聞い - みる会図書館


検索対象: 疵を継ぐ者 前編
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1. 疵を継ぐ者 前編

132 「真っ直ぐ帰れよ。へんなのにからまれたら俺の名前言え」 頷き、去っていく梅姿の後ろ姿を見送り比嘉は大きくため息をついた。 「なんか、かわいっすよねえ。日本語、勉強したなんて健気で」 思わすもらした仲間の一言に、比嘉は眉をつり上げ、腕を後ろに振り上げた。 「み、うつ」 こぶし 仲間は顔の正面に拳の一撃をくらった。顔をのけ反らせ鼻を押さえた。 「馬鹿野郎 ! 寝ばけたこと言ってんしゃねえぞっ ! 誰が好きであんなガキ相手にするか そうだ。 すべては四堂流を追いつめるための布石だ。 機が熟するのを待ってやつを潰す。前にやっと対峙した時は邪魔がはいって勝負はお預けの ままだった。 あの時、やつにつけられた頬の傷は消えたが、プライドが許さずにはおかない。 頬を人差し指で撫ぜ、比嘉はにやりと笑った。 ほお ふせき たいじ

2. 疵を継ぐ者 前編

にしている余裕は、なかった。 「治るのか、死ぬのか、それだけ教えてくれよ・ : ひざ 膝に置いた手でズボンをぎゅっとっかんだ。そうしていなければ医者に擱みかかってしまい そうだった。手はぶるぶる震えていた。 「余命は半年 : : : 、だと思ってほしい 余僉半年 ? え ? え、余命 : 足元が崩れ落ちる感覚に、思わず椅子のふちをつかんだ。体から血の気が引いていくのがわ カオ ようよ だが、聞かなければならない。流は漸う首を持ち上げ、ロを開けた。 。言ったよな。ガン、手術でとったからって ! と 「だって、治るって言ったじゃないか : ・ ったら治るって言ったしゃないかリ言っただろう 「な、流君ー 流はやにわに医者に掴みかかろうとした。 が、 ) 指が触れる前に後ろから両腕を捕まれ、カ任せに引き戻された。 T はな、離せよっ ! 」 椅子に無理矢理座らされ、木佐の腕が荒い息で上下する肩を押さえつける。 「彼は今、話ができる状態じゃない。時間をもらえますか」

3. 疵を継ぐ者 前編

「それしゃあ、明日学校が終わったら病院に必ず来てください、 「あ、ああ。わかった」 もくれい 木佐は流の返事を聞くと、黙礼し、廊下を歩いていった。 結局、答えなかったな。流が遠ざかる後ろ姿を眺めていると、木佐が振り返った。 「一一一一口い忘れてましたが、日比野さんがもうすぐ戻られます 「え、日比野さんが ? 「来週です 「えっ ! もうすぐじゃんか ! 早く言えよ」 「すみません。このところばたばたしていたもので」 「そっか : 。日比野さんが : うれしそうに独りごちる流を残し、木佐は再び踵を返した。 いちまっ 心の中で、木佐はなんとも言い表せない一抹の感情を抱えていた。 流は自分に敵意を持つ者以外はそれが誰であれ、心を開く。無防備なまでに。 だか、どうした事か自分にだけはそうはしない。流がしようとする事をことある毎に諫めて いるのが気にくわないのかもしれない。 けもの が、そんな時流は追い詰められた獣のような瞳で木佐を睨みつけるのだ「 嫌われたものだな。 ひと にら ごと

4. 疵を継ぐ者 前編

ほうき いて語る努力を放棄した。 「まっ、、 ) > しさ。俺、そろそろ行くわ」 ュエン 元が話を切り上げ、デイバックを片手に立ち上がった。 「え、今日は時間あるんしゃないのか」 かぜ 「悪い、仲間が風邪ひいてさ。バイトはいってくれって連絡あったんだ」 時間を気にしながら、元が席を立ち去ると、入れ代わりにシェイクを手にした京也が戻って きた。 「どうする、フェンウェイ。市井んとこでも寄ってみるか ? 「・ : ・ : あ、いや。今日はよしとく。店、手伝えって言われてるし : ・ ノイメーイリ・ン 「しゃあ、俺も〈白梅林〉寄ってく。最近、おばさんに会ってないし」 つか いいって、ほんとに ! そんな気い遣うなよ ぶんぶんと腕を振るフェンウェイは、探るような流の視線に耐えられなくなって横を向い 堵「 : : : おかしい。お前なんか隠してるだろう」 不自然な言い訳に、流がつつこみを入れる。 疵 : 「おい、吐けよ 「なんにも隠してねえってー ュエン いちい

5. 疵を継ぐ者 前編

「そうだ、俺がコーヒーを淹れるんだ。おかしいか」 しいえ」 たび 戸惑い気味に首をふったが、木佐には「鬼」と異名をとり、抗争の度に先頭に立ち、命を張 ってきた男がコーヒーを淹れている図は想像できなかった。 「いや、おかしい。俺だっておかしいと思う」 日比野の口から笑いが漏れた 命張って組を護って 「あいつの為にしてやりたいんだ。総長の頼みを蹴ってまでしてな : ・ ぐさ きたが、 自分の女房一人護れなかったなんざお笑い種だ。何を護らなきゃならなかったか、今 になって気づくなんて」 木佐は黙って日比野の独白を聞いていた。 「木佐、お前は俺みたいなるなよ。護るべきものを護りぬけ 編 , ・ー・ーーーー護るべきもの : 前 目の前の日比野には「鬼ーと呼ばれた頃の気迫はまったく感しられない。ただ妻の死を悲し 者 む一人の男がいた。 継 を そんな後悔など俺はしない : 疵 自分が護らなければならないもの。 それがなんであるか、木佐には既にわかっていた。 すで いみよう

6. 疵を継ぐ者 前編

せトようそう った。東の形相に男は怯む事なく銃を構えた。 ばんー 銃弾は体を逸れた。東は揺らぐ事なくべレッタを構え突進する。 「おい、なにしてるー 後方の寺から人が出てきた。男は慌てて車に戻る。男が乗り込んだ瞬間、車はタイヤから煙 を上げ、急発進した。クラクションを鳴らし続け、道路を走る他の車を蹴散らし、走り去っ た。 ちくしよろ・ 「畜生っー 「止せ」 東がべンツに走るのを木佐が止めた。 「もう追いつけん。それに : : : 誰がやらせたか大体わかってる」 ぼうぜん 日比野は呆然としていたが、木佐に引き倒された流が動かないのを見て体を起こした。 編 前 「坊ちゃんは大丈夫か卩」 がんめんそうはく 者 木佐の下で、流は顔面蒼白だった。 を「流様 ! 大丈夫ですか ! 」 なんとも : ・ 「なんとも・ : ない : 流は腕をついたまましっと動かない。木佐に助けられ、ようやく立ち上がった。 ひる

7. 疵を継ぐ者 前編

「流様ー 「平気だ」 ロだけを動かして、流が言った。表情に全く変化はない。全くの無表情。それが木佐を余計 不安にさせた。 「ですが・三 : 」 「平気だつつってんだろリ」 ゅうやみ 絶叫に近い声がタ闇に響き渡った。近づこうと歩きだした木佐の足は金縛りにあったように 止まった。ドアを背にして、頭を垂れる流の表情は前髪に隠れて見えない。 一人にしてくれよ : : : 帰ってくれよ」 一転して消え入りそうな弱々しい声で懇願され、木佐はそれ以上何も言えなかった。 たった一人の身内があと数カ月の命だと知らされたのだ。こんなにも打ちのめされている流 を放ってはおけない。だが。 「 : : : わかりました」 後ろ髪を引かれたが、木佐は思いを断ち切り車に乗り込み、イグニッションキイを回した。 低いエンジン音を聞きながら、ハンドプレーキを下ろし、ギアを入れアクセルを踏む。 間をあけたら決、いが 0 てしまいそうだ 0 た。 ゆっくりと進む車内、木佐はバックミラーを見た。鏡の中には小さくなっていく流の背中が こんがん かなしば

8. 疵を継ぐ者 前編

冷静な木佐の声が頭上でした後、体ごと引きすられた。抵抗しようとしたが心に反し、体は ぎくしゃ / 、としか動かない。 ま 4 つあ - い 木佐の腕が体から離れたのは観葉植物に囲まれた待合スペースでだった。 あれほど抵抗していた流だったが、木佐の手を払おうともせす、されるがまま呆然とソファ ーに座った。荒い呼吸がおさまってからは黙ったままだった。黙って一点を見つめていた。 「・ : ・ : 親父、死ぬって 長い沈黙の後、流の口から呟きが漏れた。 ひとごと 独り言か、問い掛けなのかわからす、隣に座った木佐は黙ったままだった。 「そんなの : : : 」 心中で繰り返してみた。余命半年、 , 今の流には何度繰り返してみても真実味を持たない言葉 立こっこ。 編 前ーーーーー半年後には親父は死ぬ。 堵「嘘だ」 、言ってみるが、声は弱かった。医者の告知だからといって受け入れられるわけがない。 疵 : ・死ぬって ! 」 「なあ ! なんで黙ってんだよ。お前も聞いたろ。親父が治らないって、 自問してもどうにもならす、流は木佐にその矛先を向けた。 ほこさき ぼうぜん

9. 疵を継ぐ者 前編

「じゃあ、とりあえすは俺が狙われる心配はないってことか ? 」 あきら 「そうも言ってられないんしゃないか。やつがそう簡単に流を諦めるとは思えないなあ けんかい それまで黙っていた京也が個人的見解を突然口にした。流は穴のあくほど発言者を見つめ て、お前比嘉を見たこともないだろ : : : 」 「話を聞いてるだけで人柄なんてわかるんだよ。そういうやつは蛇のように執念深い。虎視 たんたん 眈々と流を狙ってるさ 嫌な空気が流れた。当てずつばうな憶測とはいえ、遠くはない。 あた どうもうそうぼう たいじ えもの 流は比嘉と対峙した時の、やつの獲物を狩ろうとする獰猛な双眸を思い出し、辺りを見回し ふとゴミ袋を持った店員が通りがかり、気づいた京也が手を上げた。 「あ、お姉さん。シェイクひとつ。ストロべリーね」 前「は ? 緒一瞬言葉に詰まった店員は、それでもなんとかマニュアル通りの返事をしどろもどろに返し 継てきた。 疵 : 、セルフサービスになってますん 「あ、あの、当店はファーストフードショップでして : で、ご注文はカウンターでお願いします ,

10. 疵を継ぐ者 前編

そな 所の扉はこうした事態に備えて鉄でできている。 「撃ち込まれたのは三発。組員にケがはなかったが、若いのが息巻いてな。押さえるのに一苦 労よ , 両国の向かいに腰を下ろした木佐は眉をひそめて聞いていた。 「田島か : : : 」 「おう ( 敵さんはやる気まんまんだぜ」 「しかし、なぜあんたの所を : : : 」 「日比野が俺ん所にいるとでも思ったんだろう。まさか喫茶店経営を始めようなんざ田島は思 ってもいないだろう」 「知っていたんですか」 両国は白い歯を見せて笑い、カりがりと頭をかいた しどうわかがしら 編「まったく信じられん事態だ「四堂の若頭まで上り詰めた男が組をやめて何をはしめるかと思 前 えば喫茶店だと ? あきれるね」 いあっ 者 そう言って両国はテープルから一本ずつ足を下ろし、人を威圧できる程に幅も厚みもある体 をを則に折った。 たけ くる そうぼう 猛り狂う嵐の色を映していた。 木佐を正面にとらえ、近づいた双眸はさっきまでとは違い「 おやじ 「総長がなんて言ってるか知らんがな。ここまでばかにされて、組員は爆発寸前だ。押さえる たじま ひびの