そのつぎの代の王は、さらに妙なことを考えっき、実行した。その草の花 から蜜を採取しようとしたのだ。海岸ちかくだと、春先に十日ほど咲きつづ ける。しかし、高地へ移されたため、夏の盛りの真昼、一日の十分の一の時 間しか咲かないのだ。すぐにしばむ。 たいへん みつばち そのための蜜蜂を育てるのが大変だった。ずっと眠らせておき、その開花 のわずかな時を狙って働かせるのだ。 ひじようよう びん 小さな瓶に半分ほどある。紙に「非常用」と書いて、はりつけてある。ど んな作用なのかわからない。その王はふたたび山へ登り、足をふみはずして みっさいしゅ 死んでしまったのだ。蜜の採取は、それで中止となった。 ひじよう レラン王は、これも飲むつもりでいる。アトランティス最後の日が非常で ひじよう なくして、なにが非常だ。この魅力的な薬を使わない手はない。だめで、も ともとではないか。 みっさいしゅ ねら うつ はたら みよう みりよくてき さか ねむ
て許されない 夢。 レラン王は、夢の世界に移ることを思いついたのだった。人間には、夢を きのう れいてき 見る機能がそなわっている。霊的なものと関連しているようだ。それをある そんざい かぎ うつ ものに移せれば、二度と目ざめることもないかわり、それの存在する限り、 ゅめ 夢を見つづけることができるだろう。 こうてんてき せんてんてき 先天的にも後天的にも、空想にふけるように仕上げられている。生きてい みれん ゅめ たいさ るのは、夢を見ているのと大差ない。目ざめへの未練はない。 ぞううつ れいてき さいくしせいさく その、夢を見る霊的なものを、細工師が製作している自分の象に移そうと まんぞく いうわけだ。プラチナ製だから、しばらくはもつだろう。それでまあ、満足 すべきだろう。 と、つ レラン王は塔の地下室の、薬草の棚を整理した。代々の王や女王が考え出 ゆ ゆ ゅめ ゅめ 。となると残された唯一の方法は : のこ うつ ゆいいつほうほう たな かんれん 0 ゅめ
しや、これは 「海のむこうから、攻めてくるって。まさか、とんでもない。 ) しつれい 失礼。王様なればこそのお考えでございます。やらせましよう。それぐらい よゅう なんせき の余裕はあるのです。で、何隻ぐらい」 まど 王は窓から港の漁船を指さして言う。 「あの五倍ぐらいのを、できるだけ多くだ。十隻ぐらいに落ち着くかな。 けんぞう をどれぐらいにするかが問題だな。航海も大切だが、船の建造そのものにも ぎじゅっ おうよう 意義がある。その技術は、土木や建築にも応用できるからな」 「まことに、 ごもっともです」 クーハルはおりていった。 いつもならレラン王は、部屋の中央にねそべり、とりとめもない空想にふ まど けるのだが、神の声を聞いたきようは、そうもしていられなかった。窓からラ 街を見おろす。 まち ぎよせん けんちく こうかい せき
ちょう 「それはそれは。よく、ご決心なさいました」 「相 - 手がきまるのに、どれくらいかかる」 第、、つて、つりよく 「早くて六カ月でございましよう。適齢期の女性が、ざっと二万。想像力の ゆた さいレゅうだんかい かんたん ないのを見わけるのは簡単ですが、それが豊かなのとなると、最終段階で慎 重になりますので」 ていどげんじってきわかもの 「その、早目に落ちた連中を活用したい。同じ程度に現実的な若者たちと組 ませ、ひと仕事やらせたいのだ」 「どんなことでしよう」 「大きな船を作り、各方面へ出航させ一カ月ほど調べさせようと思う」 し子 / いなに一 : : : 」 「攻めてくるやつが、いるかどうか」 おどろ 王の言葉に、クーハルは驚きの声をあげた。 れんちゅう レゆっこう てきれいき じよせい しん -4
まど まど まち 窓のひとっからは海が見える。もうひとつの窓からは、街が見える。神殿、 しよくにんちく きんぞくせいせいじよ 職人地区、金属精製所。そのむこうには畑、林、遠くには山が見える。みな しず 沈んでしまうのか。 「わたしは二十五歳。妻子がなくて、よかった。あったら、じたばたしただ フっ一つ」 ひとりつぶやく。そして、話に聞かされていた、代々の王や女王について 考えた。さかのばれば神話につながっているが、はっきりしているだけでも、 さまざまな王がいた。凧を発明した王、わけのわからぬ詩を作った王、丸い 木の玉を棒でたたいて飛ばす遊びを考えた女王・ : けいしようほう 49 、つい 継承法はきまっていた。第一男子、男子のいない時は女子が王位をつぐが、 けっこん ゆる もっとそうぞうりよく 結婚だけは自分勝手が許されなかった。国じゅうから選ばれた、最も想像力 けっこん のある異生と、結婚しなければならない。 さいさいし たこ えら しんでん
だイ 建を 生 生 と って 物身 だ し 船 し き て き し ) た作 に 残 3 残 か ま よ て か は っ ら う 逃にし . 乗 の つ つ つ た 庭 げ た て た ほ つ に 塔 へ ま ア た わ て へ 出 ま い 沈れ ト と た ん る 朝 フ あ の し れ ま ど か ば が 助 っ は ン / ぬ る 百 を て そ も ァ 歩 れ 助 す イ は ど ら の そ ほ ま か と ス に ぬ の 後豸 ど 乗 の せ る か と い 上 歩 最ミ世こ る 可ゕ つ で の 後ご レ わ 能ぅ に のた の しゝ 亜あ け 性ら て た フ と 室 王 名こ ン が た に で 海 王 を あ 船 び は と レ 残 日 し の 0 ま る い い を そ フ。 フ す か す な な ン し ) フ の チ と い 世 と し ) し ) 崖ナ す 界 し さ は ぎ 王 て を の の の 上 . 冠 が 0 作 よ な 少 の を 王 だ の は つ と 白 け 国 助 か と ら か て 石 銀 運 の を 叩 国 で つ 作 を 民 や け つ と と を み、 つ か つ め 重 も 見 た て す こくみん 44
「すると人びとは」 「ほとんど助からぬ」 ざんこく 「なんということを。あまりにも残酷ではございませんか。なぜ、そのよう な目に」 しれん 「試練と思ってくれ」 し子 / し しっそうなるのですか」 まんげつ 「きようより三回目の満月の夜のあけた日だ」 「本当ですか」 思わず大声をあげる。眠りからすっかりさめた時には、もはや、なんのけ かれ はいも残っていなかった。彼は考え込む。 王 ン ふせ 神のおっしやったことだ。それは防ぎようもなく、発生するのだろう。すラ はんえい 4- べては、水にのみこまれるというわけか。せつかく、ここまで繁栄してきた のこ ねむ こ
かれゆめ あけがた近く、彼は夢うつつのなかで、神の声を聞いた。 「きびしいことを告げねばならぬ」 それが神の声であることは、すぐにわかった。このように話しかけてくる かれえら のは、申しかない。 , 冫、 彼ま選ばれた人間なのだ。神の声を聞きうる人間は、ほ かれ かにいない。彼はおうかかいした。 「どのよ一つなことで」、さいましょ一つ」 「大地は、水の下に没する」 レラン王 っ 4
た中年の男」 さいきん 「そうそう、 いましたね。最近はおいでにならないが、うまいもんですね。 のぞ ここでもやりましたよ。グラスに布をかけて取り除くたびに、ビ 1 ルがワイ かわ ンになり、ウイスキー、プランデーと変り、最後になんと、ジン・トニック になった。いちいち味わってみましたよ」 「そんなことを、やったんですか。どうやってでしよう。知りたくありませ んか」 きじゅっし 「知りたがるようなことをやってみせるのが、奇術師でしよう。あれで生活 してるのです。タネを聞くわけにはいきませんよ。夢がこわれちゃうし、失 礼だし、第一やばですものね」 ーテンはこともなげに言い、青年はため息をつきながらうなずく。 「そうだね」 ぬの ゅめ しつ 41 職業
男は言った。 きがいおよ だいじようぶ 「大丈夫ですよ。他人に危害を及ばさないことが第一なんですから。すぐも もど とに戻します」 もど 男は組んでいた腕を、ほどいた。たちまちのうちに、すべてはもとへ戻っ た。男は言う。 「面白かったでしよう」 「ええ、とっても。しかし、なんでこんなことが : きじゅっし 「じつは、わたし、奇術師なんです。若いころからね。外国から呼ばれて、 近く行くことになっているんです。なにしろ、たえず練習していなくてはな おどろ らないんで、きようはあなたに見てもらったわけです。本当に驚いていただ くろう かんたん けたようだ。プロとなると、それなりの苦労も多いんですよ。簡単なようで よろこ きんちょう ねむ も、緊張でかなり疲れるんです。そろそろ眠る時間だ。喜んでいただけてよ うで つか わか 39 職業