「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」対応上の留意点郞 1 解説 原則①は , 「表面的な現象や因果関係の列 挙」にとどまらない深度のある原因解明を要 請するものであり , その前提としてかかる原 因解明を可能ならしめる「最適な調査体制」 の構築を求めている。 不祥事の根本的な原因解明は , 実効性ある 再発防止策を策定する前提となるものである から , これは極めて当然の要請であるように も思われるが , 自主規制法人は , これを本プ リンシプルの冒頭に掲げることにより , 近時 の上場会社の不祥事調査における原因解明の 深度につき改めて警鐘を鳴らし , その重要性 を強調したものと察することができる。 2 実務上の留意点 原則①は , 原因解明においては「表面的な 現象や因果関係の列挙にとどまることなく , その背景等を明らかに」することを要請して おり , これに応えるためには深度のある重層 的な原因解明が求められる。 すなわち , 不祥事の発生原因を明らかにす るうえでは , その直接的な原因となった事情 ( 「一次要因」 ) だけでなく , 当該一次要因の 原因となった事情 ( 「二次要因」 ) や , さらに 二次要因の背景に存在する事情 ( 「三次要因」 ) なども重層的に分析することが望ましい。た とえば , 粉飾決算事案において , その一次要 因として「コンプライアンスを軽視する企業 風土」の存在が指摘できる場合 , そのような 一次要因のみを抽象的に原因として特定する 行い , 根本的な原因を解明するよう努める。 そのために , 必要十分な調査が尽くされ るよう , 最適な調査体制を構築するととも に , 社内体制についても適切な調査環境の 整備に努める。その際 , 独立役員を含め適 格な者が率先して自浄作用の発揮に努める。 だけでは , 原因解明として十分ではない。問 題となる企業風土が醸成されえたのは , 「過 去事案における不十分な懲戒処分」などの二 次要因によるものかもしれず , さらにかかる 二次要因の背景には , 「歴代経営トップによ るコンプライアンス軽視の言動」などといっ た三次要因が存在することも考えられるので ある。このように , 調査範囲・調査期間を適 切に設定したうえで , 顕在化した問題の背景 にある構造的要因にまで踏み込んだ分析を行 うことで , より実効性ある再発防止策の策定 が可能となるのである。 不祥事の表面的な事象のみに着目して対策 を講じた場合には根本的な原因に根ざした別 の不祥事が再発するリスクを残す懸念があ る。調査に携わる企業関係者においては , うしたプリンシプルの要請を念頭に , 深度あ る原因解明を実施し , 実効性ある再発防止策 の策定につなげていくことが期待される。 原則②「第三者委員会を設置する場合に おける独立性・中立性・専門性の確保」 内部統制の有効性や経営陣の信頼性に相 当の疑義が生じている場合 , 当該企業の企 業価値の毀損度合いが大きい場合 , 複雑な 事案あるいは社会的影響が重大な事案であ る場合などには , 調査の客観性・中立性・ 専門性を確保するため , 第三者委員会の設 置が有力な選択肢となる。そのような趣旨 から , 第三者委員会を設置する際には , 委 員の選定プロセスを含め , その独立性・中 立性・専門性を確保するために , 十分な配 慮を行う。 また , 第三者委員会という形式をもって , 安易で不十分な調査に , 客観性・中立性の 装いを持たせるような事態を招かないよう 留意する。 ビジネス法務 2016.6 95
慮したうえ , 【図表 1 】の判断基準に基づき 兼業の可否を判断することになる。 実務対応としては , 総合考慮の対象となる 事実関係を把握すべく , 兼業許可手続とし て , 兼業に関する事情 ( 【図表 2 】②アから オ ) が記載された「兼業許可申請書」の提出 を求めるのが適切である。 また , 兼業許可申請書のみでは十分事実関 係を把握できない場合には , 適宜面談を実施 のうえ , 直接確認するのが適切である。 2 兼業許可申請に対する判断 前述のとおり , 兼業禁止規定の適用につい ては , 同規定適用に伴う法的効果との相関関 係をふまえて判断するのが適切と考える。 この点 , 兼業許可申請に対する判断は , 実 務対応としては【図表 2 】記載の事情を総合 考慮した結果 , 当該兼業により①企業秩序に 影響する「おそれ」または②労務提供に支障 を来す「おそれ」が「相当程度」認められる場 合には , 不許可と判断しても実務上懸念すべ き問題が生ずる可能性は低いと考える。 兼業の許可により , 企業秩序への影響およ び労務提供への支障が生ずる可能性が相当程 度認められる場合 , これを未然に排除すべき 合理的理由があるといえるからである。 他方で , 所属先企業からの収入で生計維持 が可能な場合 , 企業秩序および労務提携に不 安を生ぜしめてまで兼業を許可すべき必要性 はなく , 雇用継続 ( 在職 ) を前提とした場 合 , 会社が不許可と判断したとしても , 法的 手続で争われることは想定し難く一般に紛争 化の蓋然性は低いことなども理由となる。 3 条件付き許可・一部許可 兼業可否を判断するにあたり , 労働者の私 生活上の行為の自由とのバランスに配慮する のであれば , 兼業可能な期間 , 日数 , 時間 , 兼業にかかる業務の量や方法などを制限する 124 ビジネス法務 2016.6 内容の条件を付して「条件付き許可」や「一 部許可」とする対応も考えられる。 4 兼業許可書の交付 兼業を許可する場合には , 兼業許可の内容 を具体的に記載した兼業許可書を交付する対 応が適切である。特に上記 3 で述べた「条件 付き許可」や「一部許可」とする場合には , 付する条件や許可範囲を明確かっ具体的に記 載するのが適切である。 また , 兼業許可書には , 許可範囲外の兼業 を行った場合や次に述べる誓約書に違反する 場合に兼業許可を取り消すことがある旨を記 載しておくのが実務対応として適切である。 5 誓約書の提出 兼業を許可する場合には , 実務対応とし て , 兼業に関する誓約書の提出を求めるのが 適切である ( 【図表 4 】誓約書 ( 案 ) 参昭 ) 6 兼業許可の取消し 兼業を許可した場合でも , 許可後の事情の 変更等により , 当該兼業が①企業秩序に影響 するおそれまたは②労務提供に支障を来すお それが相当程度認められるに至った場合に は , 兼業許可の取消しは可能と考える。 7 報告義務および面談実施 兼業許可後は , 許可した範囲内で行われて いるか , 条件や誓約事項の遵守について , 適 宜報告を求め , 必要に応じて面談を実施する のが適切である。許可した兼業いかんにもよ るが , 前述の許可取消しを適切なタイミング で行うためにも定期的な状況確認が望ましい。 8 労働時間の通算と割増貨金 労働基準法 38 条 1 項は , 「労働時間は , 事 業場を異にする場合においても , 労働時間に 関する規定の適用については通算する」と
第 5 回 裁判例にみる企業の安全配慮義務 受動喫煙と安全配慮義務 連載 受動喫煙を巡る法動向 受動喫煙については , 平成 8 年 2 月に労働 省 ( 当時 ) が「職場における喫煙対策のため のガイドラインについて」と題する通達を出 し , 事務室や会議室に原則として禁煙の措置 を講じ , 受動喫煙を避けるように求めた。 その後 , 平成 15 年 3 月に施行された健康増 進法 25 条は「学校 , 体育館 , 病院 , 劇場 , 観 覧場 , 集会場 , 展示場 , 百貨店 , 事務所 , 官 公庁施設 , 飲食店その他の多数の者が利用す る施設を管理する者は , これらを利用する者 について , 受動喫煙 ( 室内又はこれに準ずる 環境において , 他人のたばこの煙を吸わされ ることをいう。 ) を防止するために必要な措 置を講ずるように努めなければならない。」と 規定し , 受動喫煙の定義を示すとともに施設 の管理者に受動喫煙防止の努力義務を課した。 同法施行後 , 政府の検討会報告 ( 平成 22 年 5 月「職場における受動喫煙防止対策に関す る検討会報告書」 ) において , 健康増進法 による対策強化として , 努力義務から義務へ の格上げ等が議論されてきた。 そして , 平成 26 年の労働安全衛生法の改正 において , 職場における受動喫煙防止対策と して , 受動喫煙防止のために事業者および事 業場の実情に応じ適切な措置を講ずることが ひかり協同法律事務所弁護士上曽田陳彦 努力義務化されたことは記憶に新しいところ である ( 労働安全衛生法 68 条の 2 , 平成 27 年 6 月 1 日施行 ) 。 このように現状において , 職場における受 動喫煙防止については , 法的義務とまではな っていないが , 努力義務化されたことをふま え , 今後企業には受動喫煙を巡る安全配慮義 務に一層の配慮が求められるようになるもの と思われる。 受動喫煙を巡る裁判例 労働契約法 5 条は , 安全配慮義務について 「使用者は , 労働契約に伴い , 労働者がその 生命 , 身体等の安全を確保しつつ労働するこ とができるよう , 必要な配慮をするものとす る。」と規定しているところ , 安全配慮義務 とは , 具体的には , 労働者が労務提供のため 設置する場所 , 設備 , もしくは器具等を使用 しまたは使用者の指示のもとに労務を提供す る過程において , 労働者の生命および身体を 危険から保護するよう配慮すべき義務と解さ れている ( 川義事件・最三小判昭 59.4.10 民集 38 巻 6 号 557 頁 ) 。 受動喫煙には , 肺がん , 虚血性心疾患 , 肺 機能障害等の健康障害リスクがあるとされて おり , 裁判例でも受動喫煙による使用者の安 110 ビジネス法務 2016.6
1 から作る法務部 特集 1 関わる契約書の作成が重要となる。ライセン ることも有益である。 スの範囲や , ライセンス期間・更新の有無と このように , 自社に求められる法務ニーズ いった条件が , そもそも定まっていなかった の洗い出しの第一歩として , 自社のビジネス り , 顧客べースでバラバラになっていたりす モデル図またはビジネスフロー図を作成し , る可能性がある。 自社ビジネスを構成する関係先とリスク要因 また , パッケージ型であれば , パッケージ を俯瞰的に分析のうえ , 自社に必要となる法 型のソフトウェアに機能追加のためのカスタ 務対応の整理と優先順序付けをはかることが マイズ開発を求められる場合がある。この場 重要である。 合 , 留意すべき点は原則として受託型の開発 【 3 】 A がビジネスモデル図を作成して自社 契約書と同様であるが , パッケージとなって を分析したところ , X 社は基本的には「受 いるソフトウェアと , カスタマイズとして開 託開発ソフトウェア事業」 ( 【図 1 )) をメイ 発される部分の知的財産権の処理の切り分け ンとしたビジネスを行っており , 自社を受 が必要となる。 注側とする開発案件につき , 多数の取引先 【図 3 】 X 社がウエプサイトの運営事業を を抱えていることがわかった。 メインに行っている場合 , 多数のユーザーが 確認したところ , 取引先とのトラブルに 利用する運営サイトの利用規約やプライバシ ついても , 基本的には自社が受注側となる ーポリシーの整備が重要となる。 場面で発生しているとのことである。 A は , また , サイト内の記事その他のコンテンツ まずは自社が受注側になることを前提とし の作成を外注する場合も多いと想定されるた たシステム開発契約書の整備が必要となる め , コンテンツの権利処理についても契約書 との当たりをつけた。 の作成その他の対応をしておく必要がある。 言で「 IT 企業」といっても , 実際に必 要となる法務対応が種々異なることが , ビジ ネスモデル図またはビジネスフロー図の作成 と分析によって浮かび上がってくる。 【図 1 】ないし【図 3 】の各分析は , ある 程度の法務や契約知識が前提となっている が , 立上げ期の法務部にこのような知識がい まだ十分でない段階であっても , 自社のビジ ネス関係を丁寧にビジネスモデル図またはビ ジネスフロー図に落とし込んでみると , 自社 にとって重要な取引先・関係先またはこれら に関する契約関係の特徴が明らかになり , 契 約関係の要点が見えてくることが多い。 また , 作成したビジネスモデル図に , 具体 的な取引先の社名や取引金額を記載して , 自 社ビジネスの関係先との間におけるリスクが 顕在化した場合のインパクトの大きさをはか 特集 1 2 ビジネス理解の進捗 【 4 】 A は , 「受注側のシステム開発契約書 の整備」が当面の課題であると確認したも のの , 改めて振り返ってみると , システム 開発の各工程がどのように進行するのか , システム開発で通常用いられる用語 , シス テム開発業界における近年のトピックなど といった , 自社のサービスに関する基礎知 識が十分ではないように感じられた。 A は , システム開発に関する基本的な書籍 を再読し , 業界雑誌の購読 , 仲の良い事業 部門の社員に基本的な業界知識の解説をお 願いするなど , 知識や理解のキャッチアッ プに努めることとした。 「法務部にもヒジ不スセンスが必要である」 といった点はよく指摘されるが , 立上げ期の 17 ビジネス法務 2016.6
全配慮義務違反を問うものや , 受動喫煙によ る業務災害を巡るもの等が見られるが , 職場 における受動喫煙と健康被害の因果関係を直 接的に認めた裁判例は見られず , 慰謝料請求 を認めた裁判例として江戸川区受動喫煙訴訟 が 1 件存在する。 1 安全配慮義務違反を巡る裁判例 ( 1 ) 岩国市職員嫌煙訴訟 ( 山口地岩国支判平 47.16 労判 613 号 20 頁 ) この事件は , 市職員が市に対したばこの害 を訴え , 庁舎内の禁煙および損害賠償を求め たケースであるが , 請求棄却されている。 同事案において , 裁判所は , 「受動喫煙に よって受けた影響は受忍限度の範囲内にある と認められる」として , 安全配慮義務違反を否 定しているが受忍限度を超える場合には , 安 全配慮義務違反となる旨の考えを示している。 ( 2 ) 名古屋市教員嫌煙訴訟 ( 名古屋地判平 10.2.23 判タ 982 号 174 頁 ) この事件は , 教員が , たばこの煙や匂いに 遭うと , せき , 頭痛等の健康被害が生じると して , 慰謝料を請求したが , 請求棄却されて いる。 もっとも , 裁判所は , 「被告は , 公務遂行 のために設置した施設等の管理又は公務の管 理に当たり , 当該施設等の状況に応じ , 二定 の範囲において受動喫煙の蔵する危険から職 員の生命及び健康を保護するよう配慮がなさ れるべきである」としたうえで , 「被告が , 受動喫煙の . 蔵する危険 .. に . 対 .... し .. て . 配慮すへ .. き ... 義 該施設の . 具体的状に応 ..... じ . 、 ............. 喫煙室 . を - 設 . け - る - 則 -. と ..... し - て . 職員 - が執務の - た . め .... に .. 常時在室す - る .. 部 屋においては煙措着をるなどしこれら の . 措 . 置か庁 . 舎の配置上の理由 . 笠に -. よ .- - り .- 困難 .. な 裁判例にみる企業の安全配慮義務 ては喫煙時間帯を決めた上これを逐次短縮 する措置を執るべきである。 ) , 職場の環境と して通常期待される程度の衛生上の配慮を尽 くす必要があるというべきである。」として , 配慮義務について一歩踏み込んだ判断を示し ている。 ( 3 ) 京都簡易保険事務センター嫌煙権訴訟 ( 京都地判平 15.1 .21 労判 852 号 38 頁 ) この事件は , 郵政事業庁の職員が , 国に対 し , 安全配慮義務等に基づき , 庁舎内を禁煙 とする措置をとることおよび国が安全配慮義 務を怠ったことによる損害賠償を求めた事案 であり , 請求はいずれも棄却されている。し かしながら , 裁判所は「受動喫煙の危険性を 考慮すると , 受動喫煙を拒む利益も法的保護 に値するものとみることができ . 『嫌煙権』 という言葉の適否はともかく . その利益が違 法に侵害された場合に損害賠償を求めるにと どまらず , 人格権の一種として , 受動喫煙を 拒むことを求め得ると解する余地も否定する ことはできない。」と判示し , 受動喫煙を拒 む利益が法的保護に値し , 受動喫煙を拒むこ とを求めうるとの判断を示している点で , 注 目に値する。この裁判例は , 健康増進法の公 布 ( 平成 14 年 8 月 ) 後の裁判例である。 ④江戸川区受動喫煙訴訟 ( 東京地判平 16.7.12 労判 878 号 5 頁 ) この事件は , 江戸川区職員が , 職場におけ る受動喫煙によって健康被害が生じたとして 安全配慮義務違反による損害賠償請求として 医療費と慰謝料の一部請求として 31 万 5 , 000 円 の支払を求め , 慰謝料 5 万円が認容されてお り , 受動喫煙による損害賠償を認めたことで 社会的注目を集めたケースである。 もっとも , 裁判所は , 原告が主張した受動 喫煙とそれによる頭痛等の急性障害の間に法 的な因果関係までは認めておらず , 非喫煙環 ビジネス法務 2016.6 111
業イメージ等を含む社会的評価が損なわれる おそれも想定できる。 所属先企業の業種等により企業イメージ等 を含む社会的評価がどの程度重視されるかに もよるが , 所属先企業が特定されうる態様に よる兼業は企業秩序に影響するとの評価につ ながりやすい。 ( 6 ) 企業イメージ等を含む社会的評価を重視 する企業における兼業 所属先企業が上場企業の場合や , 企業イメ ージその他社会的評価が業績に影響しやすい 業種の場合には , 兼業の内容いかんにより企 業イメージの毀損その他社会的評価を低下さ せる恐れがあるため慎重に検討する必要があ る。裁判例においても , 兼業の社会的評価に 与える影響が考慮されている 4 ⑦その他兼業を禁止すべき特別な事情があ る場合 裁判例の中には , 従業員の長時間労働によ る肉体的疲労度を軽減し , 就業時間中の作業 能率を向上するために , 時間外労働および休 日労働を廃止する代わりに特別加算金が支給 されていた期間中に兼業が行われた事案にお いて , このような事情がある場合 , 従業員に は自己または他の従業員の作業能率や意欲を 低下せしめるような言動を慎むべき忠実義務 があるとして , 他社での就労の噂を流して兼 業を行った従業員に対して兼業禁止規定を適 用した例がある 5 2 労務提供への支障に関する評価 ( 1 ) 多日数 , 長時間 , 深夜・早朝または肉体 的精神的疲労度の高い兼業 所定労働時間中に予定される兼業は労務提 4 日本放送協会事件・東京地判昭 56.12.24 。 5 和室内装備事件・福岡地判昭 47.10.200 6 辰巳タクシー事件・仙台地判平元 .2.16 。 どこまで OK ? 社員の兼業郞 供に支障が生ずるものとして当然ながら不許 可とされるべきものであるが , 所定労働時間 外や休日における兼業であっても , 日数が多 い兼業に従事する時間が長時間 , 深夜早朝に わたる , 精神的肉体的疲労が高いなどの事情 がある場合 , 労務提供に支障が生ずる可能性 が高いといえる。 なお , 1 週 40 時間および 1 日 8 時間を所定 労働時間とするいわゆるフルタイム勤務でな い場合 , 元々兼業に従事することが予定され ていると評価できる場合も多い。 ( 2 ) 十分な休息が求められる業務に従事する 者による兼業 裁判例においては , タクシー運転手が兼業 をしながら運転業務に携わることが事故防止 の達成を危うくさせるとの理由から , 兼業禁 止規定に抵触すると判断したものがある 6 兼業先の業務がバスや鉄道の運転手 , パイ ロットなど所属企業での業務が顧客の生命身 体の安全に関わるような場合 , また , 重機の 取扱いや高所での作業を伴うなど兼業者自身 の生命 , 身体に危険を伴うような業務の場合 など , 所属先企業における業務の性質上 , 所 定労働時間外に十分休養することが求められ る場合には , 比較的短時間であり必ずしも肉 体的精神的に負荷が高いと言えない兼業であ っても , 所属先企業での労務提供に支障を生 ぜしめるものとの評価につながりやすい。 朝兼業許可に関する実務対応 1 兼業許可申請書の提出および面談実施 従業員から兼業許可申請があった場合 , 会 社としては , 【図表 2 】記載の事情を総合考 ビジネス法務 2016.6 123
法務部を機能させるアイデアが満載 ! .11 ・ ビジネス法務℃ CONTENTS Vol. 16 / No. 6 イラスト : モリタヒサコ 回 1 から作る法務部 法務部の機能と役割を考える ストーリーからわかる法務部門の立上げ 紛争に備えよう文書管理体制の整備 成熟度別組織の作り方・人材採用の秘訣 顧問弁護士とどう連携するか lnterview 子会社で法務部を立ち上げる 座談会 大井哲也 渡邉寛人 若林功 平林健吾 高橋知洋 大槻智行 国 法務部立上げの苦労をどのように乗り越えたか 大井哲也 x 伊藤正人 x 庄司公一 x 西谷和起 x 白川聖明 「 1 からの法務部」におすすめの書籍 いま求められる 人権デュー・ディリジェンス 「国連指導原則」をめぐる世界的な動向 日本企業に求められる人権デュー・ディリジェンスと 情報開示 事例からみる人権デュー・ディリジェンスの実践 山田美和 牛島慶一 高橋大祐 1 1 1 5 23 28 35 40 46 53 68 62 57
1 から 作る法務部 法務部の機能と役割を 考える TM 聡合法律事務所 弁護士大井哲也 本稿は , 初めて法務部を立ち上げるスタートアップ企業など , 法務部門が充分に機能し ていないステージにある企業が , 法務部門の立上げのために何をすべきかというテーマを 取り上げる。法務部門に求められる機能としては , 契約書の作成・レビュー , 社内規程の 整備 , 社内の稟議システムの整理等 , 多岐にわたるが , 企業組織の中で , 法務部門がどう いう機能と役割が求められているのか , まずは , その全体像を把握したい。 特集 1 特集 1 0 る民泊のために旅行者と宿泊場所の提供者 I 法務部門の業務範囲 とのマッチングシステムを構築することを 考えている。 法務部門は , 事業部と協働しながら , 経営 法務担当者は , A 社社長から , このよう にまつわるリスクを回避し ( 守り ) , 事業遂 なビジネスは適法か , 適法に事業を遂行す 行を円滑に進めるべく自社に有利な権利を獲 るためのビジネスモデルをどう構築すべき 得する ( 攻め ) の両側面の機能が期待される。 かについて質問を受けた。 法務部門は , 会社の規模や , ビジネスの種 法務部門の基本的な業務としては , 自社の 類・業態により求められる機能や業務内容が 千差万別であるが , 典型的には , 次頁の【図 ビジネスがそもそも適法か否かをチェックす る事業の適法性のチェック業務がある。 表 1 】のように種々の業務がある。 1 事業の適法性チェックの手法 Ⅱ事業関連 他社の同種サービスの有無の調査から開始 し , 同種サービスがない場合には , 他社がや っていないということは何か法令上の規制が 【想定事例】 あるからではないか , という懐疑心をもっ て , 法令に抵触しないかを調査する。 上場企業の同業他社がある場合 , 有価証券 報告書の特別記載事項 ( リスクファクター ) に適用される法令とそのリスクに関する記載 インターネットサービスを主な事業分野 としている A 社 ( 資本金 1 , 000 万円 ) は , 新規事業部を立ち上げるため , 旅行者がホ テルに代わり一般家庭に宿泊する , いわゆ ビジネス法務 2016.6
委員会が設置されるが , これらは取締役会の 下部機構である。伝統的に取締役会議長を CEO が兼ねることが一般的であるが , 次第 に英国的な考え方が浸透しつつある。 この問題が注目を集めたのは , 2008 年のェ クソン = モービル社の株主総会である。同社 の創業者株主であるロックフェラー家のメン バーは , 分離原則の採用を訴えた。その趣旨 は , 同社のような世界的なエネルギー企業 は , 当面する経営課題のほかに中・長期的な エネルギー問題について取締役会レベルで考 えていくことが必要であり , それが株主の 中・長期的な利益に合致するというものであ る。そのために取締役会の運営を , 日常の業 務運営に責任をもつ CEO とは異なる者に委 ねることが望ましいと主張した。コーポレー ト・ガバナンスに問題があるからというので はなく , 株主の中・長期的な利益という観点 から分離原則が提唱されたことが注目され る。この提案は 40 % 弱の支持を集めたもの の , 多数意見は CEO の議長兼任の継続を支 持した。米国では「船を指揮するのは 1 人の 船長」という考え方が強く , 会社の業績が順 調である限り分離原則の採用に対して株主は 総じて慎重であるといわれる。 一方 , バンク・オプ・アメリカでは , 金融 危機時の対応のあり方が批判され , 2009 年の 株主総会で分離原則の採用を求める提案がわ ずかの差で可決された。独立取締役のなかか ら取締役会議長が選任された ( 当時の CEO は CEO の職務を行うのみとなり , その後退 任 ) 。しかし , 昨年 9 月の同社の株主総会で は従前の方式への復帰を認める提案が支持さ れ , 議長と CEO の兼任が承認された。 米国では業績不振や企業不祥事などの後に 分離に踏み切る場合が多いようである。た だ , バンク・オプ・アメリカやウォルト・デ ィズニ ・カンパニーのように兼任制に復帰 する例もあり , 分離原則へのシフトが傾向的 に明確になっているとまではいえない。分離 P Ⅱ 9 工 制は不祥事等の問題を減らすかもしれない が , ダイナミックな戦略の策定・実施の面で は兼任制のほうが優れるという見解もある。 本年に入っての動きとして , ノルウェーの ソプリン・ウェルス・ファンドが , 米国の大 銀行は分離原則の採用に踏み切るべきである と提唱したことが注目される ( 2 月 8 日 , フ イナンシャル・タイムズ紙 ) 。 わが国の上場会社でも , 工ーザイのように , かねてより社外取締役が取締役会議長を務め ることを原則とする会社がある。近時 , 同様 に社外取締役が議長を務める会社が出始めて いる。先般の「スチュワードシップ・コード 及びコーポレートガバナンス・コードのフォ ローアップ会議」 ( 2015 年 12 月 ) では , 花王 の取締役会議長 ( 独立社外取締役 ) から取締 役会運営の実情についての説明が行われた。 今後のコーポレートガバナンス・コードの見 直しの際に検討項目とされる可能性もある。 このテーマについては , 社外取締役の設置 やその人数という問題以上に各社の実情を勘 案することが必要である。企業規模や業種特 性 , 当該企業の組織運営の沿革と実情など , 考慮すべき要素は少なくない。 また , ①議長と CEO の分離のみを定める , ②原則として社外取締役が議長を務める , の いすれとするかによってかなり異なる。②の 場合は , 当該会社の経営の実情 ( 業界事情を 含む ) についての知識が不可欠であるととも に , 取締役会の準備のために相当の時間を割 くことが必要になる。これらの条件を満たす 人材を継続的に確保しうるのかという問題が ある。私見では , 取締役会の実効性向上の観 点から , 上場会社で規模が大きく株主構成の 分散が進んでいる場合には , 基本的に分離原 則の採用が望ましいと考える。 企業の実情に応して選択 ビジネス法務 2016.6 5
いま求められる人権デュー・ティリシェンス 特集 2 日本企業に求められる 人権デュー・ティリジェンスと情報開示 アーンスト・アンド・ヤング 気候変動・サスティナビリティ・サービス日本エリアリーダー マネージング・ディレクター - 牛島慶一一 な角度で人権が捉えられるなど , 「指導原則」 I はじめに がより具体化 , さらには広がりを見せている。 このように , フェーズは「指導原則」の学 習・啓発から実行・評価へとシフトしはじめ 2015 年 11 月 16 ~ 18 日に , スイスのジュネー ており , さらには主要なアクターも一般の企 プで国連「ビジネスと人権に関するフォーラ 業から国家 , 国際的なイベント主催者へと広 ム」が開催された。参加者は , 政府 , 企業 , がりを見せている。 NGO, 学識者合わせて約 2 , 300 人と言われて いる。 2012 年の初回が約 1 , 000 人であったこ とを考えると , いかに関心が高まっているか 国連「ビジネスと人権に関する がわかる。また , 会合における関心事も徐々 指導原則」に対する企業の対応 に変化してきている。 2012 年当初は国連「ビ 1 グローバル先進企業の動向 ジネスと人権に関する指導原則」 ( 以下「指 導原則」という ) 1 が発表されて間もないと グローバルに先進的な取組みを行っている 一部の製品・サ ネスレやユニリーバなどは , いうこともあり , この合意になお不満を持つ ービスもしくは地域をパイロットとして人権 市民団体が , 強烈に企業を非難する場面もあ ・ディリジェンス ( 以下「人権 DD 」 った。一方 , 企業側は自社の人権尊重の取組 アユ という ) を先行実施させ , そのノウハウを社 みを発表し , 参加者の理解を求めた。 内に蓄積しながら , 横展開させている。こう 2015 年は , 「指導原則」が国連人権理事会 で承認されてから 4 年が経過したことを受 した企業に共通する点は , 本社の関与とグロ ーバルに共通した人権 DD の枠組みを持ち , け , 企業が人権に与える影響の特定 , 予防 , 全社で統合した取組みを実践していること 軽減 , 報告に関する成果をいかに評価するか だ。また , フェーズはレポーティングへと拡 が議論の焦点となった。また , 国別行動計画 の策定に関する議論も盛んになった ( 後述 ) 。 大させはじめている。 また , これらの企業は , 積極的に社外の人 この他 , フォーラムの期間中に開催された約 権専門家と協働しながらグッドプラクティス 60 のセッションでは , 持続可能な開発目標 をいち早く作り , 世の中に提案することで , (SDGs) と人権 , メガ・スポーツ・イベント " 原則べース " である人権活動において " 業 と人権 , ファッションと人権など , さまざま 1 http: 〃 www. 0目C目「 .0 「 g/Documents/Publications/GuidingP 「 inciplesBusinessHR—EN. pdf Ⅱ 62 ビジネス法務 2016.6