ぞうかんせい あれから満月の夜が二回すぎた。あと一カ月。プラチナの像は完成した。 と、つ 王は夜も塔のなかですごすことにした。その像を横にし、枕として眠るのだ。 とがった部分がないようになっているので、ひんやりとしていい。 一方、薬 りよう 草の汁を飲み、その量を少しずつふやしてゆく。つまり、睡眠時間が長くな ってゆく。 あと十日。王はクーハルを呼んで命じた。 「若者たちの船を出航させてくれ」 盛大に送り出します。ある期間、共同生活をさせるのは、いゝこと のようです」 と、つま」 王は、それを塔の窓から見送った。水平線に消えるまで、じっとみつめつ づけた。 いよいよ、その前日。 わかもの しる せいだい まんげつ しゆっこ、つ よ ぞう まくら すいみん ねむ 55 レラン王
まど まど まち 窓のひとっからは海が見える。もうひとつの窓からは、街が見える。神殿、 しよくにんちく きんぞくせいせいじよ 職人地区、金属精製所。そのむこうには畑、林、遠くには山が見える。みな しず 沈んでしまうのか。 「わたしは二十五歳。妻子がなくて、よかった。あったら、じたばたしただ フっ一つ」 ひとりつぶやく。そして、話に聞かされていた、代々の王や女王について 考えた。さかのばれば神話につながっているが、はっきりしているだけでも、 さまざまな王がいた。凧を発明した王、わけのわからぬ詩を作った王、丸い 木の玉を棒でたたいて飛ばす遊びを考えた女王・ : けいしようほう 49 、つい 継承法はきまっていた。第一男子、男子のいない時は女子が王位をつぐが、 けっこん ゆる もっとそうぞうりよく 結婚だけは自分勝手が許されなかった。国じゅうから選ばれた、最も想像力 けっこん のある異生と、結婚しなければならない。 さいさいし たこ えら しんでん
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はあくまで、ここにいなければならない ひしよけんけいびたいちょう 十日ほどたち、王はまた秘書兼警備隊長のクーハルを呼び、命じた。 さいくし ぞう 「すぐれた細工師を呼び、わたしの像をプラチナで作らせてくれ」 「等身大でございますか」 「いや、小さいものでしし そう、枕ぐらいの大きさだ。また、内部は空洞 、し、し - 。わたしの髪の毛を入れるから」 みよう 「妙なことを、お考えになる。どういうおつもりか、わたくしなどには見当 てはい もっきません。しかし、さっそく手配しましよう」 と、つ さいくし そのつぎの日から、細工師は毎日、ある時間になると塔の上の部屋にやっ てくるようになった。 しず 王はこう考えたのだ。この国はたぶん、沈むのだろう。しかし、むざむざラ 死ぬというのも、つまらん。なにか手段はないだろうか。船や凧は、王とし とうしんだい かみ しゆだん まくら たこ
て許されない 夢。 レラン王は、夢の世界に移ることを思いついたのだった。人間には、夢を きのう れいてき 見る機能がそなわっている。霊的なものと関連しているようだ。それをある そんざい かぎ うつ ものに移せれば、二度と目ざめることもないかわり、それの存在する限り、 ゅめ 夢を見つづけることができるだろう。 こうてんてき せんてんてき 先天的にも後天的にも、空想にふけるように仕上げられている。生きてい みれん ゅめ たいさ るのは、夢を見ているのと大差ない。目ざめへの未練はない。 ぞううつ れいてき さいくしせいさく その、夢を見る霊的なものを、細工師が製作している自分の象に移そうと まんぞく いうわけだ。プラチナ製だから、しばらくはもつだろう。それでまあ、満足 すべきだろう。 と、つ レラン王は塔の地下室の、薬草の棚を整理した。代々の王や女王が考え出 ゆ ゆ ゅめ ゅめ 。となると残された唯一の方法は : のこ うつ ゆいいつほうほう たな かんれん 0 ゅめ
わた しず 「この土地が海に沈むとはなあ。そういえば、ここ数年、渡り鳥の数がめつ きりへった。渡り鳥。やつらは、どこから来るのだろう。例によって、つま らん空想か。ここ以外に、どこか土地があるということか : わかもの 船で乗り出した若者たちは、何人か、そこへたどりつくかもしれない。 んなところだろう。しかし、わたしは行けない。最後まで、ここで王のっと ′、、っそ、つ めをはたさねばならない。空想にひたるというっとめを。またもつぶやく。 しず そうぞうりよく 「神も、すごいことを考える。すべてを沈めてしまうとはな。想像力に富む たいしつ 体質を高めつつ受けついできたわたしにも、そこまでは思いっかなかった。 さすが神だ」 レラン王は、あれこれ考えた。渡り鳥のように飛べたらなあ。大きな凧を 作って乗り、ある高さにのばった時、糸のはじに重りをつけて放してもらっ たらどうだろう。風とともに、どこかへ行けるだろうか。いや、だめだ。王 わた わた たこ
せんこう 選考は公正であり、それが美女や美男であるということは、めったになか おうい いごこちの悪いものではなかった。働 った。その代償としての王位であり、 / 、、っそ、つ ′、、っそ、つ かなくてよく、ただ空想にひたっていればいいのだ。思考が、しぜんに空想 たいしつ の方角にいってしまう体質なのだ。 と、つ かぎ 人びとはこの塔を見るたびに、限りなく人間ばなれをした人がそこにおり、 およ ふつう いま現在も普通の人には及びもっかないことを考えているのだと思う。王は そんざい かんけ・い 政治にはほとんど関係しなかったが、ここに存在しているということで、国 はうまくおさまっていた。 きんぞく まど レラン王は窓から小石を落とした。それは下の金属の皿に当って音をたて ひしよけんけいびたいちょう た。合図だ。秘書兼警備隊長の、ク 1 ハルがあがってきた。三十歳の男。 「なにかご用ですか」 けっこん 「そろそろ結婚しようと思う」 げんざい だいしよう さ はたら 47 レラン王
そのつぎの代の王は、さらに妙なことを考えっき、実行した。その草の花 から蜜を採取しようとしたのだ。海岸ちかくだと、春先に十日ほど咲きつづ ける。しかし、高地へ移されたため、夏の盛りの真昼、一日の十分の一の時 間しか咲かないのだ。すぐにしばむ。 たいへん みつばち そのための蜜蜂を育てるのが大変だった。ずっと眠らせておき、その開花 のわずかな時を狙って働かせるのだ。 ひじようよう びん 小さな瓶に半分ほどある。紙に「非常用」と書いて、はりつけてある。ど んな作用なのかわからない。その王はふたたび山へ登り、足をふみはずして みっさいしゅ 死んでしまったのだ。蜜の採取は、それで中止となった。 ひじよう レラン王は、これも飲むつもりでいる。アトランティス最後の日が非常で ひじよう なくして、なにが非常だ。この魅力的な薬を使わない手はない。だめで、も ともとではないか。 みっさいしゅ ねら うつ はたら みよう みりよくてき さか ねむ
王さまの服 むかし、大きくも小さくもない国があった。王さまがそこをおさめていた。 どくしんと、フち 三十歳をかなりすぎているが、まだ独身。統治がいまひとつうまくいかず、 けっこん 小さなごたごたが絶えなくて、結婚どころではなかったのだ。 王さまの住む城のあるその町へ、二人組の服づくり師が旅してきた。王さ すいせんじよう まにお目にかかりたいという。遠い国の王の推薦状を持っている。 うでまえ 〈なかなかの腕前の者たちです〉 王さまは、ためしに作らせるかという気になった。出来が悪ければ、金を 払わなければいいのだ。二人を呼び寄せ、聞いてみる。 すしろ 132
しや、これは 「海のむこうから、攻めてくるって。まさか、とんでもない。 ) しつれい 失礼。王様なればこそのお考えでございます。やらせましよう。それぐらい よゅう なんせき の余裕はあるのです。で、何隻ぐらい」 まど 王は窓から港の漁船を指さして言う。 「あの五倍ぐらいのを、できるだけ多くだ。十隻ぐらいに落ち着くかな。 けんぞう をどれぐらいにするかが問題だな。航海も大切だが、船の建造そのものにも ぎじゅっ おうよう 意義がある。その技術は、土木や建築にも応用できるからな」 「まことに、 ごもっともです」 クーハルはおりていった。 いつもならレラン王は、部屋の中央にねそべり、とりとめもない空想にふ まど けるのだが、神の声を聞いたきようは、そうもしていられなかった。窓からラ 街を見おろす。 まち ぎよせん けんちく こうかい せき