法務部立上げの苦労をどのように乗り越えたか 座談会 契約書レビューのフロー・ひな型作り 大井 : 具体的な作業としては , 何から着手を したのでしようか。 西谷 : 許認可は特に必要ない事業を行ってい る会社でしたので , ます契約書のレビューの 依頼の受け方・答えの返し方を見直しまし た。その次に , 契約の社内決裁の稟議フロ , 少し余裕が出てきたら , 規程などを見直 すという順番でやっていました。 大井 : まずは契約書レビューのフローですね。 西谷 : 法務部が知らない間に話が進んでしま うと困るので , 漏れがなくなってから次のス テップに行くという感じですね。 大井 : たしかに , 当初は事業部がどのタイミ ングで何を法務部に依頼していいかわからな いという状態から始まりますよね。法務部が すべての契約書にレビュー依頼をかけていま すか , それとも , 事業部が迷った契約書を法 務部に依頼するフローにしていますか ? 西谷 : ビジネスの形態にもよるのですが , ひ な型ができている部門についてはある程度任 せています。システム開発受託契約はメイン の契約になるので , 経産省のモデル契約書を 業種 : Web サービス・ EC 事業 長ムか 部コ 務ク 法カ 員社明 彳殳会 行式川 執株白 き あ よ き ら し 目ロ 信会社の子会社で法務担当 ( 1 名 ) を経験。 る ( 知的財産部門は法務部が担当 ) 。以前は , げ情報通 ー携しつつも . 業務分掌としての職域は完全に分離してい一 法務部は経営企画や人事・総務部などの関連部門とは連 部署は 6 名体制 ( 企業内弁護士・弁理士複数を含む ) 。 べースに , 実際の開発体制について社内でヒ アリングをかけ , 会社独自のひな型をつくり ました。 伊藤 : ひな型を作るか否かを判断する必要も ありますよね。たとえば , 月に 1 回や年に数 回程度の取引契約書であるならば , あえてひ な型をつくる必要もないのですが , 何度も同 じような取引に関する契約書のレビュー依頼 が上がってくるものに関してはひな型を作り ました。具体的には , 取引相手から提示され 蓄積されていた契約書の中身を法務メンバー が検討して , 自社に有利な条項に切りかえ , またその後事業部の方とすり合わせました。 できあがったファーストドラフトを今度は外 部の法律事務所に精査してもらうというのを 繰り返しました。 庄司 : みなさまひな型を作っていらっしやる のですね。当社は , 契約書に落とし込むとい うケースがさほど多くはないです。しかも , 契 約自体は先方起案の契約書が多いので , 提示 されたものを読み込んで , リスクの洗い出し を行い , あまりにも込み入ったものは , 顧問 の弁護士に見ていただく形をとっています。 伊藤 : ひな型がなじむ会社は , まずはひな型 自体を作って , 事業を行いながら , より自社 の事業・文化に合ったものにどんどん再編成 していくというのが , 若い会社には合ってい る考え方なのかなと思いますね。 白川 : アップデートは大切ですね。ひな型信 仰ですと営業の行動が制限されますし , 相手 先や自社の成長に合わせて常に過不足が生じ てくるものだと思うので , 事業部から情報を 入手して , 案件によって個別に差分が出てこ ないのかをチェックすることは , 継続的に必 要になってくると思います。 西谷 : 場合によっては , トラブルが起こる と , ひな型の条項だけではなくて , 全社を巻 き込んで業務の回し方も含めて変えようとい う話になります。また , 変えた後の契約をき ビジネス法務 2016.6 49
座談会 法務部立上げの苦労を どのように乗り越えたか ( 司会 ) TM 聡合法律事務所弁護士大井哲 - 也 クルーズ株式会社弁護士伊藤正人 株式会社ヒューマックス ) 主司・公一一 テックファームホールディングス株式会社・西谷不Ⅱ起 株式会社カカクコム白川聖明 法務部門を 1 から立ち上げた , あるいは機能が十分でない状態から立て直した企業の法 務担当者の方々に集まっていただき , どのような苦労があったか伺った。 入社時の状況 大井 : 今回のテーマは , 「法務部立上げの苦 労をどのように乗り越えたか」です。まず は , 法務担当となったときの会社の状況を伺 っていきたいと思います。 西谷 : 法務部の立上げ・機能の作り直しを現 在の会社を含めて 3 社経験しています。今の 会社には最初から責任者として入社しました。 法務機能はもともとありましたが , 人の入れ 替わりもあり十分機能していない部分もあっ たので , 立て直しを 2 年半ぐらいやっていま ーー 1 年ほどは総務機能の拡充・見直し もしていて , リスクマネジメントや取締役 会・経営会議などの会議体の事務局 , 会社の 中のバックオフィス業務の改善 , 全社のコス ト見直しなどにも幅を広げてやっているので , 今は純粋な法務ではない仕事も多いですね。 白川 . 弊社は私を含めて 6 人法務部員がおり まして , 当初から室長として入りました。入 社した当時は上場後 3 年目で , 一通りの契約 書・規程・サービス規約はできていました が , ガバナンス・株主総会といった商事法務 系の対応が十分できていない状況でした。改 めて , サービス規約や契約書のひな型の文言 レベルからの再確認を始めて , それが一段落 ついたのが 2 ~ 3 年経ってからです。 伊藤 : 私は IT 系のビジネスや上場企業法務 を勉強したいという希望で現在の会社に入 り , 1 カ月後にディレクターとなりました。 当時は , 上場して 5 ~ 6 年目ぐらいでしたの で , 比較的法務の基盤というものはできてい ました。 庄司 : 当社は , 法務部門という形で独立した 部署は持っていません。私は 15 年ほど事業部 で勤務した後に , 総務部に異動しました。人 事関係を主にやっていましたが , 当時は就業 規則と定款があるぐらいで , ほかの規程は皆 無の状態でした。ところが , 不動産部門で投 資顧問運用業を行うことに決まったため , 許 可の取得のために業法および加盟協会の要 川い 求する規程をすべて揃えて , 内部監査体制を 整えるような業務をやってきました。最初は 「ガバナンス」や「コンプライアンス」といっ 46 ビジネス法務 2016.6
子会社で法務部を立ち上げる lnterview グ活動等が中心であれば , より社内の人材を 身 , 企業法務は初めてでしたので , どうした らよいか考えながら仕事をしていました。 確保するほうが効率的です。 3 デル株式会社 63 まず何から手を付けましたか ? その前は , デルの日本法人の法務部にいま ここでも 1 から法務部を立ち上げまし して , た。当時のデルは , 日本での売上が急速に伸 1 事業を理解する 「その会社が売っているサービス・商品は びているときで , 細々した問題も日常的に起 何であるかを理解すること」です。 きており , 法務部を作ってリスク管理をしな その次が , 人間関係の構築。マネジメント ければならないという本社の考え方がありま チームと現場の人たちの関係構築 , それから 0 本社 ( 親会社 ) の法務との関係構築です。ダ 当時 , 日本法人の法務はアジア・パシフィ イレクトに法律に関わることはさらにその次 ック地域統括で管理されており , その統括本 で , はじめのうちはむしろ法律に関係のない 部はシンガポールにありました。しかし , や はり日本でビジネスを行うには日本語ができ 部分が重要です。 ないと不都合が多いということで , 日本に法 その会社の事業を理解しないと , 契約書は 作れませんし , 会社がどのような考え方で動 務部を置くことになったのです。私自身の企 いているかを理解しないとプロセスは作れま 業法務人生はここからスタートしました。 せん。そして , 会社のリスクがどこにあるか を理解しないと規程も整備できません。 4 米国ロースクールから弁護士事務所へ 最初に就職したのは , 日系のコンピュータ 2 三者との関係を構築する 会社でした。そこでアメリカの支社に異動が 会社は 2 つのグループの人に分けられま 決まりまして渡米することになりました。 す。マネジメントチームと , ビジネスの現場 こでは法務の仕事は一切していません。支社 の人たちです。先ほどまでのお話は現場の人 はオハイオ州にあって , ケンタッキー州に住 たちへの対応で , マネジメントチームへの対 んでいたのですが , しばらく勤務したのち退 職し , そのままケンタッキー州のロースクー ルに入学しました。そこで弁護士資格を取得 大 槻 しましたので , 地元の法律事務所に入所して 智 弁護士として働いていました。 お お つ 子会社で法務部を起ち上げること き 62 になった経緯についてお教えくだ と さい。 も ゆ き 先ほども申し上げましたが , デルでは , 日 本でのビジネスが伸びており法務が必要にな 日本アイ・ビー・エム株式会社法務・知的財産・コンプ ライアンス担当理事。ワシントン州 , ーユーヨーク州お ったという事情があり , 立上げのために入社 よびケンタッキー州弁護士。 しました。苦労もたくさんありました。私自 41 ビジネス法務 2016.6
1 から 作る法務部 法務部の機能と役割を 考える TM 聡合法律事務所 弁護士大井哲也 本稿は , 初めて法務部を立ち上げるスタートアップ企業など , 法務部門が充分に機能し ていないステージにある企業が , 法務部門の立上げのために何をすべきかというテーマを 取り上げる。法務部門に求められる機能としては , 契約書の作成・レビュー , 社内規程の 整備 , 社内の稟議システムの整理等 , 多岐にわたるが , 企業組織の中で , 法務部門がどう いう機能と役割が求められているのか , まずは , その全体像を把握したい。 特集 1 特集 1 0 る民泊のために旅行者と宿泊場所の提供者 I 法務部門の業務範囲 とのマッチングシステムを構築することを 考えている。 法務部門は , 事業部と協働しながら , 経営 法務担当者は , A 社社長から , このよう にまつわるリスクを回避し ( 守り ) , 事業遂 なビジネスは適法か , 適法に事業を遂行す 行を円滑に進めるべく自社に有利な権利を獲 るためのビジネスモデルをどう構築すべき 得する ( 攻め ) の両側面の機能が期待される。 かについて質問を受けた。 法務部門は , 会社の規模や , ビジネスの種 法務部門の基本的な業務としては , 自社の 類・業態により求められる機能や業務内容が 千差万別であるが , 典型的には , 次頁の【図 ビジネスがそもそも適法か否かをチェックす る事業の適法性のチェック業務がある。 表 1 】のように種々の業務がある。 1 事業の適法性チェックの手法 Ⅱ事業関連 他社の同種サービスの有無の調査から開始 し , 同種サービスがない場合には , 他社がや っていないということは何か法令上の規制が 【想定事例】 あるからではないか , という懐疑心をもっ て , 法令に抵触しないかを調査する。 上場企業の同業他社がある場合 , 有価証券 報告書の特別記載事項 ( リスクファクター ) に適用される法令とそのリスクに関する記載 インターネットサービスを主な事業分野 としている A 社 ( 資本金 1 , 000 万円 ) は , 新規事業部を立ち上げるため , 旅行者がホ テルに代わり一般家庭に宿泊する , いわゆ ビジネス法務 2016.6
く広く」の観点で話が進みがちになるが , 本 補償を何ら検証することなく付帯し , 実際に 事故が発生した場合にはかなり意外な機能の 仕方をすることで困惑する可能性もあろう。 会社費用内枠払の危険性 2 現在 , 日本国内で流通している D & O 保険 では , 普通保険約款の補償に追加する形で以 下の補償を特約で付帯している場合がある。 ・会社補助参加費用 ・会社初期対応費用 ・第三者委員会設置費用 簡単に概要を説明すると , 会社補助参加費 用および会社初期対応費用は , 会社法 849 条 に規定されている被告に対する自社の補助参 加に掛かる費用および損害賠償請求のおそれ の発生以降にかかる初期対応上の費用を D & O 保険で補償するものである。基本的に D & O 保険の被保険者は役員であるが , この 補償は追加的に会社が負担する費用を補償す る点が特徴である。また , 第三者委員会設置 費用も会社の費用に対する補償で , 第三者委 員に対する報酬や当該業務遂行に必要な費用 を補償するものである。ここで重要なのは , これらの会社費用に対する補償が支払限度額 の外枠なのか内枠なのかということである。 もし内枠であれば , これらの補償が提供され ることで , 限りある役員個人の支払限度額を 費消してしまう可能性がある。あくまで D & O 保険の被保険者は役員個人と考えると これらの補償を支払限度額の内枠にしておく と , ささいな事象が生じるたびに支払限度額 が費消してしまうことになり , その後 , 実際 に株主代表訴訟が発生した場合に , 必要な支 払限度額が残っていない事態にもなりかねな も含めて検討することが必要といえる。 そもそも補償しないこと これらの補償は外枠設定で の検討を進めるか , い。したがって , 朝おわりに 2015 年は経済産業省報告書が公表されたこ とにより D&O 保険を取り巻く環境に大きな 変化があった年であった。従来までの系列取 引を基本とする保険購入姿勢から , 少しずつ ではあるが , 自社の補償内容の充実に重きを 置く企業が増えつつあり , 企業側の保険会社 に対する期待も大きくなってきていると感じ ている。今後は , 本保険における引受経験や 事故対応力等をより考慮した総合的判断によ る保険会社の選択が企業側には求められ , ま た保険販売チャネルおよび保険会社には顧客 の期待に応え続ける不断の努力が必要となろ う。本稿が少しでも本保険立案者のお役に立 てるようであれば幸いである。 なお , 本稿における内容は , すべて筆者の 個人的見解であり , 所属する組織の見解では ない点をお断りする。 山越誠司 ( やまこしせいじ ) フェデラル・インシュアランス・カンパニー経営保険 本部長。 1 993 年日産火災海上保険株式会社に入社し 地域営業 , 2001 年工ーオン・リスク・サービス・ジ ャパン株式会社にて外資系企業の保険手配業務 , 02 年 株式会社エヌ・エヌ・アイにてキャプティブのコンサ ルティング業務 , 04 年オリックス株式会社リスク管理 本部にてリスク管理業務を経て , 1 2 年より現職。本稿 I , Ⅱ執筆担当。 太田桂介 ( おおたけいすけ ) フェデラル・インシュアランス・カンバニー経営保険 本部シニアアンダーライター。 2002 年株式会社千葉 銀行に入行し融資係 , 営業係を担当。 05 年より現職。 一般事業会社および金融業向け新種保険引受を担当。 本稿Ⅳ , V 執筆担当。 増島陽香 ( ますじまはるか ) あいおいニッセイ同和損害保険株式会社企業商品部。 2009 年あいおい損害保険株式会社 ( 現あいおいニッ セイ同和損害保険株式会社 ) 入社。新種保険 , 個人向 け火災保険の商品開発を担当。 1 4 年 4 月からフェデラ ル・インシュアランス・カンバニーへ 2 年間出向。 16 年 4 月より現職。本稿Ⅲ執筆担当。 104 ビジネス法務 2016.6
自己株ェ取得規制の現代的論点 新連載 ーなぜ自己株式取得が注目されているか ? 神戸学院大学法学部 准教授宮崎裕介 かってわが国において原則として禁じられていた自己株式取得が , 商法改正による解禁 を経て新たな時代を迎えている。とりわけ上場会社にとっては , 自己株式取得を抜きに会 社の財務戦略を組み立てることはできず , 言わば必須のツールとなっている。「自社株買 い」というキーワードを経済紙などでよく見かけるようになったことも , その 1 つの表れ である。本連載では , 最近になってなぜ上場会社が自己株式取得を迫られているのか , そ これをふまえた法的論点を検討してみたい。 のバックグラウンドを解明し , もたらしたのが , 平成 13 年 6 月の商法改正に よる自己株式取得の原則自由化である。この 改正により自己株式取得の目的や数量などに 営利企業である株式会社の本質的目的が , 関する規制が大幅に緩和されたため , ペイア 対外的な活動を通して得られた利益を株主に ウトの方法として自己株式取得を用いること 配分すること ( 以下「ペイアウト」という ) が可能となった。 であることは異論がなかろう 1 。わが国にお このように法改正を経て , ペイアウトの手 段としての自己株式取得を利用する土壌が調 いて , 従来 , かかる目的を達成するための主 ったこともあり , 株式会社による自己株式取 たる手段として継続企業が用いてきたのは , 得の総額は順調に増加傾向をたどっている。 剰余金の配当 ( 以下 , 単に「配当」という ) であった。これは , 周知の通り , 平成 6 年の 2008 年 9 月のいわゆるリーマンショックの影 商法改正まではごく一部の例外を除き , 企業 響で一時的な落ち込みをみせたものの , 自己 2015 年に上場会社が行った自己株式取得の総 が自社株を株主より買い受けること 額は過去最高値となる 5 兆円近くに達する見 株式取得ーーーが禁じられていたため , 少なく 込みである 2 。現在では , ペイアウトの方法 ともペイアウトの手段として自己株式取得が として配当と比肩しうるだけの地位を自己株 活用されることはなく , その役割は配当に委 式取得は築き上げたと言えよう 3 ねられていたからである。この状況に変化を 1 近藤光男「最新株式会社法 ( 第 8 版 ) 」 ( 中央経済社 . 2015 ) 5 頁参照。 2 日本経済新聞東京本社版 2016 年 2 月 28 日朝刊 1 面。 3 砂川伸幸 = 川北英隆 = 杉浦秀徳「日本企業のコーポレートファイナンス」 ( 日本経済新聞社 , 2008) 275 頁。 を 第 1 回 , 4 I はじめに 85 ビジネス法務 2016.6
法務部立上げの苦労をどのように乗り越えたか おり , そこまでの環境を勝ち取るまでが大分 会議体における役割 時間がかかったのですが , 今は信頼を得て , そ 大井 : 会議体の運営面で , 執行側からアドバ れがうまく回っているのかなと思っています。 イスを求められる場面はありますでしようか。 西谷 : どの手続で進めるべきなのか , 会社と 社内規程の整備 してどういう会議体で判断すればいいのかと いう問い合わせはやはり多いですね。権限分 大井 : 規程の整備というのも立ち上げたばか 掌規程等の社内規程をしつかり把握していて , りの法務部の業務の 1 つです。たとえば , 許 どのカテゴリーに会社の判断が入ってくるの 可の取得のため , IPO の準備のため , など ロ・い かというジャッジをしなければなりません。 といった目的がありますが , どのタイミング 白川 : 私は取締役会 , 株主総会 , あと , 取締役 でどのように行いましたでしようか。私が顧 会の前段の経営会議に事務局ないしメンバー 問をしている企業でいうと , 特に法務部がと として入っていますが , 経営会議もわりとざ ても小さなべンチャー企業がこれから IPO 準 っくばらんに発言できる環境です。事業リス 備をするという際は , 証券会社が提供するひ クとリーガルリスクをどう切り分けるかとい な型はかなり精緻なものを , 企業のワークフ うところ , たとえば , 該当法令の動向や当局・ ローにあわせてシンプルにしていく方向で改 業界の判断が未確定な分野では , 先行者のポ 定をしていきます。公開後 , 権限分掌の仕組 ジションをとるために積極的な法解釈を法律 みであったり , チェックの仕組みがより精緻 顧問と協議し提案していきます。 にできれば , そのタイミングで変えていくケ 伊藤 : 私は経営会議には参加しませんが , 法 ースが多いと思います。 務のマネジャーとして , 全経営会議の資料や 西谷 : 当社は今期から持株会社体制に移行し 義事録をすべてを閲覧する権限が付されてい たので , そのタイミングで規程を大きく変え ますので , 必ずそこで行われた内容を確認し ました。また , 新しい会社が当社グループに たうえで , 取締役会で議論すべき議題かどう 入ってきた関係で , グループ内での権限の分 かを検討しています。 配についての規程の整備を行っています。 大井 : IPO を経験されたことはありますか。 西谷 : IPO の経験はないのですが , 以前勤務 監査役をうまく活かす ! していた会社で東証一部に市場替えするタイ 西谷 : まだ若い会社では , 監査役とのつき合 ミングで証券会社レビューが入り , 全社の規 い方も 1 つ重要なポイントだと思います。弊 程を見直しました。証券会社のサポートはあ 社は , 取締役だけではなく監査役の方にかな まりなかったので , 顧問の法律事務所の先生 り強力に法務のバックアップをしていただい であるとか , お付き合いのある他社から少し ています。また監査役の方から取締役に対し サンプルをいただいたりして整えていきま てフィードバックをしていただけると , 法務 としてはすごく動きやすいと思います。 大井 : そういった法務同士の他社との情報連 伊藤 : 常勤監査役は , ほば毎日のように顔を 携というのはあるのでしようか。 出されていて , 大部分の会議資料にも目を通 西谷 : 大事な部分はマスキングして , 一般的に すことができるような形になっています。席 はこうだよねという形で情報交換はしますね。 が近いので相談がしやすいです。 ニ = ロ 51 ビジネス法務 2016.6
1 から 作る法務部 ストーリーからわかる 法務部門の立上げ GVA 法律事務所 弁護士渡邉寛人 社内法務部の立上げ期には , まず , 会社における法務部門の位置づけを理解することが 必要である。法務体制の構築への取組みには , 自社のビジネスをよく理解し , 事業部門と の適切な関係を構築するために , コミュニケーションの機会と仕組み化を図ることが重要 である。 特集 1 ノ 特集 1 0 のの取引先とのトラブルが目につくように なってきた。法学部出身で総務部に所属し ている A に対し , これを機に社内の 1 人法 務部として , 総務の仕事も兼務しながら対 応するよう指示が出された。 はじめに 社内法務部の立上げにつき , 「会社の発展 には法務が重要である」という一般論には賛 意が得られても , 日々の業務運営における法 務機能の重要性を理解してもらうこと , そし て法務機能の発揮に必要となる業務権限と予 Ⅱ自社ビジネスの分析 算を獲得することは難しい。立上げ期の法務 部には , 会社にとってのみずからの存在意義 を的確に認識し , これを社内に提示すること 【 2 】ひとまず A が取引先との間の契約状況 が求められる。 をヒアリングしたところ , 発注書または注 個々の会社のビジネスがそれぞれに異なる 文書はあるものの , 整備された契約書群は ことと同様に , 会社に必要となる法務機能や 存在していなかった。また , 一部契約書は そのあり方も一様ではない。以下では , 仮想 あるものの , どこかのひな型の流用であっ 事例を用いながら , 会社で新たに法務部を立 たり , 社長が独立前の会社で用いていた契 ち上げることを想定して , 具体的な法務体制 約書がそのまま利用されていたりと , 今の の立上げの流れとポイントを解説する。 会社のビジネスに適切な契約書が用いられ ているのか判別がつかない状況であった。 【 1 】 X 社は社員 20 名弱の都内企業であ A は , まず自社に必要な法務対応を分析し , る。設立 3 年目で順調に発展してきた X 社 その優先順位付けに着手することにした。 であるが , 近時 , 裁判沙汰には至らないも ビジネス法務 2016.6
1 ビジネスフロー図による自社 ビジネスの整理 企業に必要な法務対応の優先順 位付けは , 自社ビジネスの理解な しに行うことはできない。このよ うな場合 , 自社のビジネスモデル 図またはビジネスフロー図を作成 し , 分析することが有用である。 X 社は , 「 IT 企業」として設定 されているが , 同じ IT 企業でも , ビジネスフロー図は【図 1 ~ 3 】 のように異なりうる。 【図 1 】の x 社が , 受託開発を メインに取り扱う開発会社であっ た場合 , まずは取引先との間で締 結するシステム開発の契約書の整 備が重要になる。開発側である自 社に有利な契約書をひな型として ライセンス (ASP) システムの提供カスタマイズ 保守料 準備しておけば , 自社のビジネス ( / ヾッケージ , ASP) ・販売収入 ( / ヾッケージ ) 開発 リスクを大きく減殺することが見 個人・法人 ( 自社使用 , 一般向けサービス ) 込まれる。 一部の開発を外注してい また , 【図 3 】ウェブサイト運営事業のビジネスフロー図 た場合 , こちらが発注側となる契 約書の整備も重要である。外注先 広告主 ( クライアント ) コンテンツ制作者 ( ライターほか ) で大幅に開発の遅延が発生した り , 外注部分に不具合が頻発した りするようだと , 自社側の開発工 程にも影響が生じてしまう。開発 の後工程に影響を与えうるような 事態を避けるため , 開発遅延時に おける対応や瑕疵担保責任を含む 不具合対応について特に留意しな カら , 自社発注側の契約書も作成 しておく必要がある。 【図 2 】の x 社が , パッケージ 型のソフトウェアの販売をメイン 事業とする場合や , ASP ( アプリケーショ ービスをウエプ経由で提供するモデルをい ン・サービス・プロバイダー (Application う ) 型のサービスを提供する会社であった場 合 , まずは自社ソフトウェアのライセンスに Service provider) , ソフトウェアの機能やサ 【図 1 】受託開発ソフトウェア事業のビジネスフロー図 外注先 外注費 システム開発 X 社 システム開発 開発報酬 サポート・保守サポート・保守料 法人 ( 大企業 , 中堅中小企業 ) 【図 2 】バッケージ・ ASP 型ソフトウェア事業の ビジネスフロー図 外注先 外注費 システム開発 カスタマイズ 開発報酬 広告代理店 広告表示 支払 広告表示支払 報酬 コンテンツ提供 X 社 運営サイト 、ヾゝ 利用料 コンテンツ・サービスの提供 一般ユーザー 16 ビジネス法務 2016.6
lnterview 子会社で法務部を立ち上げる 日本アイ・ビー・エム株式会社米国弁護士大槻智彳丁 グループ経営におけるガバナンスの強化を図るため , 子会社に法務部を設けることを検 討する企業も少なくないだろう。本稿では , 海外に本社のあるグローバル企業における在 日子会社の立上げのご経験から , クロス・カルチャーという背景をふまえ実務において気 をつけるべきことを伺った。 1 日本アイ・ビー・エム株式会社 現在の経歴から遡ってご紹介しますと , 2011 年 1 月から日本アイ・ビー・エム株式会 社の法務部に所属しています。主に人事労務 分野とコンプライアンスを担当していまし て , コンプライアンス部門としては企業文化 醸成のためのトレーニングや , 社内に向けた メッセージ発信を行っています。また人事労 務分野としては , 雇用契約や就業規則の作成 を人事部の担当者とともに行っています。そ の他 , 訴訟対応や年金 , 輸出管理 , 環境法な ど幅広く業務に携わっています。 2 PGM ホールディングス株式会社 その前は , 2004 年 12 月より PGM ホールデ イングス ( ゴルフ場運営会社 ) の法務部にい ました。私の入社前まで法務部はなく , 立上 げに関わりました。当時 , PGM は日本でゴ ルフ場の買収を盛んに行っていまして , 日本 市場での上場を目指しており , そのため法務 が必要になったということで私が参りました ( 注 : 上場は 1 年後 , 2005 年 12 月 ) 。当時の主な これまでのこ経歴を簡単にこ紹介 ください。 業務としては , M & A や資金調達などがあり ました。保有しているゴルフ場の数は , 入社 当初 40 くらいでしたが , 退職までに 140 くら いまで増加していました。また , 同社では人 事も担当していて , そこで学んだことが現在 の会社でも活かされています。 当初は 1 人で担当していたわけですが , 特 定の専門分野にかかる業務が多かったという のがその理由です。上場準備は一過性のもの ですから , 上場してしまえばそれに関連する 業務もなくなります。また , M&A やファイ ナンシングは忙しさに波があって , 作業は一 定期間に集中します。ですので , 中で人をた くさん抱えるよりは , その時に外のリソース を活用して進めたほうが効率的です。 これは新しく法務部を作る際に非常に重要 なことなのですが , どういう業務内容が中心 となるのかを見極めなければなりません。作 業が平準化できるものなのか , どれほどの専 門性が求められるのかという観点から , 社内 に人を抱える必要があるのか , それとも外部 の弁護士などを頼るほうがよいのかというこ とを検討していくのです。業務が会社の商品 やサービスに係わるものが多ければ , たとえ ば販売契約 , ライセンス契約 , マーケティン 40 ビジネス法務 2016.6