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検索対象: ビジネス法務 2016年6月号
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1. ビジネス法務 2016年6月号

及されるリスクも考えられる。 2 新規事業についての法的規制 新しいサービス等についての適法性の検証 にあたり , 詳細なリサーチをしたい場合など は顧問弁護士に依頼することが有用である。 特に許認可を伴うサービスでは , 必要な許認 可を得ていなかったとして行政官庁から問題 視された場合 , 当該サービスを継続すること ができなくなる可能性も十分に考えられる。 また , べンチャー企業の場合は , これまで他 社が行っていない事業領域を新たに開拓する 場合も多く , 法的にグレーなケースもある。 この点 , 法律事務所は複数の企業から同様の 相談を受けているため , さまざまなビジネス モデルに照らして複眼的に検討していける可 能性が高く , グレーな領域の中でも , リスク を取って行ってもよいレベルか , 辞めたほう がよいレベルかという点の温度感を伝えるこ とができるケースもある。また , 顧問弁護士 を使えば , 行政官庁に確認する際に匿名性を 維持できるというメリットもある。 3 法律の改正に関する情報の共有 業界についての規制については , 顧問弁護 士より社内法務部のほうが情報を得られやす いかもしれない。他方 , 会社法 , 金融商品取 引法 , 商業登記法 , 個人情報保護の法律に関 する法律等 , 一般性の高い法律についての改 正動向については , 顧問弁護士から適宜情報 を得られるような関係を構築しておくとよい だろう。法務部が一般性の高い法律の改正動 向に疎いというわけではないが , 一般的に 顧問弁護士のほうがさまざまな企業から同時 に相談を受けているため , 先に検討している 確率が高いという意味でアドバンテージがあ ることが想定されるためである。改正法につ いては解説本などもあまり充実していないこ とが多いため , 顧問弁護士が具体的な実務に あてはめて検討したことがある場合には , 自 力でリサーチするよりもこちらに聞いてしま ったほうが効率よく処理することができる。 4 社内勉強会やセミナーの開催 社内勉強会や社内セミナーについては , 対 象とテーマによって , 社内法務部が行ったほ うがよい例と , 顧問弁護士が行ったほうがよ い例が考えられる。 たとえば現場担当者向けのセミナーでは , 社内のビジネスをよく知っている法務部が行 ったほうが , 実りのある内容になるかもしれ ない。たとえば , 取引先が契約書ではなく申 込書べースで進めたいと言っているがよい か , 値引きを求められているがどこまで応じ てよいか , など現場から日常的に上がってく る問題に対しては , 現場の事情にも精通して いる社内法務部のほうが , 現場のニーズをふ まえた満足度の高い講義を行うことができる のではないか。他方 , 社内の一般社員向けの セミナーであっても , セクハラ・パワハラに ついてのセミナーやコンプライアンスについ てのセミナーなどは , 外部の弁護士が行った ほうが遠慮なく説明できる , 他社の事例もふ まえて説明できるという側面があるため , 顧 問弁護士に依頼することが考えられる。ま た , 営業秘密の管理やインサイダー取引 , 法 改正についての講義など , 主に法務部や管理 部門向けの講義 , 新任取締役の研修など役職 の高い人向けの講義も , 顧問弁護士が行った ほうがよいかもしれない。 このように対象とテーマによって社内外の リソースを使い分けることが有用である。 5 紛争案件においての対応 冒頭にも述べたように , 紛争案件について は顧問弁護士に依頼したほうがよいと思われ る領域である。紛争は , 特に裁判になると準 備に多大な時間がかかるうえ , ある程度経験 38 ビジネス法務 2016.6

2. ビジネス法務 2016年6月号

業イメージ等を含む社会的評価が損なわれる おそれも想定できる。 所属先企業の業種等により企業イメージ等 を含む社会的評価がどの程度重視されるかに もよるが , 所属先企業が特定されうる態様に よる兼業は企業秩序に影響するとの評価につ ながりやすい。 ( 6 ) 企業イメージ等を含む社会的評価を重視 する企業における兼業 所属先企業が上場企業の場合や , 企業イメ ージその他社会的評価が業績に影響しやすい 業種の場合には , 兼業の内容いかんにより企 業イメージの毀損その他社会的評価を低下さ せる恐れがあるため慎重に検討する必要があ る。裁判例においても , 兼業の社会的評価に 与える影響が考慮されている 4 ⑦その他兼業を禁止すべき特別な事情があ る場合 裁判例の中には , 従業員の長時間労働によ る肉体的疲労度を軽減し , 就業時間中の作業 能率を向上するために , 時間外労働および休 日労働を廃止する代わりに特別加算金が支給 されていた期間中に兼業が行われた事案にお いて , このような事情がある場合 , 従業員に は自己または他の従業員の作業能率や意欲を 低下せしめるような言動を慎むべき忠実義務 があるとして , 他社での就労の噂を流して兼 業を行った従業員に対して兼業禁止規定を適 用した例がある 5 2 労務提供への支障に関する評価 ( 1 ) 多日数 , 長時間 , 深夜・早朝または肉体 的精神的疲労度の高い兼業 所定労働時間中に予定される兼業は労務提 4 日本放送協会事件・東京地判昭 56.12.24 。 5 和室内装備事件・福岡地判昭 47.10.200 6 辰巳タクシー事件・仙台地判平元 .2.16 。 どこまで OK ? 社員の兼業郞 供に支障が生ずるものとして当然ながら不許 可とされるべきものであるが , 所定労働時間 外や休日における兼業であっても , 日数が多 い兼業に従事する時間が長時間 , 深夜早朝に わたる , 精神的肉体的疲労が高いなどの事情 がある場合 , 労務提供に支障が生ずる可能性 が高いといえる。 なお , 1 週 40 時間および 1 日 8 時間を所定 労働時間とするいわゆるフルタイム勤務でな い場合 , 元々兼業に従事することが予定され ていると評価できる場合も多い。 ( 2 ) 十分な休息が求められる業務に従事する 者による兼業 裁判例においては , タクシー運転手が兼業 をしながら運転業務に携わることが事故防止 の達成を危うくさせるとの理由から , 兼業禁 止規定に抵触すると判断したものがある 6 兼業先の業務がバスや鉄道の運転手 , パイ ロットなど所属企業での業務が顧客の生命身 体の安全に関わるような場合 , また , 重機の 取扱いや高所での作業を伴うなど兼業者自身 の生命 , 身体に危険を伴うような業務の場合 など , 所属先企業における業務の性質上 , 所 定労働時間外に十分休養することが求められ る場合には , 比較的短時間であり必ずしも肉 体的精神的に負荷が高いと言えない兼業であ っても , 所属先企業での労務提供に支障を生 ぜしめるものとの評価につながりやすい。 朝兼業許可に関する実務対応 1 兼業許可申請書の提出および面談実施 従業員から兼業許可申請があった場合 , 会 社としては , 【図表 2 】記載の事情を総合考 ビジネス法務 2016.6 123

3. ビジネス法務 2016年6月号

とせず , 通過するだけの商品についても , 欧 州連合商標が付された商品の EU 圏内への持 込みを妨げることができるようになった。た だし , 商品の所有者によって , 当該商品の最 終目的地において商標権者が当該商標の使用 を禁止する権利を有しないことが証明された 場合にはこの限りではない。 これらの改正により , 偽プランド品等に対 して効果的に対抗できるようになることが期 待される。 7 抗弁事由の変更 次に , 商標権者による侵害の主張に対して 被告が主張できる抗弁事由が変更されている 点を紹介しておきたい。 まず , 今般の改正により , 登録商標と同一 または類似の自己の名前または名称を使用し ていた場合に , 自己の名前を使用しているこ とを抗弁事由として主張できるのは自然人に 限られることになり (EUTMR12 条 1 項 ( a ) 号 ) , 法人は自己の名称を用いていることを抗弁事 由として主張できなくなった。 また , 商標権者の商品・役務を識別するた めに登録商標が使用されている場合 ( いわゆ る参照使用の場合 ) には , その使用が意図さ れた目的を表示するために必要であって , か つ , それが産業上または商業上誠実に行われ ている場合に限り , 商標権侵害とならないこ とが明らかにされた (EUTMR12 条 1 項 ( c ) 号 , 2 項 ) 。これは , 欧州司法裁判所が認めてき た比較広告の抗弁 11 , 12 が EUTMR に組み込ま れたものであるといえる。 8 Certification Ma 「 k 制度の創設 そのほか , 商品やサービスの特徴を保証す る機能を持つ Certification Mark の制度が設 けられる予定である (EUTMR74 条。発効は 2017 年 9 月 24 日 ) 。 朝商標指令 1 改正の概要 EU の商標は , EU べースで独占的使用を認 める欧州連合商標と EU 各国べースで独占的 使用を認める各国の商標との 2 層構造になっ ており , 後者は「商標指令」によってハーモ ナイズされた各国法によって規律されてい る。 1989 年に商標指令が発効した際には , 各 国の商標の実体法の側面を統一することにス コープが限定されており , 手続法の側面の違 いは統一されなかった 13 。そのため , 国によ っては商標に関する行政手続が整備されてお らず , 時間と費用をかけて商標の取消しなど の裁判手続を行わなければならない場合もあ った。今般の商標指令は , 異議 (Opposition) , 取消し (CanceIIation) , 無効の宣言 (DecIarations of lnvalidity) に関する行政手 続を設けるよう各国に義務付けており ( 改正 商標指令 47 条 ) , 今後は EU 全域で同じ手続の 枠組みとなっていくことが期待できる。 また , 各国の商標の実体法の側面について も , 改正後の商標指令は , 欧州連合商標規則 とほば同内容の各国法を整備するよう各国に 義務付けている「 graphical representation 」 ( 視覚的表示 ) の要件の削除については改正 商標指令 3 条 , 絶対的拒絶事由の拡張につい ては改正商標指令 4 条 1 項 ( e ) 号 , 準備行為が 商標権侵害に該当することについては改正商 標指令 11 条に , それぞれ前記 I で説明した内 11 Case C -533 / 06 , 0 2 v. Hutchison (June 1 2 , 2008) , Case C -487 / 07 , L' O 「 ealv. Bellu 「 e (June 1 8 , 2009 ). 12 なお , 比較広告に関する欧州の指令は , Di 「 ective 2006 / 1 14/EC of the Eu 「 opean pa 「 liament and of the CounciI of 1 2 Decembe 「 Conce 「 ning Misleading and Compa 「 ative Adve 「 tising (codified ve 「 sion), 2006 0 J. ( L376 ) 21 . 13 前掲注 8 ・ Ku 「 22 ~ 23 頁。 118 ビジネス法務 2016.6

4. ビジネス法務 2016年6月号

従前の 費用 商標登録申立て費用 1 class 2 class 3 c lass 以後 1 class 追加ごとに 更新費用 3 c lass 2 c lass 1 c lass 以後 1 c ss 追加ごとに 変更後の 費用 150 1050 900 850 1050 900 850 630 320 1 50 720 合には , 2016 年 9 月 23 日までに修正を申請 する必要がある (EUTMR28 条 8 項 )。 この点については , 2012 年 6 月 19 日に , 欧 900 900 900 1 50 400 1350 1350 1350 州司法裁判所が , ス分類の Class その他の手続費用 異議 (opposition) 無効 (invalidity) または 取消し ( revocat i on ) 上訴 (Appeal) 800 350 700 ても手数料は同じであったが , 変更後は 1 分 類または 2 分類の申請で足りる場合にはそれ に留めるほうが手数料は節減できる。これま で使用する商品・役務の分類が 1 分類または 2 分類であるにもかかわらす常に 3 分類申請 する方針を採ってきた企業においては , 申請 方針を見直すことが望ましい。 3 指定商品・指定役務の特定方法に関する 留意点 日本企業が最も注意しなければならないの が , 指定商品・指定役務の特定方法である。 特に , 2012 年 6 月 22 日よりも前に登録申 請した共同体商標がある場合 ( 申請日べー ス ) には , 指定商品・指定役務を修正する必 要がないか速やかに検討し , 修正が必要な場 Heading の一般的記載を商品・役務の指定に 使用する場合には , 一覧表に含まれるすべて の商品・役務を対象とする意図なのか , それ らの商品・役務の一部のみを対象とする意図 なのかを明確にしなければならない旨を判示 し 3 , 4 , それ以前に登録された共同体商檀に ついては Class Heading の文字通りの意味に 加えて , 出願時の一覧表に含まれるすべての 商品・役務をカバーするものとして解釈され てきた 5 。ところが , 今般の改正により , 欧 州連合商標の指定商品・指定役務は , 出願時 占にかかわらずニース分類の Class Heading を用いる場合であっても文字通りに解釈され ることになった (EUTMR28 条 5 項 ) 。そこで , 2012 年 6 月 22 日よりも前に ース分類の Class Heading に従って商標を登録した場合 であって , Class Heading の文言によってカ バーされる範囲を超えて商品やサービスにつ いて商標の保護を受けることを希望する場合 には , 2016 年 9 月 23 日までその内容を DecIaration によって修正できることになっ た (EUTMR28 条 8 項 ) 。 4 マドプロ商標による国際商標出願に対す る異議の開始時期の変更 日本企業が次に注意しなければならないの が , マドプロ商標による国際出願に対する異 議の開始時期の変更である。 従前は , 公告日の 6 カ月後から起算して 3 3 Case C -307 / 1 0, Cha 「 te 「 ed lnst. of Patent AttO 「 neys v. Registe 「 Of T 「 ade Ma 「 ks (June 1 9 , 2012 ). 4 イギリスで出願された「 IP TRANSLATOR 」商標について , ース分類の第 41 類の Class Heading の一般的記載を用いて 商品・役務を指定したところ , その中には翻訳サービスが含まれているため , 当該サービスとの関係で商標は記述的であり識 別性を欠くとして登録が拒絶されたことが争われた事案。 5 ただし , 必ずしも各国で取扱いは統一されてこなかった。 JET 日 O デュッセルドルフ事務所作成に係る 2013 年 5 月 7 日付 「欧州共同体商標意匠庁 , 旧 T 「 an 引 ato 「判決の実施について各国商標庁との共同通知を公表」と題する文書。 https: 〃 www. jet 「 0. go.jp/ext—images/world/eu 「 ope/ip/pdf/201 30507. pdf 116 ビジネス法務 2016.6

5. ビジネス法務 2016年6月号

いま求められる人権デュー・ディリジェンス 特集 2 先に対し影響力を行使するための法的根拠を 価も含めて , 慎重な調査を行う必要がある。 明確化できる点に意義がある。 具体的には , 移民労働者からの直接のヒアリ ングや外部専門家からの助言を通じて , 労働 日弁連人権 DD ガイダンス第 5 章は , サプ 待遇の状況や強制労働の有無を検討すること ライチェーンにおける CSR 条項モデル条項を 提唱している。モデル条項の特徴としては , が考えられる。 調査の結果 , 人権侵害への関与が判明した 第 1 に , 発注企業とサプライヤー間の信頼関 係を重視する日本の調達実務に整合するよう サプライヤーに対しては , 是正措置を要求 し , 是正が困難な場合には取引の停止も検討 に , サプライヤーへの一方的な要求ではな く , サプライヤーと発注企業の共同の取組み する必要がある。 ただし , そもそも人権配慮に関する知識や に重点を置いている。第 2 に , サプライチェ 能力が十分でないサプライヤーも存在するた ーンにおける相互の情報交換を促進するため め , サプライヤーに対する情報提供・研修な に , 発注企業の情報提供義務 , サプライヤー どを通じて , 主体的な取組みを促すことが望 の報告義務 , 発注企業の監査・調査権などの 情報交換促進ツールを規定している。第 3 ましい。 に , 条項違反の場合に是正措置を要求したに 4 事例 2 における人権リスク対処例 もかわらず是正がなされない場合にはじめて 事例 2 においても , B 社は , 現地パートナ 解除するという段階的措置を規定すること ー Y 社との間のコンソーシアム契約に CSR 条 で , 指導原則 19 の解説に整合した影響力の行 使方法を担保している。各企業においては , 項を導入したうえで , CSR 条項に基づき , 現 モデル条項を参照しつつも , 人権リスクの高 地パートナー Y 社に対する調査を実施するこ とにより , 人権リスクを把握・評価すること さや個別の当事者や取引の状況において条項 が考えられる。 の内容を検討することが望ましい。 特に本件建設プロジェクトは , 法の支配の 確立していない新興国でのプロジェクトであ 3 事例 1 における人権リスク対処例 り , 現地住民の強制退去を伴い , かっ土地収 事例 1 では , A 社は , サプライヤーとの間 用手続に腐敗の介在も疑われる点で , 人権リ の契約において CSR 条項を導入したうえで , スクが高い案件といえる。そのため , 事業へ CSR 条項に基づき , サプライヤーに対し , 監 の参加にあたっては , 慎重な調査を実施する 査・調査を実施したり , 報告を求めたりする 必要がある。具体的には , 地元住民との対話 ことにより , 人権リスクを把握・評価するこ や外部専門家からの助言を通じて , 地元住民 とが考えられる。なお , 事例 1 では , 二次以 の生活環境の悪化の状況 , 先住民の文化の破 下のサプライヤーについても人権侵害が疑わ 壊の有無 , 腐敗の介在の有無に関して検討す れるところ , A 社とこれらの会社との間には ることが考えられる。調査の結果 , 人権侵害 直接の契約関係は存在しない。そこで , 一次 への関与が強く疑われる場合には , 是正措置 サプライヤーに対し , 二次以下のサプライヤ を要求し , 是正が困難な場合には取引停止も ーの状況に関して報告を求めるなど条項を工 検討する必要がある。 夫する必要がある。 なお , 現地パートナー Y 社は X 国の政府系 特に外国人研修生や派遣労働者を使用して 企業であり , 発注企業とサプライヤー間の関 いるサプライヤーに関しては人権侵害のリス 係と比較すると , B 社の Y 社に対する影響力 クが高いことから , 斡旋業者や派遣業者の評 特集 2 73 ビジネス法務 2016.6

6. ビジネス法務 2016年6月号

して初めて報告書を公表し , 同年 6 月にはユ 論が行われている。 RAFI が 2015 年 4 月に公 ニリーバが詳細な報告書を公表した。同社は 表した "Vision for Human Rights Assurance プレスリリースの中で , 「道のりは長く , によれば , 「有意義な保証とは , 単に企業が 我々だけで全てを達成することはできません 人権方針とプロセスの存在を報告しているか ーしかし前進するためには , 我々が直面して どうかを検証するだけでなく , それらが有効 いる課題を正面から見据え , 真摯に取り組む かどうかを考慮すべきである」とある。保証 ことが不可欠です」と述べている。このほ のレベルとしては , まずは「限定的保証」を か , H&M やネスレも , この枠組みを利用し 対象とするものの , 可能であれば「合理的保 た報告書の発行し始めている。 証」も検討するとしている。 これに対して Shift は , 「指導原則」に則っ 保証意見のプロバイダーは , 「保証のプロ たレポートのデータベース 1 。を構築し , 広く セスと発見事項について , 洞察に満ちた情報 閲覧できるようにした。現在 , 約 30 の企業が を提供」することが求められる。これは , 保 公開している。これらは「指導原則」で要求 証のプロセス , 特定された重要な課題 , 会社 される枠組み ( 例 : 人権方針 , デュー・デリ に対して行った提言について , 十分な情報を ジェンス , 救済措置等 ) に則って , 実績や活 提供する必要があることを意味している。表 動経過が報告されている。特にネスレ 11 につ 明する保証意見には , 会社の報告書の重要な いては , 方針 , 計画 , 目標 , 活動実績 , 定量的 脱漏または虚偽表示も反映していなければな なデータの詳細を開示している。これらは任 らない。このため , 保証を提供するにあたっ 意開示ではあるが , 同時に EU の会計指令 12 に ては , 一般的な保証技術に加え , 専門性も有 あるように , 法定開示も要求され始めてい していなければならないとしている。 る。同指令では , 欧州域内の対象企業に対し て人権やサプライチェーンに関する方針 , 活 Ⅳ今後の動向 動の進捗 , KPI の開示を求めている。 4 第三者による保証 「指導原則」そのものは法的拘束力を持た 「指導原則」には , 「人権報告を独立した第 ないものの , 国連人権理事会が "endorse" と 三者が検証することにより , その内容と信頼 いう最も強い言葉で支持表明した意味は重い。 性を強化することができる」と書かれてい 2010 年に発行された IS026000, 2011 年に改 訂された「 OECD 多国籍企業行動指針」 13 る。これは , 第三者による「保証」と理解し てもいい。 2012 年に改訂された IFC ( 国際金融公社 ) の 「持続可能性に関する枠組み」 14 および「パフ 「人権報告フレームワーク」の公表に続き , ォーマンス・スタンダード」 15 など , さまざ 「人権保証フレームワーク」の策定に向けて , さまざまなステークホルダーを巻き込んだ議 まな国際基準やガイドラインへの反映が進ん 10 http://www.ungp 「 epo 「 ting. 0 「 g/ 「 epo 「 tingdatabase/companies-page/ 11 http://sto 「 age.nestle.com/nestIe-society-fuII-201 4/index. html#204/z 12 http: 〃 eur-lex. eu 「 opa. eu/legal-content/EN/TXT/?u 「 i=CELEX%3A32014L0095 13 http://www.oecd.0 「 g/co 「 po 「 ate/mne/ 14 http://www.ifc.0 「 g/wps/wcm/connect/Topics_Ext_Content/lFC_Exte 「 nal_Co 「 po 「 ate_site/ Sustainability 十 and 十 Disclosu 「 e/Envi 「 onmentaI-Social-Gove 「 nance/Sustainability 十 F 「 amewo 「 k 15 http://www.ifc.o 「 g/wps/wcm/connect/c8f524004a78daeca09afdf998895a12/lFC_Pe 「 fo 「 mance_ Standa 「 ds. pdf?MOD=AJPERES 66 ビジネス法務 2016.6

7. ビジネス法務 2016年6月号

の 3 点である。 ①双方の立場に対応できるようになって いるか。 ②上記の立場に対応した文言選択の意味 を理解しているか。 ③事案に応じた条項の重要性を理解して いるか。 契約書は立場によって確認すべきポイント が異なる。たとえば業務委託契約では委託側 と受託側では留意すべき点が異なる。したが って , 双方の立場に対応できるよう同じ契約 書について 2 種類用意しておくなどの対応が 求められる。場合によってはチェックリスト の作成等も有用であろう ( ①の占 ) また , 法務部はもちろん , 現場担当者であ っても , なぜその文言を選択するのかという 趣旨は最低限理解しておいたほうがよい。た とえば , 受託者側のときに , 損害賠償の規定 で賠償範囲を「直接かっ通常」の損害の範囲 内とし , できれば損害賠償の請求額に上限を 設けたほうがよい理由は , 一般的に受託側の ほうが賠償請求されるリスクを負う可能性が 相対的に高いためである ( 委託側は委託料支 払以外には義務を負うことは少ないから , 違 反の可能性も少ないと言える ) ( ②の占 ) 最後の点は , 相手方との交渉において特に 重要である。たとえば上記の損害賠償の文言 は , 秘密保持契約書であればそもそも漏えい しないことが前提であるため , 仮に自社が情 報の受領者側であり損害賠償の範囲の限定を なくすよう求められたとしても基本的には受 け入れることもやむをえない。他方 , 中途解 約の条項は , 売上比率が高い取引に関連する 場合 IPO, M & A の際などに重要になるため , 粘り強く交渉したほうがよい , など事案に応 じて重要度が異なるため , それぞれの理由と ともに理解しておく必要がある ( ③の占 ) 上記の 3 点を最初にきちんと行っておく と , ( こちらから契約書を提示する場合だけ でなく ) 相手方のドラフトで契約する場合に もある程度社内で自信をもって修正案を提案 できるし , 顧問弁護士に質問するときもポイ ントを絞ることができ , ビジネス上のリスク ヘッジを安定的に図るのみならず「時間と費 用の効率化」「顧問弁護士の業務の一部内製 化」もうまく達成できると思われる。 会社法上の議事録 , 登記の整備 会社法上の議事録 , 登記手続等は自分で最 初から作成しようとすると時間を要してしま うが , 一度引継ぎが上手くできればその後は 定型的であるため内製化しやすい。したがっ て引き継ぎの際は , 現在の会社の登記手続の 状況についての把握と , 定型的な議事録類に ついてのひな型化もしておいたほうがよい。 スタートアップの中には登記すべき事項を 忘れていた , 議事録を作っていない等が発覚 し , あとから慌てて整備するという例もまれ にあるが , 法務部を構えるような段階になる とこのようなミスは許されない。そこで , 顧 問弁護士から引き継ぐ際に有用なのが , 登記 簿謄本と定款の読み合わせである。登記簿謄 本と定款には何が書いてあるのか , 通常の人 は目にする機会がないため , 法務部員であっ ても把握していないケースがある。しかし , 登記に何が書いてあるのか知らなければ , い つ登記の変更手続をするべきか知ることもで きないし , 定款の内容を知らなければ定款変 更の株主総会決議を行うべきか判断すること もできない。そのような意味でこの 2 つの内 容を理解することは非常に重要である。 そのうえで , ある程度 , 定型的な議事録類 はひな型化することができるため , 過去の事 例を顧問弁護士や司法書士から共有してもら うことが有用である。その際 , よくある場面 ごとに類型化して整理しておくとよい。会社 のステージによっても異なるが , 上場前のべ 2 36 ビジネス法務 2016.6

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森・濱田松本法律事務所編 編集代表稲生隆浩 ふまえて , 関連する IS027001 の条項番号を付記 して事件を東京高裁に差し戻した。 ( 安倍嘉ー ) したり , IS027001 で簡素化された記載ぶりを具 体化したりするなどし , 情報セキュリティ監査制 最高裁 , ヤフー・ IDCF 事件上告棄却で 度の円滑な運用をしやすいようにしている。 国側勝訴確定 ( 上村哲史 ) 2 月 29 日 , 最高裁は , ヤフー・ IDCF 関連の税 務訴訟について , いずれも納税者側の上告を棄却 特定商取引法・消費者契約法の し , 国側を勝訴させる判決を下した。 改正法案の国会提出 最高裁は , 法人税法 132 条の 2 ( 組織再編成に 3 月 4 日 , 特定商取引法改正案と消費者契約法 係る行為計算否認規定 ) が定める「法人税の負担 を不当に減少させる」ものかどうかについて , 組 改正案が閣議決定され , 国会に提出された。 織再編成税制に係る各規定を租税回避の手段とし 両法案は , 昨年公表された各法に関する専門調 査会報告書およびこれらに基づく消費者委員会の て濫用することにより税負担を減少させるもので 各答申をふまえて , 法改正を行おうとするもので あることとし , いわゆる「濫用」に当たるかどう かを判断基準とした。濫用の判断に当たっては , ある。 特定商取引法改正案では , 悪質事業者への対応 ①当該法人の行為計算が , 通常想定されない手順 として , 業務停止命令を受けた法人の取締役等が や方法に基づいたり , 実態と乖離したりするなど , 不自然なものかどうか , ②当該行為計算を行うこ 別法人を設立して同じ業務を継続することを禁止 する条項カ噺設され , 罰金を引き上げるなど刑事 とについて合理的な理由となる事業目的等が存在 罰を強化されているほか , 訪問販売に適用されて するか等の事情を考慮するとした。さらに , 判断 いる過量販売規制を新たに電話勧誘販売に拡大す の観点として , 当該行為計算が , 組織再編成税制 る規定等も盛りこまれた。 にイ↑る各規定 0 本来 0 趣旨および目的から逸脱す また , 消費者契約法改正案には , 過量な内容の る態様でその適用を受けるものまたは免れるもの 消費者契約に対する消費者の取消権の追加 , 取消 ( 酒井真 ) か否かをあげた。 権の行使期間の伸長 , 消費者の解除権を放棄させ る条項の無効に関する規定の新設などが含まれて 経産省 , 情報セキュリティ管理基準 ( 大室幸子 ) いる。 ( 平成 28 年改正版 ) を策定 3 月 1 日 , 経産省は , 情報セキュリティマネジ 金融グループ・江・仮想通貨に関する メントに関わる国際規格 (IS027001, 27002 ) が 銀行法等の改正案の国会提出 改正されたことに伴って , 「情報セキュリティ管 3 月 4 日 , 「情報通信技術の進展等の環境変化 理基準 ( 平成 28 年改正版 ) 」を策定した。 に対応するための銀行法等の一部を改正する法律 同管理基準は , 組織体における情報セキュリテ 案」が国会に提出された。これは , 金融グループ イマネジメントの円滑で効率的な確立を目的とし を巡る環境変化 , IT の急速な進展等をふまえ , て , マネジメントサイクル構築の出発点から具体 ①金融グループにおける経営管理の充実 , ②共通・ 的な解決策に至るまでの基準を定めるものである。 重複業務の集約等を通じた金融仲介機能の強化 , 今回の改正版では , 上記の国際規格の改正に沿 ③ IT の進展に伴う技術革新への対応 , および④ った変更がなされるとともに , パプコメ結果等を 7 ビジネス法務 2016.6

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1 を下回る場合には , 増資できないなら解散 という強い規範概念 4 になっていれば , その 議論は小規模閉鎖会社にも原則的に妥当する はずであるが , そうした議論はなされてこな かった。 他方で「株式会社らしい株式会社」につい ては , 規模の大きさ , 従業員数 , 負債総額 , 資産規模 , 上場といったさまざまなメルクマ ールが議論の対象となったものの , その「株 式会社らしい株式会社」の意義に関する本質 的な議論はなされなかった。というより , 実 は明治以後から戦前までの株式会社観に関す る常識が , 戦後の同族株式会社濫立の過程で 忘れられていった , と言ったほうが正確なよ うに思われる。 遅くとも明治 23 年商法の段階で , すでに 株式は上場され , 市場価格があるのが前提と され , 株式会社とはそういうものという発想 で , 戦前の会社法は一貫していたと言われ る 5 。そもそも設立は募集設立が中心であり , 設立と同時に市場が形成されていた。つまり 公募によって会社を設立することがむしろ常 態であり , したがって厳格な設立規制とは , 投資家保護の意義を有していたものと考えら れる 6 Ⅱ財産保持の要請と特許主義時代 株式会社制度の分析手法としての「規模」 「閉鎖性」に対応して , 当時は市場取引を前 提とする , 現在では「公開性」と呼ぶべき概 念が明確ではなかった。明治期と戦前では状 況が異なるものの , 株式会社らしい株式会社 とは上場会社をいうのが当然とされていたよ うに思われる。戦後日本の株式会社法制を巡 る議論は小規模で閉鎖的な会社を想定してき ており , そこでは証券市場に上場されること を当然と考えた場合の資本概念ないし最低資 本概念の意義とは何かという発想はまったく なかったと言ってよい。しかし大小会社区分 立法をめぐる議論の際に , 「株式会社らしい 株式会社」にとっての最低資本金とは何かが 論じられたことは , 実は「公開性」という分 析概念を持たないままになされた公開株式会 社法理をめぐる議論であったように思われる。 特許主義の時代 , 大会社の財産状況を評価 する指標として , 純資産とか時価総額といっ た概念がない時代に ( 会計制度未整備の時代 に ) , 資本金こそがもっとも重要な指標であ った。アンシアン・レジーム期の商事コンパ ーにおいては設立時に引受予定額 ( 資本 金 ) が発行株式数とともに明らかにされてい たことが指摘されている 7 。設立許可を受け た株式会社の多くは公益的事業 ( 水道 , ガ ス , 鉄道等 ) を行う会社形態であった。こう した公益的事業の規模・内容に適した資本金 の額の模索は公衆から集められた出資の保護 という課題と密接な関連を有していたと見る ことができる 8 。コンセイユ・デタは , 少な くとも設立直前直後に会社に実際に資本金に 相当する資金が存在することを求め , 1807 年 から 1867 年にかけてなされた許可を見てみる と , 資本金と会社が実際に保有する財産の語 こうした規範概念の背景には , 債務不履行があった場合には誰かが履行してくれない限り奴隷になる , あるいは公民権を喪失 するといった観念があったものと思われる。 5 明治以降から戦前までのこの分野の文献を渉猟されてきた西川義晃静岡大学准教授からの情報提供をいただいた。 6 このことは , 実は当然であり , 新株の募集も公募を意味していたし , 社債とは「公衆に対する起債」として公募債のことを社 債と呼んでいた。私募債という発想はなかったのである。また , 取締役の対第三者責任規定の意義について . そこでいう第三 者に株主を含むのを当然視していたのも , この規定が投資家保護規定として機能していたことを意味する。 7 1664 年に設立された東インドコンバニーの資本金は 1 , 500 万リーブル・発行株式数 1 5 , OOO 株であり , その後も同様の例 が続く ( 石川・前掲 2 ・ ] 号田頁注 7 ) 。 8 石川・前掲 2 ・ 1 号 58 ~ 59 頁。 128 ビジネス法務 2016.6

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「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」対応上の留意点郞 受けるダメージを最小化し , 事業活動を早期 に正常化するためのあらゆる危機対応 ( 被害 救済 , 行政対応 , 捜査機関対応 , 訴訟対応 , マスコミ対応等 ) を行う必要があるところ , 社内調査型の調査においてはこうした危機対 応と調査の連携においても強みがある。その 反面 , 経営陣の関与が疑われるような場合な ど , 不祥事の内容や性質によっては , 自社に とって都合の悪い事実を無視したり , 過小評 価したりしているのではないかとの疑念を外 部から持たれるリスクがある。 他方 , 「第三者委員会」や「社外調査委員 会」と題されることが多い社外調査型の調査 においてもさまざまなバリエーションがあ る。具体的には , 日弁連ガイドラインに準拠 した第三者委員会のみならず , 同ガイドライ ンの全部または一部に準拠しないことを明言 しつつ , 社外専門家の最終起案権の下で調査 を行うものなどさまざまな調査形式が存在す る。これらの調査においては , 調査の過程や 結果に対しての経営陣の関与・介入からの独 立性が確保されやすく , それについての対外 的信頼性も高いと言える。その反面 , たとえ ば日弁連ガイドラインに準拠した第三者委員 会等に調査を委ねた場合 , 同ガイドライン上 「第三者委員会は , 調査報告書提出前に , そ の全部又は一部を企業等に開示しない」 ( 同 ガイドライン第 2 部 , 第 2. の 3. ) ものとされて いるため , 危機対応の判断に際して最新の調 査状況の詳細や , 危機の及ぶ外縁を十分把握 できず , 危機対応において遅れをとるリスク があることは否定できない 5 。 不祥事調査における調査体制の選択は , 企 業危機への対応における高度な経営判断の中 核をなすものである。株主から全般的な経営 権を委託されているのが経営陣であることに 鑑みれば , 企業価値の危機に際しても , 経営 陣がみずからの責任でこの調査に当たる社内 調査型の調査体制がコーポレート・ガバナン スの基本に忠実な形であることは間違いな い。他方で , 原則②が掲げているように , (a) 「内部統制の有効性や経営陣の信頼性に相当 の疑義が生じている場合」など不祥事調査の 対外的信用性を厳格に確保する必要がある場 合や , (b) 「企業価値の毀損度合いが大きい場 合 , 複雑な事案あるいは社会的影響が重大な 事案である場合」など企業単体での調査能力 の限界を超える場合には , 社外調査型も含め て慎重に比較衡量のうえ , 事案に即した最適 な調査体制を選択することが重要となる。 なお , 近時公表されている不祥事調査の報 告書においては , 社外調査型の調査体制を選 択した理由が具体的に記載されているものが 登場しており , これは本プリンシプルの目指 す方向に沿ったものと考えられる。今後は , 企業不祥事における調査体制の発表または調 査報告書の公表に当たって , 原則②の要請を 尊重し , 調査体制の選定手続や選定理由につ きより充実した説明・開示が期待される。 原則③「実効性の高い再発防止 策の策定と迅速な実行」 再発防止策は , 根本的な原因に即した実 効性の高い方策とし , 迅速かっ着実に実行 する。 この際 , 組織の変更や社内規則の改訂等 にとどまらず , 再発防止策の本旨が日々の 業務運営等に具体的に反映されることが重 要であり , その目的に沿って運用され , 定 着しているかを十分に検証する。 5 近時の公表事案の中には , こうした問題意識に基づき . 社外調査型調査であっても会社側に対して危機対応に必要と考えられ る一定の情報共有を行うことを明示している調査事例も散見される。 ビジネス法務 2016.6 97