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1. ビジネス法務 2016年6月号

座談会 法務部立上げの苦労を どのように乗り越えたか ( 司会 ) TM 聡合法律事務所弁護士大井哲 - 也 クルーズ株式会社弁護士伊藤正人 株式会社ヒューマックス ) 主司・公一一 テックファームホールディングス株式会社・西谷不Ⅱ起 株式会社カカクコム白川聖明 法務部門を 1 から立ち上げた , あるいは機能が十分でない状態から立て直した企業の法 務担当者の方々に集まっていただき , どのような苦労があったか伺った。 入社時の状況 大井 : 今回のテーマは , 「法務部立上げの苦 労をどのように乗り越えたか」です。まず は , 法務担当となったときの会社の状況を伺 っていきたいと思います。 西谷 : 法務部の立上げ・機能の作り直しを現 在の会社を含めて 3 社経験しています。今の 会社には最初から責任者として入社しました。 法務機能はもともとありましたが , 人の入れ 替わりもあり十分機能していない部分もあっ たので , 立て直しを 2 年半ぐらいやっていま ーー 1 年ほどは総務機能の拡充・見直し もしていて , リスクマネジメントや取締役 会・経営会議などの会議体の事務局 , 会社の 中のバックオフィス業務の改善 , 全社のコス ト見直しなどにも幅を広げてやっているので , 今は純粋な法務ではない仕事も多いですね。 白川 . 弊社は私を含めて 6 人法務部員がおり まして , 当初から室長として入りました。入 社した当時は上場後 3 年目で , 一通りの契約 書・規程・サービス規約はできていました が , ガバナンス・株主総会といった商事法務 系の対応が十分できていない状況でした。改 めて , サービス規約や契約書のひな型の文言 レベルからの再確認を始めて , それが一段落 ついたのが 2 ~ 3 年経ってからです。 伊藤 : 私は IT 系のビジネスや上場企業法務 を勉強したいという希望で現在の会社に入 り , 1 カ月後にディレクターとなりました。 当時は , 上場して 5 ~ 6 年目ぐらいでしたの で , 比較的法務の基盤というものはできてい ました。 庄司 : 当社は , 法務部門という形で独立した 部署は持っていません。私は 15 年ほど事業部 で勤務した後に , 総務部に異動しました。人 事関係を主にやっていましたが , 当時は就業 規則と定款があるぐらいで , ほかの規程は皆 無の状態でした。ところが , 不動産部門で投 資顧問運用業を行うことに決まったため , 許 可の取得のために業法および加盟協会の要 川い 求する規程をすべて揃えて , 内部監査体制を 整えるような業務をやってきました。最初は 「ガバナンス」や「コンプライアンス」といっ 46 ビジネス法務 2016.6

2. ビジネス法務 2016年6月号

lnterview 子会社で法務部を立ち上げる 日本アイ・ビー・エム株式会社米国弁護士大槻智彳丁 グループ経営におけるガバナンスの強化を図るため , 子会社に法務部を設けることを検 討する企業も少なくないだろう。本稿では , 海外に本社のあるグローバル企業における在 日子会社の立上げのご経験から , クロス・カルチャーという背景をふまえ実務において気 をつけるべきことを伺った。 1 日本アイ・ビー・エム株式会社 現在の経歴から遡ってご紹介しますと , 2011 年 1 月から日本アイ・ビー・エム株式会 社の法務部に所属しています。主に人事労務 分野とコンプライアンスを担当していまし て , コンプライアンス部門としては企業文化 醸成のためのトレーニングや , 社内に向けた メッセージ発信を行っています。また人事労 務分野としては , 雇用契約や就業規則の作成 を人事部の担当者とともに行っています。そ の他 , 訴訟対応や年金 , 輸出管理 , 環境法な ど幅広く業務に携わっています。 2 PGM ホールディングス株式会社 その前は , 2004 年 12 月より PGM ホールデ イングス ( ゴルフ場運営会社 ) の法務部にい ました。私の入社前まで法務部はなく , 立上 げに関わりました。当時 , PGM は日本でゴ ルフ場の買収を盛んに行っていまして , 日本 市場での上場を目指しており , そのため法務 が必要になったということで私が参りました ( 注 : 上場は 1 年後 , 2005 年 12 月 ) 。当時の主な これまでのこ経歴を簡単にこ紹介 ください。 業務としては , M & A や資金調達などがあり ました。保有しているゴルフ場の数は , 入社 当初 40 くらいでしたが , 退職までに 140 くら いまで増加していました。また , 同社では人 事も担当していて , そこで学んだことが現在 の会社でも活かされています。 当初は 1 人で担当していたわけですが , 特 定の専門分野にかかる業務が多かったという のがその理由です。上場準備は一過性のもの ですから , 上場してしまえばそれに関連する 業務もなくなります。また , M&A やファイ ナンシングは忙しさに波があって , 作業は一 定期間に集中します。ですので , 中で人をた くさん抱えるよりは , その時に外のリソース を活用して進めたほうが効率的です。 これは新しく法務部を作る際に非常に重要 なことなのですが , どういう業務内容が中心 となるのかを見極めなければなりません。作 業が平準化できるものなのか , どれほどの専 門性が求められるのかという観点から , 社内 に人を抱える必要があるのか , それとも外部 の弁護士などを頼るほうがよいのかというこ とを検討していくのです。業務が会社の商品 やサービスに係わるものが多ければ , たとえ ば販売契約 , ライセンス契約 , マーケティン 40 ビジネス法務 2016.6

3. ビジネス法務 2016年6月号

「上場会社における不祥事対応の プリンシプル」対応上の留意点 はじめに 2016 年 2 月 24 日 , 日本取引所自主規制法人 ( 以下「自主規制法人」という ) は「上場会 社における不祥事対応のプリンシプル」 ( 以 下「本プリンシプル」という ) を公表し , 上 場会社が自社 ( グループ会社を含む ) の不祥 事対応に臨むに当たり , その「根底にあるべ き共通の行動原則」を示した。 本プリンシプルにおいて示された 4 つの行 動原則は , 上場審査および管理等を司る自主 規制法人が , 上場企業の不祥事対応のあるべ き姿についてその基本姿勢を明らかにした初 めての指針であり , あらゆる不祥事事案につ いての一律の対応基準 ( ルール・べース ) と して規則を設けるのではなく , 事案ごとに 定の解釈の幅を残す行動原則 ( プリンシプ ル・べース ) という形で , 不祥事対応に臨む 上場企業の判断の拠り所となる規範を定めた 点を特徴とする。 本プリンシプル策定の背景には , 近時にお ける上場会社の不祥事対応において「原因究 長島・大野・常松法律事務所 弁護士塩崎彰久 弁護士渡辺翼 明や再発防止策が不十分であるケース , 調査 体制に十分な客観性や中立性が備わっていな いケース , 情報開示が迅速かっ適切に行われ ていないケース」などが散見されることがあ げられている。企業の不祥事対応のあり方に 対する社会的な関心や問題意識が年々高まっ ており , また , 不祥事に適切に対応することが 取締役の善管注意義務の一内容として捉えら れるに至っている現状に鑑みれば , 本プリン シプルの内容を理解し , 適切な不祥事対応の 指針とすることはますます重要となっている 1 。 以下では , 本プリンシプルの各原則の内容 を解説するとともに , 各原則に対応する実務 上のポイントについて論じる。 原則①「不祥事の根本的な原因 の解明」 不祥事の原因究明に当たっては , 必要十 分な調査範囲を設定の上 , 表面的な現象や 因果関係の列挙にとどまることなく , その 背景等を明らかにしつつ事実認定を確実に 自主規制法人も . 本プリンシプルの策定に当たり実施されたバブリック・コメント手続 ( 「バブコメ」 ) において , 「本プリン シプルは上場企業の行動を一律に拘束するものでは」ないものの , 「上場会社が本プリンシプルに即して対応した場合には , 原因究明・再発防止等が適切に図られ実行されることにつながり , そのような状況が実現することによって , たとえば再発防 止の実施状況等が審査対象に含まれる場面 ( 特設注意市場銘柄の解除等 ) においてプラスに考慮されることになる」と考えら れるとの見解を表明している。 94 ビジネス法務 2016.6

4. ビジネス法務 2016年6月号

(capital social と fonds social) が必ずしも明 確に区別されていなかった模様である。つま ここでいう資本金概念とは現実に保有さ れるべき財産の額を意味していた時期もあっ たようである。 他方で , 特許主義の時代にも株式市場は存 在し , 株式の価格形成はなされていたのであ るが ( 南海泡沫事件等 ) , 株式市場の形成が 不十分な段階から , それが相当に整備される 段階になるにつれて , 市場取引を当然に前提 とする株式会社にとって , 資本金概念とは 「上場基準」としての意義を有していたもの と思われる。上場基準として時価総額や純資 産を用いる場合でも資本金は重要な指標たり うるが 9 , 資本金概念しかない状況で証券市 場が形成される場合を想定すると , 株式会社 単位で一定規模以上の資本金基準が要請され ることは , 実質的な上場基準としての機能を 有しうる。特に , 単位の均一性という性格を 前提に発行済み株式数が定められれば , そこ に「一株いくら」という価格形成の基礎が与 えられることになる。株式市場の形成にとっ ては , 価格形成の基礎たりうる一定の財産的 基礎は必要不可欠な存在である。 資本概念が上場基準としての意義を有して いたとすると , 資本金額に見合う財産的基礎 の喪失は上場廃止に直結するはずであり , そ の意味において「資本充実の原則」は上場要 件の実質確保を意味する本質的な要請とな る。既述のフランスの例で , 資本金額に対し て純資産が 2 分の 1 を下回ると , 増資によっ 公開会社法理からみた 資本金概念 の新視点 会社法・金商法 , て基準の維持を図ることができなければ解散 というのは , 市場取引を前提に , 一種の上場 廃止基準としての意義をも有していたのでは ないかと考えられる。金融機関等の公的機関 に要請される多額の資本金規制ないし自己資 本規制は , 公的規制の観点から , 確実に資本 の充実がなされていることが要請される。早 期是正措置等の対応は , 「資本充実の原則」 のソフトランディング規制とみることも可能 である。「資本不変の原則」はフランスのよ うな資本概念を持たない日本で , 上場廃止に 至る前段階での対応と見る余地もあるように 思われる。 ところで , 株式の市場取引が常態化し , 株あたりいくらという価格形成が可能になる ためには , 会社に一定の財産的基礎があり , それを均一同質の株式単位に割り振ることで 一株いくらという価格形成が容易になるた め , 株式の性格は株主というヒトに帰属する 関係 (stock) から , 権利も有限責任も株式 というモノ (share) への帰属へと切り離さ れていることが必要となった。これにより , 株主というヒトは常に株式というモノの保有 者 (share の holder) としてのみ現れること になる。有限責任も「株主」有限責任ではな く , 責任限定金融商品たる「株式」の有限責 任性が , それを保有する者である株主に反映 されるにすぎない。その意味において , 有限 責任社員というヒトはそもそも存在しえない のであるから 1 。 , 「株主有限責任原則の弊害」 というような発想自体が妥当しない。もとよ り , 旧有限会社のように属人性が原則とされ ている場合には後藤准教授のこうした表現は 妥当し , 株主権は社員というヒトに属する。 旧有限会社法 10 条の出資ーロの単位の均一性 9 ドイツの 2007 年取引所法は , 市場で取引される有価証券の認可制を採っているが , そこでは時価評価できる場合は時価 . それ以外の場合は資本金を基準にして 25 万ユーロ以上とされている。正 # 章筰教授よりご教示を得た。 1 。こうした問題全般については . 上村「会社法 104 条」山下友信編「会社法コンメンタール第 3 巻株式〔 1 〕」 ( 商事法務 , 2013 ) 1 2 頁以下参照。

5. ビジネス法務 2016年6月号

1 を下回る場合には , 増資できないなら解散 という強い規範概念 4 になっていれば , その 議論は小規模閉鎖会社にも原則的に妥当する はずであるが , そうした議論はなされてこな かった。 他方で「株式会社らしい株式会社」につい ては , 規模の大きさ , 従業員数 , 負債総額 , 資産規模 , 上場といったさまざまなメルクマ ールが議論の対象となったものの , その「株 式会社らしい株式会社」の意義に関する本質 的な議論はなされなかった。というより , 実 は明治以後から戦前までの株式会社観に関す る常識が , 戦後の同族株式会社濫立の過程で 忘れられていった , と言ったほうが正確なよ うに思われる。 遅くとも明治 23 年商法の段階で , すでに 株式は上場され , 市場価格があるのが前提と され , 株式会社とはそういうものという発想 で , 戦前の会社法は一貫していたと言われ る 5 。そもそも設立は募集設立が中心であり , 設立と同時に市場が形成されていた。つまり 公募によって会社を設立することがむしろ常 態であり , したがって厳格な設立規制とは , 投資家保護の意義を有していたものと考えら れる 6 Ⅱ財産保持の要請と特許主義時代 株式会社制度の分析手法としての「規模」 「閉鎖性」に対応して , 当時は市場取引を前 提とする , 現在では「公開性」と呼ぶべき概 念が明確ではなかった。明治期と戦前では状 況が異なるものの , 株式会社らしい株式会社 とは上場会社をいうのが当然とされていたよ うに思われる。戦後日本の株式会社法制を巡 る議論は小規模で閉鎖的な会社を想定してき ており , そこでは証券市場に上場されること を当然と考えた場合の資本概念ないし最低資 本概念の意義とは何かという発想はまったく なかったと言ってよい。しかし大小会社区分 立法をめぐる議論の際に , 「株式会社らしい 株式会社」にとっての最低資本金とは何かが 論じられたことは , 実は「公開性」という分 析概念を持たないままになされた公開株式会 社法理をめぐる議論であったように思われる。 特許主義の時代 , 大会社の財産状況を評価 する指標として , 純資産とか時価総額といっ た概念がない時代に ( 会計制度未整備の時代 に ) , 資本金こそがもっとも重要な指標であ った。アンシアン・レジーム期の商事コンパ ーにおいては設立時に引受予定額 ( 資本 金 ) が発行株式数とともに明らかにされてい たことが指摘されている 7 。設立許可を受け た株式会社の多くは公益的事業 ( 水道 , ガ ス , 鉄道等 ) を行う会社形態であった。こう した公益的事業の規模・内容に適した資本金 の額の模索は公衆から集められた出資の保護 という課題と密接な関連を有していたと見る ことができる 8 。コンセイユ・デタは , 少な くとも設立直前直後に会社に実際に資本金に 相当する資金が存在することを求め , 1807 年 から 1867 年にかけてなされた許可を見てみる と , 資本金と会社が実際に保有する財産の語 こうした規範概念の背景には , 債務不履行があった場合には誰かが履行してくれない限り奴隷になる , あるいは公民権を喪失 するといった観念があったものと思われる。 5 明治以降から戦前までのこの分野の文献を渉猟されてきた西川義晃静岡大学准教授からの情報提供をいただいた。 6 このことは , 実は当然であり , 新株の募集も公募を意味していたし , 社債とは「公衆に対する起債」として公募債のことを社 債と呼んでいた。私募債という発想はなかったのである。また , 取締役の対第三者責任規定の意義について . そこでいう第三 者に株主を含むのを当然視していたのも , この規定が投資家保護規定として機能していたことを意味する。 7 1664 年に設立された東インドコンバニーの資本金は 1 , 500 万リーブル・発行株式数 1 5 , OOO 株であり , その後も同様の例 が続く ( 石川・前掲 2 ・ ] 号田頁注 7 ) 。 8 石川・前掲 2 ・ 1 号 58 ~ 59 頁。 128 ビジネス法務 2016.6

6. ビジネス法務 2016年6月号

1 から 作る法務部 法務部の機能と役割を 考える TM 聡合法律事務所 弁護士大井哲也 本稿は , 初めて法務部を立ち上げるスタートアップ企業など , 法務部門が充分に機能し ていないステージにある企業が , 法務部門の立上げのために何をすべきかというテーマを 取り上げる。法務部門に求められる機能としては , 契約書の作成・レビュー , 社内規程の 整備 , 社内の稟議システムの整理等 , 多岐にわたるが , 企業組織の中で , 法務部門がどう いう機能と役割が求められているのか , まずは , その全体像を把握したい。 特集 1 特集 1 0 る民泊のために旅行者と宿泊場所の提供者 I 法務部門の業務範囲 とのマッチングシステムを構築することを 考えている。 法務部門は , 事業部と協働しながら , 経営 法務担当者は , A 社社長から , このよう にまつわるリスクを回避し ( 守り ) , 事業遂 なビジネスは適法か , 適法に事業を遂行す 行を円滑に進めるべく自社に有利な権利を獲 るためのビジネスモデルをどう構築すべき 得する ( 攻め ) の両側面の機能が期待される。 かについて質問を受けた。 法務部門は , 会社の規模や , ビジネスの種 法務部門の基本的な業務としては , 自社の 類・業態により求められる機能や業務内容が 千差万別であるが , 典型的には , 次頁の【図 ビジネスがそもそも適法か否かをチェックす る事業の適法性のチェック業務がある。 表 1 】のように種々の業務がある。 1 事業の適法性チェックの手法 Ⅱ事業関連 他社の同種サービスの有無の調査から開始 し , 同種サービスがない場合には , 他社がや っていないということは何か法令上の規制が 【想定事例】 あるからではないか , という懐疑心をもっ て , 法令に抵触しないかを調査する。 上場企業の同業他社がある場合 , 有価証券 報告書の特別記載事項 ( リスクファクター ) に適用される法令とそのリスクに関する記載 インターネットサービスを主な事業分野 としている A 社 ( 資本金 1 , 000 万円 ) は , 新規事業部を立ち上げるため , 旅行者がホ テルに代わり一般家庭に宿泊する , いわゆ ビジネス法務 2016.6

7. ビジネス法務 2016年6月号

自己株ェ取得規制の現代的論点 新連載 ーなぜ自己株式取得が注目されているか ? 神戸学院大学法学部 准教授宮崎裕介 かってわが国において原則として禁じられていた自己株式取得が , 商法改正による解禁 を経て新たな時代を迎えている。とりわけ上場会社にとっては , 自己株式取得を抜きに会 社の財務戦略を組み立てることはできず , 言わば必須のツールとなっている。「自社株買 い」というキーワードを経済紙などでよく見かけるようになったことも , その 1 つの表れ である。本連載では , 最近になってなぜ上場会社が自己株式取得を迫られているのか , そ これをふまえた法的論点を検討してみたい。 のバックグラウンドを解明し , もたらしたのが , 平成 13 年 6 月の商法改正に よる自己株式取得の原則自由化である。この 改正により自己株式取得の目的や数量などに 営利企業である株式会社の本質的目的が , 関する規制が大幅に緩和されたため , ペイア 対外的な活動を通して得られた利益を株主に ウトの方法として自己株式取得を用いること 配分すること ( 以下「ペイアウト」という ) が可能となった。 であることは異論がなかろう 1 。わが国にお このように法改正を経て , ペイアウトの手 段としての自己株式取得を利用する土壌が調 いて , 従来 , かかる目的を達成するための主 ったこともあり , 株式会社による自己株式取 たる手段として継続企業が用いてきたのは , 得の総額は順調に増加傾向をたどっている。 剰余金の配当 ( 以下 , 単に「配当」という ) であった。これは , 周知の通り , 平成 6 年の 2008 年 9 月のいわゆるリーマンショックの影 商法改正まではごく一部の例外を除き , 企業 響で一時的な落ち込みをみせたものの , 自己 2015 年に上場会社が行った自己株式取得の総 が自社株を株主より買い受けること 額は過去最高値となる 5 兆円近くに達する見 株式取得ーーーが禁じられていたため , 少なく 込みである 2 。現在では , ペイアウトの方法 ともペイアウトの手段として自己株式取得が として配当と比肩しうるだけの地位を自己株 活用されることはなく , その役割は配当に委 式取得は築き上げたと言えよう 3 ねられていたからである。この状況に変化を 1 近藤光男「最新株式会社法 ( 第 8 版 ) 」 ( 中央経済社 . 2015 ) 5 頁参照。 2 日本経済新聞東京本社版 2016 年 2 月 28 日朝刊 1 面。 3 砂川伸幸 = 川北英隆 = 杉浦秀徳「日本企業のコーポレートファイナンス」 ( 日本経済新聞社 , 2008) 275 頁。 を 第 1 回 , 4 I はじめに 85 ビジネス法務 2016.6

8. ビジネス法務 2016年6月号

第 1 回は , 総論として , 前述した近時の状 況をふまえ , 企業が自己株式取得を行う動機 を分析するとともに , 本連載を通した筆者の 問題意識を示す。なお , 本連載では , 上場会 社が財務戦略として自己株式を取得する場面 を主に考察することから , 特に断らない限 り , 取得者として上場会社 , また取得方法は 株主との合意による取得 ( 会社法 156 条以下 ) を念頭に置く。 ファイナンス理論からみた Ⅱ 自己株式取得の動機 そもそも , 今 , なぜ上場会社による自己株 式取得が増えているのだろうか。これを法改 正の一言のみで片付けてしまうのはやはり安 易であろう。自己株式取得の現代的論点を検 討するにあたり , 上場会社が自己株式取得を 実施する動機を探究することは無意義ではな 。こで動機解明の手がかりを得るため に , 自己株式取得に関する研究の蓄積がある ファイナンス分野の研究に目を向けてみよ う。ファイナンス理論においては , 「完全市 場のもとではペイアウトの手段選択により企 業価値は何らの影響を受けない」と示したモ ジリアーニとミラーによる配当無関連命題 ( 以下「 MM 配当無関連命題」という ) を出 発点として , 現実世界と MM 配当無関連命題 が前提とした条件との間に生じた乖離を埋め ることがファイナンス研究において行われて きた 4 。それらの中でも代表的なものとして , シグナリング仮説とエージェンシー仮説があ げられる。 1 シグナリング仮説 シグナリング仮説は , 自己株式取得を当該 企業の株価が過小評価されている「シグナ ル」と位置づけ , これを市場に伝達すること で過小評価が修正されるという理論である。 すなわち , シグナリング仮説は , 会社と市場 との間に収益性などに関する情報の非対称性 が存在するがゆえに過小評価が生じるとし て , 株主の利益を重視する会社においてはコ ストをかけてでも自己株式取得を実施して過 小に評価された株主価値の改訂をするインセ ンテイプがあると考える。したがって , シグ ナリング仮説のもとでは , 自己株式取得の発 表によって株価が上昇する 5 2 工ーシェンシー仮説 工ージェンシー仮説は , 経営者と株主との 間に存在するエージェンシー問題を前提とす る理論である。工ージェンシー仮説では , フ リー・キャッシュフローの使途が , 株主の意 向に反した非効率な投資 ( 過剰投資 ) に回さ れることを回避するための効果的な手段とし て自己株式取得によるべイアウトを位置づけ る。そのため , 工ージェンシー仮説は「フリ ・キャッシュフロー仮説」とも呼ばれる 6 工ージェンシー仮説においても , 自己株式取 得の発表により株価が上昇するが , これは過 剰投資をやめたことによる企業価値の改善の 効果と説明される 7 。 シグナリング仮説とエージェンシー仮説の いずれも株価が上昇するとされ , 多くの実証 研究において自己株式取得の発表が株価の上 4 ファイナンス理論の観点からの自己株式取得を巡る研究を包括的にサーベイした邦語文献として , 花枝英樹 = 榊原茂樹編著 『資本調達・ペイアウト政策〔現代の財務経営 3 〕」 ( 中央経済社 , 2009) 253 ~ 283 頁〔畠田敬〕があげられる。本稿で は , ファイナンス理論については邦語文献による解説のみを引用するが , アメリカを中心とした先行研究については上記文献 を参照されたい。 5 花枝ほか編著・前掲注 4 ・ 260 頁〔畠田敬〕。 6 砂川ほか・前掲注 3 ・ 280 ~ 281 頁。 7 花枝ほか編著・前掲注 4 ・ 260 ~ 261 頁〔畠田敬〕。 86 ビジネス法務 2016.6

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1 から作る法務部 特集 1 が必要な分野でもあるため , 現実的に社内の 法律 ( 会社法 ) の知識もさることながら , ど みで対応することは難しいのではないだろう うしても「場数を踏む」ということが重要に か。ただし , 社内弁護士を採用している会社 なってくるが , 特に上場したての企業では , では , 顧問弁護士との共同受任という形で社 一般株主への対応等のノウハウが内部に蓄積 されていないと考えられる。したがって , さ 内弁護士を活用することは考えられる。長い 目でみれば , 社内弁護士の教育という観点か まざまな企業の株主総会を経験している顧問 らもよい経験になるし , 顧問弁護士として 弁護士と連携し , 当日までのスケジュールの も , 現場で起こっている事実を法的に整理し 立案 , 対策マニュアルの策定 , リハーサルお て伝えてくれる社内弁護士は貴重な存在であ よび総会当日の同席等を顧問弁護士に依頼し たほうがよいと考える。 る。はじめから社内弁護士のみに任せるのは 抵抗があるかもしれないが , まずは共同受任 という形で検討してみてもよいのではないだ 8 その他 ろうか。 IPO や M & A の場面では , 法的に問題がな いこと ( あるいは一定のリスクがあること ) を客観的な証拠に残すため , 弁護士の意見書 6 議事録類の最終確認 が求められることがある。この場合 , 社内弁 上記で , 会社法上の議事録類はある程度内 護士がいる場合でも内部の社員では客観性が 製化できると述べたが , 種類株式の設計や新 担保されないため , 顧問弁護士に協力を求め 株予約権の発行など複雑なものについては , 最終的に顧問弁護士の確認を経ることが考え られるようにしておいたほうがよい。 られる。種類株式の内容に誤りがあった場合 また , 法務部員が何人もいるような大企業 でも , 後から定款変更の手続を経たうえで登 を除き , 一般的には法務部門にそこまで人的 リソースを避けず , 管理部門が兼任していた 己の修正を行うことは可能である。しかし , り , 数人で担当していたりするケースが多い 登記上修正の履歴が残ってしまうため , ミス のではないだろうか。そこで , 管理部門は , による修正はないほうが望ましい。また , 新 株予約権を税制適格を満たすという前提で発 部員の急な欠員や , 病気 , 産休 , 育休などに 行したところ , 実は満たしていなかった等の よる一時的な人員不足に陥った際に , すぐに マンパワー不足に陥りやすいという脆弱性を 場合 , 後からやり直しを行うのは困難であ 一般に抱えている。そのような場合は , 顧問 る。このようなやり直しのきかないもの , 後 弁護士と連携をはかり , 一時的に顧問契約の に残ってしまうものについては , 慎重を期し サービス内容を変更してもらうなどして業務 て顧問弁護士を活用することが考えられる。 の一部をアウトソースできるようにしておく ことも考えられよう。 7 株主総会対策 IPO を達成した後の企業に特有の事項であ るが , 株主総会対策は複数の企業のさまざま 高橋知洋 ( たかはしともひろ ) な事例を経験している顧問弁護士に依頼した 弁護士。東京大学法科大学院卒業。 201 1 年弁護士登録 . 同年キリンホールディングス株式会社 ( 法務部 ) に社 ほうがよいと考える。多数の一般株主が多く 内弁護士として入社。 1 4 年 . AZX 総合法律事務所入所。 参加する上場後の株主総会では , 当日まで何 現在は , べンチャー企業等の立上げから日常的な法務 相談 , ファイナンス関係等を専門的にサポートして が起こるか予測できず , その場で瞬時の判断 いる。 が求められることが多い。これらの実務は , 特集 1 39 ビジネス法務 2016.6

10. ビジネス法務 2016年6月号

Trend 取締役会議長と CEO は分離すべきか 栗原脩 Osamu Ku 「 iha 「 a 弁護士 1 968 年東京大学法学部卒業 , 日本興業銀行取締役証券部 長 , 興銀証券常務取締役などを歴任。 2008 年弁護士登録。 明治大学法科大学院・信州大学法科大学院などで「金融商 品取引法」「コーポレートガバナンス」などの講義を担当。 近刊に , 「会社法入門』 ( 金融財政事情研究会 , 2015 ) 。 コーポレート・ガバナンスのテーマの 1 つ に取締役会議長と CEO の分離を巡る問題が ある。この問題への取組みで先鞭をつけたの は英国である。米国でも関心が高まっている が , 少し異なる展開となっている。以下で は , 海外における状況を述べ , あわせてわが 国における分離問題の考え方について述べる こととしたい。 英国では 1980 年代後半から 90 年代にかけて 大企業の不祥事が相次いだ。このままではシ ティの信頼失墜を招くという危機感から , A. キャドベリー卿を委員長とする委員会が組 織された。政府主導ではなく , 財務報告評議 会 (FRC) ・ロンドン証券取引所・会計専門 職団体によって委員会が設置された点が注目 される。 キャドベリー委員会の問題意識は , 企業不 祥事の多くが CEO の独走・暴走に起因する 英国キャドベリー委員会の問題意識 ことから , 取締役会のなかにそれを防止する メカニズムを設けることが必要というもので あった。その第 1 が独立性を有する非業務執 行取締役の役割の強化であり , 第 2 が取締役 会議長と CEO の分離原則である。同委員会 報告書 ( 1992 年 ) の「最善の行動規範」の中で これらの点が謳われた。行動規範は , ロンド ン証券取引所上場規則において「遵守せよ , さもなくば説明せよ」 (comply or explain) の原則の下にとり入れられ , 現在の UK コー ポレートガバナンス・コードに至っている。 分離原則は , 実務において定着してきている。 フランスでも選択肢の 1 つに フランスの株式会社の経営機構は単層構造 ( 取締役会のみ ) が主体であるが , 1966 年の 改正以降 , ドイツ型の二層構造 ( 監査役会と 取締役会。取締役は監査役会が選任 ) も選択 可能となっている。 海外機関投資家の影響力の増大などから , 1990 年代に入りコーポレート・ガバナンスの 議論が高まった。 1995 年のヴィエノ委員会報 告書は , 分離原則については消極的であっ た。二層構造という選択肢があることなどが その理由としてあげられている。しかし , 第 2 次ヴィエノ委員会報告書 ( 1999 年 ) はこの 姿勢を転換し , 分離するか否かは企業の選択 に委ねるべきであるとした。その後 , 会社法 の改正が行われ , 分離原則を採用するかどう かは各社の取締役会の判断に委ねられること となった。現状のフランスのガバナンス機構 には 3 つの選択肢がある。すなわち , ①単層 構造で取締役会議長を CEO が兼任 , ②単層 構造で分離原則を採用 , ③二層構造である。 米国の経営機構は単層構造である。上場会 社などの公開会社において監査委員会などの 米国ではケース・バイ・ケースの対応 4 ビジネス法務 2016.6