止めた。 ち第、せつ げんすい なかま 「きっと元帥が、直接本人から話を聞きたがるはずです。殺してしまったら、ほかに仲間がいるのか、 なぜうらぎったのか、わからなくなる 「それもそうだ」 かた ためいきをついて、シ 1 バーが肩を落とした。 「第一、ただ殺すなど、なさけをかけるようなものだ。ガブナーにしたことのむくいを受けさせようぞ 「ええ、まあ、それもありますけど :
げんすい ミッカー元帥が、不意をつかれた顔をする。 せいこう 「成功しても失敗しても、おれには死というむくいが待っているだけだ。バンパニーズはわれわれ以上 に、うらぎり者をさげすむのだぞ。計画どおりにことが進めば、おれは元帥の間に残って、バンパイア しさつらい あんたい 一族がバンパニーズ一族にくわわるのを見とどけただろう。そして、バンパイア一族の将来が安泰だと かくにん さば 確認したら、進んでバンパニーズの裁きを受け、ゝ しまとおなじ運命をたどったはずだ」 しゆくてき おんじん 「宿敵をつぶしてくれた恩人を、バンパニーズが殺すとでもいうのか ? ミッカーか高笑いしたが、 「事実なのだから、しかたないー とカーダは一一 = ロいきった。 「バンパイアもバンパニーズも、うらぎり者を生かしてはおかない。そのことはおきてとして、どちら えいゅう の胸にもしつかりときざまれている。おれについてきたバンパニーズは、英雄として祭りあげられるだ ろう ハンパイアのなわばりをおかしたことをのぞけば、ゝ しっさいおきてをやぶっていないからな。し かしこのおれは、どうだ ? ハンパイア一族のおきてを、やぶったのだぞ」 生きのこれるわけがない、 とカーダが首をふる。 とく 「得することなどかけらもないんだ、ミッカー元帥。ちがうと言うのなら、あんたはよほどのまぬけだ」 むね 187 ー第 20 章裁き
はいご けん プスリ 1 の背後から、五人のバンパイアがあらわれた。しかも、とぎすまされた剣を持っ先頭の男は、 げんすいしさつかく もうすぐ元帥に昇格するバンパイアーーそう、うらぎり者のカータ・スモルトだ ,
間へと向かった。檻に人れられ、目かくしをされて、杭がならぶあなの上につりさげられ、すさまじい いた ざんこく 痛みをともなう残酷な方法で殺されるのだ。 こうして、うらぎり者のカーダは世を去った。ばくの友だちだったカータは、いなくなって しまった 0 おり さ 195 ー第 20 章裁き