せかい 世界のすぐれた画家たちは、 動物をどのように えがいているでしようか ? どうぶつ ひょうげん いろいろな表現のしかたがありま す。おなじものをかいても、みんな ちがいます。なぜでしよう ? それを知るために、絵の世界を旅 してみましよう。そして、ひとつひ とつの絵を、自分で " 体験 " してみ ましよう。知識ではなく、目と体と 想像力をつかって。 この本は、そのためのガイドブッ クです。 ひとつひとつの絵に " 自分らしさ " があります。 きっとこんどは、みなさん自身が 自分らしい " 絵をかいてみたくなり ますよ。 たび たいけん うしき そうぞうりよく ししん
ある場合もあります。美術というものは、なによりもまず、ひとりひとりの感 性にもとづいて見るものだからです。ですから、お子さんや生徒さんに読んで あげるときには、子どもたちが、絵をよく見て、自分自身で味わえるように、 たつぶりと時間をあげてください。すわらせて、いちどにぜんぶ読みきかせる 必要はありません。本や映画とおなじように、美術もくり返し楽しむことがで き、そのたびに、新しい発見があるものなのです。 本文中には、制作年や美術史の知識は、あえてのせませんでした。作品その ものを見ることに集中してもらうためです。ただし、それぞれの作品をつくっ た人について、子どもたちがもっと知りたいと思ったときのために、巻末に かんたんな画家紹介をのせておきました。 この『名画のなかの動物』を読んだあと、子どもたちは、学んだことをさら に発展させるために、いろいろな活動をしてみることができるでしよう。指で なぞったり、からだを動かしたり、といった単純な活動については、本文でも ふれました。それにくわえて、動物についての理解をふかめるために、近くの 動物園をおとずれたり、飼っている動物やすきな動物について物語をつくった り、といった活動も考えられます。この巻で紹介したのは、動物をテーマとし たすぐれた作品の、ほんの一部です。ですから、こんどは子どもたち自身で、 美術館や画集から、動物をえがいた作品をさがしてみるのもいいでしよう。 みなさんのお子さんや生徒さんが、そしてみなさん自身も、この本をくり返 スタイル し楽しんでいただければ幸いです。そして、さまざまな表現様式の作品を見る ことで、芸術家それそれの独自のものの見かたや表現のしかたを、わかちあう コリーン・キャロル ことができればと思います。 37
爬虫 * は ハスの葉の上のカエル 項聖謨 このまるまるとふとったカエルは、何をしようとしているのでし しせん ようか ? カエルの視線をたどってみると、答えがわかります。何 しゅうちゅうりよく が見えますか ? そう、このカエルは、すこい集中力で、虫を見つ めているのです。これがほんとうのことだとしたら、つきに、何が 起こるでしようか ? こうせいぽ 画家たちは、いろいろな絵のかきかたをします。 どうぶつ あなたも、画家たちがどのように動物をかいているか、わかって じぶんじしん きたでしよう。こんどはあなたが、大すきな動物を、自分自身のか きかたでかいてみてください。 35
ご両親と先生方へ わたしは小学校の教師として、すばらしい美術作品の数々を、子どもたちと いっしょに見る機会にめぐまれました。そんなとき、わたしはいつも、子ども たちが、色や形、絵の題材、さらには画家の生涯といったものにしめす、熱烈 な反応ぶりにおどろかされました。そのため、ひとつの作品を見るだけで 20 分 以上かかってしまうことも、まれではありませんでした。わたしは、子どもた ちに作品を注意ぶかく観察し、感じてもらおうと、いろいろな質問をしてみま した。するとこんどは、子どもたち自身がおもしろい質問をどんどんしはじめ ました。こうした経験がもとになって、わたしは、この『子どものための美術 入門』シリーズを書くことを思いたったのです。 このシリーズで子どもたちに伝えたいことは、美術を見ることで現実の世界 のものの見かたが豊かになり、また逆に、現実の世界をよく見ることで美術の 見かたが豊かになる、ということです。ところどころに質問をまじえてありま すが、これに答えたり、さらには自分で質問を考えだしたりすることで、子ど もたちは画家の表現をふかく理解し、味わうことができるでしよう。それぞれ の巻には、ひとつのテーマがもうけられています。同じテーマで作品をかいて も、画家によって表現のしかたはずいぶんと異なっています。それを知ること で、絵の見かたが豊かで自由になるとともに、自分が絵をかくときにも、自分 らしい表現でかくことがたいせつなんだ、ということがわかってくるはすです。 わたしは、自分で探検し発見することが、子どもたちにとっていちばん有効 な学習方法だと思っているので、この本でも、たくさんの質問をなげかけてい ます。でも、ほとんどの質問には答えをだしていませんし、答えがふたつ以上 3 6
てんじよう れています。モビールというのは、天井か なが へんか らぶらさけられ、空気の流れの変化でうこ さくひん く作品のことです。コールダーは、うすい きんぞくはん 金属板でモビールをつくりました。金属板 はあざやかな色をしていて、魚や葉っぱや 動物など、自然のなかにあるものに似てい ます。 コールダーはまた、金属でできたうこか ない大きな立体もつくりました。 は しせん バウル・クレー Paul Klee フィンセント・ファン・ゴッホ ( 1 8 7 9 ~ 1 9 4 0 ) さんぽ あなたには「線を散歩につれていく」と そうぞう いうことが、どんなことか、想像できます か ? このことばは、バウル・クレーが、 自分の絵のスタイルについて語ったもので す。このスイス生まれの画家は、線や形を せかい つかって、まるで夢の世界のような絵をか きました。 彼は、子どもたちの絵のかきかたを愛し じぶんじしん ていました。そして、自分自身の作品も、 まるで子どものようにかいたりしました。 クレーは、子どもや魚の絵、それに、自分 のゆたかな想像力がつくりだす生きものの ゆめ あい しようがい きました。そして、野生の生物を保護すべ ようなやりかたはまちがっていると気がつ くさんの鳥をころしました。しかし、この はじめ、鳥のからだをよく知るために、た もとめて、アメリカじゅうを旅しました。 たび オーデュボンは、いろいろな鳥をさがし る決心をしました。 けっしん を観察し、絵にかくことに、生涯をささけ かんさつ は鳥のすばらしさに夢中になり、自然の鳥 むちゅう まま、そこに住みついてしまいました。彼 す きだと思うようになりました。 ( 1 8 5 3 ~ 1 8 9 0 ) Vincentvan Gogh 絵をかくことがすきでした。 ション・シェームス・ オーテュボン John James Audubon ( 1 7 8 5 ~ 1 8 5 1 ) このオランダ人の画家は、たった ] 0 年足 らずしか絵をかいていません。しかし何百 そびよう もの絵画と素描をのこしました。それらの 作品は、世界じゅうの人びとから愛されて います。 ゴッホは、あざやかな色とふとい筆のタ ッチで、絵をかきました。明るい日ざしの おくかい なか、屋外でかくことがすきで、 ] 日に 2 びじゅっしよう 枚かくこともありました。美術商をしてい た弟のテオは、ゴッホが毎日すきなだけ絵 え をかいていられるように、絵の具やキャン バスを送ってあけました。 しようぞうがせいぶつが 彼がかいたたくさんの肖像画、静物画、 ふうけいが 風景画からは、すさまじいほどのエネルギ かん ーがったわってきます。そして、動きや感 じよう 情にみちあふれています。彼は、生きてい ひょうか るときは評価されませんでしたが、いまで は、偉大な画家と考えられています。 かいが ふで おく そだ 40 ましたが、その後アメリカにわたり、その オーデュボンは、フランスのバリで育ち
魚類 金魚鉢Ⅱ きんぎよばち ロイ・リクテンスタイン これも金魚鉢です。まえの絵とおなじような形の金魚鉢ですが、 ぜんたいとしては、まったくちがいます。 まずだいいちに、これは " 絵 " ではなく、金属でできた " 立体 ' です。つきに、金魚の色がちがいます。こげ茶色をしていて、黒い 線でふちどられています。ほかにもちがうところがありますか ? また、どんなところがにていますか ? どちらの魚のほうが、ほん ものらしく見えますか ? きんきょはち きんぞく げいじゅっか さくひん 芸術家は、そんけいする人の作品を見て、自分の作品をつくるヒ ントにします。そして、自分らしい表現のしかたで自分だけの新し い作品をつくりだします。あなたはふたつの金魚鉢の作品のうち、 どちらの表現のしかたがすきですか ? ひょうげん 15
鳥類 雪でおおわれた 赤い丘の上を飛ぶ黒い鳥 ショーシアオキーフ これも、優雅に飛んでいる美しい鳥の絵です。こんどの鳥は、ま えの鳥よりは、ほんものに近い形をしています。もし、このつやっ やした、黒いせなかにのることができたら、下の大地には、何が見 えるでしようか ? と うつく と ゆうが きよくせん ゆるやかな曲線でかかれた美しい鳥を見ていると、まるで、自分 も飛んでいるような気分になってきませんか ? 鳥は、つばさをい っぱいにひろげて、 はてしない大空を飛んでいきます。 ゆび この鳥のからだの線を、指でなぞってみましよう。そして、雪ふ かい丘の上を飛んでいく鳥になったつもりで、自分のうでを、 さのようにうこかしてみましよう。 おか 26 つば
美術の歴史について 知りたくなったら このシリーズには、いろいろな国の、 いろいろな時代の作品がのっています。 絵の表現のしかたは、画家によって、ま た国によってちがいますが、それだけで なく、時代によっても変化します。そう いう美術の歴史を教えてくれる本もあり ます。 ・く楽しい美術図鑑〉 ( 偕成社 ) 小学校中学年から ①『原始・古代の美術』パウェル著 ②『ルネサンスの美術』ハリス著 ③『 1 7 ・ 1 8 世紀の美術』マクヒュー著 ④『 1 9 世紀の美術』パウェル著 ⑤『印象派の美術』マーティン著 ⑥『現代の美術』リドリー著 自分で絵をかいてみよう 絵を見て味わうだけでなく、自分で絵 をかいてみましよう。このシリーズであ つかっているテーマでかいてみるのもい いでしよう。おなじものを友だちといっ しょにかいて、どんなふうに表現がちが うか、くらべてみるのもおもしろいかも しれません。絵のかきかたの入門書もあ ります。 ・く絵がたのしくかける本〉 ( ポプラ社 ) 小学校中学年から 監修 / 古市憲 ①『絵がすきになるには』 ②『友だちや家族をかこう』 ③『木や花をかこう』 ④『動物をかこう』 ⑤『建てものや乗りものをかこう』 ⑥『大すきなものをかこう』 ⑦『風景をかこう』 ⑧『空想や物語の絵をかこう』
、ミ第鈊 げんじつ だれだって、現実の牛は黄色や青でないことを知っています。で も、絵をかく人は、現実を変えてしまうのです ! なせでしよう ? かんじようひょうげん しんせん それは、自分の感情を表現したり、見慣れたものを新鮮な目で見て もらいたいと思うからです。 もしも、この牛が白と黒で、まわりの風景が緑の田園だとしたら どうでしよう ? 絵の感じは、どんなふうに変わると思いますか ? この絵とおなじくらい、たのしい感じがするでしようか ? か みな ふうけいみどり
この本にでてくる画家たち どうくつに絵をかいた人びと きげんぜん ( 紀元前 1 5 0 0 0 ~ 1 0 0 0 0 ) びじゅっしじよう 美術史上もっともなぞにつつまれている はつけん のは、どうくつで発見された、大むかしの へきが 壁画かもしれません。そのどうくつは、い まのフランスとスペインにありますが、そ このかべに牛、馬、シカなどをかいた人に ついては、ほとんど知られていません。 こだいしゅうきようきしき この壁画は、古代の宗教の儀式でつかわ かりうど れたと考える人もいますし、狩人たちに幸 運と力をもたらすためにかかれたと考える りゆう 人もいます。理由はなんであれ、これらの 絵は、 ] 2 , 000 年以上もまえから、人びとが 絵で何かを表現してきた、ということを教 えてくれます。 フランツ・マルク Franz Marc ( 1 8 8 0 ~ 1 9 1 6 ) せいき 20 世紀のはじめ、ある小さな画家のグル ープが、いままでにない、新しい色のつか いかたをはじめました。そのひとりが、ド イツ人の画家、フランツ・マルクです。彼 かんじよう しきさい は、色彩にはつよい力があり、自分の感情 をたくせると考えていました。 彼は動物の美しさと力にひかれていまし しようかい た。明るいブルーの馬や、この本で紹介し こっ うん ひょうげん どうぶつうつく 38 た黄色い牛のように、あざやかな色づかい でかかれた絵は、彼のそうした気もちから 生みだされたものです。 じせかいたいせんせんじよう 彼は、第 1 次世界大戦の戦場で、 36 歳の 若さで亡くなってしまったので、ざんねん ながら、絵をかいていたのは、ほんのわず きかん かな期間です。 ( 1 7 4 9 ? ~ 1 8 3 9 ) 日本の美術は、江戸時代に大きく発展し こうき かっ ました。岸駒は、その江戸時代の後期に活 躍した画家です。岸駒は、青年時代、日本 じゅうを旅してまわり、やがて、京都に住 むようになりました。 彼は、その時代のおおくの日本人画家と りゅうは おなじように、自分の流派をつくりました。 しぜん 岸派とよばれる流派です。彼は、自然のな かにいる動物を、まるでほんもののように、 生き生きとえがいたことで知られています。 さい な わか がんく 岸駒 はっ ( ん やく す たび がっしゅうこく ( 1 8 8 2 ~ 1 9 4 5 ) Newell Convers Wyeth ワイエス ニューウェル・コンウアース・ ワイエスは、アメリカ合衆国のマサチュ