星新一 - みる会図書館


検索対象: ピーターパンの島
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1. ピーターパンの島

「なんだったら、ここに、しばらくいてごらんなさい。きのう話した、離れ か へいおん を借りてあげる。平穏そのもの。新聞もテレビもありませんがね」 きゅうよ、つ 「そうしてみるかな。そんなところで休養してみたい。仕事もにしくないか きゅうか ら、会社に電話して、休暇をとることにする」 男はそうした。しかし、二日目あたりから、なにかいらいらしはじめ、三 日目には、ねをあげた。 「もうだめだ。がまんができない。都会へ帰るよ。これ以上ここにいると、 気が変になりそうだ」 いじよう 男は、おばけ以上の異常さにみちた都会へと帰っていった。 いじよう いじよう いそが はな

2. ピーターパンの島

その話を聞いて、男はため息をついた。 いじよう 「異常だ。異常としかいいようがない」 うつ 「そうですかね。わたしたち、ここへ移ってきて、考えなおしましたよ。あ なたのような、都会に住んでいる人はどうなんです。交通事故、パトカーの そうおん 音、火事、騒音、ラッシュアワ 1 、どぎっさ、にごった空気。それらになれ て平気になっている。もし、それらが一切なくなったら、なんだか気分がお かしくなるんじゃないかな」 にちじようか 「ううん、異常の日常化か」 じけん 「たとえば、新聞です。政治面にも、社会面にも、なんにも大事件のない日 いっしゅ ふあんかん がつづいたとする。いらいらし、落ち着かなくなり、一種の不安感におちい るんじゃないかな」 へいおん 「平穏なのはい ) いじよう いじよう しことだと思うがなあ」 いっさい 25 子供の部屋

3. ピーターパンの島

ろうか 気のせいだったのかもしれない。そう思いかけた時、廊下にだれかの足音 しようじ ひとかげ いようかんかく がした。障子をあけてみたが、そこにも人影はなかった。異様な感覚が、か よ らだを走り抜けていった。酔いも、たちまちさめてしまった。 なんとか眠ろうと、電気を消す。まくらもとに、だれかいるけはいがした。 ろうじん 目をむけると、見知らぬ老人が、だまってすわっていた。暗いなかなのに、 その姿だけは見えるのだった。 ろうじんむひょうじよう 声をかけても、老人は無表情のまま、答えようともしない。 男は悲鳴をあげかけたが、それは押えた。ここは他人の家だ。むりやり泊 こと。も しつれい しゅうがく まりこみ、さわいでは失礼になる。子供の部屋だそうだ。きようは修学旅行 るす で留守だが、ふだんは毎日ここで寝てるのだろう。となると、アルコールに げ・んかく よる、おれの幻覚なのだろうか。 もはや、ねむけは消えてしまった。酒の残りを持ってきて飲む。だが、少 すがた ねむ ぬ ね おさ のこ と 0

4. ピーターパンの島

男があいさっすると、主人が迎えた。 「よくきてくれた。あがって休んでくれ。これといったものはないがね」 しず 「ありすぎるぐらいじゃないか。緑、きれいな空気、小鳥の声、静かさ。一 杯の水だって、きっとおいしいにちがいない。都会から来ると、生きかえっ たような気分になるよ」 しんせんやさい 「まあ、酒でも飲んでくれ。新鮮な野菜や川魚ぐらいしかないが」 りようり・ 主人は自分で料理し、すすめてくれた。いい味だった。 酒を飲みながら、男は聞く。 「奥さんやお子さんは、どうしたんだい」 しゅうがく ほうじ 「家内は法事があって、実家へ出かけた。むすこは中学一年だが、修学旅行。屋 だから、きうはわたしひとりだ。酔「てさわ」でも」」ぞ。酒はたくさん〈 ある」 おく むか

5. ピーターパンの島

ふと思い立って、その男は旅に出た。しばらく前、小さな地方都市に引っ 越した友人をたずねてみようと考えたのだ。なぜ急に都会から越していった ふめい のか不明だった。そこが気になり、知りたくもあった。 駅でおり、バスへ乗り、町はずれでおりる。手紙で教えてもらった地図を たよりに、道を歩いた。畑があり、森があり、お寺があり、そのそばにめざ す家があった。わりと大きいか、かなり古びていた。 「やってきたよ。しばらくだね」 こ、どは 2 子供の部屋 こ

6. ピーターパンの島

「ひどいもんだな」 「しかし、そういえば、われわれだって大差ないぜ。きみに一本のマッチが しゅうり・ 。テレビの原理を知っている人 作れるか。ばくも時計の修理ひとつできない が、どれだけいる。文明とは、そういうものなのだろうな」 たいさ 15 高度な文明

7. ピーターパンの島

宇宙人も帰りたいだろう。指導してくれれば、地球で円盤を作ってあげる 4 、、つほ、つ けつか こともできるだろう。双方ともいい結果になる。 しかし、その期待に反し、ようすがおかしくなってきた。いっかは流れる しつもん ようにしゃべったくせに 、いまはなにを質問しても、しどろもどろの答えし こきよう かしてくれない。話題にするのは、故郷の友人のことばかり。地球人はふし ぎがってさいそくする。 「もったいぶらずに、指導して下さいよ」 そうち せつめい 「そうしたいのですが、装置がだめになってはね。いっかの説明は、円盤内 そうち ほんやくき の装置が、この翻訳機を通じて話したのです : : : 」 ちょう りよう . り . ほ、つ こ、つ′、、つ うちゅうじん 超光速原理も、料理法も、工事用の光線銃の構造も、宇宙人はなにひとっ ちしき そうち げんざい 知らない。知識をつめこんだ電子装置がこわれた現在では、ただの、ひとの しいやつにすぎない。地球人たちはがっかり。 うちゅうじん しどう しどう こうせんじゅう えんばん えんばん

8. ピーターパンの島

ヾゝ日」 0 カく 「気になるのでおたずねしますが、宇宙で病気になったら、どうするのです 力」 いりようそうち 「その点は大丈夫です。いかなる病気をもなおせる、医療装置を持ってます から」 「それはすばらしい」 きようたん 見ること、聞くこと、味わうこと、驚嘆するばかりだった。この上は、少 しんよう もっと深く、さまざまな教えを受けた しでも早く地球人を信用してもらい いものだ。 そうこうするうち、数週間がたった。ある日、宇宙人が円盤からそとへか がわ け出してきた。地球側が聞く。 「どうなさいました」 だいじようぶ 、っちゅう うちゅうじんえんばん Ⅱ高度な文明

9. ピーターパンの島

せいぎよ せん。時間のずれの問題がからんできますが、それよりも重力の制御による、 0 えいきよう びみよう 生命現象への影響のほうが微妙でして、すなわち : : : 」 わり りかい うちゅうじん 宇宙人は流れるようにしゃべる。しかし、地球人にはその一割も理解でき りろん さ しつもん ちしき いた なかった。科学知識の差を、痛いほど思い知らされた。 = 理論への質問は山ほ か どあったが、それはあとまわしにして、話題を変えた。 「なにをしに、おいでになったのですか」 しんよう ゅうこう 「友好のためです。しかし、おたがいに信用しあえるまでには時間がかかる。 ます、食事をさしあげましよう : ・ : ・ りようり・ あんない 宇宙人は代表者を円盤内に案内し、料理を作り、自分も口にし、みなにす りようり・ すめた。その味のよさ、代表者たちは飛びあがりかけたほどだった。料理の うちゅうじんひとがら ぎじゅっひじよう 技術も非常に高度だ。話しているうちに、宇宙人の人柄がわかってきた。警 と 1 レかいし ようかなかった。だれか 戒すべきだとの印象は消え、ひとがいい うちゅうじん げんしよう いんしよう えんばん と

10. ピーターパンの島

9 高度な文明