関連分野の事業全体を健康ソリューション事業と位 置づけた。 ④スポーツ用品は , 新素材の開発による代替品の出現 や輸入品増加の脅威がある。 ⑤スポーツ用品事業から健康ソリューションの提供な どサービス事業への事業拡大が可能である。 第 2 問 ( 配点 20 点 ) A 社は , 当初 , 新しい分野のプラスチック成形事業 を社内で行っていたが , その後 , 関連会社を設立し移 管している。その理由として考えられることを , 120 字以内で求めている。 第 1 問と同様 , 環境分析的な視点からの出題である。 このように「理由」を問う設問には , 事例文から解答 を抽出・引用することがコツである。ただ , 事例文に は , 与件をそのまま利用するだけで解答として成立す るヒントが書かれている場合もあるが , 解答を考える うえでの糸口 ( 視点 ) しか書かれていないケースもあ る。その場合は , 糸口から具体的な内容を類推する。 事例文には , 次のようなヒントが記されている。 ・新規事業は , 技術難度はもちろん , 自社プランドで 展開してきたバドミントン事業とは , 事業に対する 考え方そのものが異なっていた。そこで , 再起をか けてこのビジネスをスタートさせた A 社社長は , ・再起をかけたビジネスである。 事業に対する考え方が異なる。 ・自社プランドで展開してきたバドミントン事業とは , ・技術難度が異なる。 こから , 次の理由が抽出できる。 独立させることにした。 当初社内で行っていた新規事業を , 関連会社として 企業診断 2015 / 12 全国を行脚し , 苦労の末に製造依頼を取り次げる営 は , メーカーからの受注生産であり , 注文を求めて 業であったのに対し , プラスチック製容器製造事業 み的に生産し , 市場の成長を背景に売上が伸びる事 ②これまでの自社プランド展開は , 最終消費財を見込 とは区分した技術管理が必要と考え , 分社化した。 活かした技術難度の高い事業であるため , 既存事業 ①自社で開発し , 特許まで取得した新しい成形技術を させながら次のように記述していきたい。 この点を解答の柱として , 与件を使って内容を充実 目指せ ! 経営コンサルタント / 【中小企業診断士試験】実力養成セミナー この与件からは , プラスチック製容器製造事業は , 調であった。 きる体制も整って , A 社グループの経営は比較的順 スタブなどの大型成型製品の注文を受けることがで 技術の高度化や工場増築などの投資が功を奏し , バ ・自動車部品事業拡大を追い風にして進めてきた成形 また , 事例文には以下の与件が記されている。 業への依存リスクを削減することが課題となる。 事業の売上高の拡大を図り , プラスチック製容器事 自動車部品製造 , 健康ソリューション事業など他の 合でも , A 社の業績が低下しないようにするために ②プラスチック製容器製造事業の売上高が低下した場 題となる。 スチック製容器製造事業の売上高の維持・拡大が課 ① A 社の業績維持のためには , 売上構成比の高いプラ こから , 次のような課題が生じると考えられる。 上高が低下した場合 , 業績に大きな影響を与える。 ・売上高が 60 % を占めるプラスチック製容器事業の売 のようなことが挙げられる。 ことによって生じると考えられる問題点としては , 次 プラスチック製容器製造事業の売上が 60 % を占める 類推し , そこから課題を考えていくことがコツである。 ることによって生じると考えられる問題点を合理的に は , プラスチック製容器製造事業の売上が 60 % を占め 事例文には明確なヒントが見当たらないため , 課題 性があると考えられるかを , 100 字以内で求めている。 ことが , 今後の経営にどのような課題を生み出す可能 ク製容器製造事業の売上が 60 % を占めるようになった 成型技術の導入や技術開発などによって , プラスチッ A 社および関連会社を含めた企業グループで , 大型 第 3 間 ( 配点 20 点 ) このように要点を整理し , 120 字以内で解答したい。 て対応することにした。 源配分に関する影響を少なくするために , 分社化し 康ソリューション事業 ) などの既存事業の業績や資 自動車部品製造事業やスポーツビジネス事業 ( 現健 ③再起をかけた事業であるため , 利益責任を明確化し , 業展開の方法 ) が異なるため , 分社化して対応する 業力が重要な事業であり , 事業に対する考え方 ( 事 123
1 自動車部品事業の拡大を追い風として成長したことが 読みとれるが , 自動車部品の製造事業の売上高構成比 は 24 % とプラスチック製容器製造事業に比べると低い。 このため , 自動車部品製造事業の従業員のモラールが 低下する可能性があることが類推できる。 以上の点から , 次の課題を導くことができる。 ③ A 社技術を下支えする自動車部品事業の従業員のモ ラール低下の防止が課題となる。 解答は , ① ~ ③の課題を整理し , 100 字以内でまと めることで合格点は確保できる。 第 4 間 ( 配点 20 点 ) A 社および関連会社を含めた企業グループで , 成果 主義に基づく賃金制度をあえて導入していない理由と して考えられることを , 100 字以内で求めている。 現状分析的な問題であるが , 第 4 問も成果主義制度 を導入しない明確な理由は事例文中に記されていない。 このような場合 , 自分の知識や経験から解答を導き出 しがちになるが , それは最終手段として取っておき , まずは事例文から「解答に使えそうな与件」 , 「的を射 ているとは言いがたいが , 妥当な範囲と考えられる与 件」を探し , それを利用して解答する。 成果主義に基づく賃金制度について , 「仕事の成果 に応じて給与を決定する人事制度」と単純に定義した 場合 , これを導入するためには , 成果の把握と適切な 評価が重要になる。この点から事例文を分析すると , 次のような公平・公正な評価の難しさが見えてくる。 つ目の理由 以下の 3 つの定量的な理由が考えられる。 ・事業別の売上高構成比 A 社のグループ全体の売上高は約 36 億円で , 売上構 成比は , プラスチック製容器製造が 60 % , 自動車部品 製造が 24 % , 健康ソリューション事業が 16 % である。 これを事業別の売上高に換算すると , プラスチック製 容器製造が 21.6 億円 , 自動車部品製造が 8.64 億円 , 健 康ソリューション事業が 5.76 億円と , 事業別の売上高 が異なり , 特に健康ソリューション事業は人気の影響 を受けやすいため , 単純に業績で評価するのが難しい。 ・事業別の売上構成比と従業員構成比の関係 A 社のグループ全体の売上構成比は , プラスチック 製容器製造が 60 % , 自動車部品製造が 24 % , 健康ソリ 124 ューション事業が 16 % である。一方 , A 社グループ全 体の事業別従業員構成は , プラスチック製容器製造が 70 名 ( 48.3 % ) , 自動車部品製造が 35 名 ( 24.1 % ) , 健 康ソリューション事業が 40 名 ( 27.6 % ) であり , 事業 別の売上高の割合と従業員数の割合が異なり , 従業員 ごとの生産性を適正に評価することが難しい。 ・ 1 人当たりの売上高 A 社グループの事業別の売上高 ( プラスチック製容 器製造 21.6 億円 , 自動車部品製造 8.64 億円 , 健康ソリ ューション事業 5.76 億円 ) と , 事業別の従業員数 ( プ ラスチック製容器製造 70 名 , 自動車部品製造 35 名 , 健 康ソリューション事業 40 名 ) から , 次のように従業員 1 人当たりの売上高が計算できる。 ・プラスチック製容器製造 30.86 百万円 ・自動車部品製造 = 24.69 百万円 ・健康ソリューション事業 = 14.4 百万円 需要が変動しやすい健康ソリューション事業の 1 人 当たり売上高がもっとも低く , 自動車部品製造事業の 拡大を追い風に成長したプラスチック製容器製造事業 の 1 人当たり売上高がもっとも高い。この状況から , 事業別や個人別の評価は難しいと考えられる。 以上 , 事業別の売上高構成比 , 売上構成比と従業員 構成比の関係 , 1 人当たりの売上高などの定量的な理 由から , 公平な評価が難しく , 成果主義に基づく賃金 制度を導入していないと思われる。 ② 2 つ目の理由 事例文には , 次のような与件が記されている。 一転して経営危機に直面することになった。どうに か事業を継続させ , 約 40 名の従業員を路頭に迷わせ ずに済んだのは , 当時バドミントン用の製造・販売 の陰で細々と続けていた , 自動車部品の受注生産や レジャー用品の製造などで採用していたプロー成形 技術 ( 中略 ) があったからである。 ・自動車部品事業拡大を追い風にして進めてきた成形 技術の高度化や工場増築などの投資が功を奏し , バ スタブなどの大型成型製品の注文を受けることがで きる体制も整って , A 社グループの経営は比較的順 調であった。 以上の点から , A 社の事業は企業内での連携や協力 で事業が成立しているため , 事業別・個人別の評価が 企業診断 2015 / 12 難しく , 導入していないと考えられる。
平成 27 年度 中小企業診断士 第 2 次試験【 4 科目全問題】 1 . 中小企業の診断及び助言に 関する実務の事例 I A 社は , 1950 年代に創業された , 資本金 1 , 000 万円 , 売 上高 14 億円 , 従業員数 75 名 ( 非正規社員を含む ) のプラス チック製品メーカーである。 1979 年に設立した , 従業員数 70 名 ( 非正規社員を含む ) のプラスチック製容器製造を手 がける関連会社を含めると , 総売上高は約 36 億円で , グ ループ全体でみた売上構成比は , プラスチック製容器製造 が 60 % , 自動車部品製造が 24 % , 健康ソリューション事業 が 16 % である。 こ 5 年でみると , 売上構成比はほとんど 変わらず , 業績もほば横ばいで推移しているが , 決して高 い利益を上げているとはいえない。 A 社単体でみると , その売上のおよそ 60 % を自動車部品 製造が占めているが , 創業当初の主力製品は , プラスチッ ク製のスポーツ用品であった。終戦後 10 年の時を経て , 戦 後の混乱から日本社会が安定を取り戻し , 庶民にも経済的 余裕が生まれる中で , レジャーやスポーツへの関心が徐々 に高まりつつあった。そうした時代に , いち早く流行の兆 しをとらえた創業者が , 当時新素材として注目されていた プラスチックを用いたバドミントン用シャトルコックの開 発・製造に取り組んだことで , 同社は誕生した。 創業当初こそ , バドミントンはあまり知られていないス ポーツであったが , 高度経済成長とともに , 創業者のもく ろみどおりその市場は広がった。その後 , 同社のコア技術 であったプラスチックの射出成形技術 ( 加熱溶融させた材 料を金型内に射出注入し , 冷却・固化させることによって , 成形品を得る方法 ) によるシャトルコックの製造だけでな く , 木製のラケット製造にも業容を拡大すると , 台湾にラ ケット製造の専用工場を建設した。 しかし , 1970 年代初めの第一次オイルショックと前後し 110 て , 台湾製や中国製の廉価なシャトルコックが輸入される ようになると , A 社の売上は激減した。時を同じくして , 木製ラケットが金属フレームに代替されたこともあって , A 社の売上は最盛期の約 70 % 減となり , 一転して経営危機 に直面することになった。どうにか事業を継続させ , 約 40 名の従業員を路頭に迷わせずに済んだのは , 当時バドミン トン用品の製造・販売の陰で細々と続けていた , 自動車部 品の受注生産やレジャー用品の製造などで採用していたプ ロー成形技術 ( ペットボトルなど , 中空の製品を作るのに 用いられるプラスチックの加工法 ) があったからである。 そして , その成形技術の高度化が , その後 , A 社再生への 道を切り開くことになる。 A 社の経営が危機に陥った時期 , 創業者である父に請わ れてサラリーマンを辞めて , 都市部から離れた生まれ故郷 の農村に , A 社社長は戻ることを決意した。瀕死状態の A 社の事業を託された A 社社長は , プロー成形技術の高度 化に取り組むと同時に , それを活かすことのできる注文を 求めて全国を行脚した。苦労の末 , 楽器メーカーから楽器 収納用ケースの製造依頼を取りつけることができた。自社 で開発し特許まで取得した新しい成形技術を活かすことが できたとはいえ , その新規事業は , 技術難度はもちろん , 自社プランドで展開してきたバドミントン事業とは , 事業 に対する考え方そのものが異なっていた。そこで , 再起を かけてこのピジネスをスタートさせた A 社社長は , 当初 社内で行っていた新規事業を , 関連会社として独立させる 0 こうして本格的に稼働した新規事業は , A 社社長の期待 以上に急速に伸長し , それまで抱えてきた多額の借入金を 徐々に返済することができるまでになり , 次なる成長事業 を模索する余裕も出てきた。そこで , A 社社長が注目した 事業のひとつは , 同社の祖業ともいうべきスポーツ用品事 業での事業拡大であった。ターゲットにしたのは , 1980 年 企業診断 2015 / 12
平成 27 年度 中小企業診断士第 2 次試験 出題傾向・解答例と学習のポイント 中小企業診断士第 2 次試験の 4 つの事例問題について , 出題傾向を分析し解答例を提示したうえで , 学習のポイントを解説します。なお , 第 2 次試験の問題文については , p. 103 をご参照ください。 ポイント解説 中小企業診断士第 2 次試験【出題傾向・解答例と学習のポイント】 ム、′事例Ⅳは平易であった昨年と比べ , やや難化し [ 総訐 ] ー たものの , 標準レベル。事例 I , Ⅲは対応がやや 難しいレベル。事例Ⅱの難易度はかなり高い。 古森創 クレアール受験対策室長 中小企業診断士 1 . 平成 27 年度の出題科目・事例企業とテーマ ( 1 ) 事例 I ( 組織・人事を中心とした経営の戦略及び 管理に関する実務の事例 ) 事例企業 A 社は , プラスチック製容器製造を主に 自動車部品製造 , 健康ソリューション事業の 3 事業を 営んでいる。主力事業のプラスチック製容器製造は別 会社化している。全社戦略としては , プラスチック製 容器製造事業の分社化 ( 組織形態 ) , 賃金制度がテー マである。事業戦略としては , 主力事業が子会社化し ていることの課題 , 製造業である A 社がサービス事 業を拡大させるうえでの組織変革 , 人材育成がテーマ である。 ( 2 ) 事例Ⅱ ( マーケティング・流通を中心とした経営 の戦略及び管理に関する実務の事例 ) 事例の B 商店街には , ローカル私鉄 x 駅周辺に広 がる約 180 店が参加しており , テーマは外部環境の変 化を捉えた商店街の活性化である。大手総合スーパー チェーンの出店に対し , 補完関係を構築して商店街来 訪客の増加を目論んだがうまくいかず , 空き店舗率が 上昇している。 B 商店街協同組合の代表理事は危機感 を抱いており , イベントを開催しているが効果は限定 的である。この状況を打開するために , B 商店街の周 辺人口の変化をうまく捉え , 活性化を図るための課題 に対する代表理事への助言が問われている。 118 ( 3 ) 事例Ⅲ ( 生産・技術を中心とした経営の戦略及び 管理に関する実務の事例 ) 事例企業 c 社は土木建設企業や農業機械・産業機 械の部品メーカーに向けて , 建設資材や機械部品など の鋳物製品を生産 , 販売している。全社戦略としては , 新分野 ( 自動車部品 ) への参入の強みやメリットの内 部分析 , 海外製品との競争戦略 , 機能戦略としては , 短納期対策 , 納期管理 , 生産工程をテーマとしている。 ( 4 ) 事例 ( 財務・会計を中心とした経営の戦略及び 管理に関する実務の事例 ) 事例企業 D 社は精密部品を製造・販売する金属加 工業である。経営分析 , 予想損益計算書作成 , CVP 分析 , 投資の経済性判断の財務・会計の基本的なテー マに加え , 中小企業白書 ( 以下 , 白書 ) に準じた「中 小企業のイノベーション , 販路開拓」に関する戦略を テーマとした出題である。 2 . 平成 27 年度の出題内容と難易度 ( 1 ) 事例 I 第 1 問は , 事例企業 A 社の 3 つの事業の中の 1 っ である , スポーツ用品市場の市場分析である。直接 , 解答に結びつく与件は与えられていないため , 関連す る与件と一般知識を結びつけて解答する必要がある。 第 2 問は , 当初 , 社内で行っていた新規事業のプラ スチック成型事業を関連会社として分離し事業を進め 企業診断 2015 / 12
頃認知度が高まりつつあったゲートボールの市場である。 ゲートボール用のポールやスティック , タイマーなどで特 許を取得すると , バドミントン関連製品の製造で使用して いた工場をゲートボール用品工場に全面的に改装し , 自社 プランドでの販売を開始した。少子高齢化社会を目前に控 えたわが国でその市場は徐々に伸長し , A 社の製品が市場 に出回るようになった。しかし , その後 , ゲートボールの 人気に陰りがみられるようになったために , 次なるスポー ツ用品事業の模索が始まった。 もっとも , その頃になると , 自動車部品事業拡大を追い 風にして進めてきた成形技術の高度化や工場増築などの投 資が功を奏し , バスタブなどの大型成形製品の注文を受け ることができる体制も整って , A 社グループの経営は比較 的順調であった。また , 新規事業を模索していたスポーツ ビジネスでは , シニア層をターゲットにしたグラウンドゴ ルフ市場に参入し , 国内市場シェアの 60 % 以上を占めるよ うになった。 2000 年代半ばになると , 地元自治体や大学との連携によ って福祉施設向けレクリエーションゲームや認知症予防の ための製品を開発し , 福祉事業に参入した。さらに , ゲー トボールやグラウンドゴルフなどシニア向け事業で培って きた知識・経験 , そしてそれにかかわるネットワークを活 用できることから , スポーツ関連分野の事業全体を健康ソ リューション事業と位置づけた。健康ソリューション事業 では , シニア層にターゲットを絞ることなく , 体力測定診 断プログラムなどのソフト開発にも着手しサービス事業を 拡大して , グループ売上全体の 16 % を占めるまでに成長さ せたのである。 こうして経営危機を乗り越えてきた A 社では , A 社社 長が社長を務める関連会社を含めて , 従業員のほとんどが 正規社員であり , 非正規社員は数名に過ぎない。グループ 全体の事業別従業員構成は , プラスチック製容器製造が 70 名 , 自動車部品製造が 35 名 , 健康ソリューション事業が 40 名である。近年になってポーナスなどでわずかに業績給的 要素を取り入れつつあるが , 給与や昇進などの人事制度は , ほほ年功べースで運用されている。 第 1 問 ( 配点 20 点 ) ゲートボールやグラウンドゴルフなど , A 社を支えてき たスポーツ用品事業の市場には , どのような特性があると 考えられるか。 1 開字以内で述べよ。 第 2 問 ( 配点 20 点 ) A 社は , 当初 , 新しい分野のプラスチック成形事業を社 内で行っていたが , その後 , 関連会社を設立し移管してい る。その理由として , どのようなことが考えられるか。 120 字以内で述べよ。 企業診断 2015 / 12 第 3 問 ( 配点 20 点 ) A 社および関連会社を含めた企業グループで , 大型成形 技術の導入や技術開発などによって , プラスチック製容器 製造事業の売上が 60 % を占めるようになった。そのことは , 今後の経営に , どのような課題を生み出す可能性があると 考えられるか。中小企業診断士として , 100 字以内で述べよ。 第 4 問 ( 配点 20 点 ) A 社および関連会社を含めた企業グループで , 成果主義 に基づく賃金制度を , あえて導入していない理由として , どのようなことが考えられるか。 100 字以内で述べよ。 第 5 問 ( 配点 20 点 ) A 社の健康ソリューション事業では , スポーツ関連製品 の製造・販売だけではなく , 体力測定診断プログラムや認 知症予防ツールなどのサービス事業も手がけている。そう したサービス事業をさらに拡大させていくうえで , どのよ うな点に留意して組織文化の変革や人材育成を進めていく べきか。中小企業診断士として , 100 字以内で助言せよ。 2 . 中小企業の診断及び助言に 関する実務の事例Ⅱ B 商店街は , ローカル私鉄の X 駅周辺に広がる商店街 である。 B 商店街域内の総面積は約 4 万 m2 ( 店舗 , 街路 , 住宅 , 公園を含む ) であり , 約 180 店が出店している。商 店街運営は B 商店街協同組合が行っており , 約 8 割の店 舗が組合に加盟している。組合には加盟店から選出された 理事 13 名 , 専従職員 2 名が属している。組合運営費 ( 専従 職員給与 , 街路灯保守費 , イベント実施費など ) は , 月数 千円の組合費 , 各種補助金 , 組合事務所のイベントスペー ス収入 , 駐車場収入などから賄われる。 現在の代表理事は商店街で寝具店を営む 50 歳代男性であ る。代表理事が先代から寝具店を引き継いだ頃 , 後述する 総合スーパーの出店により , 経営は厳しいものであった。 しかし , 購入者向けのアフターサービスに注力した結果 , 経営が安定し始めた。現在は後継者に店舗経営を任せ , 自 身は組合活動に軸足を移している。 現在の代表理事も以前は , 持ち回りで選出された他の理 事と同じように , 運営に対して消極的な理事の 1 人であっ た。しかし , 寝具店の後継者が決定後 , 県が主催したセミ ナーで全国の商店街活性化事例を目にした。このセミナー をきっかけに , 後継者が将来にわたり寝具店を経営し続け るためには , 商店街全体の活性化が必要であると感じ , 以 降は積極的に組合運営に関与するようになった。その後 , 代表理事に就任し , 10 年後を見据えた組合運営という方針 111
中小企業診断士第 2 次試験【出題傾向・解答例と学習のポイント】 ポイント解説・ 中小企業の診断及び助言 に関する実務の事例 I 前田進 株マネジメントコア前田代表 中小企業診断士 中居広行 株 MMC 主任講師 中小企業診断士 1 . 出題傾向 組織事例の設問の構成については , これまでの出題 傾向から大きく 3 つに分けて考えることができる。 1 つ目は「環境分析的な問題」であり , 2 つ目には「現 在および今後の事業構造や事業展開」 , 3 つ目には 「事業構造や事業展開に関連した組織構造・人的資源 管理の問題点と改善策」 , などである。 平成 27 年度の組織事例も , 基本的に同様の構成であ る。環境分析的な問題として , 第 1 問はスポーツ用品 事業の市場特性 , 第 2 問はプラスチック製容器製造事 業を関連会社に移管した理由が問われている。事業展 開に関連した問題として , 第 3 問はプラスチック製容 器製造事業の売上が 60 % を占めるようになったことに よる , 今後の経営課題が問われている。人的資源管理を 通じての現状分析的な問題として , 第 4 問は成果主義 に基づく賃金制度を導入しない理由を求めている。組 織・人事の問題として , 第 5 問はサービス事業を拡大 するための組織文化や人材育成の留意点を求めている。 例年の出題から見た難易度としては , 事例 I ( 組織 事例 ) は , 事例Ⅱ ( マーケティング・流通の事例 ) や Ⅲ ( 生産・技術の事例 ) と比較すると , 事例文中に解 答のヒントとなる与件が少ない特徴がある。設問が要 求している内容は , 比較的捉えやすく , 解答のイメー ジもつきやすいものの , 解答を考えるにあたって事例 文にヒントが少ないため , 自信をもった解答が書きが たい点では難易度が高いと言える。本年度の事例も例 年と同様 , 解答に利用できる与件が少なく , 対応が難 しい事例であった。 企業診断 2015 / 12 え方がある。それは , 1 次試験の企業経営理論で学習 組織事例を解答するにあたり , 重視すべき 1 つの考 2 . 設問文・事例文を読み込む際のポイント したチャンドラーの「組織は戦略に従う」という命題 である。組織事例は , この基本的な考え方を押さえて おけば , 比較的事例文が読みやすくなり , 解答が考え やすくなる。ただ , 経営戦略が直接出題されたことは なく , 戦略と同様の意味合いで事業構造・事業展開が 出題され , それに対応した組織構造のあり方 , 人的資 源管理のあり方が問われている。 先に説明した設問の構成に当てはめて考えると , 事 例 I は組織事例であり , 組織は戦略に従うことから , 組織や人事の改善策を問う設問の前に , 新たな事業構 造や事業展開 , または , 現事業構造・事業展開のメリ ットやデメリットなどの整理を問う問題が出される。 また , 新たな事業構造や事業展開 , 現事業のメリッ ト・デメリットなどは当該企業を取り巻く環境との関 係から判断されるため , 事業構造・事業展開の前に 環境分析的な問題が出題される。これを整理すると , 下図のような流れで単純に整理できる。この基本的な 流れを押さえながら設問を読むことで , 各設問の意図 ( 題意 ) が捉えやすくなり , 解答が考えやすくなる。 なお , 本試験の事例は , おおよそ上記の流れで出題さ れているが , 設問の順番が多少異なるケースもある。 ①経営環境の分析 3 事業構造・事業展開に沿った組織構造・人事制度 3 . 解答例 第 1 問 ( 配点 20 点 ) スポーツ用品事業の市場は , ①少子高齢化に伴うシニ ア層向けスポーツ市場の伸長 , ②早期参入による高い 市場浸透度や国内市場シェアの確保 , ③人気の移行な どによる激しい需要変動 , 等の特性があると考えられる。 121
第 2 問 ( 配点 20 点 ) 関連会社を設立し移管した理由は , ①特許技術を活か した技術難度の高い事業であり , ②これまでの自社プ ランド展開とは異なり , メーカーからの受注生産であ ること , また③再起をかけた事業であり , 利益責任を明 確化し既存事業の影響を少なくするためと考えられる。 第 3 問 ( 配点 20 点 ) 課題は , ①売上構成比の高いプラスチック製容器製造 の売上の維持・向上 , ②他事業の売上拡大による特定 事業依存のリスクの削減 , ③ A 社技術を下支えする 自動車部品事業の従業員のモラール低下の防止 , 等が 第 4 問 ( 配点 20 点 ) 考えられる。 122 解答を展開するコツである。 ることが , 80 分という限られた時間の中で , 的を射た である。事例文に記されている与件を利用して解答す 事例文は , 診断先企業である A 社を調査した結果 重要である。 は , ます , 調査結果でもある事例文を利用することが れることが多い。このような設問で解答を導き出すに 組織事例の第 1 問では , 環境分析的な問題が出題さ があると考えられるかを , 100 字以内で求めている。 てきたスポーツ用品事業の市場には , どのような特性 ゲートボールやグラウンドゴルフなど , A 社を支え 第 1 問 ( 配点 20 点 ) 4 . 解答にあたっての着眼点と解説 する。 修や適正な人材配置等で人材育成を進めることに留意 を高め組織文化を変革すると共に , ②専門的な外部研 織の設立や , 業績給的要素の強化等でチャレンジ精神 A 社は , ①サービス事業拡大のためのプロジェクト組 第 5 問 ( 配点 20 点 ) ためである。 事業が成立しており , 事業別・個人別の評価が難しい 品拡大を追い風に成形技術を高めるなど企業内連携で 大きな差異があり , また , ② A 社事業は , 自動車部 理由は , ①事業別の売上構成比や 1 人当たり売上高に ただ , 組織事例は , マーケティング事例や生産事例 に比べ , 明確なヒントの記述が少なかったり , 見つけ にくかったりすることが多い。このような場合であっ ても , 一般論的な内容を解答するのではなく , できる だけ事例文中に , 解答として利用できそうな与件はな いかどうかを探し , なるべく与件を活かした解答を作 り上げていきたい。 事例文には , 解答に活かせる次のような与件が記さ れている。 ・少子高齢化社会を目前に控えたわが国でその市場は 徐々に伸長し , ・ 1980 年頃認知度が高まりつつあったゲートボールの 市場である。 ( 中略 ) バドミントン関連製品の製造 で使用していた工場をゲートボール用品工場に全面 的に改装し , 自社プランドでの販売を開始した。 ( 中略 ) A 社の製品が市場に出回るようになった。 ・その後 , ゲートボールの人気に陰りがみられるよう になったために , 次なるスポーツ用品事業の模索が 始まった。 ・新規事業を模索していたスポーツビジネスでは , シ ニア層をターゲットにしたグラウンドゴルフ市場に 参入し , 国内市場シェアの 60 % 以上を占めるように なった。 以上の与件から , 次の特性を導き出すことができる。 ①少子高齢化に伴い , シニア層向けのスポーツ市場が 伸長している。 ②市場へ早期に参入した場合 , 市場浸透が早く , また 高い国内市場シェアの確保が期待できる。 ③ゲートボールからグラウンドゴルフへの人気の移行 など , 人気に伴う需要の変動がある。 また , 次の与件文から , 以下のような特性を考える こともできる。 ・第 1 次オイルショックと前後して , 台湾製や中国製 の廉価なシャトルコックが輸入されるようになると , A 社の売上高は減少した。時を同じくして , 木製ラ ケットが金属フレームに代替されたこともあって , A 社の売上高は最盛期の約 70 % 減となり , 一転して 経営危機に直面することになった。 ・ゲートボールやグラウンドゴルフなどのシニア向け 事業で培ってきた知識・経験 , そして , それにかか 企業診断 2015 / 12 わるネットワークを活用できることから , スポ ーツ