法学セミナー 2016 / 01 / no. 732 074 なった日から二年を経過しない者 0 住民との関係が加わった許可法 略 「欠格事由」は、いわば消極的な許可基準です。欠 [ 1 ] ペット霊園規制条例の特徴 格事由に該当すれば「許可の基準」に照らすまでもな 条例で許可制度を定める場合には、関係する住民の く排除されます。そのため、「許可の基準」の前に置 意見を聞く手続などカ齟み込まれることも多いもので す。許可する行斑ヤが意見を聴くのではなく、許可を かれているのです。 求める者が住民の意見を聴く手続が定められている場 ■許可後に必要となる規定 合、条文が少々、複雑となります。ただ、条文が複雑 になっても、いいえ、複雑になればなるほど、「時系 〇民間事業者による信書の送津に関する法律 第 10 条低名等の変更 ) 列 ( 手続の川頁 ) 」というシンプルな原則に従い、条文 第 11 条 ( 事業計画の遵守義務 ) を組み立てることが大切です。 第 12 条 ( 事業計画の変更 ) こうした例として「千葉市ペット霊園の設置の許可 10 条から 12 条までは、申請書に記載された事項に 等に関する条例」があります。題名のとおり、ペット ついての変更手続などが定められています。記載事項 霊園に関する規制条例です。墓地などについての規制 の変更については、原則として、総務大臣への「届出」 法としては「墓地、埋葬等に関する法律」という法律 が必要です。ただ、「事業計画」についてだけは、そ がありますが、ペット霊園は対象としていません。で の重要から「届出」ではなく、総務大臣の「認可」が すから、この条例は市独自の規制ということができま 必要とされています。これが 12 条です。「『事業計画 す。法律と交差する部分がありませんので、手続のす の変更』の方が重要なので『氏名等の変更』より先に べてが条例で完結することになります。以下、実体的 規定する」という選択はあるかもしれませんただ 規定部分の目次を場面に分けて掲載します。 「届出」が原則で、例外的に「認可」が必要な場合が 〇千葉市ペット霊園の設置の許可等に関する条例 午可の根拠規定 第 4 条 ( 設置等の許可 ) あるのですから、「原則から例外へ」の考え方に従い、 申請前の手続 第 5 条 ( 事前協議 ) 届出ですむ「氏名等の変更」を先に規定しています。 第 6 条 ( 標識の設置等 ) 第 7 条 ( 説明会の開催等 ) 気になるのが 11 条の「事業計画の遵守義務」です。 午可の申請・許可 第 8 条 ( 許可の申請 ) これは変更手続に関する規定ではありません。ですか 第 9 条 ( 許可の基準 ) 第 10 条 ( 許可等の通知 ) 許可後、設置までの手続 ら、許可が得られたあとの場面 ( 「許可の担の次 ) 第 11 条 ( 工事着手届 ) 第 12 条 ( 工事完了届等 ) に置くこともできたように思います。ただ、「事業計 第 13 条 ( 維持管理 ) 設置後の規定 画の変更」の手続に引っ張られてこの場所で規定した 第 14 条 ( 地位の承継 ) 第 15 条 ( 中止、変更及び廃 のでしよう。たとえば、「書類はコピーしてみんなに 止の届出 ) 配って、原本は田中部長に返しておいてね。そういえ 第 16 条 ( 報告及び検査 ) 監督規定 第 17 条改善勧告 ) ば田中部長、近頃元気ないようだけれど何か聞いてい 第 18 条改善命令 ) 第 19 条 ( 許可の取消し ) ない ? いずれにしても、原本を部長に渡す際に、次 第条使用禁止命令 ) 第 21 条公表 ) の指示を仰いでおいてね」という場合の「そういえば 田中部長 ~ 」に当たるようなものです。さて、その後 [ 2 ] 申請前の手続など の規定も見てみましよう。 先ほどの信書便法と比べてみると、「許可の申請」 〇民間事業者による信書の送達に関する法律 第 13 条 ( 事業の譲渡し及ひ譲受け等 ) の前に一連の規定があるのが分かります。許可の申請 第 14 条 ( 相続 ) をしようとする者 ( 申請予定者 ) にも、事前の手続を 第 15 条 ( 事業の休止及ひ廃止並びに法人の解散 ) 課しており、それに関する手続が定められているので 13 条、 14 条は事業を続ける場合であり、 15 条は事 す。ペット霊園は、その必要性を理解する住民であっ 業をやめる ( 休止の場合も含めて ) 場合ということに ても、「自分の家の裏庭 ( 近く ) には存在してほしく なります。事業の許可という流れで定められている一 ない (Not ln My Backyard) 」と考えがちな施設の 群の条文はここで終わりとなります。 ひとつです。そのため、住民の不安を減らしトラブル 一三ロ 1 三ロ
045 性を考える際に、被害者との対比の視点から、自分 が住人であるこの社会についてどういう社会であっ て欲しいと思うかという視点に移すということを意 味する。決して被害者をないがしろにするというの ではない。死刑について定めている法律は自分も国 民の 1 人として支持していることになる。その点を 改めて考えてみるべきだということである。 この点、アメリカの多くの判例が「残虐で異常な 刑罰」の解釈基準として「成熟社会の進歩を示す品 位の発展的基準」という考え方を用いている 9 。「成 熟社会の進歩を示す品位の発展的基準」の原文は、 the evolving standards Of decency that mark the progress Of a maturing society" である。社会と いうものは時の流れとともに成熟していく。これま で社会は成熟して来たし、現在も社会は成熟しつつ ある (maturing society) 。社会が成熟するにつれて、 その社会の持つ "decency" ( 品位・品格・上品さ・ 良識 ) の "standards" ( 基準 ) も "evolve" ( 進化、 進展、発展 ) していく。現在の成熟度に到達した社 会には現在到達した品位の基準というものがある。 そこで、ある死刑執行方法が「残虐」か否かの判断 も、現在の到達点である「品位の基準」に照らして 残虐といえるか否かを判断するべきである、という 趣旨と考えられる。 ーこでは社会の側から見て残虐 か否かを判断するのだという視点が示されている。 この視点をより端的に示したのが、マータ事件に関 するネプラスカ州最高裁判決の次の一節であり、 層有益な思考のヒントを与えてくれる。「我々は死 刑囚が罪なき犠牲者に苦痛を与えたのと同じだけ死 刑囚にも苦痛を与えたいとの誘惑を認識している。 しかし、残虐な行為に対して残虐な行為を行うこと なしに罰することが文明社会の輝かしい証明であ のおわりに ところで、「執行方法の残虐性」を問題とするこ とについては、強い疑念を持つ人もいるかもしれな い。なぜなら、殺してよいかどうかを問題とすべき なのに、殺す方法を取り上げるということは殺すこ と自体は肯定していると考えられるからである。し かし、必ずしもそうではない。絞首刑について仮に 憲法 36 条に違反して違憲だということになれば、死 刑は執行できなくなる。すると、刑法の改正により 新たな執行方法が採用されるだろう。そうすれば、 [ 特集引死刑の論点 その執行方法について合憲性を検討すればよい。そ うやって次から次へと検討すれば、やがて死刑は執 行できないことになるかもしれない。そうなれば、 結局死刑自体の合憲性が問われざるを得ないだろ う。しかし、それ以前に、刑法を改正するためには 国会での議論が必要である。その際には、死刑その ものの合憲性についても、全国民的議論が必然的に 巻き起こらざるを得ないのではないかと思われる。 死刑の執行方法の残虐性を問題とするからといっ て、死刑自体の合憲性を前提としているとは限らな いのである。 【本稿全体の参考文献】 ①中川智正弁護団、ヴァルテル・ラブル『絞首刑は残虐な刑 罰ではないのか ? ーー新聞と法医学が語る真実』 ( 現代人文 社、 2011 年 ) ②ウェップサイト「死刑と裁判』 http://deathpenalty-trial.j p/ 1 ) 残虐で異常な刑罰ヾとヾ残虐な刑罰ヾとの文言上の 差異に特別の意味を認めるのは適当でなく、同一の禁止 規定と解されている ( 小早川義則「裁判員裁判と死刑判 決増補版』〔成文堂、 2010 年〕 5 頁 ) 。 2 ) 永田憲史 ( 解題・総監訳 ) 「ニューヨーク州死刑委員 会報告書 ( 抄訳 ) 』関西大学法学論集 65 巻 3 号。 3 ) 以下の判例については、小早川義則・前掲注 1 ) 113 頁以下、 229 頁以下参昭 4 ) リチャード・モラン「処刑電流』 ( みすず書房、 2004 5 ) http://deathpenalty-trial.jp/shiryou/tsuchimoto— shogen/ 参昭 6 ) 以上の 3 点につき、大阪弁護士会制作 DVD 「絞首 刑を考える」参照。 ( なお、同会ホームページ中の http://www.osakaben.or.jp/12—movie/hang/index.php にて視聴できる。 ) 7 ) 小早川・前掲注 1 ) 123 頁。 8 ) 裁判員制度施行前に、裁判員への過重な負担洋を 予想したものとして、 N H K スペシャル「あなたは死刑 を言い渡せますか ~ ドキュメント裁判員法廷 ~ 」 ( 2008 年 12 月 6 日放映 ) がある。同番組は、模擬裁判ではある が死刑を言い渡すべきか苦悩する裁判員役を描いて、大 きな反響があった。 9 ) 例えば、小早川・前掲注 1 ) 257 頁、 268 頁、 274 頁等 参照。 ( まさき・ゆきひろ )
041 る 2 。この報告書がきっかけとなって、ニューヨー クをはじめ全米のほとんどの州で絞首刑が廃止され るに至った。判例 3 では、公開銃殺刑について論じ たウイルカーソン事件判決 ( 1879 年 ) 、電気椅子に よる処刑について論じたケムラー事件判決 ( 1890 年 ) やフランシス事件判決 ( 1947 年 ) 、薬物注射による 処刑について論じたべイズ事件判決 ( 2008 年 ) など がある。これらは、いずれも違憲とはしなかった。 しかし、州レベルではあるものの、マータ事件に関 するネプラスカ州最高裁判決 ( 2008 年 ) は電気椅子 による処刑に関し注目すべき判決を下した。「電気 処刑は不必要な苦痛の相当なリスクを示しているほ か、その無目的の物理的暴力および囚人の身体の切 断を伴う点において不必要な刑罰であるとわれわれ は結論する。 ・・・現代の科学的知識の下で検討する と、州の刑務所の処刑室での電気処刑ヾはそれ自 体、フランケンシュタイン男爵の実験室での恐竜に 似ていることが立証されている。電気処刑はネプラ スカ州憲法の残虐で異常な刑罰であるとわれわれは 結論する。」電気椅子による処刑は、あの発明王ェ ジソンによって最新の科学を用いた最先端の執行方 法として多くの州に広まった 4 ) 。しかし、その電気 椅子も時代が流れ「現代の科学的知識」によって再 検討された結果、残虐で異常な刑罰と判断されたの である。 ところで、このマータ事件判決は、ある重要な示 唆をわれわれに与えてくれる。それは、執行方法が 残虐かどうかは「科学的知識」に基づいて論じうる ということである。この視点は「死刑の残虐性」を 刑事事件の法廷において主張しようとする場合、極 めて重要である。法廷においては証拠に基づいて主 張内容を立証しなければならないからである。たし かに、わが国では、「死刑の残虐性」を法廷で取り 上げる場合も、これまでは死刑という刑罰そのもの の合憲性を問題とすることが多かった ( 上記 1 の第 1 の問題 ) 。それはしばしば哲学的ヾ神学的ヾあ るいはヾ抽象的ヾな論争に終始しがちだった。しか し、「執行方法の残虐性」を問題とする場合は、「科 学的知識」を証拠として提出できる。しかも、科学 は常に進歩し続けているのだから、その時代の最新 の科学的知識に基づいて、具体的な議論ができる。 第 2 の論点を法廷に提出するということは、証拠に よって論じるのに適しているという裁判実践的な意 味をも有しているのである。 [ 特集引死刑の論点 の「残虐」性の意味 では、死刑の執行方法の残虐性を論じるとして、 そもそも「残虐」とはどういう意味だろうか。国語 辞典的には「むごたらしいこと」「無慈悲で残酷な こと」という意味だが、ここでは憲法 36 条の「残虐」 の定義が問題となる。昭和 23 年 6 月 30 日の最高裁判 決は「不必要な精神的、肉体的苦痛を内容とする人 道上残酷と認められる刑罰」と定義した。この定義 はその後の多くの判例で引用されることになる。た だ、これは死刑事件において示されたものではない。 公職選挙法違反事件において、懲役刑が重すぎると して争われた事件だった。もし死刑の合憲性が問題 となった事件で定義されていたなら、もう少し生命 を奪うという意識を反映した定義になっていたかも しれない。いずれにせよ、この定義自体、必ずしも 分かりやすいものではない。文の構造からすると、 定義の核心部分は「 ( 死刑は ) 人道上残酷と認めら れる刑罰」ということになりそうだが、刑罰である ことは当然だし、「残酷と認められること」は国語 辞典的意味と同じだから、「人道上」とする部分が 異なるのだろう。しかし、「人道上」と加えること でどれぐらい明確になったのかよく分からない。ま た、「不必要な精神的、肉体的苦痛を内容とする」 という部分は刑罰の内容を説明した部分だが、「精 神的苦痛」と「肉体的苦痛」はどちらか一方で足り るのか双方存在する場合に限るのか、「精神的苦痛」 を感じる主体は死刑確定者本人に限るのか周囲の者 ( 執行官など ) を含むのか、死刑確定者本人が精神的 苦痛を感じる時期は執行開始から終了までに限られ るのか、執行までの期間も含まれるのか、「不必要」 かどうかはどのような基準で判断するのか等は不明 なままである。結局、憲法 36 条にいう「残虐な刑罰」 の意味は必ずしも明らかになっていない。 この点、アメリカ合衆国憲法における「残虐で異 常な刑罰」については、正面から死刑を念頭におい て論じられてきた。上述のウイルカーソン事件判決 は「拷問・・・・・・その他それと同一線上にある不必要で 残虐な刑罰はすべて憲法によって禁止されているこ とを確認することで足りる」と述べ、ケムラー事件 判決は、これを確認しつつ「何か非人道的で野蛮な もの、単に生命の消滅以上の何かを意味している」 とした。さらに、フランシス事件判決は、憲法が保 障している残虐な刑罰の禁止は、「刑罰の方法に内
036 続いて 2014 年 3 月 11 日、ジュネーヴの国連欧州本 部で開催中の国連人権理事会第 25 会期において、べ ルギー・ノルウェー・モンテネグロ・メキシコ各政 府と NGO のクエーカー国連事務所 (QUNO) 主催で 「死刑を言い渡された者の子どもの人権に関する討 論会」が開催された。司会はレイチェル・プレット (QUNO メンバー) 、パネラーはメキシコ政府代表、 マルタ・サントス・ペ ( 前述 ) 、アン・クリスティン・ ヴェルヴィク ( 子ども保護専門家 ) 、ザヴェド・マフー ド ( 国連人権高等弁務官事務所員 ) 、および筆者である。 筆者に報告依頼があったのは、ベルギー政府代表が、 日本における死刑の状況、特に死刑囚の子どもの状 況を知りたいと考えたためである。 このテーマは、 NGO の QUNO が調査した成果を パンフレットにまとめ、国連人権理事会や子どもの 権利委員会に持ち込んだという。そのパンフレット 『死刑囚の子ども達の未来に向けて』は日本語で読 める 2 。筆者は、パンフレットの翻訳者である田鎖 麻衣子 ( 弁護士 ) の助力を得て、死刑囚の子どもの 状況として、①オウム真理教教祖の子どもの人権侵 害に関する情報、②父親が母親を殺害した事件の長 男 ( 加害者と被害者の子ども ) が執筆した著作を紹介 2 つのパネル・ディスカッションの発言者は死刑 廃止論者ばかりであったが、今後、死刑存置論者か らも死刑囚の子どもの状況に関する所見が提示され ることになるだろう。また、日本でも加害者家族の 状況への関心が高まり、優れた研究書が出始めた 4 。 このように死刑存廃論争にはまだまだ新しい論点 の可能性があるが、以下では、まず古典的で、代表 的な論点を垣間見たうえで、現代的な論点について も検討することにしよう。 第古典的論点 日本における死刑存廃論は、明治維新後の近代化 の時期に、西欧における議論を学びつつ展開され 5 ) 6 ) 7 ) 。基本的論点は当初から現在までほば同じ た といってよいので、古典的論点として一括してみた い。もっとも、古典的論点であっても、最近になっ 死刑を法哲学的に正当化することができるか。あ [ 1 ] 法哲学的論点 て新たな光が当たっている例もある。 るいは、国家は死刑を執行できるか。この問いは西 欧近代の市民法の文脈で多様に問われた。 ジャン・ジャック・ルソーの名に代表される「社 会契約論」では、市民たるべき諸個人は自分の安全 を確保するために、自分の自由の一部を差し出して 社会契約を取り結ぶという理論仮説を前提とする。 自由の一部しか差し出していないのに生命を奪われ ることは背理ではないのか。しかし、他者の生命を 奪った以上、自らの生命を奪われないと主張するこ とこそ背理ではないか。 国家に即していえば、国民たる諸個人の生存を保 障することが近代国家の責務であるから、いかなる 場合でも国家は国民を殺すことができないのではな いか。しかし、犯罪被害に遭って生命を奪われた者 を保護できなかった国家は、いかにしてその責務を 果たせばよいのか。社会契約の論理そのものを破壊 する残虐な凶悪犯罪をどう見るのか 8 [ 2 ] 憲法的論点 日本国憲法は近代民主主義、個人主義、平和主義 を掲げている。このため憲法の諸条項に即した議論 が積み重ねられてきた。 ( 1 ) 憲法前文および 9 条は平和主義と平和的生存権 を掲げる。戦争放棄を謳っていることは、戦争をせ ず、諸外国の国民を殺さないことを意味する。外国 の国民さえ殺さないことにしている国家が、平時に 自国民を殺すことは許されないのではないか。他方、 憲法前文や 9 条の精神はその通りだとしても、そこ から具体的に死刑廃止を導出できるといえるのか。 ( 2 ) 憲法 31 条は法定手続、適正手続 ( デュー・プロ セス ) を定めると解釈されてきた ーでは主に 2 つの論点が浮上した。 第 1 に、「何人も、法律の定める手続によらなけ れば、その生命・・・・・・を奪はれない」という条項をど う読むか。反対解釈をすれば「法律の定める手続に よれば、その生命を奪われる」と読めるのではない か。 第 2 に、誤判・冤罪問題である 9 。古くは一般論 としての誤判・冤罪の指摘であったが、 1980 年代に 免田事件、松山事件、財田川事件、島田事件という 4 つの死刑冤罪で再審無罪が確定したことから、ま さに具体的な問題として議論されるようになった。 近年でも、①再審開始決定の出た袴田事件、②一度
最新刊 ダイアローグ 行政法 大貫裕之著 入門から基礎、発展、復習まで読み手の 需要に応じて姿を変える一冊。 『行政法事案解析の作法』の著者が 行政法の基礎を説く、父と娘、審議官と 室長などのタイアローグスタイルの解説書 ! o 法治主義って何 ? / 行政活動を分析する視 z 点と行政法の三分野 / 行政活動を行うの は誰 ? ーーー行政組織法 / 行政活動の展開 規制行政を例にとって / 行政立法 / 0 つ 行政行為 / 行政手続 / 行政救済ほか A5 判■本体 3 , 200 円 + 税 イ日本評諞社 http:/Am・・ jp/ 憲法理論研究会編憲法理論叢書⑩ 四六判 / ニ八八頁 / ニ八〇〇円 税 4 0 格 3 0 対話と憲法理論 憲法理論研究会の年報の幻号。 【執筆者】小貫幸浩 / 南野森 / 中林暁生 / 安原陽平 / 堀ロ悟郎 / 巻美矢紀 / 幃 レ 6 ・太 告田仁美 / 斉藤貴弘 / 水谷恭史 / 新井誠 / 菊池優太 / 中島宏 / 小池洋平 / 茂 成田 木洋平 / 千國亮介 / 藤井正希 / 書評・高橋雅人 / 尾形健 ( 執筆順 ) 平 c っ 0 っ 0 / / 日本地方自治学会編地方自治叢書四六判 / ニ四八頁 / ニ八〇〇円 町話ゅ 巻電ⅸ 田 基礎自治体と地方自治 「日 日本地方自治学会の年報の第一一七巻。 早 区 【執筆者】稲沢克祐 / 江藤俊昭 / 西田奈保子 / 宗野隆俊 / 清水洋行 / 長野 宿 新 基・牧瀬稔・廣瀬克哉 / 書評・平岡和久 ( 執筆順 ) 都 東 < 五判 / 三四四頁 / ニ八〇〇円 倉持孝司・小松浩編著 ー日本・イギリスー 憲法のいま 法セミ LAW 跿員器シリーズ 苟文文堂 ( 0 〔第 3 版〕 刑事事実認定の基本間題 す <IO 上製 / 574 頁 / 4500 円 木谷明編著 き一 0 「取調べの全面可視化」制度の導入により従来の手法が大きく変 容すると予想される現在、一線の刑事裁判実務家が刑事事実認 定の重要問題を鋭く論じる。法曹を志す人々にも最適の一冊。 代 っ乙 刑法各亠〔第 3 版〕 LO 0 <LO 上製 / 944 頁 / 7000 円 山中敬一著 町 最新の立法と判例・学説を体系化し、新たな理論をも提唱する。 各犯罪類型の内容と限界を明らかにしつつ問題ごとの機能的体 田一三ロ 稲電系化を図り、問題解決のための解釈論を展開する本格的体系書。 宿℃ 新 刑法公心ム冊〔第 3 版〕 都 < 5 上製 / 12 2 4 頁 / 7 0 0 0 円 京 山中敬一著 立法動向、新たな判例の考慮とそれに触発された論点を加える。 複雑・多様化した現代刑法理論に視座と展望を提供し、理論的 に整合した問題解決のための解釈論を展開する本格的体系書。 0. 講義刑法総ム刪 < 5 並製 / 610 頁 / 4 5 0 0 円 関哲夫著 刑法総論の講義用として様々な工夫をこらし、 1 回の講義で完 結するようの重要項目を選定して犯罪行為者・犯罪行為及び 刑罰論について基礎理論・解釈論を口語表現で解説する基本書。 文 成基本判例憲法講〔第。版〕 < 5 上製 / 4 7 8 頁 / 3 3 0 0 円 初宿正典編著 非嫡出子相続分規定に関する判例、衆議院小選挙区選出議員定 数及び参議院議員選挙区選出議員定数配分規定についての判例 等を差し替え、生の素材をわかりやすく解説した体系的教科書。 ◆最新刊
憲法判例再読 065 02 ロ判旨 ①職業の自由と、それを規制する法律に対する審査 のあり方 職業は、人が自己の生計を維持するための継続的 活動であり、また、職業を通じて社会の存続と発展 に寄与するという性質を持っ点で、個人の人格的価 値とも不可分に関連する。この点に鑑みると、職業 の選択 ( 開始・継続・廃止 ) のみならず、選択した 職業の遂行自体 ( 職業活動の内容・態様 ) も、原則 として自由であることが、憲法 22 条 1 項により保障 されている。 しかし、職業は、本質的に社会的・経済的な活動 であって、その性質上、社会的相互関連性が大きい ので、「職業の自由は、それ以外の憲法の保障する 自由、殊にいわゆる精神的自由に比較して、公権力 による規制の要請がつよ」い。「職業は、それ自 身のうちになんらかの制約の必要性が内在する社会 的活動であるが、その種類、性質、内容、社会的意 義及び影響がきわめて多種多様であるため、その規 制を要求する社会的理由ないし目的も、〔ア〕国民 経済の円満な発展や社会公共の便宜の促進、経済的 弱者の保護等の社会政策及び経済政策上の積極的な ものから、〔イ〕社会生活における安全の保障や秩 序の維持等の消極的なものに至るまで千差万別で」 あり 22 ) 、職業の自由に対して現実に加えられる制限 も、「それぞれの事情に応じて各種各様の形をとる」。 従って、規制措置が憲法上是認されるか否かは、 「これを一律に論することができず」、裁判所として は、規制の目的が公共の福祉に合致する場合、「規 制措置の具体的内容及びその必要性と合理性につい ては、立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとど まるかぎり、立法政策上の問題としてその判断を尊 重すべき」であるが、この「合理的裁量の範囲につ いては、事の性質上おのずから広狭がありうるので あって、裁判所は、具体的な規制の目的、対象、方 法等の性質と内容に照らして、これを決すべき」で ある。 ②職業の許可制の憲法上の意義と薬局開設の許可制 の憲法適合性 法定条件を満たした者のみにその職業遂行を許 し、それ以外の者に対してはこれを禁止する許可制 は、一般に、職業活動の内容及び態様への規制を超 え、職業の選択の自由そのものに制約を課す「強力 な制限」なので 23 、「原則として、重要な公共の利 益のために必要かっ合理的な措置」のみが合憲とな る。また、それが社会政策・経済政策上の「積極的 な目的」ではなく、自由な職業活動による社会公共 への弊害防止を目的とする「消極的、警察的措置で ある場合には、許可制に比べて・・・・・・よりゆるやかな 制限である職業活動の内容及び態様に対する規制に よっては右の目的を十分に達成することができない と認められることを要する 24 ) 」。さらに個々の許可 条件もまた、上記の観点から審査が必要である。 薬事法は薬局の開設を許可制のもとにおくが、医 薬品は、国民の生命及び健康の保持上の必需品であ るとともに、これに大きく関係するので、不良医薬 品の供給から国民の健康と安全を守るために、一定 の資格要件を満たした者のみに開業を許す「許可制 を採用したことは、それ自体としては公共の福祉に 適合する目的のための必要かっ合理的措置」である。 そこで進んで、許可条件に関する基準をみると、 薬局の構造設備や、薬剤師の数、そして設置申請者 の人的欠格事由を定める薬事法 6 項 1 項は「いずれ も不良医薬品の供給の防止の目的に直結する事項で あり、比較的容易にその必要性と合理性を肯定しう る」が、配置の適正を定める 2 項および 4 項は上記 目的と直接関連しないので、さらに具体的な検討が 必要である。 ③適正配置規制の目的 適正配置規制の提案者の示す提案理由によれば、 適正配置規制は、「主として国民の生命及び健康に 対する危険の防止という消極的、警察的目的のため の規制措置 25 ) 」であり、同じく提案理由の「薬局等 の過当競争及びその経営の不安定化の防止」は、「そ れ自体が目的ではなく、あくまでも不良医薬品の供 給の防止のための手段」にすぎない。すなわち、「小 企業の多い薬局等の経営の保護というような社会政 策的ないしは経済政策的目的」を適正配置規制は意 図しておらず ( この点で、小売市場許可制判決〔最大 判昭和 47 年 11 月 22 日刑集 26 巻 9 号 586 頁で争われた 規制とは「趣きを異に」するので、同判決の法理は本 件には適切ではない。 ) 、また、薬局に厳格な規制を 行いつつ経営安定のために独占的地位を与える目的
033 りもはるかに妥当性がある。死刑の存廃を決定づけ る際に、その国家が採用する政治体制が強く影響す ることは、これまでも指摘されている 32 。特に旧体 制を追い落とした政変の際に、民主化のシンボルと して死刑を廃止することはよく見られる。マルコス 政権後のフィリピン、民主化後のネパール、東欧革 命後の各国での死刑廃止など。ジョンソンは韓国や 台湾についても、前政権から政権を奪取した新指導 者が自らの政策を印象づけるために廃止への舵を切 った側面があると指摘している 33 ) しかし、こうした動きを安定した刑事司法の政策 として捉えるには危険が伴うといわざるを得ない。 また、このような政策選択は、人権の観点から論じ られるよりも、むしろ安全保障や平和、体制移行期 の政府のガバナンスや国際政治のバランスの中で決 定されることが多い 34 ) 。大規模な紛争後の体制移行 などにおいては、過去の紛争の責任をどのように問 うか、という国際刑事司法の文脈から刑罰のあり方 が模索されることになる部分があるだろう。実際 -4 く、 国際刑事裁判所が設けられたのは、人権の保護を優 先できるように、まず戦争や武力による介入を回避 できる国際的な仕組みを準備するため、という側面 も大きかった 35 ) 。 国際刑事裁判と死刑との関係は、逆に働く危険も 大きい。イラク戦争後のフセイン裁判では、死刑が 採用され、即決裁判でフセイン元大統領の処刑が執 り行われた。その後の混乱は収東されないままであ る。体制移行期に採用される政治的配慮によっては、 むしろその後の政治バランスを悪化させる形で、政 治的メッセージを込めた広報手段として死刑が採用 される危険も意識しておかなければならない。また、 そこでは当然のことながら、外交戦略上の緊張関係 がそのまま持ち込まれる側面も否定できない。国際 刑事司法に死刑を含むべきでないのは、そうした地 政学的配慮もあると思われる。 この、いわば死刑制度の政治化という現象は、グ ローバル化した世界に奇妙で皮肉な状況を招来する こともある。米国では、死刑の執行方法が、従来の 電気椅子が主流だった時代から、薬物注射による処 刑を標準とする状況に変わっている。この処刑の際 に用いられる薬物は、品質管理の面も考え、欧州か らの輸入品に頼っていた。しかし、欧州はべラルー シを除いて死刑を廃止しており、死刑執行を支援す [ 特集引死刑の論点 るような薬物の輸出を制限する政策がとられること となった。そのため、米国は薬物注射用の薬物の調 達が困難になり、処刑を一旦停止せざるを得なくな ってしまった。一部の州では、薬物入手経路を州の 秘密事項とし、中には違法に別の薬物を使用した例 まで発生した。 また、 2015 年 10 月 19 日、オハイオ 州は、薬物供給者の情報を秘匿できる秘密保護法を 制定したにもかかわらず、連邦法での輸入禁止措置 などにより薬物入手自体が困難となったため、少な くとも 2017 年まで全ての死刑の執行を延期すると発 表した 37 ) 。死刑の執行方法自体が、一種の政治的シ ンポルとして欧米間の緊張に利用された結果である。 をおわりに 死刑存廃を決定づける判断がときの政治情勢に左 右される側面が大きいとしても、長期的に死刑が減 少傾向にあることは否めない。これが広い意味での 近代化であり、減少傾向が維持されている要因をガ ーランドがいうように法の支配の思想が広がった点 に求めるとすれば、存廃いすれにしても法の支配を 進めていくことが各国の最重要課題だということに なる。 各国の刑事司法制度を国際的な水準によって平準 化する作業はこの重要課題の主要な部分を成してい る。刑事司法は伝統的に主権国家の専権に属する事 項と考えられてきたが、国際社会は今や世界規模で 同質化し得る刑事司法システムを必要としている。 「例外的な刑罰」と規定されるに至った死刑制度は、 法の支配を標榜してなお、そこに確固たる位置を今 後も保持し続けることができるだろうか。 1 ) Amnesty lnternational, "Death Sentences and Executions in 2014 " , ACT50 / 81 / 2015 , 2015 , P. 64 2 ) Amnesty lnternational, "Death PenaltY 2015 the Good and the Bad", (https://www.amnesty.org/en/ latest/campaigns/2015/07/death-penalty-2015-the-good- an d-the-bad/) 3 ) Marc AnceI,"Capital Punishment" United Nations, 1962 を皮切りに定期的に報告書が出されている。 4 ) Norval Morris, "CapitaI Punishment, DeveIopments 1961 to 1965 " , Unite d Nations 1967 , pp. 40-41 5 ) Thorsten Sellin,"The Death Penalty"1959. pp22-28. UNAFEI Resource Material Series No. 13 , 1977 , pp. 41-52 6 ) Roger Hood and Car01yn Hoyle, "The Death Penalty, A Worldwide Perspective", Oxford, 2008 , pp. 329-330 7 ) David PhilIips,"The Detterent Effect of Capital
事実の概要 114 第一審裁判所は、 A の有権代表を認め、また A に よる本件各保証契約の締結は利益相反行為に当たる X は医療法人であり、 A はその理事長であった。 が、 x が右利益相反を理由とする本件各保証契約の Z は介護事業等を目的とする有限会社で、 X と共同 無効を主張することは、信義則に反し許されないと で介護施設を運営している。 Z の代表取締役は登記 して、 x の請求を棄却した ( 債務額を認定しない単 簿上 C だが、実質上 A が Z を支配・代表していた。 純棄却だが、紛争の実質に照らして肯定されよう ) 。 Y 銀行は Z に対して、 2 度に渡って貸付けを行い、 X が控訴したところ、 Y は、本件控訴審係属中に その際 A は X のためにすることを示して、 Y との間 Z が主債務を一括で繰上弁済したため、本件訴訟は で Z Y 債務を X が保証する契約を締結した。 確認の利益が消減し、不適法なものとなったと主張 その後、 X 理事長が A から B ( A の息子 ) へ変更 され、 X が Y に対して、上記保証契約に基づく各保 した。 証債務の不存在確認訴訟を提起した。 訴訟係属中に主債務が弁済された保証債務不存在確認訴訟の帰趨 [ 福岡高判平 27 ・ 3 ・ 12 金判 1474 号 16 頁 ] は本来 X が主張立証すべき再抗弁にあたるから、 保証債務不存在確認訴訟の係属中に主債務が弁 Y の不利益陳述があったことになる。しかし X は、 上記主債務弁済について不知としたため、 Y の不 済された場合、いかなる判決がなされるべきか。 利益陳述を X が援用しなかったことになる。また、 「本件訴えは、原判決後に生じた事情により不適 原判決取消し、訴え却下。 法なものとなったから、却下されるべきである」 「 Z は、平成 27 年 1 月 23 日 , 本件各借入債務に との Y の主張に対し、 X は争わないが、上記 Y の ついて、全額を一括して繰上弁済したこと、した 主張は訴訟要件に関する法律上の主張であり、 X がって、本件各借入債務は全て消滅したこと、そ の態度も裁判所の判断を拘束しない。 の結果、本件各保証債務も付従性により消滅し、 まず、即時確定の利益に当てはめるべき事実は Y において、 X に対し、本件各保証債務に基づく 他の訴訟要件と同様、訴訟内外の事実双方を含む。 保証債務の履行請求を行う可能性はなくなったこ したがって、訴訟上の不利益陳述があっただけで、 とが認められる。 ただちに即時確定の利益が否定されることはな ・・によれば、本件訴えについては、確認 則記・・ い。訴え取下げ ( 民訴 262 条 2 項 ) と異なり、訴 の利益を基礎付ける事実が認められず、むしろ確 え却下判決には再訴禁止効もない。本裁判所も、 認の利益がないことが明らかである。 x の援用しない不利益陳述につき、証拠調べの結 したがって、本件訴えは、不適法であり、却下 果および弁論の全趣旨を斟酌して事実認定を行う を免れない。」 ( 最ー小判平 9 ・ 7 ・ 17 判時 1614 号 72 頁等参照 ) 。 次に、上記審理の結果、 Y の不利益陳述が認定 確認訴訟においては、即時確定の利益が要求さ された場合、確認訴訟は即時確定の利益を失うか。 れる。その内容は、原告が保護を求める法的地位 この点、実体法上、保証債務の存在可能性がな と、被告による当該地位の危険・不安である。 いことと、訴訟上、保証人とされた者の地位に危 即時確定の利益の判断基準時は他の訴訟要件と 険・不安がないことは別の事柄である。主債務弁 同様、事実審の口頭弁論終結時である。そこで、 済の事実は、 Y が X の法的地位を否認していない 確認訴訟によって追求される利益が訴訟係属中に ことの間接事実に過ぎない。また、判決効の観点 消滅した場合、確認の利益を失うとした先例があ から考えると、本判決は確認の利益の欠缺のみを る ( 最三小判昭 51 ・ 12 ・ 21 金判 517 号 9 頁等 ) 。形 確定し ( 最二小判平 22 ・ 7 ・ 16 民集 64 巻 5 号 1450 成の利益を訴訟係属中に喪失するケース ( 最大判 頁参照 ) 、本件保証債務の存否に既判力は及ばな 昭 28 ・ 12 ・ 23 民集 7 巻 13 号 1561 頁等 ) に類似する。 い。そこで、仮に Y が後日保証債務履行請求訴訟 本件で問題となるのは被告による当該地位の危 を提起した場合、本判決の既判力は給付訴訟たる 険・不安である。主に被告の態度が問題になる訴 後訴に及ばず、主債務弁済の事実も判決理由中の 訟要件だが、仮に法的地位と同様に考えると、訴 判断に過ぎないため、後訴裁判所を拘東しないと 訟係属中に被告の自白等がある場合、当該要件が いう不都合が生じ得る。原告の危険・不安の消滅 欠けるのではないかとも考えられるのである。 は、当事者間の訴訟外での合意等、より実質的な 本判決中の「事実の概要」によれば、控訴審に 法学セミナー 根拠を要すると思われる。 おいて Y は、 z による主債務弁済を主張し、これ 2016 / 01 / no. 732 裁判所の判断 九州大学准教授上田竹志 ( うえだ・たけし )
080 法学セミナー 2016 / 01 / n0732 ォトワバジが「われわれの村では政府の法律は通用 行為は「フォトワバジ」といわれる。ある村ではフ そうした「フォトワ」を出す人々およびそれを出す 娘の例も報道されている ) 、村八分にされる等である。 鞭打ちの刑を受ける ( その屈辱に耐えかねて自殺した 金を要求した等の理由で、本人やその親が石打ちゃ を貧しい娘の両親が断った、女性が夫に過大な持参 女性が再婚の仕来りに反した、有力者の結婚申入れ るといわれる ( フォトワの恣意的な判決化 ) 。例えば、 力を伴い、多くの場合に直ちに執行される傾向があ んなる助言・示唆にとどまらず、法的拘東カと強制 るものである。しかし、 1990 年代頃から、それがた かを検討し、その判断を助言または示唆の形で与え がイスラム法 ( シャリーア ) に照らして合法的か否 、モオラナ、イマーム等と呼ばれる ) が、ある行為 スラムに通暁した者 ( 地方により、モウロビ、ムッラ ワとは、本来は各々の地域コミュニティにおいてイ て、「フォトワ」裁判の動向が注目される。フォト 「フォトワ」裁判このことを象徴する現象とし いる。 って、宗教は日常の行為規範の多くの部分を占めて る 。のうち、約 9 割を占めるイスラム教徒にと 15 ) ー ム教徒が、約 92 % をヒンドゥー教徒が占めてい 5940 万人 ( 2015 年 10 月 ) のうち、約 89.7 % をイスラ ることを予想させる。バングラデシュの人口約 1 億 民の意識としても、宗教と法が混然とした状態にあ ば、国民生活において宗教が深く根付いており、国 る。しかし、そのことは、一般大衆の観点からみれ 的早くから緩和され、放棄されてきたように思われ なるに従い、政治闘争に勝ち抜く手段として、比較 めに、また、その後政党間の政権獲得競争が激しく 非宗教主義は、最初は不安定な政権を安定させるた バングラデシュの建国理念でもあった 宗教と法 3 バングラデシュにおける宗教・国家と法 させるべく、制度改革の余地がある。 保護法 ( 1996 年 ) があるが、産業構造の発展に適合 4 月 24 日 ) は記憶に新しい 14 ) 。②に関しては、環境 人以上の負傷者を出したラナ・プラザ事件 ( 2013 年 を欠いていた工場が崩落し、約 1130 人の死者と 2500 るが、さらに制度改善の余地がある。構造上の安全 法 ( 1965 年 ) 、労使関係に関する令 ( 1969 年 ) 等があ ②は後回しにされがちである。①に関しては、工場 しない。われわれはクルアーン〔コーラン〕とハデ ィース〔預言者ムハンマドの言行スンナをまとめた もの〕の規則に従えば良いのだ」と述べたことが報 告されている。時には恣意的なこじつけに近い「フ ォトワ」が強制力と執行力をもつ背景には、地域コ ミュニティの権力構造や派閥抗争 ( ミクロ・ポリテ イクス ) とともに、女性、貧者を含む一般民衆がそ れを受容する規範意識が存在する 16 国家とコミュニティと法改革の課題 こうした現 象は、社会におけるコミュニティのプライオリティ の高さと、国家の浸透度の弱さを示している。この ことは、すでにみたイスラム色の強化 ( 前述 1 ) と も密接に関わる。ここでもまた、国家法の基本ルー ル ( 市民の一般的な権利・義務 ) を整備することの意 義を吟味する必要がある。 1 ) 金澤真美「 2014 年のバングラデシュ」アジア経済動 向年報 2015 ( アジア経済研究所 ) 512 ー 514 頁。 2 ) 本連載 21 回・法セ 731 号 ( 2015 年 ) 60 頁参昭 3 ) 辛島昇編『新版世界各国史 7 南アジア史』 ( 山川 出版社、 2004 年 ) 472 ー 473 頁、 485 頁 ( 長崎暢子 = 小谷汪 之 = 辛島昇 ) 。 4 ) 辛島編・前掲注 3 ) 485-486 頁 ( 長崎 = 小谷 = 辛島 ) 、 日下部尚徳「バングラデシュの民主化の経緯」 (http:// www.1.u-tokyo.ac.jp/—dbmedm06/me—d13n/database/ bangladesh/bangladesh—all. html) 、堀ロ松城「バングラ デシュの歴史』 ( 明石書店、 2009 ) 。 5 ) 佐藤創「バングラデシュ」鮎京正訓編「アジア法ガ イドブック』 ( 名古屋大学出版会、 2009 年 ) 365 ー 366 頁。 6 ) 辛島・前掲注 3 ) 486 頁 ( 長崎 = 小谷 = 辛島 ) 、佐藤・ 前掲注 4 ) 366-367 頁。 7 ) 日下部・前掲注 4 ) 。 8 ) 辛島・前掲注 3 ) 486 ー 487 頁 ( 長崎 = 小谷 = 辛島 ) 、 佐藤・前掲注 5 ) 368 ー 371 頁。 9 ) 日下部・前掲注 4 ) 。 10 ) 金澤・前掲注 1 ) 515 頁。 (1) 金澤・前掲注 1 ) 535 頁「主要統計 2 」。 12 ) 金澤・前掲注 1 ) 535 頁「主要統計 3 、 4 」、在バン グラデシュ日本大使館「バングラデシュ経済概況」 ( 2013 年 4 月 ) 1 、 3 。 13 ) 佐藤・前掲注 5 ) 378 頁、在バングラデシュ日本大使 館・前掲注 12 ) 2 、 4 。 14 ) 金澤・前掲注 1 ) 524 頁。 15 ) このほか、仏教徒約 0.7 % 、キリスト教徒約 0.3 % ( 2001 年国勢調査による ) とされる。外務省「バングラデシュ 基礎データ」一般事情参照。 16 ) 高田峰夫「フォトワバジ」修道法学 22 巻 1 = 2 合併号 ( 2000 年 ) 125 ー 164 頁、特に 143 頁、 150 頁。 ( まつお・ひろし )
事実の概要 新 判 112 実認定による A の死亡による損害は、逸失利益 ( 4915 万 8583 円 ) 、慰謝料 ( 1800 万円 ) 、 X らの固有の慰謝 ソフトウェア開発会社 Y にシステムエンジニアと 料 ( 各 200 万円 ) 、 XI の支出した葬儀費用 ( 150 万円 ) して雇用されていた A は、長時間の時間外労働や、 何 である。損益相殺的な調整の対象となる労災保険給 業務内容の変化等による心理的負荷の蓄積により、 付は、葬祭料 ( 68 万 9760 円 ) 、遺族補償年金 ( XI に 精神障害 ( うつ病及び解離性遁走 ) を発症した。平 868 万 9883 円、 X2 に 151 万 6517 円 ) である。 成 18 年 9 月 15 日、 A は、病的な心理状態の下でさい 第 1 審判決は、 Y の損害賠償責任を認め、損益相 たま市の自宅を出た後、無断欠勤をして京都市に赴 殺的な調整には、遺族補償年金を遅延損害金から充 き、鴨川河川敷のべンチでウイスキー等を過度に摂 づ 当するのが相当と判断した。原審は、遺族補償年金 取し、翌日深夜に死亡した。 A の父母 X 1 と X 2 は、 を損害の元本から充当する損益相殺的な調整を相当 Y が、従業員の心身の健康を損なうことがないよう であるとした。 X らが上告受理申立て。 にすべき注意義務を怠ったとして、債務不履行ない 損 し不法行為に基づき損害賠償を請求した。なお、事 [ 最大判平 27 ・ 3 ・ 4 判時 2264 号 46 頁 ] と 労 災 保 険 と 損 相 的 調 整 て、 2 つの立場に分かれていた。平成 16 年判決 ( 最 二小判平 16 ・ 12 ・ 20 集民 215 号 987 頁、死亡事案 ) 不法行為に基づく損害賠償額から労災保険給付 は、遺族補償年金、遺族厚生年金、自賠責保険金 を控除する際の損益相殺的な調整の方法。 が、その支払い時における損害金の元本及び遅延 損害金の全部を消滅させるに足りないときは、遅 上告棄却。「被害者が不法行為によって死亡し 延損害金の支払債務にます充当すべきとした。 た場合において、その損害賠償請求権を取得した れに対し、平成 22 年判決 ( 最ー小判平 22 ・ 9 ・ 13 相続人が遺族補償年金の支給を受け、又は支給を 民集 64 巻 6 号 1626 頁、後遺症事案 ) は、労災保険 受けることが確定したときは」①「損害賠償額を 法に基づく保険給付や年金制度に基づく年金給付 算定するに当たり、上記の遺族補償年金につき、 を、同質性かっ相互補完性のある損害の元本から その補償の対象となる被扶養利益の喪失による損 控除し、その填補の対象となる損害は不法行為の 害と同性質であり、かっ、相互補完性を有する逸 時に填補されたものと法的に評価して損益相殺的 失利益等の消極損害の元本との間で、損益相殺的 に調整をすべきとした。本件の第 1 審は平成 16 年 な調整を行うべきものと解するのが相当」であり、 判決に従い、原審は平成 22 年判決に従っていたが、 ②「制度の予定するところと異なってその支給が 上告審で大法廷は平成 16 年判決を変更し、 X らの 著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り、そ の填補の対象となる損害は不法行為の時に填補さ 上告を棄却した。 本判決のポイントは、①損益相殺的調整の対象 れたものと法的に評価して損益相殺的な調整をす となる損害の判断基準を「同性質」と「相互補完 ることが公平の見地から見て相当であるというべ 性」としたこと、②填補の対象となる損害は不法 きである。」 行為時に填補されたものとすることで、死亡事案 か後遺症事案か問わず、遅延損害金の発生を否定 不法行為で損害を被る被害者が、同一の不法行 したこと、である。①は、従来の判例 ( 最三小判 為によって利益を受けていると解される場合、そ 昭 58 ・ 4 ・ 19 民集 37 巻 3 号 321 頁、最二小判昭 の利益の額は賠償されるべき損害額から控除され 62 ・ 7 ・ 10 民集 41 巻 5 号 1202 頁 ) が損害の性質を る ( 損益相殺 ) 。判例は、「損益相殺的な調整」と 考慮することによって、填補される損害に当たる いう枠組みによって、厳密に言えば不法行為と同 か否かを判断してきたことと一貫性を有する。② ーの原因によって被害者が受けたとは言えない社 は、不確実、不確定な要素に関する蓋然性に基づ 会保険給付 ( 遺族年金など ) の利益についても、 く将来予測や擬制の下に行わざるを得ない損害の 損害と利益との間に同質性があり限り、公平の見 算定に、法的安定性と公平性、救済の迅速性を確 地から、損益相殺的な調整を図る必要があること 保する合理的な判断であると評価できる。 を認める ( 最大判平 5 ・ 3 ・ 24 民集 47 巻 4 号 3039 本判決は、遺族厚生年金について直接判示する 頁 ) 。しかし、社会保険給付金が、その支払い時 ものではない。しかし、遺族厚生年金の目的 ( 生 における損害金の元本及び遅延損害金の全部を消 計維持 ) および支給方法 ( 定期的 ) を考慮すると、 滅させるに足りないときは、損益相殺的調整の方 遺族補償年金についての判示内容は遺族厚生年金 法 ( 損害賠償債務の元本から控除するか、遅延損 についても当てはまるものと考えられ、実務にも 害金から控除するか ) が問題となる。 法学セミナー 大きな影響を及ばし得る。 ( まつうら・せいこ ) 従来の判例は、損益相殺的な調整の方法につい 2016 / 01 / no. 732 争点 裁判所の判断 聖心女子大学准教授松浦聖子