虫 蛆 生きてる。 なんで生きてる ? 見当がっかない。 それでも生きている。 生きているのなら、それでいし それだけでいいのだ。 心の中、ぼんやりとした思いがある。 それを形にしたい。 言葉にしたい。 だが、頭や言葉が足りない。 それが悔しい 書いて書いて書いて。 書いていれば、いっか、この気持ちを書けるのか。 真っ白い紙があった。 一本の線を引いた。 次に曲がった線を描いた。 描いた。 このままでいいのか。 このままのボクでいいのか。 夢は現実だ。 現実を見ないと、夢に手が届かない。 現実を見ろ。 醜い、隠したい、取り繕いたい。 理想を見ろ。 取り繕った、笑顔、自慢したい。 夢は見るな。 これこそが現実だ。 あっ、楽しい 描けた。 言葉じゃなくてもいいんだ。 生きてる。
宝石の島 に比べたら授業もまだちょっとは興味あることとか出 2 くないってよくテレビでいってるぞ」 思わず訂正といった風に隼人がこちらを向いて言う。てきたし。理科とか」 「いいじゃんそのおかげでこの島に戻ってこれるんだ絶対に反抗すると思っていただけに、素直な反応にこ ちらも素直に驚いてしまう。 から」 「なんか普通に驚いたんだけど : : : 。授業に興味、なん ちょっと考えるようなそぶりを見せた後、隼人は答え る。 てちょっと前の隼人じや考えられなくない ? 」 「まあ、ずるいと思うけどいいよ。ちゃんと勉強して大「ほんとにちょっとだけどな。生き物とか体の構造とか」 なぜか言い訳をするような口調で隼人は言う。 人になってから帰って来いよ」 照れ隠しなのか、慣れていない大人びたような話し方「それに」 私の目をみて、はっきりと言う。 で隼人は言う。 「ちゃんとした仕事についておきたいからな。お前が帰 「あんたが良くいえるわね。勉強なんか言われなくても ってくるときには」 するわよ。それよりあんたこそちゃんと学校行ってよ。 中学校はまだ大丈夫かもしれないけど、高校は簡単に留その言葉を聞いて、ぶわっと体の中があったかくなる ようだった。 年とかするらしいからね」 これは本心だ。今のように気まぐれで登校しているよ「何か面白いよね。子供の私たちが仕事とか将来とか言 うの」 うでは、とても高校は卒業できないと思う。 思わず隼人から目を背けてひねくれた答え方をして 「まあ学校はうざいけど、しようがないから通うよ。前
奎星合宿号 2018 年 しまう。隼人の純粋さがうらやましい ろうと思った。私たちは横に並び、毛布を横向きにかけ て一緒に被った。 「なんでだよ。俺は真剣に言ってるぞ」 それはもちろんわかっている。だからこそ、素直に受船の汽笛の音もずいぶん前から聞こえなくなってい る。聞こえるのは私と隼人の息のする音だけだ。寝息で け取ることに気恥ずかしさを感じてしまうのだ。 「まあ、もう今日は寝ようよ。普段夜更かししないからはないから、お互いに起きていることはわかっている。 眠たくなってきちゃった」 最後の夜なのだと感じた。たった一つの音の源に耳を ごまかすように強引に話を切り上げてしまった。隼人傾ける感覚も、草木と磯の交わった香りも、両手を包む の出した勇気に申し訳ないと思う。 小さな手も。すべては今日で終わるのだろう。何年か後、 目をそらした先の空には月は見えない。見上げるとち同じ状況になったとしても感じ方は変わってしまって るに違いな、。 ようど真上に月は位置していた。 そう思ったとき、大人たちがよく昔の話をする意味が わかったような気がした。誰でも、昔の思い出は宝石に なるのだ。だから度々入れ物から出しては磨き、他の人 テントがフィルタ 1 となり、月の光を私たちのもとへ に自慢する。磨かれる度に、宝石は輝きを増す。場合に 伝えていた。私も隼人も顔色はテントと同じ緑かかったよっては元の状態よりも輝きが増したように見えるこ 黄色になっている。テント内は見た目より広く、大柄なともあるかもしれない。ただ確実なことは、事実は変わ 人でなければ大人であっても足を伸ばして寝られるだらないということだ。宝石は絶対的に変わらない。今日 91
奎星合宿号 2018 年 れなかったようだ。普段キャンプをするときはお父さん「全然食ってねえじゃん。腹減ってねえの ? 」 すでに自分の分を食べ終えた隼人が、私のカップヌ 1 がああやってカップヌードルを渡しているのだろうな。 ドルを見ながら言った。 一瞬不機嫌そうになった隼人だったが、すぐに興味は目 の前のカレーヌ 1 ドルに移った。小さな鍋に余ったお湯「お腹は減ってないよ。私の家は夜食の文化がないもの」 「ふーん。カップ麺ならいつだって食えるけどな俺」 もそのままに、私の隣に勢いよく腰を下ろした。そのと 隼人はそういって私の手からカップラ 1 メンをとり、 き少しだけ私に彼の肘がぶつかったが、気づいていない 残りを食べ始めた。その食べつぶりに、自分はあまり食 ようだ。腰を浮かして少しだけ場所をずらした。 ズルッズルルツ、という私たちが麺をすする音に時折べていないが少し気分が悪くなりそうだった。 キャンプ地ならともかく、この林でカップラ 1 メンの 港からの汽笛の音が混ざる。 かなり離れているように見えるが実はすぐそばで鳴香りが漂うことはめったにないだろうなと思った。 っているようにも聞こえ、私たちを探しているかのよう港の奥にぼつりぼつりと見えていた家の光は、少し減 ったような気がする。漁師さんの多いこの町ならではの だった。 現象だ。隼人のお父さんも漁師で、いつも 4 時くらいに 「やつば寒いときが一番うまいな」 起きているそうだ。 隼人の言葉に頷きつつスマホを確認すると、時刻は 「ふ 1 、腹いつばいになったわ。なんかする ? 」 時を回っていた。いつもなら歯を磨いて寝支度を始めて いる時間帯だ。考えることが他になければもっとわくわ仰向けでテントの中に倒れこみながら隼人が言った。 なにかするかと言いながらも隼人は少し眠そうに見え くしているのだろうな、と思った。