ふかきね くき 父は垣根にまつわって咲いているバラの花を何輪か切り、茎のトゲをもいで ぼ、つ から坊やに渡した。 「さあ、これを持っていくんだよ」 「一つ , ん」 そふ 杖をついた祖父と花を抱えた坊やの二人は、丘の道を下り、ふもとの小さ じぞう な森のそばにあるお地蔵さまにむかった。 そな ねが 「さあ、お花をちゃんと供えて、よくお願いするんだよ」 坊やは小さな手を合わせて、二、三回頭を下げた。 じぞう 「お地蔵さま。もう、こわい夢を見ないはうにして下さい」 と、うしろで祖父が言うのをまねして、同じように坊やは言い、 「もう今夜から、だいじようぶだね」 と、うれしそうにとびはねた。 わた さ カカ ゅめ なんりん おか 7 お地蔵さまのくれたクマ
「また、こんばんも、きっと見るよ」 そふ 祖父が答えないので、坊やはからだを揺らせながら声を高くした。 「そうだね。どうしたらいいだろうね」 そふひく 祖父は低い声でつぶやき、首をかしげていたが、やがて言った。 じぞう 「ああ、それではお地蔵さまにおまいりにい こ一つかね」 ゅめ じぞう 「お地蔵さまにおまいりすれば、こわい夢を見なくなるの」 「そうだよ」 そふ 祖父は、こう答える以外になかった。 「じゃあ、すぐ行こうよ」 そふほね 坊やは、祖父の骨ばった手を引っぱった。 そな 「そうするかい。それならお供えする花を庭から持って行こうね」 そふ あさっゅ 祖父は花バサミをさがし、二人は朝露のまだ乾ききらない庭に下りた。祖 ルカし かわ 156
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せなか 「なにを食べたんでもいいや。ばくはバクちゃんの背中にまたがりたくて、 大きくなるのを待っていたんだよ」 坊やはバクにまたがり、急に大きくなったバクのやわらかい毛に、うれし そうにさわった。 163 お地蔵さまのくれたクマ
「 ( れからの出来事 ・」うりしゅぎしゃ 合理主義者 むじゅうりよくはんざい 無重力犯罪 ゅう 力 誘拐Ⅲ じぞう お地蔵さまのくれたクマ ピーターパンの島 もたらされた文明 サーカスの旅 帰路 い 3
「ねえ、おじいちゃん。また、こわい夢を見たんだよ」 まどべ 朝の日のあたる窓辺の椅子にかけている祖父に、坊やがいらいらした声で 一一一一口った。 「坂ゃ。夢なんてものはね、朝になればみんな消えていってしまうんだから、 5 そんなにこわがるんじゃないよ : まど 祖父は、坊やの頭をなでながら答えた。窓は、潮の香を含んだすがすがしお い風を迎え入れている。二人は港の近く、小高い丘の上にある家に住んでい お地蔵さまのくれたクマ じぞ、つ むか ゅめ ゅめ しおかおりふく おか ぼ、つ
「さあ、クマに似ているのかい」 「うん。しつばは牛のみたいだな。やさしい目つきをしていて、夢で会うた びに少しずつ大きくなっていくようだよ」 そふ 祖父はひたいに手を当てて考えていたが、しばらくして言った。 「ああ、それは、きっとバクっていう動物だよ」 「バクちゃん : ねが 「うん。こわい夢を食べてくれる動物なんだ。きっと、坊やがお願いしたの じぞう で、お地蔵さまが一匹わけてくれたんだよ。かわいがってやらなくては、い けないよ」 「ばくたち、とっても仲よしなんだ。早く大きくならないかなあ。そしたら、 せなか バクちゃんの背中に乗って遊べるんだけど」 「そのうち大きくなるよ。坊やのこわい夢をみんな食べてくれて、大きくな ゅめ びき なか ゅめ ゅめ 160
るんだよ」 そふ びしよう 祖父は目にやさしい微笑を浮かべながら、坊やの頭をなでた。 すず 夕方ちかく、家のそばで鈴の入ったポールをころがして遊んでいた坊やは、 ふいに、うしろから乱暴な声をかけられた。 か 「おい、それを貸してみな」 おどろ じ こども 驚いてふりむくと、そこには意地の悪そうな目つきの子供が立っていた。 「面白そうな物じゃないか」 こヾと . も物は、つ その子供は坊やより大きく、強そうだった。 「い巧、わ」い」 「けちなことを一言わずに、よこしなよ」 こ 4A ャも かた その子供は、命令するような口調で言い、坊やの肩をこづいた。 坊やは、こわさで、ロもきけないほどふるえた。前につづけて見たこわい らんぼう つ ぼう 1 お地蔵さまのくれたクマ