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1. 奎星 合宿号2018年

宝石の島 に比べたら授業もまだちょっとは興味あることとか出 2 くないってよくテレビでいってるぞ」 思わず訂正といった風に隼人がこちらを向いて言う。てきたし。理科とか」 「いいじゃんそのおかげでこの島に戻ってこれるんだ絶対に反抗すると思っていただけに、素直な反応にこ ちらも素直に驚いてしまう。 から」 「なんか普通に驚いたんだけど : : : 。授業に興味、なん ちょっと考えるようなそぶりを見せた後、隼人は答え る。 てちょっと前の隼人じや考えられなくない ? 」 「まあ、ずるいと思うけどいいよ。ちゃんと勉強して大「ほんとにちょっとだけどな。生き物とか体の構造とか」 なぜか言い訳をするような口調で隼人は言う。 人になってから帰って来いよ」 照れ隠しなのか、慣れていない大人びたような話し方「それに」 私の目をみて、はっきりと言う。 で隼人は言う。 「ちゃんとした仕事についておきたいからな。お前が帰 「あんたが良くいえるわね。勉強なんか言われなくても ってくるときには」 するわよ。それよりあんたこそちゃんと学校行ってよ。 中学校はまだ大丈夫かもしれないけど、高校は簡単に留その言葉を聞いて、ぶわっと体の中があったかくなる ようだった。 年とかするらしいからね」 これは本心だ。今のように気まぐれで登校しているよ「何か面白いよね。子供の私たちが仕事とか将来とか言 うの」 うでは、とても高校は卒業できないと思う。 思わず隼人から目を背けてひねくれた答え方をして 「まあ学校はうざいけど、しようがないから通うよ。前

2. 奎星 合宿号2018年

奎星合宿号 2018 年 しいのに、と思う。僕の臭いなら、どこでも構わない 「要ちゃん、要ちゃんたら。まだ ? 」 布団から半身を出して、妻が呼びかける。戻ると、く 普段、僕は妻とは別のべッドで寝ている。僕も妻も誰すんと鼻を鳴らして不満気な顔をした。 かと眠るのが好きではないのだ。狭苦しく感じてしまう。「絆創膏臭い。要ちゃんの匂いが好きなのに」 だから、一緒に寝るのはいまだに慣れない それでも胸元に鼻を寄せて嬉しそうにしている。よく 妻が手にするりと頬を寄せた。猫のようだ。 分からないが、これでもよかったのだろう。 「要ちゃん、いい匂い」 指を口に含まれ、思わず僕は顔をしかめた。 「痛い。カッターで切ったんだ」 妻はちょっと歪に優しい 思いの外深く切れていたらしい。また傷口が開いたよ 小さな怪我でもすぐに飛んできてくれる。手当は少し、 うな気がする。妻は血の臭いは不快ではないのだろうか。いや、かなり下手だが。 「ほら、もうだめだ。ちょっと絆創膏取るから」 「要ちゃん ! また怪我したでしよ。見せて」 引き剥がそうとするが、妻は放してくれない。 たまの休みに慣れない料理などするものではない。 「舐めれば治るよ ? 」 しかし、ピーラ ] で手を切るとは相当料理下手の部類 「僕は大猫とは違うんだ。放しなさい」 だろう。既に料理が下手とか、そういう問題ではない気 暗い中でもふて腐れた顔が分かる。別に指でなくともがする。単に不器用なだけだろうか。 にした。 9

3. 奎星 合宿号2018年

奎星合宿号 2018 年 「お前が友達作れるのかが心配だな。自分から人に話し少し罪悪感を覚えてしまう。 かけたりしないし」 「まあ今のところは帰るつもりだから安心してよ」 「そこはまあ、頑張るよ。友達をたくさん欲しいわけじ からかわれていることに気付いたのか、自分の反応が ゃないしね」 恥ずかしくなったのか、わかりやすく隼人はそっぽを向 「それには納得だな」 いた。ぶいっというよりは、ふんっと言う感じの。 そういってお互い少し笑った。何かに気付いたかのよ 「ごめんね。ちゃんと帰ってくるから」 うに、隼人は私の手を包んでいた手をさっと離した。私 申し訳なく思いながらも、笑って謝るが隼人はこっち を向かない。 の手は普段よりも温かくなっていた。 「まあ六年我慢したら帰ってこれるんだろ。ちょっと長「まあいいんじゃね、高校卒業したらどこにいっても」 いけど」 「そんなこと言わないでよ」 少し明るい声で隼人は言う。 意地を張る隼人に、やってしまったなという気持ちと、 「まあ帰ってくるかはわからないけどね。大学も行くかあの顔が見れたから良いかという気持ちが半分半分で もしれないし」 胸に浮かぶ。 えつ、と思わずこちらを向き、目をまん丸にして驚く 「大丈夫だよ。あんたんちの前に市役所あるでしょ ? 隼人に少し笑いそうになってしまう。隼人のいいところあそこの偉い人と私のお母さん仲がいいから、そこで働 は感情が素直に表へ出るところだと思う。それがわかっかせてもらうよ」 ているから隼人の反応が嬉しい。意地悪をいったことに 「おまえそれこねってやつだろ。あまくだりとこねはよ 9

4. 奎星 合宿号2018年

宝石の島 陽の落ちた林道は予想より暗かった。スマホのライト「他の奴に見つかったらまずいだろ」 はやと 「こんなとこ隼人くらいしか来ないよ」 は足もとが照らせるほどで、とても走っては移動できな 「まあどうでもいいから早く来いよ」 かった。早足で道を進みながら時間を確認すると、決め ていた時間から分ほどが過ぎている。大抵のことは適そういうと隼人は道に乗り出していた体を翻し、木と 当なくせに時間には細かいんだよな。自分が悪いことは木の間へ戻っていく。 「え、こんなとこ入っていくの。これじゃ獣道とも呼べ わかっているが、なんとなく頭の中で文句を言ってしま ないよ」 住宅街からそれほど距離が離れていないにも関わら「道になってたらばれるじゃんか。グダグダ言うならお いていくぞ」 ず辺りはとても静かだった。葉が音の振動を打ち消して そうはいうも隼人は私に背を向けて待っている。隼人 いるのだろうか。聞こえるのは自分の息と砂を踏む音、 木々のすれあう音だけだった。さっきまで家族と会話しのシャツの裾をつかむと、私たちはゆっくりと歩きだ ていたはずなのに、今は世界にいるのが自分だけなんじした。木と木の感覚が狭く、左に行っては右にいってと いう具合に、ジグザグと私たちは進んでいった。隼人の ゃないかという気さえする。少しだけ足をはやめた。 ひょり 先導が無ければすでに三回は頭をぶつけてそうだな、と 「おい日依莉」 脇道から突然声がして、思わず持っていたスマ 1 トフ思った。 「つかお前遅刻。ちゃんと時間守れよ」 オンを落としかけた。 隼人はポケットから小さなライトを取り出してスイ ライトくらいつけてよ」 「びつくりした : 4