宝石の島 に比べたら授業もまだちょっとは興味あることとか出 2 くないってよくテレビでいってるぞ」 思わず訂正といった風に隼人がこちらを向いて言う。てきたし。理科とか」 「いいじゃんそのおかげでこの島に戻ってこれるんだ絶対に反抗すると思っていただけに、素直な反応にこ ちらも素直に驚いてしまう。 から」 「なんか普通に驚いたんだけど : : : 。授業に興味、なん ちょっと考えるようなそぶりを見せた後、隼人は答え る。 てちょっと前の隼人じや考えられなくない ? 」 「まあ、ずるいと思うけどいいよ。ちゃんと勉強して大「ほんとにちょっとだけどな。生き物とか体の構造とか」 なぜか言い訳をするような口調で隼人は言う。 人になってから帰って来いよ」 照れ隠しなのか、慣れていない大人びたような話し方「それに」 私の目をみて、はっきりと言う。 で隼人は言う。 「ちゃんとした仕事についておきたいからな。お前が帰 「あんたが良くいえるわね。勉強なんか言われなくても ってくるときには」 するわよ。それよりあんたこそちゃんと学校行ってよ。 中学校はまだ大丈夫かもしれないけど、高校は簡単に留その言葉を聞いて、ぶわっと体の中があったかくなる ようだった。 年とかするらしいからね」 これは本心だ。今のように気まぐれで登校しているよ「何か面白いよね。子供の私たちが仕事とか将来とか言 うの」 うでは、とても高校は卒業できないと思う。 思わず隼人から目を背けてひねくれた答え方をして 「まあ学校はうざいけど、しようがないから通うよ。前
し、い匂し、 シンクにぼたぼたと垂れる血を眺めながら、現実逃避「血が止まったら消毒ね」 くすんと鼻を鳴らす。妻の癖ではない。血の臭いが嫌 のようにしばらくそんなことを考え、ようやくやってき なのだろう。 た痛みと妻の声で我に返った。 「いい匂い」 ああやつばり、と思った。 え、と思い、ようやく味噌汁を火にかけたままにして 僕はこんな時以外に恍惚という言葉を使えない。うつ いたことに気付いた。 とり、では何かが違う。やはり、妻の表情は恍惚として いるのだ。 「今日は茗荷の味噌汁だよ」 昔は喜んでいる表情に見えて、怪我をしたのに何が嬉「美味しそうね」 血の滴がまたぼたんと落ちた。 しいんだ、と不愉快な気分にもなった。問い質してもみ た。妻は、その時では妻ではなかったが、しどろもどろ に答えた。要ちゃんは病気とか、怪我でもしない限り、 一体僕が何をしただろうか。そもそもあの男には見覚 私を頼ってくれないから。理屈は分からないが、とりあ えがない。最近この辺りに出ている不審者か。顔が思い えず僕が怪我をしていること自体が嬉しいのではない 出せない ということだけは理解した。 それにしても、と呆れてしまう。そんなにしげしげと脇腹が生暖かい血で濡れていく。熱い。痛い。苦しい 家の前から玄関までが長い。ほとんど這うようにして 見つめなくても手当はできる。 何とか玄関まで辿り着いた。 「痛い」 0
執筆者より 丿羽よねす , , 7 言・ , , 奴昜プ , = イ ) ん々雰気气 ( 、まフ ~. の 7 、 も . ' い ~ の廂卷びナ 句いゃ。は壱し峰いおら日はとま の付んす何 4 、幻ュ、 人しれト角臭ホ , て , んをにま仁凵、 をの昔か、こはりし米き、いまね て - はのの匂 , こいこ / ぢゾこキゾびしよ % 、 介人の ) んは、、このり ? その人′け 5 舌 , k つあは 9 幵は血は ? 冫宸は ? なんも考え 3 と頂代との目 / 、 作者は匂のあ以 / こあこか罅 . 分、忘んて 0 もぐにしもん 3 ん・ - 28
宝石の島 私の不満のこもった目に気づいたのか、隼人はそう言 いたような気がする。テントの入り口に腰を下ろして待 っておくことにした。テント内部に目を向けると、先ほ い訳をする。 どのリュックとそのそばに懐中電灯が転がっており、奥 「まあ二人中にいたら飛ばされることは無いだろ。安心 しろって。」 には大きめの毛布が一枚だけたたまずに放り投げられ そう言われ改めて今日は二人で寝るのだと感じた。おていた。口が開いたままのリュックからはカップヌード 互いの家に泊まりに言ったことは何度もあるが、隣の部ルのほかにもトランプやゲーム機が顔をのぞかせいる。 屋には親がいた。緊張している訳ではないと思うが、そここでトランプをするつもりなのか。 のことを考えると息がしづらくなるような気がした。 ふちに割りばしを載せた状態で私にカップヌードル 「夜食食おうぜ。お前何がいい ? 」 隼人はそういってテントの中においてあったリュッを差し出す。隼人は片手でカップヌードルのふちを掴む クを開けた。中は様々な種類のカップヌードルで一杯だように持っていた。じゃんけんのパーになるくらいにー った。 掌が開かれていた。 「何だよ早くとれよ」 「じゃあ私はシ 1 フード」 手を見られていることを少し嫌そうにしながらさら 「おけ」 すると隼人はガスポンべや小さな鍋を取り出して手にカップヌードルをつきだしてくる。 「ん、ありがとう」 際よく湯を沸かし、ふたを半分あけたカップヌ 1 ドルに 少し笑いそうになってしまったけど隼人には気づか 注いだ。確か隼人のお父さんは登山が趣味だって言って れ 0
し、し、匂い かえで 妻の楓は僕の匂いが好きだと言う。 まったかと非常に心配した。 「要ちゃん、明日の朝はパンとご飯、どっちがいい ? 」 そもそも妻の匂いの趣味が人と違っているらしいこ かなめ 僕の名前は要だが、妻は要ちゃんと呼ぶ。三十を前に とを知るまで、僕はずいぶんかかった。体調のいい時は して、くすぐったい呼ばれ方だ。 煙草の匂いを好むし、人気のある女性用の香水は大抵嫌 僕はべッドに寝転がり、本を読みながらぐずぐずと考いだと言う。 えた。優柔不断だと思う。明日の朝、何を食べたって構僕の匂いが好きだというのも、自分ではどうも納得し わないようなものだが、こればかりは昔からそうだ。 かねる。そもそも僕は体臭がある方ではないのだ。それ 散々ああでもないこうでもないと考えた挙句、僕はようとなく聞いてみても、ほとんどの人は無臭だと言う。た やく返事をした。 まに匂いがあると言われても、それは使っているシャン プ 1 の匂いだったりする。それも結婚して変えてしまっ 「よかったあ。ご飯って言われたらどうしようって」 多分、米を切らしているとか、そういうことではない 一体妻は僕の何をいい匂いだと感じているのだろう 体調が悪いのだろう。 か。一度尋ねてみたいと思いつつ、機会がないままだ。 妻は体調が悪いと妙に臭いを嫌がる。煙草やコーヒー 「楓、体調、悪いのか ? 無理しないで : : : 」 揚げ物にチーズ、ひどい時には化粧品や炊き立てのご飯「大丈夫よ。それより、明日は早いんでしょ ? 早く寝 まで嫌だと言う。吐き気がするらしい。それを知ったのないと」 は僕がまだ大学院生の時で、当時は妊娠でもさせてし 電気を消されては本も読めない。僕は素直に眠ること よう 8
奎星合宿号 2018 年 れなかったようだ。普段キャンプをするときはお父さん「全然食ってねえじゃん。腹減ってねえの ? 」 すでに自分の分を食べ終えた隼人が、私のカップヌ 1 がああやってカップヌードルを渡しているのだろうな。 ドルを見ながら言った。 一瞬不機嫌そうになった隼人だったが、すぐに興味は目 の前のカレーヌ 1 ドルに移った。小さな鍋に余ったお湯「お腹は減ってないよ。私の家は夜食の文化がないもの」 「ふーん。カップ麺ならいつだって食えるけどな俺」 もそのままに、私の隣に勢いよく腰を下ろした。そのと 隼人はそういって私の手からカップラ 1 メンをとり、 き少しだけ私に彼の肘がぶつかったが、気づいていない 残りを食べ始めた。その食べつぶりに、自分はあまり食 ようだ。腰を浮かして少しだけ場所をずらした。 ズルッズルルツ、という私たちが麺をすする音に時折べていないが少し気分が悪くなりそうだった。 キャンプ地ならともかく、この林でカップラ 1 メンの 港からの汽笛の音が混ざる。 かなり離れているように見えるが実はすぐそばで鳴香りが漂うことはめったにないだろうなと思った。 っているようにも聞こえ、私たちを探しているかのよう港の奥にぼつりぼつりと見えていた家の光は、少し減 ったような気がする。漁師さんの多いこの町ならではの だった。 現象だ。隼人のお父さんも漁師で、いつも 4 時くらいに 「やつば寒いときが一番うまいな」 起きているそうだ。 隼人の言葉に頷きつつスマホを確認すると、時刻は 「ふ 1 、腹いつばいになったわ。なんかする ? 」 時を回っていた。いつもなら歯を磨いて寝支度を始めて いる時間帯だ。考えることが他になければもっとわくわ仰向けでテントの中に倒れこみながら隼人が言った。 なにかするかと言いながらも隼人は少し眠そうに見え くしているのだろうな、と思った。
宝石の島 ここであったことは、たぶん一生忘れないだろう。たと え、宝石のまま終わる未来が待っていたとしても、その 宝石をずっとそばに置いておきたいと思えるようなも のにしたい。 隼人に伝えておこうと思った。今だけは素直にならな ければ。 仰向けに寝たまま顔を少し隼人の方へ向ける。 「隼人」 「ん」 同じように私に顔を向ける。 「私さ : : : 」 ( 終 ) ワ 1
奎星合宿号 2018 年 しまう。隼人の純粋さがうらやましい ろうと思った。私たちは横に並び、毛布を横向きにかけ て一緒に被った。 「なんでだよ。俺は真剣に言ってるぞ」 それはもちろんわかっている。だからこそ、素直に受船の汽笛の音もずいぶん前から聞こえなくなってい る。聞こえるのは私と隼人の息のする音だけだ。寝息で け取ることに気恥ずかしさを感じてしまうのだ。 「まあ、もう今日は寝ようよ。普段夜更かししないからはないから、お互いに起きていることはわかっている。 眠たくなってきちゃった」 最後の夜なのだと感じた。たった一つの音の源に耳を ごまかすように強引に話を切り上げてしまった。隼人傾ける感覚も、草木と磯の交わった香りも、両手を包む の出した勇気に申し訳ないと思う。 小さな手も。すべては今日で終わるのだろう。何年か後、 目をそらした先の空には月は見えない。見上げるとち同じ状況になったとしても感じ方は変わってしまって るに違いな、。 ようど真上に月は位置していた。 そう思ったとき、大人たちがよく昔の話をする意味が わかったような気がした。誰でも、昔の思い出は宝石に なるのだ。だから度々入れ物から出しては磨き、他の人 テントがフィルタ 1 となり、月の光を私たちのもとへ に自慢する。磨かれる度に、宝石は輝きを増す。場合に 伝えていた。私も隼人も顔色はテントと同じ緑かかったよっては元の状態よりも輝きが増したように見えるこ 黄色になっている。テント内は見た目より広く、大柄なともあるかもしれない。ただ確実なことは、事実は変わ 人でなければ大人であっても足を伸ばして寝られるだらないということだ。宝石は絶対的に変わらない。今日 91