坊や - みる会図書館


検索対象: ピーターパンの島
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1. ピーターパンの島

るんだよ」 そふ びしよう 祖父は目にやさしい微笑を浮かべながら、坊やの頭をなでた。 すず 夕方ちかく、家のそばで鈴の入ったポールをころがして遊んでいた坊やは、 ふいに、うしろから乱暴な声をかけられた。 か 「おい、それを貸してみな」 おどろ じ こども 驚いてふりむくと、そこには意地の悪そうな目つきの子供が立っていた。 「面白そうな物じゃないか」 こヾと . も物は、つ その子供は坊やより大きく、強そうだった。 「い巧、わ」い」 「けちなことを一言わずに、よこしなよ」 こ 4A ャも かた その子供は、命令するような口調で言い、坊やの肩をこづいた。 坊やは、こわさで、ロもきけないほどふるえた。前につづけて見たこわい らんぼう つ ぼう 1 お地蔵さまのくれたクマ

2. ピーターパンの島

ふかきね くき 父は垣根にまつわって咲いているバラの花を何輪か切り、茎のトゲをもいで ぼ、つ から坊やに渡した。 「さあ、これを持っていくんだよ」 「一つ , ん」 そふ 杖をついた祖父と花を抱えた坊やの二人は、丘の道を下り、ふもとの小さ じぞう な森のそばにあるお地蔵さまにむかった。 そな ねが 「さあ、お花をちゃんと供えて、よくお願いするんだよ」 坊やは小さな手を合わせて、二、三回頭を下げた。 じぞう 「お地蔵さま。もう、こわい夢を見ないはうにして下さい」 と、うしろで祖父が言うのをまねして、同じように坊やは言い、 「もう今夜から、だいじようぶだね」 と、うれしそうにとびはねた。 わた さ カカ ゅめ なんりん おか 7 お地蔵さまのくれたクマ

3. ピーターパンの島

けんめい 「そうですよ。それでこそ賢明な博士です」 「しかし、わたしの坊やは、たしかにおまえのところにいるのだな」 ながいす 「そのことは、ご心配なく。そばの長椅子の上で、さっきからずっと、おと なしくおやすみですよ」 ねん 「そうか、それでほっとした。しかし、念のために、声を聞かせてくれ」 「まだ、なにもしゃべれないでしように」 「いや、泣き声でいいのだ。泣き声さえ聞かせてくれれば、わたしも安心し おう て取引きに応じよう」 「いいんですかい、泣かせても」 「わたしは坊やの無事なことを、たしかめたいのだ。ひとっ耳を引っぱって しんけいびんかん みてくれ。坊やはどういうわけか、耳の神経が敏感で、おとなしく寝ている 時でも、耳を引っぱればすぐに泣き出す」 物は、つ はかせ 150

4. ピーターパンの島

夢と同じようだった。 「バクちゃん、助けて」 「ばかとは、なんだ。早く、よこせよ」 こども その子供の手は強かった。坊やはボ 1 ルをなげ出し、泣き声をあげながら らんぼ、つ 家にかけもどった。ポ 1 ルは音をひびかせながら丘の道をころがり、乱暴な こ、つさ こども 子供はそれを追っかけつづけた。広い道と交差するところで、勢いよく走っ したじ てきたダンプカ 1 の下敷きになるまで。 ねどこ 泣きながら寝床に入った坊やは、いっしか眠った。バクは、前の日より、 ずっと大きくなっていた。 「ずいぶん大きくなったんだね。なにを食べたの」 まんぶく だ、ゝ、バクは答えず、満腹したような色をいつものかわいい目にたたえな がら、坊やをみつめていた。 ゅめ ぼう ねむ おか いきお 162

5. ピーターパンの島

「ねえ、おじいちゃん。また、こわい夢を見たんだよ」 まどべ 朝の日のあたる窓辺の椅子にかけている祖父に、坊やがいらいらした声で 一一一一口った。 「坂ゃ。夢なんてものはね、朝になればみんな消えていってしまうんだから、 5 そんなにこわがるんじゃないよ : まど 祖父は、坊やの頭をなでながら答えた。窓は、潮の香を含んだすがすがしお い風を迎え入れている。二人は港の近く、小高い丘の上にある家に住んでい お地蔵さまのくれたクマ じぞ、つ むか ゅめ ゅめ しおかおりふく おか ぼ、つ

6. ピーターパンの島

「さあ、クマに似ているのかい」 「うん。しつばは牛のみたいだな。やさしい目つきをしていて、夢で会うた びに少しずつ大きくなっていくようだよ」 そふ 祖父はひたいに手を当てて考えていたが、しばらくして言った。 「ああ、それは、きっとバクっていう動物だよ」 「バクちゃん : ねが 「うん。こわい夢を食べてくれる動物なんだ。きっと、坊やがお願いしたの じぞう で、お地蔵さまが一匹わけてくれたんだよ。かわいがってやらなくては、い けないよ」 「ばくたち、とっても仲よしなんだ。早く大きくならないかなあ。そしたら、 せなか バクちゃんの背中に乗って遊べるんだけど」 「そのうち大きくなるよ。坊やのこわい夢をみんな食べてくれて、大きくな ゅめ びき なか ゅめ ゅめ 160

7. ピーターパンの島

るのだ。 そふ いくつもの船が静かに休んでいるその港に目をやりながら、祖父は言葉を つづけた。 「 : : : あと三月もすれば、お父さんの乗った船があの港に帰ってくるから、 おとなしく待っていなければいけないよ」 坊やの父は船員で、いまは遠い外国の港をまわっているのだった。そして、 そふまご 母は坊やを生むとまもなく死に、この家での生活は祖父と孫との二人だけで つづけられていた。 「だって、ばくはもう、こわい夢を見たくないんだよ。どうしたらいいの」 くら そふ だが祖父にはどうしたらいいのか考えっかなかった。父や母のいない暮し ゅめ のさびしさが、こわい夢を見させるのだろうとはわかっていても、だからと って、どうしようもないのだった。 みつき しず ゅめ 154

8. ピーターパンの島

「それじゃあ、これから町まで行ってみようか」 「うん、ばく、アイスクリームが食べたいな」 さんば 二人は港町を散歩し、公園で休んだ。草花とハトの多い公園で、ひととき が過ぎた。 昼ちかく二人が丘の家に帰ってみると、父からの小包みがとどいていた。 「お父さんからだよ」 「なにが入っているのだろう」 ぼ、つ 坊やが開いた包みのなかからは、ポールが出てきた。そのボールは美しく ねいろ さいしよく 彩色され、なかには鈴が入れてあって、はずませるたびに美しい音色をひび かせた。父が外国の港で買って、送ってくれたのだ。その日、坊やは寝るま でそのボールで遊んでいた。 そふ つぎの朝、祖父は聞いた。 つつ おか こ、つつ 158

9. ピーターパンの島

「また、こんばんも、きっと見るよ」 そふ 祖父が答えないので、坊やはからだを揺らせながら声を高くした。 「そうだね。どうしたらいいだろうね」 そふひく 祖父は低い声でつぶやき、首をかしげていたが、やがて言った。 じぞう 「ああ、それではお地蔵さまにおまいりにい こ一つかね」 ゅめ じぞう 「お地蔵さまにおまいりすれば、こわい夢を見なくなるの」 「そうだよ」 そふ 祖父は、こう答える以外になかった。 「じゃあ、すぐ行こうよ」 そふほね 坊やは、祖父の骨ばった手を引っぱった。 そな 「そうするかい。それならお供えする花を庭から持って行こうね」 そふ あさっゅ 祖父は花バサミをさがし、二人は朝露のまだ乾ききらない庭に下りた。祖 ルカし かわ 156

10. ピーターパンの島

せなか 「なにを食べたんでもいいや。ばくはバクちゃんの背中にまたがりたくて、 大きくなるのを待っていたんだよ」 坊やはバクにまたがり、急に大きくなったバクのやわらかい毛に、うれし そうにさわった。 163 お地蔵さまのくれたクマ