椅子 - みる会図書館


検索対象: ピーターパンの島
13件見つかりました。

1. ピーターパンの島

せま おどかしの演出じゃないんです。真に迫ったでなく、真そのもの : : : 」 と青年はむきになって主張した。部長はうなずく。 やくとく 「ひとつ、役得として、最初にあの椅子のすわり心地をためしてみるかな」 「およしなさい。もし万一・ と青年は引きとめたが、部長は平気。円のなか、星の形のなかへ歩いて入 す しゅんかん むね り、椅子にかけてとくいげなポーズをとった。その瞬間、部長は胸をかきむ しりながら声をもらした。 ほかの者たちは、あわててかけよる。星の形の線を越え、椅子の部長をゆ り起こした。 「しつかりして下さい。どうしました」 じようだん 「あはは。冗談だよ。どうだ、わたしの演技もちょっとしたものだろう : ・ : ・ えんしゆっ しゅちょう さいしょ えんぎ -4 ・

2. ピーターパンの島

それに対して部長は言った。 みよう 「おいおい、妙な声を出すなよ」 す 「はあ。椅子の上に、なにかものかげを見たような気がしましたので : : : 」 ねっちゅう かいほうかん 「気のせいさ。きみはこの仕事に熱中しすぎた。その疲れと解放感のせいだ よ。ロウソクの光のゆれだろう。ほら、なんにもないじゃないか」 「そうかもしれません」 かざ す かんせい よく見たが、椅子の上にはなにもなかった。飾りつけが完成したというの かんけいしゃ で、関係者たちがのぞきにきた。ぶきみさにふるえたり、よくできたとほめ かんそう たり、さまざまな感想がでた。 「すばらしい 「すばらしいなんてものじゃありませんよ。本物なんですよ、これは。こけ つか 39 悪魔の掎子

3. ピーターパンの島

「ねえ、おじいちゃん。また、こわい夢を見たんだよ」 まどべ 朝の日のあたる窓辺の椅子にかけている祖父に、坊やがいらいらした声で 一一一一口った。 「坂ゃ。夢なんてものはね、朝になればみんな消えていってしまうんだから、 5 そんなにこわがるんじゃないよ : まど 祖父は、坊やの頭をなでながら答えた。窓は、潮の香を含んだすがすがしお い風を迎え入れている。二人は港の近く、小高い丘の上にある家に住んでい お地蔵さまのくれたクマ じぞ、つ むか ゅめ ゅめ しおかおりふく おか ぼ、つ

4. ピーターパンの島

えいきゅう を見る。あなたは気を失い、永久にそのままだ」 っ 「つまり、だれかの名を告げないと、わたしが死ぬことに : 「その通り、ご名答」 「なんという : ざんこく 残酷なことだと、男はぞっとした。だれかを殺さなければならない。たし あくま はっそう かに人間ばなれした発想だ。どうやら、本物の悪魔にまちがいないようだ。 男はつぶやく す 「 : : : ひどい立場に追いこまれた。これというのも、あんな椅子のアイデア を出した青年のおかげだ」 「では、それをご指名になりますか」 あくま と悪魔。男は暗いなかで手を振った。 ころ 「いやいや、そんなつもりはない。殺したいほど、うらんでいるわけではな うしな ころ

5. ピーターパンの島

同じことなら、あいつよりもっとほかに : ばんのう 「そうそう、その調子ですよ。わたしの力は万能。どんな指名でもかまいま わす せんよ。名前を忘れていてもけっこう。たとえば、子の時にいじめられた ちょうさ だいしよう ことはありませんか。あの時の、がき大将、そうおっしゃれば、すぐに調査 「そうだな : ふかい 「乗り物のなかで、不快な目に会ったことはございませんか。あるはずです ふゆかい がねえ。名前を告げない、不愉快な電話や手紙についての体験でもいいので きかい すよ。この機会に、しかえしをなさったら。あの時のあれとおっしゃれば、 わたしのカで : ・・ : 」 「そうだなあ・・・・ : 」 ほんすじ 「だんだん、本筋に入ってきましたね」 っ ど たいけん 49 悪魔の椅子

6. ピーターパンの島

ざんねん 「残念というか、張り合いが抜けたというか、くやしい感じだなあ。ばくは しんけん 真剣に研究し、なにもかもそろえて、正式にこれを作りあげた。なにかおこ ることを期待していた。しかるに、なんてこともない」 しん 「じゃあ、信じてたのですか」 ていど あくま 「かなりの程度にね。だが、悪魔は出てこない。椅子にかけた部長にも、異 しん へん 変はおこらなかった。信じてない者には作用しないのだろうか」 しん 「信じてた人もいましたよ」 しん 「星の形から出たがらなかったやつのことだな。あいつは信じてたようだ。 しかし、なんにもおこらなかった」 めいしん 「あきらめるんですな。迷信ですよ」 ざんねん 「それにしても、残念だなあ : : : 」 きたく かれ 青年は引きあげ、帰宅した。彼が家へ帰ってみると :

7. ピーターパンの島

こ、っそ、つ 新しく高層ビルができた。その一室で、このビルの関係者たちが会議を開 かんり いていた。管理部長がこう言った。 こうそう 「高層ビルもこう多くなると、だれもあまり話題にしてくれない。そこでだ、 いんレよう うか なにか特色を作らねばならない。ああ、あのビルかと、すぐ印象に浮ぶよう かわ なものをだ。変った催しはないものだろうか」 かいだん 各人がそれぞれ意見をのべた。階段のばりのマラソン大会をやったら。背魔 こうしよきようふしようむりようちりよう の高い美人のコンテストをやったら。高所恐怖症の無料治療サービスをやっ あくま 悪魔の椅子 と′、しよく もよお け

8. ピーターパンの島

ひょうじよう と部長は、けろりとした表情で立ちあがった。 「おどかさないで下さいよ。どきりとしてしまいました」 ほっとして、みなは椅子からはなれる。しかし、ひとりだけ星の形から出 たがらない者かいた。部長はそいつに聞く。 「おい、どうした」 ふあん 「なにか、えたいのしれない不安を感じます。たしかに、なにかがある。悪 げんじっ 魔は現実に出てきたんだ : 「そんなら、早く逃げればいいのに。なぜそこにいるんだ」 あくま 「本で読んだことがある。この星の形は、悪魔から守ってくれるものなので す。このなかにいれば安全。しかし、そとに出たとたん、とつつかまるので子 の 魔 悪 「気のせいだよ。ばかばかしい。この通り、われわれは図のそとにいるが、 あ

9. ピーターパンの島

「あっち」 歩きつづけると、古びた城が見えてきた。なかから、女の声の悲しげな歌 けいびへい くず が聞 , 、えてくる。警備兵もいないし、手入れもされず、城壁は何カ所も崩れ たまま。 青年はなかに入り、歌声の部屋にたどりつく。ほっそりした若く美しい女 す ひょうじよう が、ひとり椅子にかけていた。うれいをたたえた表情。青年は話しかけた。 なや 「なにか、おみのようですね」 「あなた、すてきだし、たのもしそうね。でも、あたしは希望もなく、孤独 なの」 「どうなさったのです」 ぞんじ 「ご存知ないようね。むかしはよかったのよ。あたしの父はこのあたりを攻 しはい め取り、王として支配をしていた時代もあったの」 しろ じようへき わか こどく

10. ピーターパンの島

なんともないじゃないか」 あくま かち 「あなたがたは、悪魔にねらわれる価値のない人間だから、大丈夫なんです。 しかし、わたしはちがう」 じしんかじよう つまで、そこにいる 「自信過剰とでもいうのか、手のつけようがないな。い つもりなんだ。食事もできず、トイレにも行けず、死んでしまうぞ」 あくま 「悪魔にやられるよりはいい ・」うじよう 本気でそう思い込んでいるらしく、なかなか強情だった。部長はほかの者 たちに命じた。 「あいつを連れ出せ」 よ かれ みなは彼のそばへ寄り、よってたかって、むりやりカずくで引っぱった。 す 泣き声をあげ椅子にしがみついても、一人のカではかなわない。ずるずると かれさけ 引きずられ、星の形の線を越えた。その時、彼は叫び声をあげた。 っ こ こ だいじようぶ 4