「さっき、オオカミの足あとを見かけたわ。ひょっとすると、ダレンの死体を見つけて、食べたのかも。 調べなきゃね 「いや、それはなかろう。われわれがオオカミに一目おいとるように、むこうもわれわれをうやまって おる。第一、食べたとしたらダレンの血に毒されて、くるったようにほえたはずだ」 しばらく間かあいて、またエラがつぶやいた 「山の中でなにがあったのか、知りたいわね。ダレンがひとりきりで水路に落ちたというのなら、まだ わかる。でも、ガブナ 1 もいないのよ - ガフナー、と聞いてばくははっとした。 カーダがさりげなく続ける。 み 「ガブナーはダレンを助けようとして、水路に落ちたのかもしれない。あるいは、ダレンがガブナーを 3 の 助けようとしたか。それしか、おれには考えっかない 者 かわはば 「そもそも、どうして落ちたのよ ? ふたりが落ちた場所は、川幅がそれほど広くない。飛びこせたはぎ ずよ。むりだとしても、もっとせまいところを飛べばいいでしょ ? ふに落ちないわ 章 かた ほんとうにな、とカーダか肩をすくめ、とほうにくれたふりをする。 第 ひら クレプスリ 1 が、またロを開いた。 いちもく
イル、エラ・セイルズ、クレプスリーもついてきた。 げんすい パリス元帥があわてて とびらがしまると、みんなのきんちょうが少しほぐれた。血の石はぶじかと、 かけよった。ミッカー元帥とアロ 1 元帥はつかれきったようすで、玉座へと足をひきずっていく。シー バーがばくに服をさしだし、はやく着ろと耳うちした。ばくは急いで身につけてから、元帥と話しあう ため、シー ーのあとについて前に出た。クレプスリーとはまだ言葉をかわしていないが、無視したわ けではないよ、という気もちをこめて、につこりとほほえみかけておいた。 さいちゅう あんない ばくは元帥たちに、なにもかもうちあけた。カーダの案内でぬけ道を進む最中にガブナーが追ってき そうぐ、つ かかん て、とちゅうで進路を変えたところでバンパニーズと遭遇し、ガブナーが果敢にもひとりで立ちむかい、 カーダかうらぎったいきさつを、すべて話した。水路をいっきにくだった話をしたら、パリス元帥が大 きくはくしゅして、にやりとした。 「ほう、信じられん、まことか ? おぬし、やるなとばかりに、くすくす笑う。 けつきさか 「むかしはよく、血気盛んな若者がおのれの力をしめそうと、樽に乗って水路をくだったものだ。しか し、身ひとつで : そんなパリス元帥を、ちょっと待て、とミッカー元帥がたしなめた。 たる 95 ー第 13 章告発
ちゅうおう オし あっとい一つ間に よし、行こう。指をむりやりひきはかし、かべからはなれ、水路の中央へ かそく たき 流れにのまれ、ひきこまれる。加速してーー・出口だーー耳をつんざく滝の音ーーどんどん流されて 急にがくんと下かり , ーーまっさかさまに落ちていく。 15 ー第 1 章急流
ここでカーダがついに正体をあらわし、ガブナーを刺し殺した。ようやくばくも、カーダが最初から ハンパニ 1 ズと組んでいたことに気がついた。カーダはばくを生けどりにしようとしたが、ばくは逃げ すいろ だし、とちゅうでバンパイア・マウンテンの内部を流れる水路に落ちてしまった。カ 1 ダが助けの手を やみ さしのべてきたが、ばくはその手を無視して、ゴウゴウと流れる水に身をまかせた。そして闇の中へ、 バンパイア・マウンテンの腹へ、死の世界へと、すさまじいいきおいで引きこまれていった。 ころ
やって逃げたのだ ? 「およぎました」 さりげなく、答えた。 「およいだ ? どこへ ? 」 すいろ 「水路をずーっと」 「なんだと ? 山の中を、通りぬけたというのか ? まさか、うそだろう ! 」 「うそのような、ほんとうの話です。うそだったら、いま、ここにはいません 「で、ガブナーは ? やはり生きとるのか ? ハーかがぜん、うれしそうな顔をする。 かた ばくはがつくりと肩を落として、首をふった。 「ガブナ 1 は死にました。殺されたんです 「そうか、やはり死んどったか。おまえを見たときは、もしやと : : : 」 と言いかけて口ごもり、シ ーハーかまゆをひそめた。 「なに、殺されただと ? 」 「あのう、どうかすわったままで、聞いてください」
声がかすれている。 「幽霊に見えますか ? 」 「ああ、見えるとも」 ばくは声をあげて笑い、シー 「幽霊なんかじゃありませんよ、シー ーの前で、止まった。 「おうたがいなら、さわってみてください」 バーか指を一本、ふるわせながらのばしてきて、ばくの左うでにさわった。まちがいなくほんも のだとわかったのか、ばっと顔をかがやかせて、いったん立ちあがった。が、急に顔をふせて、またす わりこみ、暗い顔でつげた。 しけい はんけっ 「判決は、死刑だ」 「だろうと思いました」 「逃げたのだな」 こめんなさい」 「とんでもないことをしてしまいました。、 水路までは追えたのだが、そこで足どりがばったりととだえた。どう 「てつきりおばれたのかと : バーに近づいた。 ー。ばくです。足もついていますよ 乃ー第 11 章生還
て、ふとおかしくなった。 やがてカーダが立ちあがり、クレプスリ 1 に近づいた。 「見つかるかな、ラーテンフ いかにも心配そうな顔で、たずねる。 クレプスリーが、ためいきをもらした。 わはい 「おそらく、むりだろう。しかし、我が輩はあきらめんぞ。なきがらを見つけて、きちんととむらって やりたいのだ」 「まだ生きているかもしれないしな」 というカーダの言葉に、クレプスリーがロのはしをゆがめて笑った。 「ダレンが通った道を、たどってきたではないか。水路に落ちたきり、すがたが見えないこともわかっ とる。それでも生きているなどと、本気で思うのか ? 」 。あ・くと、つ しいや、とカ 1 ダが首をふる。これ見よがしに、がつくりとうなだれて 。うすぎたない悪党め , ねん と、ばくは心の中で毒づいた。ばくが生きているとはゆめにも思わないくせに、念には念を入れてさが けん しに来たのだ。ああ、あの剣さえなければ 気を落ちつかせて、会話に耳をすませた。エラも会話にくわわって、なにか話している。
にやりとして答えたら、 「まあ、どっちに賭けると言われたら : : : そうだな」 そうさくたい バネズは声をあげて笑い、ばくの足の布を調べた。捜索隊は全員、やわらかいくつをはいている。く つをはけよ、と、すすめられたが、ばくはこのままでいいと、ことわった。 「いいかダレン、気をひきしめろ。急に動くな。明かりはだめだ。ロもきくな。伝えたいことがあれば、 身ぶり手ぶりで知らせろ。あと、これを持っておけ と、よく切れそうな長いナイフをわたされた。 「万が一のときは、まよわず使えよ 「ああ、もちろん」 のうり ガブナー ・パールの命をむざんにもうばったナイフのことが、脳裏をよぎる。 あんない ばくらはしのび足で出発した。バンパニーズかかくれていたほらあなまで、案内できるかどうか不安 だった。あのときは、どこをどう通ったか、あまり気をくばっていなかった。でも、捜索隊は前にばく をさがしに来ていたので、道を知っていた。 ゴウゴウと音を立てて流れる、水路の下の横あなを通りぬけた。前にここをぬけたときはこわかった か、あのあといろいろなことにたえぬいたので、さすがにもうひるまない。その先のほらあなで、ばく ぬの 106
第六章それぞれの生きかた メスオオカミは三匹の子どもとおなじように、ばくをかわいかってくれた。きちんと乳を飲んでいる か気をくはり、体がひえないようにだきよせ、耳のうらや顔をきれいになめてくれた ( ただし、トイレ のあとでしりをなめられるのだけは、さすがに逃げた ! ) 。ばくは数日間そばからはなれず、オオカミ かいふく の母と子に体温であたためてもらい、あたたかい乳を飲んで、少しずつ体力を回復した。おいしい乳で ↓よよゝゞ、 ) オし、刀し まのばくはもんくを言えた立場ではない。 いた きず 回復するにつれて、痛みがおそってきた。全身くまなく、傷だらけだ。・寒さのせいで血の流れが悪く、 きずぐち たいして血は流れないが、ひりひり、ずきずきと痛む。シー ーのクモの巣があれば傷口にはれたのに、生 残念だ。 ) 。まんとうに、すべりお それにしても、水路をいっきにすべりおりたなんて、いまだに信じられなし。 もうそう りたのか ? それとも、ただの妄想か ? 痛みがなければ、まよわず妄想だとわりきっただろう。でも、第 妄想なら痛むはすがない。ならば、事実のはすだ。 すいろ びき ちち
第三章夜明け じよじょに意識がもどってくる。音がする。水の音だ。山の水路よりもずっとやさしい、せせらぎの ゆっくりと目をあける。星だ。あおむけにうかんでいる。運がよかったのか、それともとっさ 音 ゝ 0 ヾ と一つで、もいし に顔を上に向けたのか ? わからなし とにかく生きている , はや ここは流れが速くない。岸までじゅうぶん、およいでいける。早くあがって、バンパイア・マウンテ ンにもどろう。そう遠くないところに見える。問題は、体力だ。まずはおよいでーーーだめだ、およげな かんぜん 体はばろばろ。体力を完全に使いは 足も、うでも、ばうきれのようだ。生きて出られたはいいが、 たして、動けない。 水に流され、バンパイア・マウンテンが遠のいていく。ここはどこた ? 見ばえのしない、荒れはて やみ た土地だ。それでも闇をさまよったあとだけに、美しく見える。いまのばくには、なんでも美しい。こ ふうけい れからは、いなかの風景を見る目が変わるだろう。 ひょっとして、死にかけているのか ? そうかもしれない。なにも感じない。手も足も動かせない いしき きし すいろ